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E.ビショップ「一芸」[2020年05月13日(Wed)]

DSCN3317ツタバウンラン.JPG
ツタバウンラン。
地を這ってあっと言う間に広がるが、一緒に生えているドクダミと違って手で容易に抜ける。

*******


一芸   エリザベス・ビショップ
          小口未散・訳

失うということは むつかしいわざじゃない。
多くのものには失われる意図が備わっているから
失うことは わざわいじゃない。

毎日何かをなくすこと。ドアの鍵がない
という狼狽や 無にした時間を受け入れること
失うということは むつかしい技術(わざ)じゃない

つぎには 速く 深く なくす練習をつむこと。
場所や 名前や 旅するつもりだった
土地など。 どれを失っても わざわいは来ない。

私は母の時計を喪(なく)した。それに見て!三(みっつ)の我家の
最後の、否(いえ) 最後から二つ目の家もなくなった。
失うということは むつかしい芸当(わざ)じゃない

私は美しい街を二つなくした。否(いいえ) もっとなくした。
広やかに私の王国だった 二つの河 ひとつの大陸。
なつかしいわ、だけれども わざわいは来なかった。

―あなたをなくしてもなお(朗らかな声、いとしい
仕草)私は嘘をついたことにならない。明かだもの、
失うということは さして、むつかしい業(わざ)じゃない
そのわざが(書いてみて!)わざわいに似てみえても。



原題は〈ONE ART〉    
  小口未散 編・訳『エリザベス・ビショップ詩集』(土曜美術社出版販売、2001年)


◆暑くてマスクどころでない日が続く。
人の姿が見当たらない所で外すと、川面をわたる風の心地よさをずいぶん長く失っていたことに気づく。自由に息することも忘れていたというわけだ。
2〜3月だったらいざ知らず、田植えの準備も始まるこの季節にマスクを付けたままジョギングしている人を見ると、大丈夫か、おい、と心配になる。
そう思っていたら、やはりその姿で走っていて亡くなった若者がいたというニュースがあった。
日常を失い、さらに命まで失う羽目になるのは、世間や社会が主で自分の肉体が従になっていたということではないかと、痛ましい。

◆この詩、若い人にとっては失恋の詩と読めるだろうが、人生の秋期に足を踏み入れた人なら、老いに伴うさまざまな悲劇ー傍から見れば喜劇に見えることも多いーをうたったものと読めるだろう。

私のものだった街や王国を失ってもそれはわざわいというほどのことでもない、「あなた」(一義的には「私」の愛する人)を失うことに比べれば。
いや、それすら人生にはよくあることで、わざわいに似ていても、どうしようもない不幸というわけじゃない――と強がりを言っているのではない風であるものの、本心は、何であれいずれ失われるはずで、運命だったのだと思える時が必ず来る、と自分で自分に言ってやらなければ、辛すぎるじゃないか、というのがこの詩の中心だろう。喪失の悲しみの逆説的表現。

◆ところが、この最終連の「あなた」を、一国を治める王や大統領、首相といった人を指すとみなして置き換えてみると、俄然、この詩は彼らまつりごとを司る者たちへの痛烈な諷刺に転じる。

住む家を失い、美しい街や国土を失うことはちっとも難しいことじゃない。
最後に、民草の上に君臨していた「あなた」を失うこと、それはわざわいに似ているが、それすらほんとはちっとも難しいわざ(原詩ではart)じゃない、と、不適な笑みを浮かべているように思えてくるから不思議だ。


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