「2017年度パンキャン賞、発表されました」
― 最も難治性のがんへ挑む研究者へ、患者・家族の側から贈られる賞 ―すい臓がんについて優れた研究に、患者支援団体から贈られる「パンキャン賞」。
日本では2012年からはじまる賞で、今年で6年目となります。
最も治るのが難しいとされる「すい臓がん」の領域で、難関に挑む優れた研究者に贈られる賞です。この賞の歴代の受賞者は、その後のすい臓がんの研究分野の中心におられ、その分野を牽引する優れた研究を、現在でも引き続き行われておられます。

この賞は、以下の5分野を対象に贈られます。
●「基礎研究賞」Basic Research Award (1名)
●「臨床研究賞」Clinical Research Award (1名)
●「若手研究者賞 第1位」Young Investigator Award 1(1名)
●「若手研究者賞 第2位」Young Investigator Award 2(1名)
●「若手研究者賞 第3位」Young Investigator Award 3(1名)今年は、パンキャン賞各賞に対し「117演題」という多数の応募を頂きました。日本膵臓学会により選定が進められ、多くの素晴らしい研究のなかから、4月に受賞者が決定しました。
パンキャン賞受賞者は、受賞研究についてのご講演をいただき、トロフィー、賞金が授与されます。
■2017年度 パンキャン賞 授与式この賞の発表・授与式が、「第48回日本膵臓学会大会」(7月14日〜15日開催)の期間中の7月14日(金)に行われました。
各賞の受賞者・受賞内容は 以下のとおりです。

パンキャン 眞島理事長と受賞者のみなさま
■2017年度パンキャン賞 受賞者 *敬称略
●「基礎研究賞」Basic Research Award木村佳人(京都大学 大学院医学研究科 消化器内科学講座)
演題名:Arid1Aは膵管細胞からのIPMNとIPMN由来膵癌の発生を抑制する
●「臨床研究賞」Clinical Research Award林秀幸(北海道大学病院 がん遺伝子診断部)
演題名:網羅的がん遺伝子解析による膵がん個別化治療への挑戦
●「若手研究者賞 第1位」Young Investigator Award 1松尾圭朗(兵庫県立粒子線医療センター 放射線科)
演題名:GEM不応切除不能局所進行膵癌に対するS-1同時併用陽子線治療の第I相試験
●「若手研究者賞 第2位」Young Investigator Award 2齋藤傑(弘前大学 消化器外科)
演題名:2型糖尿病長期罹患はE-CadherinのDNA過剰メチル化を通じて膵導管癌の予後を増悪させる
●「若手研究者賞 第3位」Young Investigator Award 3佐上亮太(大分三愛メディカルセンター 消化器病内視鏡センター)
演題名:膵癌早期診断におけるEUSの有用性とスクリーニングのための新スコアリングシステム

