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長田弘「なくてはならないもの」[2022年02月21日(Mon)]

◆地元警察署に車が飛びこむという交通事故(運転手は青年と高齢者。歩行者二人が巻き添えをくった)、隣市の幼児の不審死"事件"等々がTVで報じられた。

近隣のみならず、国の内・外で不穏なものが顫動する気配に気疲れする一日。

バランスを取らねばならない。


◆◇◆◇◆◇◆

なくてはならないもの   長田弘

なくてはならないものの話をしよう。
なくてはならないものなんてない。
いつもずっと、そう思ってきた。
所有できるものはいつか失われる。
なくてはならないものは、けっして
所有することのできないものだけなのだと。
日々の悦びをつくるのは、所有ではない。

草。水。土。雨。日の光。猫。
石。蛙。ユリ。空の青さ。道の遠く。
何一つ、わたしのものはない。
空気の澄みきった日の、午後の静けさ。
川面の輝き。草の繁り。樹影。
夕方の雲。鳥の影。夕星(ゆうずつ)の瞬き。
特別なものなんてない。大切にしたい
(ありふれた)ものがあるだけだ。
素晴らしいものは、誰のものでもないものだ。
真夜中を過ぎて、昨日の続きの本を読む。
「風と砂塵のほかは、何も残らない」
砂漠の歴史の書には、そう記されている。
「すべての人の子はただ死ぬためにのみ
この世に生まれる。
人はこちらの扉から入って、
あちらの扉から出てゆく。
人の呼吸の数は運命によって数えられている」
この世に在ることは、切ないのだ。
そうであればこそ、戦争を求めるものは、
なによりも日々の穏やかさを恐れる。
平和とは(平凡きわまりない)一日のことだ。
本を閉じて目を瞑(つむ)る。
おやすみなさい。すると、
暗闇が音のない音楽のようにやってくる。


     括弧内・フェルドウスィー『王書』(岡田恵美子訳)より

***

長田弘詩集『世界はうつくしいと』(みすず書房、2009年)より


★原註にある『王書』は古代ペルシャの神話・伝説を綴った叙事詩。11世紀初めに完成。岡田恵美子訳は岩波文庫(1999年)。

***

◆我が子も、そして私たち自身も、水や土、空や星につながっていることが少しでも感じられるなら、血肉を分けた子も含めて、「わたしのものはない(=大いなるもの・この世をみそなわすものに属している)」、(だから傷つけたり、苦しませたりしてはならない)と思うだろう。

◆自分より若い人たちの悲しい事件を見聞きするたび、その人が高校生ぐらいの年ごろはどんなだったろう?記憶にあるどの生徒たちと同学年ということになるのだろう?などと考えている。
起きてしまった「事件」を前にして、できることは何ひとつない。分かろうとすることが辛うじてできるだけだ。



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