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長田弘「冬の夜の藍の空」[2022年02月24日(Thu)]

◆詩の中のわずか一、二行が、何かの折りにフッと立ち現れることがあるものだ。
次の詩はその一つ。

***


冬の夜の藍の空  長田弘



夜の空がどこまでもひろがっていた。
風がすべてを掃いていったように、
おどろくほど清潔な冬の空だ。
立ちどまって、見上げると、
遠くまで、明るい闇が、
水面のように澄みきって、
月の光が、煌々と、
うつくしい沈黙のように、
夜半の街につづく
家々の屋根をかがやかせ、
そのまま、そこに
立ちつくしていると、
空を見上げているのに、
その空を覗き込んでいるような、
感覚に浸される。こんなにも
おおきく、こんなにも晴れ渡った、
雲ひとつない、夜の藍の空。
空いっぱいの、空虚が、
あたかも、静かな充溢のようだ。
空が、最初にこの世につくったのは、
闇と、夜だ。その二つが結ばれて、
昼が生まれた。私たちは何者か。
月下の存在である。それが
わたしたちの唯一のアイデンティティーだ。
橙色のアルデバランが、
オリオン座のベテルギウスが、
シリウスが、瞬きながら、言う。――
明るさに、人は簡単に目を塞がれる。
夜の暗さを見つめられるようになるには、
明るさの外に身を置かなければならない、と。



『世界はうつくしいと』(みすず書房、2009年)より

*アルデバラン…牡牛座の首星


◆最後の二行が忘れがたい。

〈夜の暗さを見つめられるようになるには、
明るさの外に身を置かなければならない〉


途中にも、「静かな充溢」など奥行きと深さをたたえた表現があるけれど、この終わりの二行に至って、それら一度定置されたことばも、たちまちかき消える。

それは星たちのことばに耳を澄ますためだったようだ。


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