
壺とあわだつ思い[2020年11月28日(Sat)]
壺 馬場晴世
雨戸を閉め 障子も閉め
部屋の一角を片付け
深い海の色をした大きな壺を置いた
夜の静けさがそこに集まり
壺はしんとしている
中は仄青い闇
花は生けない
心が波うつとき
あわだつ思いを入れていく
海の底を流れる水の匂いが
部屋にあふれ
一筋 青い風がたつ
詩集『草族』 (土曜美術社出版販売、2018年)より
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◆「あわだつ思い」は誰の身にも起こり得るだろうけれど、それを身につけた作法のごとくに扱う人はそうそう居ないだろう。
あたかも茶を点じる人のように、わが心から滾(たぎ)るものを壺に入れていく。
日中は胸にたたみ込んでいたものを、深い海へとおろしてやるならば、それは水底で浄化され、閉めきった部屋に爽涼の風をもたらしさえするのだ。