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石川逸子「かなしみが」[2021年04月26日(Mon)]

210426ミズキの花 DSC_0153.jpg

ミズキが白い花をつけていた。

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◆国内における新型コロナによる死亡者が1万人を超えた。
しかもペースは加速しており、毎日新聞によれば、第三波による昨年12月以降の死亡者数だけでこれまでの累計の8割を占めるという。

◆インドの感染爆発も深刻の度を増している。国内の対応にすら手が回らない日本政府になしうることは限られているだろうけれど、アメリカ詣でをやめ、せめてアジアの一隅から同じアジアの人々の苦境に思いをはせる沈思黙考の一日を持つ誠実さがあったなら。

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かなしみが  石川逸子


かなしみが
天から白い花のようにふってくるときは
そのまま 体中 花に染まって
あるいていこう
はるかな山のふもとまで はたらきものの蟻のように

にくしみが
ふいにサソリのように襲ってくるときは
はたはたと川のほとりへ駆けていって
笹舟を浮かべよう
太古からながれつづけ ときに淀む川が
はねる魚が 苦い心を冷やしていくだろう

深い悔いが
深夜 怒濤のように押し寄せてくるときは
七転八倒しながら
ごめんなさい ごめんなさい
暗い木々に向かって 頭を下げよう

この世という旅は
おわるまでつづくのだから
一人ひとり似ているようで それぞれにちがう旅なのだから
すれちがえば さりげなく挨拶し
萩散る駅 スミレ咲く宿で見た夕日なんか
ぼそぼそと 告げよう

よろこびは
すでに旅を終えたひとたち
走っていく幼子からも
与えられるから
しずかに しずかに
耳をすましてあるこう

ほっそりとつづいている小道を
ときに茨除け 石につまずき
また つまずきながらも



石川逸子詩集『たった一度の物語 アジア・太平洋戦争幻視片』(花神社、2013年)より

◆上記詩集の掉尾に、しずかに、しかし不磨の志操をこめて置かれた一篇。





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