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財部鳥子「終着駅」[2020年05月22日(Fri)]

DSCN3412.JPG
セイヨウヒルガオ。コンボルブルスという名も持つそうだ。

*******

◆財部鳥子『氷菓とカンタータ』には不思議な詩がたくさんある。
そのうちの一篇「終着駅」――



終着駅   財部鳥子


行きつけるだろうか
母は百歳になった どうしても行くという
目がよく見えないのに怯まない
あそこにはね 虎杖(いたどり)の赤い花が咲いているの 大好きなの
ゆるやかな崖山である
バスの運転手はヤバいなといっている
崖山の斜面はすべるので登るなとみんなはいう
階段がいいという人がいる
バスは昔の宮参りのすり減った階段を登るのだった
段差があるのでバスは垂直になることもある

右折左折して激しく揺れて登っていく
後部に乗っていた人は押しつぶされて前方へ
必死に這い登ってくる
飛び降りる人もいたのでバスは止まった
仕方なく 私たちは下車した
そこは崖山の中腹であり 石くればかりで
とても駅だとは思えないのだったが
母は嬉々として虎杖の花を摘みに行った
どんな花なのだろう

遠くにターンテーブルが見えるから
ここは起点でもある 静かだ――
威厳ある機関車が黒光りして私たちを迎えている
U字の囲いのなかで
柔らかな蒸気を吹き上げている


財部鳥子『氷菓とカンタータ』(書肆山田、2015年)

◆夢の中のようでいて妙な現実感がある。
イタドリの花を摘みに行くのだと言う母と崖山をバスで登る。
時に垂直になって崖山の階段を登っていくバス。
後部の乗客が必死に前方へ這い登る姿。
タイタニックの映画のようなパニックが起きているようなのだが、母と私は途中で止まったバスから降りる。
そこから百歳の母は嬉々として虎杖の花を摘みに行く。その花が赤いと言われても、見たことはない。

遠くには機関車の向きを反転させるターンテーブルが見え、ここが終着点であると同時に起点でもあることが分かる。でも、ここからどこに向かうというのだろう。

黒光りする機関車に乗ってさらにどこかへ向かう――そのことだけははっきりしている。

この不思議な世界では「どんな花だろう」と問うことはあっても、「なぜ」を問うことはない。
未だ行ったことのない世界に向かうことは間違いなく、未知への好奇心はあっても警戒心や疑いを引きずることはない。

こうした心を持ち続けていられるのは、夢の中か、子どもだけであろう。


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