
22年度 第8回親子学級[2022年11月07日(Mon)]
「アリサ」から見た子どもの発達
今回は、帝京大学教育学部客員教授の杉本眞理子先生にお話を伺いました。
■「アリサ」からみた子どもの発達■
映画「アリサ」では、子どもが育っていく力・生きていく力を自然と身につけることができる環境が写されている。
『汚いからやめなさい!』『危ないからやめなさい!』と大人の目線で規制・仲介されることのない、自由な遊びや子ども同士の関わりで、心と身体が成長していく様子を見ることができる。
反面、幼い頃から様々なお稽古・勉強を詰め込まれた子ども達はどうか?
大人の評価を気にして、自分の本当にしたいことを我慢したり、自分のしたいことすら分からなくなっている子どもを目にする。
■乳幼児期は直接体験の時期■
「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない 幼い子ども時代は土壌を耕すとき
レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』より
乳幼児期に大切なことは・・・
直接体験すること
遊びの中で学ぶこと
できれば自然の中で
感覚を駆使して感じること

大人の役割は・・・
子どもに知識を詰め込むのではなく
子ども自身が「知りたい!」と思えるような体験のできる環境を用意すること。
そして見守ること。
■子どもの意欲■
最近の子ども達は、何か提示しても「やらない」「知らない」と言って取り組もうとしない。
=意欲的でない?自信がないことは避けようとしている様子。
0歳〜2歳の赤ちゃんや小さな子ども達は様々なものに興味を持ち意欲的に動いてるのに・・その意欲はどこへ??
小さな子どもが興味を持ってやっていることの多くは、危ない・汚い・やってほしくないことだが「ダメ!」「貸してあげなさい」「ごめんなさいして」⇒子ども達の意欲が削がれていく
映画「アリサ」に映っていた子ども達は、
自分で決めること
自分で体験すること
を通じて、
・やってみたいと挑戦する心
・知りたいという知的好奇心
・協力する力
・コミュニケーション能力
・あきらめない粘り強さ
…を備えていた。
『子どもの自由な体験と生涯発達 子どもキャンプとその後・50年の記録』杉本真理子他著
心理学の研究として行った子どもキャンプでは、食事と宿舎だけが用意されていて、子どもがやりたい時にやりたいことをやる「自己決定」が大事にされる環境だった。
いたずらや危険なこともいっぱい。でも、そのうちに子どもは自分たちで秩序を作り出していく。
■エリクソンの心理・社会的発達段階■
@乳児期:基本的信頼 対 不信
心の深い所で自分を肯定し、自分を取り巻く世界を肯定すること=基本的信頼=この世に対して希望を持つこと
A幼児前期(1〜3歳):自律性 対 恥・疑惑
いずれ自分の足で立つための励まし=しつけ
不安や恐怖による過度なしつけは無力感・自己疑惑を生む
B児童期/幼児後期(4〜6歳):自主性 対 罪悪感
自分からしたいことを自発的に動こうとすること=1つの目的のために失敗しても繰り返し行うこと
↓
何を学ぶにしても何をするにしても、この感覚が必要
=遊びの中でもっともよく発揮される
C学童期(小学生):勤勉性 対 劣等感
やらなければいけないことが出てくる。@からBまでの段階をきちんと踏まえていないと小学生になって、自分から勉強に取り組めない。
人と比べて勝っているという感覚は優越感、その反対は劣等感。ただし勤勉性で身に着けるのは優越感ではなく「有能感」=自分が自分なりに何かしらのことができるという感覚
「人に比べてできる」ではなく「個々にとって自分はできる」ということがなければ、自分の人生を肯定できない。
D青年期(中高生):自我同一性・アイデンティティの確立 対 拡散
「自分は何者であるか」という問いを定義していく心のプロセス
「自分は自分である、他人は他人である」という意識で自分も他人も受け入れる
他人に自分が飲み込まれる恐怖=孤独・敵対
E若い成人期:親密性 対 孤立
他と親密ではあるが同一化しないこと
F成人期:世代性 対 停滞
次の世代に対して手間をかけ世話をする。自分の生みだしたものに責任を持つ。
[子ども]=欲求を満たすために援助を求める
↑↓
[ 親 ]=自分が生み出したものへの責任として世話をする
世話は相互補完的なもの。子どもも大人も対等である。
G老年期:統合性 対 絶望
「老い」や「死」に直面してもなお、次の世代への関心と、家族・地域を越えた大きなものへの関心を持って生き続けること=自我が統合された状態
自分自身の人生を、肯定的な部分も否定的な部分もすべて受け入れる自我の強さが必要

