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ゴビのテレヴィ[2020年07月15日(Wed)]

DSCN3875.JPG
雲に魅入られる人の気持ちが分かる気がする。

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文明  財部鳥子

砂漠に延々と延々とつながる
ひょろひょろとした電柱は
ときには情けなく傾いたり 倒れたり
「やはり電気の出力はよわいですね」とガイドがいう

ゴビの果ての村の単調な永遠を引立てるように
極彩色の女たちは風にはためいていた
あらぬ夢を見ている蜃気楼のように
はでな赤や紫や金ラメのワンピースは砂のなかの幻のよう

砂漠のかすかな電力は 夕べ早くも
彼女たちの砂まみれのハイヒールを ポプラ並木を
ぶどう棚のトンネルを 暗闇に沈めてしまう
あざやかな残像とかぐわしさをのこして

彼女たちは電灯を消して
テレヴィの青白い画像の前に夕食をしつらえる
テレヴィはまるで家長だ
青い光に集まって家族は羊を食べている

このいじらしい文明は ゴビと
地軸の傾斜のまま大地に触れている
豪奢な星のかがやきに
孤立無援に ひしひしと囲まれている

ひるま 村の塀に「不怕戈壁」と大書してあるのを見た
――ゴビを恐れず と
だから遠い村落にも青いひかり苔が
夜はちらちらと発光しているのだ


現代詩文庫『財部鳥子詩集』(思潮社、1997年)より

◆夜遅くのニュース番組の終わりに高層ビル群の夜景の空中映像などが流れていたりすると、それは繁華の象徴ではあっても文明の証拠とは言えない気がすることがある。

それに対置させるように上の詩を読むと、砂漠の闇の中の乏しい電力による青い明滅が、むしろ確かな「文明」であるように浮かび上がる。
恐らくはそんな村にもテレヴィが、ということではなく、そこにはるか昔から人間が生きてきたという事実の圧倒的な力によって。


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