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■パンキャン賞各賞の研究内容●Basic Research Award:
木村佳人(京都大学 大学院医学研究科 消化器内科学講座)
演題名:Arid1Aは膵管細胞からのIPMNとIPMN由来膵癌の発生を抑制する
抄録:
【目的】近年、ヒト膵癌の網羅的ゲノム解析により、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の構成因子に不活化変異が高頻度に報告され、SWI/SNF複合体が膵発癌に関わることが強く示唆される。SWI/SNF複合体因子であるARID1Aは、ヒト膵癌で高頻度に不活化変異が認められるものの、現在のところその膵発癌における役割は不明である。そこで本研究ではArid1a floxマウスを用いて膵発癌におけるArid1Aの機能的役割を明らかにすることを目的とした。【方法・結果】膵特異的Arid1A KOマウスは18週齢前後で異型度の低い膵嚢胞を生じた。さらに活性化Krasの存在下にArid1AをKOしたマウスでは、100%の浸透率でヒトの分枝型IPMN類似の病変を生じた。このマウスでは、IPMN由来と考えられる膵癌の自然発生も認められ、Arid1Aがマウス膵において癌抑制的に働くことが明らかになった。また、成体マウスの膵管細胞あるいは膵腺房細胞特異的にArid1AをKOし、Krasを活性化したマウスを作成したところ、マウスIPMNが膵管細胞由来であることが示された。さらに、Arid1A KOによる膵管拡張の分子機序を調べるため、Arid1A
f/fマウスから膵管細胞を単離・培養し、Cre発現アデノウイルスに感染させ、遺伝子発現の変化を解析した結果、Arid1AをKOした膵管細胞では、Sox9の発現が有意に低下し、膵前駆細胞マーカーの発現が上昇していた。さらにArid1A
f/f; Sox9OEマウスにも同様の実験を行い、Sox9を強制的に発現させると、膵前駆細胞マーカーの発現はコントロール群と同レベルに戻った。またArid1AをKOした膵管細胞を3D培養すると、野生型膵管細胞よりも大きな嚢胞を形成したが、Arid1AをKOすると同時にSox9を強制発現させた膵管細胞では、嚢胞形成は野生型と同じ大きさにレスキューされた。
●Clinical Research Award:
林秀幸(北海道大学病院 がん遺伝子診断部)
演題名:網羅的がん遺伝子解析による膵がん個別化治療への挑戦
抄録:
【目的】近年、がんに対する新たな治療戦略としてゲノムバイオマーカーによる個別化治療(プレシジョンメディシン)が注目されている。いくつかのがん腫ではすでに実臨床において治療薬の選択に応用されているが、膵がんにおける個別化治療は未だ実現していない。膵がんの治療成績の向上を目指して、遺伝子プロファイルに基づいた個別化治療の実現に向け、本研究を立案した。【方法】本研究は以下の2コホートで実施した。1.2005年3月から2012年6月までの期間に国立がん研究センター中央病院で膵がんに対する根治切除術を試みた100症例を対象に、50のがん関連遺伝子のhot spot領域を対象としたターゲットシークエンスを実施し、予後や臨床病理学的因子との関連解析を実施した。2.2016年4月から12月までの期間に北海道大学病院で網羅的がん遺伝子検査を受けた膵がん患者14症例を対象に、160のがん関連遺伝子の全エクソン領域を対象としたターゲットシークエンスを実施し、実臨床におけるクリニカルシークエンスの有用性を検証した。
■Young Investigator Award 1
松尾圭朗(兵庫県立粒子線医療センター 放射線科)
演題名:GEM不応切除不能局所進行膵癌に対するS-1同時併用陽子線治療の第I相試験
抄録:
【目的】陽子線は放射線の一種であるが、X線とは異なりBragg-peakという優れた物理学的性質を持つため、より線量集中性の高い放射線治療が可能である。我々は既に切除不能の局所進行膵癌(LAPC)に対するGemcitabine(GEM)同時併用の陽子線治療の第II相試験の報告を行った。そして2011年よりGEM不応性の切除不能LAPCもしくは術後局所再発性膵癌に対するS-1同時併用陽子線治療の第I相試験を行ったのでその結果を報告する。【対象と方法】2011/12-2015/3にS-1標準投与量の60%、80%、100%と用量増加を行った。陽子線67.5GyE/25回(5週間)に、照射開始日より2週投与1週休薬2週投与のスケジュールでS-1(朝・夕内服)を投与し、陽子線終了後も化学療法(選択自由)を継続した。容量制限毒性はCTCAE v4.0におけるgrade(G) 3以上の血液毒性およびG4以上の消化管粘膜障害とした。【結果】全例27例のうち、60%:5例・80%:13例・100%:9例、全例の観察期間中央値14ヶ月、患者背景は年齢中央値67歳、男17例:女10例、疾患背景は膵頭部9例:膵体尾部12例:術後再発6例であった。80%の1例で閉塞性胆管炎が制御できずS-1の投与が中止されたが、その他はDLT認めず、最終的にS-1の至適用量は100%と決定された。全例の陽子線治療開始日からの生存期間中央値は17ヶ月、1年・2年全生存率は74%・34%であった。G3の放射線性胃粘膜障害を2例に認めたがいずれも保存的に改善した。
