
久保木宗一「ただの石」[2020年12月01日(Tue)]
ただの石 久保木宗一
石はそこに在る
そこに在って
身じろぎひとつしない
そうして
あわてふためきドタバタ動きまわる人間共を
黙って見ている
石は変わらない
石の心は移ろわない
ただの石としてそこに在って
いつもと同じ形で
おなじ色で
おなじ輝きで
ただ黙って坐っている
石は石として
その一点のみで存在しているのだ
石を地球の中心に置いてみないか
世界が明るく豊かに生まれ変わるはずだ
★久保木宗一(くぼきそういち)詩集
『暮れなずむ路上』(書肆山田、2009年)より

装画は藤森カツジ氏。
◆石は、かく在りたいと願う生き方を示してくれるもののようだ。
水や風に流される砂でなく、水にも風にも超然として動かない岩でもなく、砂と岩の間に在り、それらとの紐帯は無いようでいて、どちらの性質も内に備えているもの。
そうして卑下や尊大さとは無縁のもの。