手話言語学コースを覗いてみた [2008年11月24日(Mon)]
香港、沙田の近くに位置する中文大学。そこには、手話言語学・ろう研究センターなるものがあります。アジア太平洋地域の手話言語学の中心となる機関です。
以前、私たちはカンボジア、ベトナム、フィリピン、香港4カ国で手話辞書を作るというプロジェクトを実施していました。しかし、この分野のプロが極端に少ない現状のなかで、4カ国に分かれて事業を続けていくのは無理がある・・・ということで、むしろ一箇所にハブを作り、各国の手話言語学の未来を担うべき人材を集めちゃえ!と、始まったのが、「アジア太平洋の手話言語学普及及び手話辞書の作成」プロジェクトです。センターは、この事業の遂行を一手に引き受けているところです。 本日は、ここの手話言語学コースの一期生であるインドネシアとスリランカのろう学生9人の授業風景を見学し、1年の学習と研究成果を紹介するプレゼンテーションを聞かせていただきました。 ひとことで言って・・・けっこう感動してしまいました。 聞いていた報告では、英語力のあるインドネシア学生に比べ、スリランカのほうは授業をついていくのが大変だとか、そもそもの基礎学力に差があるという話でした。しかし、なかなかどうして、両国とも大したプレゼンテーションでしたよ! 研究と名のつくものはすべて、地道でめんどくさい作業の繰り返しから逃れられないものだと思いますが、手話言語学も同じですね。いっこいっこの手話の手の位置や向き、動きなどを分析し、記号化し、記録する、という本当に地味な作業の連続です。担当ながら、誰がこんなもん続けるんだと思ってしまうような学問ですね。 それでもやっぱり、言語というのはアイデンティティの源泉であり、誰にとってもかけがえのないものです。自分の言語を他人に決められてしまうということは、生き方全体に関わる重大事ですね。だから、長らく音声言語の世界で手話を使うことが許されなかった、あるいは使えても自ら管理することのできなかった立場の人々が、手話を言語として認識し、これを守る行動をとれるようになるのは大切なことなんだろうと思います。手話言語学はそのための技術を学ぶコースであり、これがいつかろう社会の発展と一般社会の意識変革に大きく寄与できるだろうと、関係者一同信じて行っているものです。 手話言語学コースが発足し1年が経過した今、学生たちの実力もかなり向上し、なにより、自信がついてきたようだ、と講師からコメントがありました。勿論、一人前の研究者になるまでまだまだ全然先は長いのですが、これからが楽しみです。 視察で一番よかったのは、センターの皆さんが、学生もスタッフも含め、このプロジェクトの未来を信じているように感じられたこと。そしてそれは、手話言語学の普及に命をかけているウッドワード博士とセンターの代表、タン教授の献身の賜物だということがよくわかりました。 情熱はプリテンドすることのできないものだから、と言われました。誰よりも熱心に働く2人のキーパーソンに巻き込まれてこの分野に入っちゃった、なんて弟子を持つのって、いいですねえ。 まだまだこれからのプロジェクトで考えるべき課題も多いですが、こんなにみずみずしい血の通った事業に関わることができた、ってだけでなんだか嬉しくなりました。こういう空気は、現場に来てみないとわからないですからね。 よし、オーラもらった。横内もがんばろう。 |