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安住幸子『夜をためた窓』[2021年11月08日(Mon)]

◆安住幸子『夜をためた窓』からいつの間にか7篇ほど紹介して来ていた。
詩集の標題となっている詩を引いて置く。
詩集の終わりから一つ手前の作品だ。


夜をためた窓  安住幸子


月の出ている夜には
窓辺に腰掛けながら
見上げました
月はただ浮かんでいるように
目に映るのに
いつのまにか窓から
はずれて行くのでした
首を伸ばして
飽きずに追い続ければ
夜の端から奥へ
月は姿を隠してしまいます


若い日のひと夏
昼間は人混みにもまれながら
アルバイトをし
一日の残りの力をふりしぼって
階段をのぼりつめると
夜をためた窓が
待っていました
そこにはじっとしていることが
許される時間があったのです

静かな時間は
過去となり
でこぼこと生活を転がり続け
地球の土くれとして
毎日の回転を
くりかえしくりかえし
はかり知れないもののまわりを
まわっているのも時折
意識して

どのくらい
ころがってきたのでしょう
疲れ果てて
思い切りもがいた時
目にはいったのは
夜をためた窓
過去は一列になどなっていなかった
遠くなるものでない
窓は私の方をむいて
すぐそばにある

おやすみなさい
また明日
おやすみなさい



『夜をためた窓』(土曜美術社出版販売、2018年)より


◆「窓」にたまっているのは夜だけではない。自分の意識の表面に浮かんで来なかったもの――自分自身が持ち合わせて来たものや、それをよすがにまわりから贈られたもの、さらには、自分の中を通って過去から、ずっと先、自分の姿が見分ける必要がなくなった後も曲がったり途切れたりしながら、それでも続いている時間というものも――そこにはたまっているのだ。

◆そうして、窓をはさんでその内と外とについて言い足すなら、窓はじっとしたまま、そこに月を映し、それを眺めている自分をも映して来たのだし、その間、月の方もこちらをずっと見つめてくれていたのだった。



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