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2025年05月28日

東海大学医学生の保健所実習を行いました(神奈川県平塚保健福祉事務所 兼任千恵)

昨年度、東海大学医学部の社会医学(公衆衛生学分野)の授業の一環で、当所に学生実習の受け入れ依頼があり、保健所の業務や公衆衛生医師の役割について学んでいただきました。

2時間という短い時間でしたが、医学生のみなさんが積極的に実習に取り組んでくださったので、その様子をご紹介したいと思います。


東海大学では例年、医学部医学科3年生がグループに分かれ、それぞれ公衆衛生に関わる施設で実習を行うことになっているようで、当所には医学生7名と引率の立道昌幸教授がお越しくださいました。当所としては、所長、企画調整課の課長および保健師、それに私の4名で対応にあたりました。


それぞれ自己紹介をしてから、まずは保健所の業務内容について簡単にご紹介しました。

また、「公衆衛生医師の確保と育成に関する調査および実践事業班」で昨年度作成した、公衆衛生医師に関する情報サイトをまとめたチラシをお渡しし、二次元バーコードからアクセスを試みてもらいました。


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令和6年度の本事業で作成した公衆衛生医師情報チラシ


実習内容については、「保健所における災害対応」と「公衆衛生医師業務とコンピテンシーを学ぶケーススタディ」の2本立てとしました。


「保健所における災害対応」のパートでは、企画調整課長から、災害時における神奈川県の保健医療調整機能について説明があり、その中で保健所が担う役割を学んでいただきました。


災害時、保健所には「地域災害医療対策会議」が設置され、市町村や関係団体と連携しながらその地域の医療救護活動の本部機能を担うことが求められます。そこで、「地域災害医療対策会議」のシナリオをもとに、保健所長、災害医療コーディネーター、DMAT活動拠点本部長、DHEATリーダー、DHEAT保健師、医師会理事、市の福祉課担当者、日本赤十字社救護班医師、JMAT医師の役割を分担し、ロールプレイングで体験していただきました。


「公衆衛生医師業務とコンピテンシーを学ぶケーススタディ」のパートでは、令和5年度に「公衆衛生医師の確保と育成に関する調査および実践事業班」で作成したケーススタディ集から、小学校給食で発生した大規模食中毒の事例を取り上げました。


自分が保健所長だったらどのように対応するか、まずペアで話し合ってもらい、その後、話し合った内容を全体で共有してもらいました。原因究明や再発防止策、保護者対応など、ペアごとに異なる視点で意見を出してくれて、私たち職員も多くの気づきを得ることができました。


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実習後に記入してもらったアンケートからは、参加型の実習を通して保健所の役割を楽しく学べた、保健所の医師というキャリアがあることがわかってよかった、という声も聞かれ、短時間ながらも充実した実習となったのではないかと思います。このような実習をきっかけに公衆衛生医師に興味を持ち、キャリアの選択肢のひとつとして検討してくれる医学生が増えることを期待しています。

(神奈川県平塚保健福祉事務所 兼任千恵)

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2024年11月14日

保健所の広報活動(ポスター作成)

公衆衛生医師のお仕事紹介です。金沢市保健所の北岡です。


少し前の仕事ですが、住民の方への啓発のためにポスターを作成しました。


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当時、保健所の食品衛生の部署で食品衛生監視員をしており、肉の生食や不十分な加熱による食中毒や、有症苦情(食中毒が疑われるもの)を多く経験しました。


現在、豚と牛レバーを生で食べることは禁止されており、ユッケなどの生食用の牛肉には厳しい規制があります。一方で生の鶏に関する規制は現時点ではなく、啓発は非常に重要です。

鶏を生もしくは不十分な加熱により食べることで、カンピロバクターによる食中毒が起こることがあります。カンピロバクターに汚染された食事をしてから2〜5日後に高熱、下痢、嘔吐、腹痛などの症状が出現し、その症状が治まったあとにギランバレー症候群(手足の麻痺や呼吸困難などの症状が出る)が起こることもあります。


