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米機F16の事故+石川逸子「鐘の音」[2021年12月02日(Thu)]

◆新聞の番組欄を見なくなって久しい。TVの番組表があるからだが、その利点は特定のチャンネルの1週間分ぐらいを通覧できることだ。
12月に入って日米開戦の日が近づいたせいか関連するドキュメンタリーが目立つ。
これまでもそれが恒例だったかは知らない。ただ、今年は夏に秀作がそろっていた。
歴史検証の機運は政治情勢右旋回への危機意識があるだろう。

◆そうした矢先、米軍三沢基地のF16戦闘機が青森空港に緊急着陸、燃料タンクを人家近くに投棄して危ういところだった。

報じられている限りでは、当初、県知事も深浦町町長も米軍への抗議を抑えている様子が見えた。
敗戦時の卑屈を今に引きずっているのかといぶかしさがつのった。
それだけではない。日本側から訓練中止を要請したにもかかわらず、その直後に米軍のF16訓練再開の報が飛び込んで来た。ナメられたものである。
投棄地点の不正確な告知に始まり、今回の事故に限っても米軍側の不首尾はいくつもある。

また、各地で落下事故が相次いでいたのに検証し改善した形跡がない。
事故の原因調査に日本側も関与して再発防止に万全を期すのでなければおちおち寝ていられない。

地位協定の抜本的見直しが必要なのは明らかだ。


*******


  
鐘の音   石川逸子

こおん こおおん こおおおん
夕暮れひっそりと さびれた寺の 鐘が鳴る
毎夕 ゆったりと 鐘つき堂に上がっていく
足の不自由な 僧 ひとり

塾通いの子どもたち 保育所へ急ぐ若い母親も
だれひとり 鐘の音を気にも留めないが
かつての戦の日 軍に供出させられた
古い鐘の行方を 僧は想う

  ――大砲に変えられたか
  単なる金属となって 敗戦後に
  二束三文で売られたか――

「はっは 形あるものはなべて消える
 かのダヴィンチの馬さえ 溶かされたわ」
呵々大笑した はるか山の向こうの老師も
地に帰って久しい

こおん こおおん こおおおん
夕暮れ もう 鐘の音を聴いているのは
しずむ夕日だけだろうか

   ――聴いていなくても
   こころに沈んでいってくれるなら――

遠く ニューギニアに狩られ 飢え死んだ
僧の父が 鳥になって還ってくるのも こんな夕暮れ
鳥たちは幾羽もいるようだ
暗くなりかけた樹に止まって 鐘の音を聴いている
こおん こおおん こおおおん
ゆったりと ゆったりと 日が落ちる



「詩と思想」編集委員会・編『詩と思想 詩人集2021』(土曜美術社出版販売、2021年)より

原詩では「―」(ダッシュ)が1字分で書いてあるところ、横書きにすると漢数字の「一」と紛らわしいので、2字分のダッシュに置き換えてあります(計4箇所あります)。

◆鳥たちが無念の戦死者たちだ、と思うのは、寺と人々をめぐる歴史に耳を傾けてきた心にゆっくりと積もった時間があるからだ。

各詩行が鐘の余韻に共鳴しているような、詩の韻律がある。
各行の長さ、一字空けた間(ま)が、ことばを紡ぐ者の息づかい、深沈と闇を濃くしていく中で鐘の音に耳を傾けている人間のたたずまいをも感じさせる。

ことばへの思いの添わせ方が、かくも自然であるとは!




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