先にこのブログでも案内した公衆衛生医師に関するシンポジウムが、先日つくばで開催された日本公衆衛生学会総会の1日目、10月31日に開催されました。
まず、4名の演者からの講演がありました。
<講演の主なテーマ>
・大学公衆衛生学教室/地元行政との連携に関する調査(国立保健医療科学院 町田先生)
・秋田大学医学部生への実践的な公衆衛生学教育(秋田大学医学部衛生学・公衆衛生学講座 野村先生)
・全国保健所長会の活動や香川県における大学/行政の連携(香川県東讃保健所 横山先生)
・他領域における産学官連携での人材育成(株式会社リンクアンドモチベーション 樫原先生)
国立保健医療科学院の町田先生からは、キーワード「公衆衛生医師」に唯一触れる機会を医学生に提供するのは公衆衛生学教室であることを踏まえ行った調査で、医学生の7割が公衆衛生そのものに何らかの興味を持つこと、1割は公衆衛生医師のキャリアに関心があること、公衆衛生医師キャリアを考える医学生でも「勤務するなら臨床を数年経験後」が最多だったことなどが報告されました。
公衆衛生医師を目指す人を増やすには「楽しさが伝えられるかどうか」がポイントで、公衆衛生医師の魅力を楽しく語ること、教室と行政が共に公衆衛生医師希望者の発掘や紹介を行うこと、公衆衛生医師キャリアを臨床医と同じ並びで紹介すること、何より教室と行政の定期的な交流を図ることが重要と述べられました。
秋田大学の野村先生からは、医学部生への公衆衛生学教育の実践についてのご講演で、調査を活用したお話などがありました。秋田県から大学へ委託された県民健康栄養調査では、キャッチコピー「生きた調査を学ぶ」のチラシで毎回医学生10人以上の参加があるそうです。
さらに、教室では多くの調査研究にそれぞれの学生が個別・主体的に取り組み、筆頭著者での論文発表の機会も提供されています。学生筆頭論文は2021年は16件、2022年は17件、うち英文原著論文は2021年が7件、2022年が6件、どれもがインパクトファクター4以上と引用回数の多い医学雑誌へ掲載されました。臨床実習前の学生が社会医学的課題への関心を持てるよう取り組まれ、学生の研究環境構築や丁寧な指導体制に会場からは驚きの声が上がりました。
香川県東讃保健所・横山先生からは、全国保健所長会事業班活動及び香川県での大学との協働について発表がありました。全国保健所長会サマーセミナーでは4人に1人が大学の講義、実習、掲示板で開催を知り参加したこと、また以前は少なかった大学生、大学院生、大学病院臨床医が約半数を占めるまで増加したことから、医育機関である「大学」は公衆衛生医師の全てに関連すると認識されていました。
全国保健所長会での人材確保の取り組みは全て地元・香川県でも展開され、県予算で香川大学との共催で行う年数回開催のセミナーについて詳細が報告されました。セミナー告知のポイントとして、多くの大学関係者が使う学内エレベーター横掲示板の活用など、具体的なtipsも紹介されました。
株式会社リンクアンドモチベーション・樫原先生からは、企業・大学の両方でご活躍の立場から「エッジソンマネジメント」による「青田買い」から「青田創り」へ転換が重要とのお話がありました。大学4年+卒後3年の7年間が人材育成の要で「ゴールデンセブン」と位置づけられることや、樫原先生が経験された多くの企業・団体とのコラボレーション事例の一部が具体的に紹介されました。
人材育成では、若者へきちんと説明するための「しかるべき準備」が必要なこと、「無名の大人」の言葉も影響力があること、「ミラー効果」で指導側の育成・共育効果があることなどが印象に残りました。保健医療福祉分野で見聞きする人材育成の話題とは雰囲気も異なり、刺激的な講演でした。
講演後のディスカッションは、それぞれの演者が質問に答える形式で進行しました。座長やフロアから、連携のきっかけ、ミラー効果、関係を維持するポイント、楽しかったエピソード、臨床系専門医の維持、などの質問があり意見が飛び交いました。
今回は70名ほどの参加者にお越しいただきましたが、会場は座長の白井先生(枚方市保健所)、杉山先生(筑波大学)の巧みな進行で大いに沸き、現地開催ならではの一体感に包まれていました。
*****
終了後に企画運営を担当した方にお聞きしたところ、実は綿密な準備がなされていたそうで、事前打合せはなんと4回!!(web会議3回+当日確認)。熱意と丁寧な調整が生み出した盛り上がりだったのですね。
演者・座長の先生方、裏方として活躍した関係者に頭が下がるとともに、一人の参加者として「一緒に働く仲間を増やしたくなる公衆衛生医師の仕事」に就いていることを誇りに思いました。
なお、後日学会公式ウェブサイトにおいてオンデマンド配信が予定されています。参加登録済みの方はぜひご視聴ください。
タグ:当事業班主催の行事