このポスターはデザイン会社の方と、カンピロバクターによる食中毒を予防するための情報や伝えたいメッセージについて話し合っていく中で、調子が悪そうな鶏をメインに、「命トリ」という印象に残るコピーを提案してくださいました。


当初、鶏の背中にファスナーはありませんでしたが、鶏はカンピロバクターを保菌していても、調子が悪くなるわけではなく、ヒトがカンピロバクターで汚染された肉を食べることによって食中毒の原因となることを表現したかったので、ファスナーをつけていただきました。


完成後は給食施設や焼き肉店監視などで配付し、貼ってくれている施設も多くありました。


とはいえ、最近でもカンピロバクターに限らず、腸管出血性大腸菌による生肉や加熱が不十分な肉を食べたことに関連した食中毒の事例が数多く報告されています。腸管出血性大腸菌による食中毒では、溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症で死に至ることもあります。


「肉は十分に加熱してから食べる」


これは提供側への周知だけでなく、消費者側もよく知ることが大切です。


食事は旅行先でも重要な楽しみのひとつです。そんな食事が、健康を害するものにならないためにも、継続した啓発活動が必要と感じています。自治体の立場から、信頼ある情報をわかりやすく伝えることはとてもやりがいのある仕事です。


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2024年10月24日

新興感染症患者の移送訓練を行いました

こんにちは。

茨城県筑西(ちくせい)保健所所属の服部です。

筑西保健所は日本百名山の一つである筑波山のふもとにあります。保健所から筑波山をきれいに眺めることができ、毎日癒されながらお仕事ができています。


今回は、管内の感染症指定医療機関と合同で行った新興感染症患者の移送訓練についてご紹介します。


保健所は感染症法第21条及び第47条に基づき、患者の移送を行う必要があります。新型コロナウイルス感染症の際にも感染者が発生すると、保健所職員が患者を病院へ移送していました。

今年度から管内にある医療機関が第二種感染症指定医療機関に指定され、医療機関側から、患者発生の一報を受けた場合の患者の受け渡しから院内への搬送する流れを確認したいとご相談があり、保健所と医療機関で合同の移送訓練を行うことになりました。


当日のシナリオは、新興感染症が海外で流行し始め、日本でも都市部を中心に患者が増加し、ついに管内にも感染者が発生したという想定の下、保健所職員が患者発生の第一報を管内の診療所より受け、感染症指定医療機関に患者を移送するという流れでした。

訓練前日に移送車を保有している保健所に赴き、移送車の操作のレクチャーを受けました。当日は、まずは所内にてアイソレーター(患者搬送用の密閉式カプセル)の組み立てを実施しました。実際にアイソレーターの中に職員に入ってもらったところ、アイソレーター内では体が固定され、内部が密閉空間になるためパニックになる可能性があるとの感想がありました。患者さんに対して不安を軽減させるために適切な声かけや説明を行う必要があることを実感しました。その後所内では、患者発生の一報を管内の診療所から受けた後の本庁疾病対策課、衛生研究所など関係機関との連絡訓練を行いました。

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 医療機関では、病院職員に対してタイベックススーツの着脱訓練を行っていました。声が聞きとりにくいのでホワイトボードを使う等の会話の工夫が必要、タイベックススーツには職種だけでなく名前もあったほうがよい等の実際に体験してみての意見が聞かれました。


所内訓練を終えたところで、保健所から実際に移送車を走らせ、医療機関での患者を受け渡し訓練を行いました。医療機関内では、患者の検査等を実施し、感染症病棟へ運ぶまでの流れも確認しました。天気はあいにくの雨でしたので患者役の方は大変でしたが、雨の場合の動線の確認なども行うことができました。

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最後の振り返りでは、外部と院内の電話連絡の方法の煩雑さが表面化し、机上では気づきにくいところの意見交換が活発に出きたので、実践訓練の必要性を実感することができました。「備えよ常に」の精神で訓練や顔のみえる関係づくりを日頃より行っていきたいと思いました。


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2024年06月02日

議会との関わりを紹介します(群馬県健康福祉部感染症・疾病対策課 武智浩之)

