
大手拓次「月の麗貌」[2021年11月09日(Tue)]
◆昨日の安住幸子「夜をためた窓」で、”月も人間の方を見ている”というイメージを思い浮かべた。
太陽ではそうした連想は浮かばないし、金星や火星では、天体望遠鏡を眺める人でない限り、星の方がこちらを見てくれている、という感覚は出てこない気がする。
眺めるにふさわしい大きさと運行の仕方ゆえに、沈思や憧れの友として月は居てくれる。
それゆえに、空に浮かぶ月をながめながら遠方にいる誰かを思う、という詩歌が古今東西多いことになっているのだろう。
大手拓次の次の一篇もまた、「月」と「窓」が分かちがたいものとして歌われていて、夢の世界にいざなう。
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月の麗貌 大手拓次
月は窓のほとりに
羽根をかくしてしのびより、
こゑもださず、眼もひらかず、
ゆく舟のそよぎのやうに
黄金(きん)の吹雪の芽をのばす。
日本の詩『大手拓次』(ほるぷ出版、1975年)より