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吉野弘「鎮魂歌」[2021年09月17日(Fri)]

◆この前、鈴虫が聞こえていた。今宵は……、と思って窓を開けたら、暗中の雨音。
台風14号の先触れだろうか。
温帯低気圧となった後で再び勢力を盛り返し、本州をなめつくすのではないかと心配。

*******

鎮魂歌   吉野弘


死ぬことを強いる時間は
生きることを強いる横顔を持ち
タクトをとって休みなく
秋のあまたの虫たちを残酷なほど歌わせる。

さりげなく
歌の糸玉をころがし乍ら、糸を
次第に剝ぎとり捲きとってゆく
見えない手のように。

けれど、秋の虫たちは
歌を奪われるのでなく、まして
強いられて歌うのではなく
みずから求めて歌うかのごとく白熱し

強いられぬ唯一のものが歌
であるかのごとく声を高め、それを時間の
肉のうすい小さな耳にも聞かせようとして
倦むことを知らない。



現代詩文庫『吉野弘詩集』(思潮社、1968年)より

◆虫たちの合唱団、「レクイエム」の練習に余念が無い。
タクトを振るのは「時間」という桂冠指揮者だ。
かねて練習は厳しいことで知られているが、耳が遠くなったからか、同じ所を何度もさらう。
加えてテンポがずいぶん速くなった。団員たちの必死の形相を見てマエストロは苦虫をかみつぶした顔になった。

マエストロの棒が止まり、「なっちゃいない!」とダミ声が草の葉をふるわせた瞬間、稲光が走った。続く雷鳴は幾万のバスバリトンが咆哮したみたいに地面を揺るがした。

――雨で休止の間、虫たちはてんでに考えていた。――(雨が上がったらどんな風に歌おうか)

――雨が小止みになった……

……「チンチロ」…おそるおそる松虫が一節だけ歌った。――また雨。だがすぐ止む……
「リンリン」と鈴虫が歌い始め、やがて自信をたたえた声に変わった。

続いてコオロギがスタッカートで繰り返し歌い、そのうちテヌートで朗々と歌い始めた……近くでメスが聴いてくれているのだろう――と、クツワムシがでかい声でガチャガチャと恋路のじゃまをする……どうやらオペレッタをやることに衆議一決したようだ。

マエストロ「時間」は?
――ケヤキの根方に身を預け、ウトウトしてる。指揮者ナシの音楽のおかげで、いい夢を見ているみたいだ。



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