わたしはこの投稿時点では行政医師になって15年目です。そして県庁の課長職に就いて2年目です。令和6年度は感染症や難病、アレルギー疾患、熱中症などを担当していますが、令和5年度は健康づくり、歯科口腔保健、食育、認知症、地域包括ケアなど担当する課で仕事をしました。今回のブログでは議会との関わりについて紹介します。


群馬県議会は県民の選挙によって選ばれた県民の代表である県議会議員の集まりで、大きく分けると1年間に3回開催されます。県議会は、条例や予算など県政の大切なことを県民に代わって話し合い、そして決定します。ほかにも、県行政の執行状況を監視・評価したり、県民の意見に基づいた政策の立案・提言を行います。


県議会には本会議と委員会があり、条例や予算等の議案が県議会に上程されると、本会議と委員会で話し合いが行われます。本会議では、議案や県の仕事に関する質疑を行うほか、議会としての最終的な意思決定を行います。委員会は、その話し合いを専門的、効率的に進めるために設置されます。



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それでは令和63月に開催された令和6年第1回定例会での関わりを紹介します。定例会の本会議では、議員が施策の状況や方針等について、質問をしたり報告を求める「一般質問」が行われます。この定例会では「健康寿命延伸対策」「歯と口の健康に関する取組」等について一般質問されました。一般質問の質疑においては事前に議員からそのご意向を聞き取り、丁寧に答弁の準備を行います。この一般質問では健康福祉部長が答弁されました。


一般質問がなされることによって、対応すべき課題が一層明確になり、群馬県の政策・制度が県民のくらしのよりよい基盤であり続けることにつながります。群馬県議会の当日の様子はホームページから視聴できますのでぜひご覧ください。


また、わたしが所属する健康福祉部の所管事項は健康福祉常任委員会で審査・調査されます。常任委員会では、議案等に関して、委員(県議会議員)は自由に質疑し、意見を述べます。委員会には、実際の業務を担当する課長等も出席していますので、より詳細で自由、活発な議論がなされます。


この常任委員会では質問内容によって、わたしが答弁することもありました。要約すると、このブログのはじめに記載した自分が担当する業務に関連する議案や質問があったときに主担当として関わっていくということです。


議会に関心を持たれた方はぜひお住まいの自治体の議会ホームページをご覧くださいね。


(群馬県健康福祉部感染症・疾病対策課 武智浩之)


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2024年02月12日

FETP研修に参加しています(金沢市保健所 北岡政美)

病院、大学院(公衆衛生)を経て、金沢市8年目の公衆衛生医師です。金沢市では主に感染症対策、食品衛生、病院の立入検査、医療安全、産業医業務などに携わってきました。熱意ある上司の導きと自分のやってみたい気持ちのタイミングが合致し、FETPの受検機会を得ました。20234月よりFETP研修に参加しており、その概要についてご紹介します。


FETP(エフイーティーピー)はField Epidemiology Training Programの略で、実地疫学専門家養成コースと呼ばれ、日本では国立感染症研究所での2年間の実務研修コースとして、1999年に設置されました。世界各国でFETP研修が実施され、専門家養成が行われています。コースの目的は感染症を中心とする健康危機事象を迅速に探知して適切な対応を実施するためのコアとなる実地疫学者を養成し、その全国規模ネットワークを確立することです。


コースの大きな柱として、アウトブレイク調査、サーベイランス、リスク評価、疫学研究、学会発表や論文発表などの情報発信、国内外とのネットワーキングがあります。FETPといえば感染症のアウトブレイク調査などの現地での活動のイメージが強いかもしれませんが、日々継続的に行い、活動の要となるのはサーベイランスです。


EBSEvent-based surveillance)とIBSIndicator-based surveillance)の両輪で、感染症を中心とする健康危機事象として対応すべきことが起こっていないかを継続的、系統的に監視し続けています。EBSはインターネットの情報や公式情報、知り合いからの情報、うわさも含むもの、IBSは感染症発生動向調査などが相当します。変か(いつもと違う)、ひどいか(重症度など)、拡がるかの観点で、気になる事例を検討し、対応をするかどうかの判断と必要時の対応を行っています。