@からGまでの発達段階はそれぞれをきちんと経ていないと次の段階にうまく進めない。
乳幼児期に@〜Bの基本的信頼感・自律性・自主性を育てたうえで、学童期にCの勤勉性に向かうことが大切。
また、Aの自律性・Bの自主性は習い事のように「大人がさせる」保育や関わりではなく、遊びなど「子どもがやりたい」を尊重する保育や関わりの中で育つ。
子どもは自然が好き。土・水・太陽の光・風・植物などの自然と触れ合う中で感覚が磨かれ、感情が豊かになる。宮前区には冒険遊び場がある。「ケガと弁当は自分持ち」「自分の責任で自由に遊ぶ」で出かけてみましょう!
宮前区冒険遊び場
■子どもへの関わり■
子どもが本来持っている力を発揮できるかどうかは初期の言語環境によって変わる。
子どもの可能性と能力を引き出し脳を育てるには、保護者(保育者)の話す言葉の環境が最も重要となる。

『3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保護者の語りかけ』ダナ・サスキンド 著・掛札逸美 訳・高山静子 解説より
子どもの可能性・能力を引き出すために大切なことは3つのT+4つめのT
@Tune In(チューン・イン)注意とからだを子どもに向ける
子どもは全身の感覚を使って環境と向き合っているので子どもの集中を妨げないことが大切。
子どもがアリを見つけた時にすぐに「アリさんいたねぇ」と声をかけるのではなく、
子どもがアリに見入っている間は黙って見守り、こちらの顔を見上げた時に「アリさんいたねぇ」と声をかける。
ATalk More(トーク・モア)子どもとたくさん話す
子どもは一人一人違った志向を持つので、子どもの気持ちや表情をよく見て話す。
子どもの反応・違和感に応じて解釈を変え・想像を広げてみる。
「アリさん何を運んでるんだろうね」「アリさん忙しそうだね。どこへ行くのかな」
BTake Turns(テイク・ターンズ)親が一方的に話すのではなく子どもと交互に対話する
・子どもの言葉を繰り返す
・もっと話したくなるように質問する
・子どもの反応をじっと待つ
「大人がやらせたいこと」ではなく「子どもがしようとしていること・やりたがっていること」を推測することが重要
CTurn Off(ターン・オフ)デジタル機器の電源を切って外へ出かける
デジタル機器は『 3つのT 』 が出来なくなるので、スイッチを切って、外に出かけて直接体験を!
■生活場面と遊び場面のバランス■
<生活場面=大人主導>
行動を説明し、状況を解説する。
「これからお着替えしましょう」
「さぁテーブルを拭きます」
↓
状況と言葉を結び付けて社会生活を理解していく
<遊び場面=子ども主導>
子どもの遊びを中断するような言葉かけは止める。子どもの遊びの世界に入り、遊びがふくらむような言葉をかける。
×「3つのお手玉をお鍋に入れたのね」
〇「美味しそうな匂いね。ごちそうは何かな」
■絵本を読む意味■
絵本は、大人が日常では押し殺して自分の中に眠っている “子どもの心” を呼び起こしてくれる。心豊かに生きるために、大切にした方が良い。

