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第五福竜丸の大石又七さん逝く[2021年03月22日(Mon)]

◆「第五福竜丸」の乗組員だった大石又七さんが3月7日、亡くなった。
享年八十七。ビキニ水爆の被曝者として語り部を続けて来られた。


大石さんのご冥福を祈り、石川逸子さんの長詩「ロンゲラップの海」を何回かに分けて紹介します。


***


ロンゲラップの海   石川逸子

   1

一枚の写真
車椅子に腰かけ
浜辺で 黙然と寄せてくる波をながめている
白髪の老人 一人

もし振り向いたら
その目にはきっと
半世紀溜めこんできた あれこれが
夕焼けのように かあっと燃えているだろう

海の青さ 波の白さは
変わらぬまま
二度と住めなくなってしまった 島
ロンゲラップ

波の音に混じって
囲いこみ漁の どよめき が
祭の日の さざめき が
老人だけには 聞こえているのだろうか

それとも
水爆ブラボー爆発少しまえに 不意にあらわれ
「お前たちの命は小指の先ほどのものだ」
と笑った 米兵の声が 耳元で鳴っているのか

火ぶくれし 嘔吐して 呻く 島民たちに
連行先の島で
「海水をかけて洗え」とだけ言った
米兵の声も 耳元で鳴っているのか

ビキニから百八十キロ離れた
ロンゲラップに
さらさら 雪のように降りつづけた
白い粉
死の粉とも知らず その粉を競って集め
無心に あそんでいた 子どもたち

退去命令は五十八時間後だった
おれたちは人間モルモットにされていたのだ
いや 三年後
「安全宣言」されての帰還も
その一環だったとは!

ようやく故郷の島にもどって
はしゃぎ 踊った ひとびとの姿が
昨日のことのように甦る
「なんといってもおれらのヤシガニは最高さ」

あのとき ようやく
先祖伝来の暮らしにもどれた! と安堵した
まさか 魚も ヤシの実も
死の魚 死の実に変わっていようとは!

体内にとりこんだ放射能によって
ひとびとは やがて つぎつぎ 死んでいった
老人の息子 レコジも
ジョージも 妻のミチュワも 死んでいった

一九八五年 ついに ひとびとは
ロンゲラップを脱出する
先祖伝来の暮らしを捨て  墓を捨て
思い出を捨てて

脱出先は 元無人の小さな島
植えたヤシ 甘い実を実らせるパンの木は育つだろうか
新しい世代は
ヤシの汁の味をしらず インスタントラーメンが朝食だ

老人は 海を見つめる
寄せてくる波を見つめる
ロンゲラップの元村長
ジョン・アンジャイン

巨大なアメリカ合衆国を相手に闘いつづけてきた
頼もしい島の かしら も 八十一歳
写真に写る背中は 瘠せて見える


  2

海に向う老人を
カメラにおさめたのは 大石又七
同じく 水爆ブラボーのヒバクシャだ

二十歳の大石が乗った 第五福竜丸は
一九五四年三月一日 マグロ取りの操業中
突如 真っ赤に染まった海にかこまれ
巨大なキノコ雲が西から立ち上がるのを見た

二時間後には
白いみぞれのようなものが どっと降る
風とともに 雨に混じって
ざんざんと 吹きつけて止まない

デッキの上に積もり
頭に 耳に 鼻に 口に
下着のうちがわにまで 入りこみ
ジャリジャリと刺さって 痛い
「なんだ これは?」舐めるものもいる

その日 めまい 頭痛 吐き気に おそわれたのを
だれもだまっていた
海の男は辛抱強い
少々のことで弱音がはけようか

二日目 あちこちが火傷したように
ふくらみ 中に水が溜まる
皮がむけたところが塩水にあたると
痛い

一週間目
だれもかれも 髪の毛が抜け出す
引っ張っただけで ずるっと抜ける
だが だれも 死の灰とはしらない

局長・久保山愛吉の死は
被曝から約七ヶ月後の 九月二十三日
あらゆる治療も甲斐なかった



★石川逸子『詩集 ロンゲラップの海』(花神社、2009年)による。






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