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最近の出来事でいえば、ネットワーキングのひとつとして、WHO西太平洋地域事務局でのFETP fellowshipという8週間のプログラムがあり、機会をいただき参加してきました。日本での研修を活かしながらEBSなどを行い、他国のFETP fellowWHOスタッフと働くことで、日本のFETP研修を客観的に見る機会になるとともに、立場が変わることで視点や対応が変化することを実体験することができました。


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情報を系統的に継続的に見続けることで、「いつもと違う」に気が付くことや、得た情報をどのように解釈し、対応につなげていくか判断する力を養うことは、感染症に限らず行政での業務に活かせると感じています。ご興味のある方はぜひホームページをご覧ください。

実地疫学専門家養成コース (FETP-J) (niid.go.jp)


(金沢市保健所 北岡政美)

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2024年01月10日

自治医大医学生の公衆衛生学実習(宮崎県日向保健所 豊嶋典世)

みなさま、こんにちは。今回は宮崎県福祉保健部からの報告です。

個人的には後進の育成はライフワークなのですが、県のミッションにもなっている公衆衛生医師確保のため、本庁で行われた自治医科大学医学科5年生の公衆衛生学実習に参加してきましたのでその模様を報告します。

令和5年度は4人の医学生が本県での公衆衛生学実習に参加しています(うち3人は本県出身者です)。実質2日間半での本庁実習で、なかなかタイトスケジュール(トータル5日間の実習を保健所と本庁とで折半)です。

11月14日の午後から始まった実習1日目は、行政医師の業務説明に続き、予定されているワークショップのテーマ設定(今回は宮崎県の健康課題からチョイス)、担当課へのききとり、情報のとりまとめとディスカッション....議会対応か...って思うほどには忙しいです。

今回のテーマは2つ、
 ・男子チーム:健康増進のための1日+1000歩対策
 ・女子チーム:HPVワクチン接種の普及啓発策
でした。身近な課題を自分事として捉え、県民の行動変容を促すためにできることを考える、実現可能な計画を練るプロセスを体験してもらいます。

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本庁実習2日目。担当課への再確認とそれぞれのチームの意見をまとめたのちにプレゼン資料を作成し、部長・次長・担当課長の前で自分たちオリジナルの若者視点の解決プランを力強く提示してくれました。部長も「多くのことを教えてもらい、大変ためになりました」と絶賛でしたので、皆さんのプランはこれからの宮崎県の施策にも活かされるはずです。

今回の実習を通して、ポピュレーションアプローチという公衆衛生のおもしろさを学べていたら嬉しいです。実習に参加した学生さんと将来本県で一緒に働けることを夢みて、私もこれから一層精進します。

その日の夜は宮崎の食文化を学び、お互いにとても楽しい時間を過ごせました!ご協力頂いた皆さま、ありがとうございました。

(宮崎県日向保健所 豊嶋典世)
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2023年12月07日

重症難病患者を対象とする災害訓練を行いました(徳島県阿南保健所 郡尋香)

徳島県入職10年目の郡です。今回は、勤務先の阿南保健所で企画した災害訓練についてご紹介します。

多くの保健所では、難病対策として、相談や訪問支援などの個別支援、医療費助成、地域の保健医療福祉ネットワーク構築、人材育成、普及啓発などを行っています。その中には地域で過ごす難病患者の災害対策も含まれています。

医療依存度の高い難病患者では災害時の避難や移動も大変で、平時の準備がより重要となるため、関係者に呼びかけて訓練を行いました。メンバーは、協力患者さん、ご家族、ケアマネジャー、訪問介護、訪問看護、人工呼吸器メーカー、地域包括支援センター、地元・阿南市の関係部局(保健・障がい・防災担当)、消防、地域住民(自主防災会・民生委員)と、多くの参加がありました。

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協力患者さんは自宅での垂直避難訓練を経験されていたため、今回は発災から数日経過した想定で施設間移動を訓練しました。避難先の病院から福祉避難所の特養までの移動です。