ブログ担当より
過去の講義も含めて、これまで杉本先生からご紹介いただいた絵本の一部をまとめました。
『 ぼくはおこった 』ハーウィン・オラム 作/きたむら さとし 絵・訳
『 どんなかんじかなあ 』中山 千夏 文/和田誠 絵
『 だいじょうぶだいじょうぶ 』いとうひろし 文・絵
『 でんしゃくるかな? 』きくちちき 作
『 とべバッタ 』田島征三 作
『 もこもこもこ 』谷川俊太郎 作 / 元永定正 絵
『 かいじゅうたちのいるところ 』モーリス・センダック作 じんぐうてるお訳
今回は、帝京大学教育学部客員教授の杉本眞理子先生にお話を伺いました。
■「アリサ」からみた子どもの発達■
映画「アリサ」では、子どもが育っていく力・生きていく力を自然と身につけることができる環境が写されている。
『汚いからやめなさい!』『危ないからやめなさい!』と大人の目線で規制・仲介されることのない、自由な遊びや子ども同士の関わりで、心と身体が成長していく様子を見ることができる。
反面、幼い頃から様々なお稽古・勉強を詰め込まれた子ども達はどうか?
大人の評価を気にして、自分の本当にしたいことを我慢したり、自分のしたいことすら分からなくなっている子どもを目にする。
■乳幼児期は直接体験の時期■
「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない 幼い子ども時代は土壌を耕すとき
レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』より
乳幼児期に大切なことは・・・
直接体験すること
遊びの中で学ぶこと
できれば自然の中で
感覚を駆使して感じること

大人の役割は・・・
子どもに知識を詰め込むのではなく
子ども自身が「知りたい!」と思えるような体験のできる環境を用意すること。
そして見守ること。
■子どもの意欲■
最近の子ども達は、何か提示しても「やらない」「知らない」と言って取り組もうとしない。
=意欲的でない?自信がないことは避けようとしている様子。
0歳〜2歳の赤ちゃんや小さな子ども達は様々なものに興味を持ち意欲的に動いてるのに・・その意欲はどこへ??
小さな子どもが興味を持ってやっていることの多くは、危ない・汚い・やってほしくないことだが「ダメ!」「貸してあげなさい」「ごめんなさいして」⇒子ども達の意欲が削がれていく
映画「アリサ」に映っていた子ども達は、
自分で決めること
自分で体験すること
を通じて、
・やってみたいと挑戦する心
・知りたいという知的好奇心
・協力する力
・コミュニケーション能力
・あきらめない粘り強さ
…を備えていた。
『子どもの自由な体験と生涯発達 子どもキャンプとその後・50年の記録』杉本真理子他著
心理学の研究として行った子どもキャンプでは、食事と宿舎だけが用意されていて、子どもがやりたい時にやりたいことをやる「自己決定」が大事にされる環境だった。
いたずらや危険なこともいっぱい。でも、そのうちに子どもは自分たちで秩序を作り出していく。
■エリクソンの心理・社会的発達段階■
@乳児期:基本的信頼 対 不信
心の深い所で自分を肯定し、自分を取り巻く世界を肯定すること=基本的信頼=この世に対して希望を持つこと
A幼児前期(1〜3歳):自律性 対 恥・疑惑
いずれ自分の足で立つための励まし=しつけ
不安や恐怖による過度なしつけは無力感・自己疑惑を生む
B児童期/幼児後期(4〜6歳):自主性 対 罪悪感
自分からしたいことを自発的に動こうとすること=1つの目的のために失敗しても繰り返し行うこと
↓
何を学ぶにしても何をするにしても、この感覚が必要
=遊びの中でもっともよく発揮される
C学童期(小学生):勤勉性 対 劣等感
やらなければいけないことが出てくる。@からBまでの段階をきちんと踏まえていないと小学生になって、自分から勉強に取り組めない。
人と比べて勝っているという感覚は優越感、その反対は劣等感。ただし勤勉性で身に着けるのは優越感ではなく「有能感」=自分が自分なりに何かしらのことができるという感覚
「人に比べてできる」ではなく「個々にとって自分はできる」ということがなければ、自分の人生を肯定できない。
D青年期(中高生):自我同一性・アイデンティティの確立 対 拡散
「自分は何者であるか」という問いを定義していく心のプロセス
「自分は自分である、他人は他人である」という意識で自分も他人も受け入れる
他人に自分が飲み込まれる恐怖=孤独・敵対
E若い成人期:親密性 対 孤立
他と親密ではあるが同一化しないこと
F成人期:世代性 対 停滞
次の世代に対して手間をかけ世話をする。自分の生みだしたものに責任を持つ。
[子ども]=欲求を満たすために援助を求める
↑↓
[ 親 ]=自分が生み出したものへの責任として世話をする
世話は相互補完的なもの。子どもも大人も対等である。
G老年期:統合性 対 絶望
「老い」や「死」に直面してもなお、次の世代への関心と、家族・地域を越えた大きなものへの関心を持って生き続けること=自我が統合された状態
自分自身の人生を、肯定的な部分も否定的な部分もすべて受け入れる自我の強さが必要

