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2022年05月06日

【公衆衛生医師の日常】3万人弱の住民さんたちに育てられて(香川県小豆保健所 前保健所長(現・東讃保健所長) 横山勝教)

香川県には県型の保健所が4つ(小豆、東讃、中讃、西讃)と中核市の高松市保健所の合計5つの保健所があります。その中でも、最も管内人口が少ないのが小豆島にある小豆保健所です。香川県の公衆衛生医師が不足していたことから、以前はこの小豆保健所長は県庁の公衆衛生医師が兼務する状態が続いていました。

2020年4月、3月末に定年退職される本庁医師の後を引き継いで、新型コロナウイルス流行の兆しのある中で私が新米の保健所長として、最も管内人口の少ない小豆保健所に着任いたしました。

まずやったことは、小豆島をはじめ、豊島、小豊島、沖ノ島の管内4島の島民が重症化した場合の搬送体制を整えること。当時、小豆保健所管内には新型コロナウイルス感染症患者が入院できるベッドは小豆島中央病院の4床のみ。万が一、クラスターが発生したらどうしようもありません。

国土交通省のフェリーの安全管理規定を調べ、フェリー会社4社に加えて、小豆消防、高松消防、小豆島海上保安署とも個別に回って協議を重ね、比較的余裕がある場合と緊急を要する場合の搬送方法について整えました。

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次にやったことは、島民にその時その時に新型コロナウイルス感染症について分かっていることを丁寧に伝えるとともに、テレビなどの情報を見て抱えた不安を和らげること。着任早々、老人会の集まりでみんなに話して欲しいと頼まれたので、感染経路や対策についてお話に行きました。その時にお礼でもらったのが写真のスモモ。

この後、別の老人会にも呼ばれ、社協や老人会の広報誌などにも投稿することになりました。写真はありませんが、今度はそのお礼として大量の小鯵もいただきました(^^;

島で患者さんが出はじめてからは、クラスター対策をしながらも「誹謗中傷の貼り紙を感染者の家に届けるのではなく、病気の人にお見舞いの食べ物や千羽鶴が届くような島に」「お互い道ですれ違う時には距離は離れるけれど、遠くから挨拶をして心は離れないような島に」しましょうというメッセージを土庄町と小豆島町の放送で流してもらうようにしました。

第3波で初めて大きなクラスターが出た時には1週間以上保健所に泊まり込みになりましたが、2町の保健師さんたちも応援に駆けつけてくれましたし、住民さんたちも保健所での検査に皆さん非常に協力的で、早期収束に向かって一致団結してくださり、助けていただきました。

コロナ対策だけでなく、犬猫、食中毒、母子保健、精神障害、認知症、がん検診受診率、健康づくりなど地域の健康課題として保健所が取り組むことは多岐にわたりますが、そのすべてにおいて、小豆保健所の職員、小豆郡医師会の先生方、小豆島中央病院さん、2町の職員さん、そして何より管内に住むすべての住民の皆さんに教えてもらい、助けてもらいながら、最初は本当に肩書だけの素人のような私を保健所長として育てていただきました。

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2022年3月末、島での最後の仕事を終えて去る時に乗ったフェリーの写真です。4月から管内人口約10万人(精神の通報は高松市も含む約50万人)の香川県東讃保健所に異動となり、小豆保健所の時と比べると住民さんとの距離がやや遠くなってしまったように感じます。

保健所が人口3万人あたりに1つくらいあると、よりきめ細かな保健活動、感染症対策ができるのだろうなぁと小豆保健所を懐かしく思うこともありますが、たぶんそれはまだ私がこの規模での地域保健の築き方を攫みきれていないだけなのでしょう。小豆から育てていただいた芽をすくすくと成長させて、いつか大きな木になるという意思を持って、これからも頑張っていきたいと思います。

(香川県東讃保健所長 横山勝教)

posted by 公衆衛生医師の確保と育成に関する事業班 at 21:36 | TrackBack(0) | 公衆衛生医師の日常
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