
こまつ座「雪やこんこん」[2021年12月26日(Sun)]

◆こまつ座「雪やこんこん」(鵜山仁・演出)を観た。
コロナで中止の困難を乗り越えての上演実現、奇しくも芝居設定と同じ、12月の末の東京公演千穐楽となった。
井上ひさしの昭和庶民伝3部作のひとつで、大衆演劇の中村梅子一座を描く。
「瞼の母」ほか庶民になじみのセリフが随所に活かされていて、そこここの決め台詞で観客から拍手が湧く。紀伊國屋サザンシアターがそのまま芝居小屋になったような雰囲気だ。
女座長を演ずる熊谷真美のメリハリのきいた声・表情・所作がテンポ良く芝居を引っ張る。小屋主で、かつて役者だった旅館の女将(真飛聖)と組んで座員たちに向けた芝居を打ったうえに、役者魂に火が点いた二人の芝居のかけひきが絡む、という入り組んだ展開。
北関東のさる湯治場の芝居小屋、湯の花劇場が舞台だが、あいにくの大雪で木戸が壊れる始末。
戸が開けられるたびに吹き込む雪、外を吹き荒れる吹雪、ひと晩で見る見るうちに屋根に積もる雪の演出がみごと(舞台監督:増田裕幸)。
舞台上の雪と符節を合わせたみたいに日本海側、北日本ともに大雪の日、関東も厳しい冷え込みだったが、舞台も観客もそれはそれは熱かった。
観客総立ちのカーテンコールでは「真実」座長へのコールが繰り返された。
笑いと人情に涙を誘われ、2枚重ねたマスクを途中で取り換えた。
中村梅子座長のセリフを借りれば「目から鼻水の出る質(たち)なんだよ」
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*なお、劇中、その名が登場する国定忠治の子分「板割の浅太郎」の墓は、藤沢の遊行寺の貞松院跡地にあるのだった(下の写真)。
浅太郎は、忠治と決別し、無職渡世の足を洗って仏門に入り、列成(れつじょう)と名を改めた。やがて遊行寺の塔頭・貞松院の住職となり、明治26年12月30日にその生涯を閉じたという。
(2019年11月撮影)