@からGまでの発達段階はそれぞれをきちんと経ていないと次の段階にうまく進めない。
乳幼児期に@〜Bの基本的信頼感・自律性・自主性を育てたうえで、学童期にCの勤勉性に向かうことが大切。
また、Aの自律性・Bの自主性は習い事のように「大人がさせる」保育や関わりではなく、遊びなど「子どもがやりたい」を尊重する保育や関わりの中で育つ。
子どもは自然が好き。土・水・太陽の光・風・植物などの自然と触れ合う中で感覚が磨かれ、感情が豊かになる。宮前区には冒険遊び場がある。「ケガと弁当は自分持ち」「自分の責任で自由に遊ぶ」で出かけてみましょう!

■子どもへの関わり■
子どもが本来持っている力を発揮できるかどうかは初期の言語環境によって変わる。
子どもの可能性と能力を引き出し脳を育てるには、保護者(保育者)の話す言葉の環境が最も重要となる。

『3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保護者の語りかけ』ダナ・サスキンド 著・掛札逸美 訳・高山静子 解説より
子どもの可能性・能力を引き出すために大切なことは3つのT+4つめのT
@Tune In(チューン・イン)注意とからだを子どもに向ける
子どもは全身の感覚を使って環境と向き合っているので子どもの集中を妨げないことが大切。
子どもがアリを見つけた時にすぐに「アリさんいたねぇ」と声をかけるのではなく、
子どもがアリに見入っている間は黙って見守り、こちらの顔を見上げた時に「アリさんいたねぇ」と声をかける。
ATalk More(トーク・モア)子どもとたくさん話す
子どもは一人一人違った志向を持つので、子どもの気持ちや表情をよく見て話す。
子どもの反応・違和感に応じて解釈を変え・想像を広げてみる。
「アリさん何を運んでるんだろうね」「アリさん忙しそうだね。どこへ行くのかな」
BTake Turns(テイク・ターンズ)親が一方的に話すのではなく子どもと交互に対話する
・子どもの言葉を繰り返す
・もっと話したくなるように質問する
・子どもの反応をじっと待つ
「大人がやらせたいこと」ではなく「子どもがしようとしていること・やりたがっていること」を推測することが重要
CTurn Off(ターン・オフ)デジタル機器の電源を切って外へ出かける
デジタル機器は『 3つのT 』 が出来なくなるので、スイッチを切って、外に出かけて直接体験を!
■生活場面と遊び場面のバランス■
<生活場面=大人主導>
行動を説明し、状況を解説する。
「これからお着替えしましょう」
「さぁテーブルを拭きます」
↓
状況と言葉を結び付けて社会生活を理解していく
<遊び場面=子ども主導>
子どもの遊びを中断するような言葉かけは止める。子どもの遊びの世界に入り、遊びがふくらむような言葉をかける。
×「3つのお手玉をお鍋に入れたのね」
〇「美味しそうな匂いね。ごちそうは何かな」
■絵本を読む意味■
絵本は、大人が日常では押し殺して自分の中に眠っている “子どもの心” を呼び起こしてくれる。心豊かに生きるために、大切にした方が良い。



過去の講義も含めて、これまで杉本先生からご紹介いただいた絵本の一部をまとめました。
『 ぼくはおこった 』ハーウィン・オラム 作/きたむら さとし 絵・訳
『 どんなかんじかなあ 』中山 千夏 文/和田誠 絵
『 だいじょうぶだいじょうぶ 』いとうひろし 文・絵
『 でんしゃくるかな? 』きくちちき 作
『 とべバッタ 』田島征三 作
『 もこもこもこ 』谷川俊太郎 作 / 元永定正 絵
『 かいじゅうたちのいるところ 』モーリス・センダック作 じんぐうてるお訳
キーワード:遊びの大切さ