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小野ちとせ「水のダンベル」[2021年10月18日(Mon)]

◆十三夜の月が雲に見え隠れしながら空に在る。
昨夜と同じ詩集から、水と重力の詩を――(私たちの時空には月も大いに関与して在る)


***


水のダンベル  小野ちとせ



  水の高さを揃え ふたつの重さを整えるため
  蛇口からそそぐ   からのペットボトルに
  握りしめる掌の    肩へ移動する重力の
  パシャパシャと プラスチックの壁に叩かれ
  大小さまざまに   気泡は生まれて消える
  

  上へ行きたがる    空はどうしても上へ
  下へ行きたがる 水はどうしようもなく下へ
  一歩もゆずらず      せめぎあうのは
  小さなボトルに   封じ込められてもなお
  水準器のように   瞬時に水平を保つため
  やすむことなく 重力は地球の中心へ向かう


振り回さなければ
激しく揺すらなければ
泡立つこともないけれど
そのかたちさえ包み込もうとする水は
瞬く間に空っぽを空へかえし
重さの底から
静まろうとする
(より柔軟なのは 空?それとも 水?)

地軸の傾きを
月がささえているとしても
厖大な海水の重さは纏わりついたまま

骨格の歪みの
核のいたみよ
微かな兆しよ
(どこへ逃れていけばよいのだろう)

(ぬし)の動きに隷属する関節も
月を数えて徐々にずれ
限界に達すれば頽れてしまう

わたしは水のダンベル
両手にしっかり握りしめ
きらきら光るもどかしさのバランス
舞うようにかわしながら
苛立つ気泡を
取り巻く水を
宥めてゆく



小野ちとせ詩集『微かな吐息につつまれて』(土曜美術社出版販売、2019年)より

原詩は、第一連と第二連は2文字分下げ、なおかつ行頭および行末がそれぞれ揃うようにしてある。
画面上もそのように表示されるようスペースを入れて入力したが、スマホの表示はうまくいかないかと思うのでご容赦を。


◆水を入れるダンベルは我が家にも一組あるが、使うのはもっぱら家人の方で、トレーニング中の感じを訊いてみたこともないが、この詩を読むと、重さを文字通り体感しながら、重力およびそれと拮抗しようとする力を、体全体で感じるものらしいということが伝わってくる。

ダンベルの中の水は、我々自身の体内の水と一緒に揺れ、外へ飛び出ようとしてなしえない。それは地球の中心から呼ぶものの力があればこそ。
そして水の惑星たる地球の上には空があり、月と引き合いながら運行している。
いわば、私たちは地球と月の間にいる、ということになろうか。

そうした位置にある私たちは、ぶつかり合い、斥け合う力をねじ伏せることはできない。その間に在って御すること――水のダンベルによる運動は、そのレッスンなのかもしれない。



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