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ミリエル司教の言葉 [2011年06月18日(Sat)]
 また、ヴィクトル=ユゴーが書いた「レ=ミゼラブル」の中の、こんな場面も思い出されます。

 刑務所から出てきたばかりのジャン=ヴァルジャンは、どこの宿屋でも泊まるのを断られてしまいました。唯一彼を迎え入れてくれたのは、最後に辿り着いた教会の、ミリエルという司教さんだけでした。
 ところがジャン=ヴァルジャンは、その晩教会の銀の食器を盗んで逃げ出してしまったのです。ミリエル司教は、一般的な感覚で言うならば「恩を仇で返された」わけです。

 翌朝、銀の食器が盗まれていることを知ったミリエル司教は、しかし、このように言ったのでした。
 「あの食器は、もともと私のものではなかった。あれが誰のものであったのかと言えば、貧しい人のものであったのだ」

 そして、ジャン=ヴァルジャンをつかまえた警察官に、「あれは、私がこの人にあげたのですよ」と言って彼を庇ってあげたのでした。

 つまり、「人に情けをかける」のは、「自分のものを与える」のではなくて、「その人に与えられるべきものを差し出す」ことなのだというのです。
 だから、後で自分に良い報いが返ってくるかとか、自分が与えたものに見合った利益が期待できるかとか、そんなことは問題にならないのです。



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