施設間の移動では調整も多く、支援者同士で重ねた打合せや訓練で役割を確認し、関係を深めることができました。人工呼吸器、吸引器の他にも必要な物品は多く減らしても荷物は大量でしたが、地域の方が運搬役を担いスムーズに移動できました。訓練とは異なり、発災時に支援者が揃うことはないため、その点も踏まえて備える必要があります。

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振り返りでは、協力患者さんが「みんなの顔を見て力が湧いてきた」と仰っていました。また、地域の方の「訓練を自主防災会活動に活かしたい」というコメントに、とても心強く感じました。

今回の訓練対象者は1名だけです。しかし、他の災害時要援護者支援とも共通したり、地域全体の仕組みに反映できることもたくさん確認できました。訓練の企画実施は時間も労力も必要ですが、得られるものも大きいですね。
(徳島県阿南保健所 郡尋香)
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2023年11月20日

高校3年生にHIV・性感染症予防の出前講座を実施しました!

高松市保健所の行政医師の藤川です。卒後、初期研修を経て保健所に入庁した年から、新型コロナ等を含めた感染症対策に長らく取り組んでいます。

この10月末に、保健所による高松一高3年生へのHIV・性感染症予防の出前講座を行いました。高松一高は当保健所から徒歩数分ぐらいの距離にあり、HIV・性感染症予防教育の出前講座は毎秋の恒例行事となっています。特に3年生はあと半年で大学進学など新たな門出を迎えますが、親元から離れて安心な大学生活を送っていただくために、私が保健所に入庁した年からこの講座を依頼され(当時は訳も分からず「ぷれいす東京」さんの性教育研修など慌てて勉強に伺いました)、今ではおなじみの定例行事となりました。

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本講座は、一方的な講義スタイルではなく、保健師の司会による「先生と生徒によるHIV検査のロールプレイの実演」や、「みんなで〇×ウルトラクイズ(70〜90年代の一世風靡した某有名なテレビクイズ番組名から拝借)」などを行いながら、仲間たちと一緒に語らいながら楽しく学ぶ機会となっています。

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今回は新しく改築された体育館内の講堂をお借りしての実施で、まるで大学のような広くてキレイな場所で驚きました。3年生全員262名+教員の先生方らにお集まり頂きましたが、ウルトラクイズ実施時には生徒さん達も大変盛り上がっていました。今年からはキャッチアップ世代向けのHPV9価ワクチンも無料接種できるため、高3生にはこちらもしっかりアピールいたしました。(ワクチンの説明時、生徒さん同士がお互いに接種したかどうか確認している場面もあったようです)

このような仲間同士での学びや共有体験を通じて、困ったときの対処方法を信頼できる大人や医療機関に相談できるように、備えて頂けたら何よりです。

(高松市保健所 藤川 愛)
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2022年05月25日

【公衆衛生医師の日常】社会医学系専門医の指導医資格が更新できました(大阪府健康医療部保健医療室 宮園将哉)

先日、社会医学系専門医協会かIMG_8091.JPEGら指導医認定証が送られてきました。

社会医学系専門医の具体的な議論が始まったのは2016年で、そのころに私が委員として参加させていただいた研修プログラム管理委員会に出席すべく、毎月のように東京に行っていたのは懐かしい思い出です。当時はここまで大きな枠組みのルールづくりに参加したのは初めての経験だったので、重い責任を感じる一方で大きなやりがいも感じていました。

特に、こういった新しい仕組みのための組織をどうマネジメントするのか、このプロジェクトをどうマネジメントするのか、そのプロセスをどうマネジメントするのかといったことについて、各学会・団体の代表のすごい先生方のやり方を間近に拝見することができたことは(たぶん当時の委員の中で私が最年少だったと思います)、私にとって大変貴重な経験でした。

ちなみに上記にある「組織をどうマネジメントするのか」「プロジェクトをどうマネジメントするのか」「そのプロセスをどうマネジメントするのか」の3項目は、「社会医学系専門研修プログラム整備基準」の中で「専門医が経験すべき総括的な課題」としてあげられている項目ですので、私自身がこの経験を通じて勉強させていただく大変貴重な機会だったと思っています。

