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2008年12月18日

『透明な鎖−障害者虐待はなぜ起こったか』

透明な鎖
障害者虐待はなぜ起こったか

高谷清著
大月書店

1990年代に滋賀県で起こった障害者虐待事件であるサン・グループ事件を取材したものです。
この事件は、障害者雇用を行っていたサン・グループという肩パッド加工工場で起こったもので、社長が14年間に渡って知的障害をもつ従業員に対して暴力、侮蔑を繰り返して、彼らの預貯金、年金を横領してきたというものです。
96年5月に社長が逮捕され、97年には年金横領に関する刑事裁判で有罪となりました。
一方で、国や県などの行政機関や、金融機関などに対する民事裁判も98年に起こされ、この本が書かれた98年12月時点はまだ係争中でした。

サン・グループは積極的に障害者雇用を行っているということで滋賀県の広報誌でも紹介されたことがあるそうです。
実際、数字上では社長の逮捕時に24名の従業員のうち21名は知的障害のある人ということで障害者雇用に前向きな企業というわけですが、その裏でひどい障害者虐待がおこなわれていました。

この事件で糾弾されるのはサン・グループだけではなく、福祉関係者、労働機関、行政の不作為です。
また、障害者福祉の支援の少なさから来る保護者の心理状況をわかりやすく描いています。

一つの事件を通して、社会の中で知的障害のある人を取り巻く環境の一面をあらためて知ることができました。
著者はそのことを「透明な鎖」と表現しています。
障害者支援に係る人、行政関係者、保護者が持つ、知的障害のある人に対する意識が時に「透明な鎖」として障害者の生きる権利を縛ってしまうことがあります。

非常に考えさせる本です。

Book人にやさしく 山田泰久


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