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石垣りんのケンポー第二十五条[2018年09月28日(Fri)]

2018091513180三菱前般若純一郎「友情」2000.jpg
般若純一郎「友情」。横浜みなとみらい、三菱重工ビル前にて。

*******

石垣りんの単行本未収録詩篇からもうひとつ。

たそがれの光景   石垣 りん

私が三十年以上働いてきたのは
家族が最低の生活を営む
その保障のためでした。

私の持ち帰る月給が
ケンポーの役割を果たしてきたと
思っています。

でも第二十五条の全部ではありません。
月給袋が波間に浮かんだ小舟の
舟底のように薄くて。
不安な朝夕を流れ流れて。
戦火も飢餓もきりぬけました。

このちいさな舟に乗り合わせた人たちを
途中でおろして
どうして私が未来とか希望とかに向かって
船出することができたでしょう。
長い間漕ぎ続けましたが
文化的な暮しは
そんなやすらかな港は
どこにもありませんでした。

当然の権利、と人は言いますが。
力の強い人たちによって富もケンリも独占され
貧しく弱い者はその当然のものを
素手で勝ちとるほかない
さびしい季節に生まれました。

もういちど申します。
最低限度の生活を維持したいのが
私の願いでした。
国はそれを保障してくれたことがありません。
国とは何でありましょう。

おかしな話になりましたが
その単純さで
ケンポーは自分のものだと思っています。

望遠鏡の向こうで
第二十五条がたそがれてきました。
けれど引き返すことのできない目的地です。
もうひといきです。
私は働きます。
 


   (「とうきょう広報」増刊号、1974年)
 伊藤比呂美編『石垣りん詩集』(岩波文庫、2015年)によった。

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

日本国憲法第二十五条  
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。




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