公衆衛生分野の仕事の中では、特に都道府県庁や厚労省などの勤務になるとこのようなルールづくり、システムづくりの仕事に関わる機会が結構あり、上記の専門医協会での経験は今の業務の中でも活用させてもらっています。そういう意味ではこの委員会に参加すべくご推薦いただいた先生方には感謝しかありません。

今回、指導医認定証が手元に届いたのをきっかけにそんなことを思い返していました。みなさまにもこの資格や仕組みをさらに有効に活用していただきさらに大きく育てていただけると、制度の創成期に関わった者としてはこれ以上の喜びはありません。今後もみなさんと一緒に制度をよりよいものに育てていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願い致します。

(大阪府健康医療部保健医療室 宮園将哉)
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2022年05月20日

【公衆衛生医師の日常】藤井聡太九段の将棋には本当に隙がないのか(福島県相双保健所長 堀切 将)

新型コロナウイルス感染症が流行し始めて、はや2年半が経過しようとしています。自身の生活を削るような日々を過ごしてきた行政医師の先生方も少なからずいらっしゃることと思います。時には、仕事を離れた話題に触れるのも良い気分転換ではないかと思い、私の趣味のひとつについての考察を述べようと思います。

○命題はたぶん、真である
この一言で終わらせては余白が広すぎてしまいますので、私では「たぶん」真であるとしか表現できない、ということも含めて考察を続けます。将棋に興味のない方でも、棋士、藤井聡太九段(以下、藤井九段)の名前はご存知だと思います。その藤井九段に関するニュースを見ますと、藤井九段の指す将棋が、「隙がない」と表現されることが多々あります。

ここで疑問なのですが、記者や将棋ファンは、藤井九段の棋譜(対局の手順の記録)を見て、「なんと隙のない将棋だ」と感嘆できるのでしょうか。私の棋力では、藤井九段の棋譜を追っても、どのあたりが他のプロ棋士でも気付けない手なのか、見抜くことができません。アマチュアの高段者であろうと、たといプロ棋士であっても、全ての指し手をきちんと理解できていなくても不思議はありません。それにもかかわらず、プロ棋士も含めた、多くの将棋ファンたちは何故、藤井九段の将棋には「隙がない」と評価するのでしょうか。

○「隙がない」の発生源
今から10年ほど前、2012年4月22日のことです。NHKは毎週、プロ棋士によるトーナメント戦を放映しており、この日に放映された対局は、佐藤紳哉六段(当時の段位。以下、佐藤六段)対豊島将之七段(当時の段位。以下、豊島七段)。その際、各対局者へのインタビューも放映されるのですが、NHKの番組ということもあり、ごく一部の例外を除き、当たり障りのない受け答えになるのが常道でした。

しかし、この日の佐藤六段の内容は衝撃でした。対局相手である豊島七段の印象を聞かれて「豊島?強いよね。序盤中盤終盤、隙がないと思うよ。だけど、俺は負けないよ」と答えたのです。この台詞は、プロアマ問わず、将棋界を席巻しました。その後、どれだけの人たちが公私問わずにこれを真似したことか。当時はまだプロではなかった藤井九段(10年前の段階で、この子は天才だ、と注目されていたのです)すら、対局で負けた後に「序盤、中盤、終盤、隙だらけでした」とリップサービスしているほどです。

ここではご紹介しませんが、この一連の流行をまとめた動画は、巨大動画サイトで簡単に見つかります。そしてその頃から、棋士の棋風や対局内容を表現するのに、「隙がない」と言っておけば、将棋を「知っている人」の意見だと思わせることができるようになりました。以降、時間が経過することでこれらの背景を知らない人も、どうやら棋士や将棋の内容を評価するには「隙がない」という言葉が使われるようだ、と学び、どんどんと拡散していった、と考えられます。

