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石原吉郎「卑怯者のマーチ」・「直系」[2020年07月03日(Fri)]

DSCN3749イヌマキ.JPG
イヌマキのようだ。白っぽい花(雌花らしい)が葉の根方に集まっている。
近づいて花を確かめたかったが、急な傾斜の下方に生えていて叶わず。ズームで撮った。

*******


卑怯者のマーチ  石原吉郎


この街の栄光の南側の出ロ
この街の栄光の膝までの深さ
欠けた堤防は膝でうずめ
欠け落ちた隊伍は
馬鈴薯で理める
偉大な事だけを
遠くへ生起させて
この街の栄光の南側の出ロ
この街の栄光の膝までの深さ
医師と落丁と
僧侶と白昼と
ひとにぎりの徒党と
系譜と病歴と
(酒と希望が残りを
 やっつける)
この街の栄光の右側ひだり側
この街の栄光の膝までの深さ
一人の直系を残すための
憎悪の点検は日没からだ
この街の勾配を
背なかでずり落ちて
眼帯のまうらへ
ひっそりと整列する
起て ひとりずつ
移動せよ省略するな
省略しえたにせよ
名称はのこる
卑怯者であると
故にいうのだ




◆さまざまな読み方ができる詩だ。
「栄光」と「欠けた堤防」を持つ「この街」は、燦たる「栄光」の歴史を持つが、今は天変地異によってか戦乱によってか、廃墟同然で、日の目が見えなくなる頃には「憎悪の点検」が始まる。
まるで、「自粛警察」が現実の巷でも電網の世界でも跋扈する現在みたいではないか。

「点検」はむろん卑怯者を告発するために行われるのだが、その目的は「一人の直系を残すため」だという。
とすれば、それは、皇居に住む「御一人(ごいちにん)」を指すと考えるのが自然だろう。
「欠けた堤防」は「神の国」が囲みを破られ、国土荒廃に直面したというわけであろう。
その決壊を埋めるのは生身の肉体。「馬鈴薯」同様に凸凹した面貌を泥まみれにした兵たちの使命、というわけである。

◆ずばり、「直系」と題する詩もある。


直系  石原吉郎

こうりょうと風に鳴りながら
片足で一族は立ちつづけた
(てのひら)で壁をあたためては
片足ずつ世代を入れかえた
幕となって杭をめぐり
集結すれば すべて
正面をさえぎられた
ひとつの枕と
ひとつの牢獄と
すべて継承に耐えぬものを
継承すべく継承して
砥石を割り
息をころし
一人の直系へ集約して
森よりもさらに森であり
襲撃よりもさらに襲撃であり
燃えおちては
防衛の燠(おき)となって
笛の音(ね)のごときものを
曳きながら
僧侶のように
乾燥しつづけ



◆長いシベリア抑留から帰国した石原(1953年。スターリンの死に伴う恩赦による)を襲った衝撃の一つに、故郷の親族の偏見と疎外があった。血脈が無条件の信頼を保証するものでないことは、家族に擬せられた国民と天皇との関係についても同じであっただろう。
詩の最後四行は、「防衛の燠」と持ち上げてみたところでとうてい回復不可能な「魂」のむごい焼尽を表現している。

*現代詩文庫『石原吉郎詩集』(思潮社、1969年)によった。





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