●Young Investigator Award 2
齋藤傑(弘前大学 消化器外科)
演題名:2型糖尿病長期罹患はE-CadherinのDNA過剰メチル化を通じて膵導管癌の予後を増悪させる
抄録:
【背景】2型糖尿病 (T2DM) は、膵導管癌 (PDC) 発症の危険因子として知られているが、T2DM長期罹患がPDCの予後不良因子であるという報告が存在する。しかしながら、その機序は未だ明らかになっていない。E-Cadherinは、DNA過剰メチル化により発現が低下し、癌の浸潤・転移に影響を及ぼすといわれている因子である。DNA過剰メチル化の誘発因子である活性酸素や炎症性サイトカインはT2DMにより産生が亢進することから、E-CadherinのDNA過剰メチル化とT2DMとの関連性が示唆されるものの,それを示す報告はない。【対象と方法】2006年10月から2014年12月までの期間で、弘前大学医学部附属病院においてPDCと診断され手術を施行された109例を対象とした。T2DM罹患期間によりnon-DM (59例) 、short-DM (17例) (発症3年未満) 、long-DM (33例) (発症3年以上) の3群に分類した。癌組織および癌近傍正常組織において、Methylation-specific PCR法によるE-CadherinのDNAメチル化状態解析、免疫組織化学染色による発現解析を施行した。PDC症例の臨床病理学的因子を抽出し、予後因子について検討した。
●Young Investigator Award 3
佐上亮太(大分三愛メディカルセンター 消化器病内視鏡センター)
演題名:膵癌早期診断におけるEUSの有用性とスクリーニングのための新スコアリングシステム
抄録
【目的】画像診断の進歩により膵癌の早期発見が成されているが,スクリーニングすべき集団の絞り込みが困難である.本研究では膵癌診療ガイドラインに記載のあるリスク因子の相対危険度などを参考に簡便なスコアリングシステムを考案し,有用性を検討した.【方法】2015年3月から21ヵ月でのスクリーニングEUS632例を対象とした.血液検査,問診でリスク因子を検査前に把握,Risk group:散発家族歴,糖尿病,飲酒,喫煙,肥満,心窩部症状,体重減少,糖尿病増悪,膵酵素上昇,Strong risk group:初発糖尿,家族性膵癌,黄疸,腫瘍マーカー,慢性膵炎,IPMN,膵嚢胞に分類し,1項目1Pとして各群スコア化し,各リスク因子とともに膵癌発見との関連を検討した.【結果】24例の膵悪性腫瘍(膵癌22例3.48%)を指摘し,10例が20mm以下(2例Tis,8例T1,1例T3,平均径12mm/8例膵癌(1.27%),2例NET)であった.小膵癌(≦20mm)8例,膵癌22例,その他に分けスコアを検討したところRisk score:小膵癌2.88±1.2VSその他1.69±1.18(p=0.005),Strong risk score:0.63±0.52VS0.18±0.41(p=0.005)と有意差を認めた.カットオフ値をrisk score:3P,Strong risk score:1Pとし検討すると単変量解析では糖尿病,risk score≧ 3P,Strong risk score≧1P が小膵癌発見と有意な関連を認めた(p=0.017,p=0.006,p=0.004). 多変量解析ではStrong risk score≧1P,Risk score≧3Pが関連を認めた((p=0.001,0.045).同様の傾向が膵癌群でも見られた.Risk score≧ 3PもしくはStrong risk score ≧1Pで検査した場合小膵癌への感度100%特異度64.4%,膵癌への感度95.5%特異度64.4%であった.今回のスクリーニングをこの条件で施行した場合,394件の検査を減らし,診断率はそれぞれ1.27→3.36,3.48→9.24%まで上昇する.
5つのパンキャン賞を授賞された皆様、おめでとうございます。
パンキャン賞は、パンキャンの活動からの支援の他、皆様からのご寄付によって、医療者、研究者に授与されます。研究者支援にお力添えくださった皆様、ありがとうございます。
また、選定をいただきました日本膵臓学会の先生方、ありがとうございました。

パンキャン賞 受賞者の発表での座長の先生方

賞の選定にあたられた岡崎和一 日本本膵臓学会大会会長(中央)、日本膵臓学会 高折恭一先生、古瀬純司先生と、受賞者全員のみなさま
■参考記事
歴代の受賞者については、以下をご参照ください。
「パンキャン賞について」 PanCAN Award Ceremony
http://www.pancan.jp/index.php…
■第48回日本膵臓学会大会ホームページ
http://www.c-linkage.co.jp/48jps/パンキャンジャパンは、すい臓がんコミュニティーからの 研究者支援、医療関係者への支援を推進いたします。
NPO法人パンキャンジャパン
http://www.pancan.jp