
樋口一葉展寸感[2021年11月03日(Wed)]
◆神奈川県立近代文学館で開催中の樋口一葉展、違う布地3種類をつぎ合わせ、上に羽織を着れば、それと分からないように仕立てた着物があった(日本近代文学館蔵)。
形見の品というより、いまそこに、底知れぬ生(せい)の姿を示したなりで、一葉その人が立っているように圧倒される感じを覚えた。
*『樋口一葉展 我が詩は人のいのちとなりぬべき』11月28日まで
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ある願い 清岡卓行
わたしは乾きたくない
山の上に浮く魚の化石のようには。
私は氷りたくない
凍土帯(ツンドラ)に埋もれたマンモスのようには。
私は潜みたくない
原始の住居の跡の穀物の粒のようには。
わたしは狂いたいのだ
海の底から噴きあがる焔のように。
わたしは泣きたいのだ
沙漠の中を動きまわる湖のように。
私は消えていきたいのだ
青空に羊雲を残す嵐のように。
『清岡卓行全詩集』(思潮社、1985年)より
◆たとい跡形もなく消えて、つかのまの空に浮かぶ雲に名残を見せるだけだとしても、中途半端でなく、自らをごまかすこともせずに烈しく生きたならばそれでよいではないか――。