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○豊島七段の強さの証明
将棋に詳しくない方こそ、ここまでで疑問に思うことがありませんでしょうか。佐藤六段の言葉遣いが異質だったとはいえ、「豊島七段が強い」ことや「序盤中盤終盤、隙がない」ことは、そこまで印象に残る言い回しなのでしょうか。このことに言及した文章を、私は見たことがありません。ここを考察してみます。

豊島七段は現在こそ、藤井九段のライバルと目されておりますし、ここ数年の充実ぶりから、将棋界のトップクラスの実力者と言えます。今年度のNHKでの棋戦でも優勝しています。しかし、10年前のまだ21歳、七段の時点で、「豊島七段が強い」と言い切れたのでしょうか。この答えは、是、です。若いプロ棋士が、今後どのくらい活躍できるかを判断する基準はあるのです。プロになった(=四段になった)年齢です。

若くしてプロになった棋士ほど、その後活躍していますし、20歳を過ぎてからプロになった棋士が大きな活躍をするのは稀です。将棋界で、中学生のうちにプロになれた棋士は、今までに5人しかいません。加藤一二三九段、谷川浩司九段、羽生善治九段、渡辺明九段、そして藤井聡太九段です。藤井九段を除き、全員が将棋界で最も古くからある称号、名人を獲得しました。だからこそ、藤井九段は、プロになった時点からすぐに騒がれたのです。では、豊島七段はどうだったか。

将棋のプロ棋士になるためには、プロ棋士の養成機関である、通称、奨励会の入会試験に合格し、昇級、昇段を重ねて四段にまで到達しなければなりません。奨励会入会試験に合格するには、アマチュアで県代表クラスの実力が要求されますが、豊島七段は、史上最年少の9歳で入会しています。また、プロになる一歩手前、三段に到達したのも、藤井九段に更新されるまでは、これも史上最年少でした。そこから少し足踏みをしたものの、晴れて四段となったのは16歳であり、プロになった平均年齢より十分若い。従って、豊島七段が「強い」ことは正しい、と言えます。

○佐藤六段は真実を述べていた
そして、豊島七段の将棋を、「序盤中盤終盤、隙がない」と評するのは正しいのでしょうか。豊島七段に限らず、将棋のプロになる人たちは、それまでに将棋の基礎はすべてできているわけで、例えば、水泳の個人メドレーの日本代表選手に対して、「バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロール、どれも速い」と評するようなものです。

つまり、佐藤六段は実は、普通のことしか言っていないのです。私が佐藤六段のインタビューを面白いと感じたのは、その立ち振る舞いや口調もさることながら、「実は当たり前じゃないか」と思わせてくれたところなのです。

将棋において「隙がない」という表現ができたのは、以上のような経緯があった次第で、当初と様変わりしてのことであったとご理解いただけたと思います。そして、藤井九段の将棋に隙がないのはおそらく正しいのですが、ほとんどの人は、このことをきちんと証明できないまま使っている、ということもご理解いただけたと思います。

○おわりに
それにしてもこの「隙がない」という言葉ですが、最初に佐藤六段が発言し(発生)、テレビ地上波やインターネットで広がり(拡散)、内容が少しずつ変化し(変異)、普遍的に使われるようになった(共存)わけで、これこそまさに、ウイルスが人間社会に馴染んでいく過程そのものだな、と感じる次第です。

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今回の記事は、先日「公衆衛生情報」という雑誌の「期待の若手シリーズ〜私にも言わせて!」というコーナーの原稿を依頼されたのですが、「何を書いてもいいよ」というお言葉を真に受けすぎて書いたものです。公衆衛生と全く関係がないという理由でボツになり、雑誌にはすっかり書き直したものが掲載されています。

実は上記の記事が最初に書いた原稿なのですが、こちらの原稿のほうが力を入れて書いている上に、書き直した原稿は時間に追われての執筆でしたので、やや不本意な出来だったなと反省していたところでした。そんな折に事業班の先生方にこのボツ原稿を読んでもらったところ、面白いからブログに書いてくれと大変ありがたいお誘いを頂きましたので、こちらに書かせていただきました。ご笑覧いただけると幸いです。
(福島県相双保健所長 堀切 将)
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