
15年度 第11回親子学級[2015年11月19日(Thu)]
2015年度 第11回親子学級
『メディアから見た現代の子育て事情』
今回は、NHK「すくすく子育て」の取材・演出をされている、映像ディレクターの佐藤安南さんにお越しいただきました。
■自己紹介
「すくすく子育て」を始めとするテレビ番組の取材や、個人向け映像制作の仕事をするかたわら、ビジネスメールの講師や、ママ向けにメールやSNSの使い方をアドバイスする任意団体代表としても活動。高校三年生の女の子の母。
2009年発行で絶版となった本『親のメンタルヘルス』(制作:至文堂・発行:ぎょうせい)に載せた「メディアからみた現代の子育て家庭」を読んだ親子学級企画委員から昨年講演依頼を受けて、今年で登壇2回目。
■すくすく子育てとは
NHK・Eテレで毎週土曜日21時から放送されている。
20年以上前、東京の愛育病院の先生がお母さんの育児相談をしていた番組が始まりで、今の「すくすく子育て」になったと聞いている。
番組の主な対象は、0歳から3歳くらいまでのお子さんを持つ親御さん。番組で取り上げるテーマは、社会の中で話題になっていることや、季節ごとに起きる悩みなどをもとに、企画会議で決めている。テーマに基づいたアンケートをホームページで募集し、寄せられた回答全てに目を通した上で、取材に行っている。
■育児疲れ
「すくすく子育て」では今年の5月と9月に「育児疲れ」というテーマを取り上げた。
今年の前半に、母親が自分の子どもを殺してしまう事件が立て続けに起きた。
報道によれば、いずれのケースもお子さんが二人いて、優しい母親だと近所で評判で、しかも父親はイクメンだったらしい。初めての育児という訳ではないのに、いずれのケースでも、母親は「育児に疲れた」とこぼしていたらしい。その「育児疲れ」という言葉に違和感を覚えた。
これまで「すくすく子育て」では、「育児ストレス」という内容で幾度か企画を立て、取材をしてきた。しかし今回のケースは『ストレス』ではなく『疲れ』。この表現に問題の根深さを感じ、企画を提案した。
■「ストレス」と「疲れ」の違いとは
発達心理学専門で、今回の番組ゲストでもある、大日向雅美先生によると・・・
ストレス
↓
原因がはっきりしていて、対策を見つけやすい。原因が外側にある。頻回の授乳、夜泣きによる寝不足、パパが非協力的など。
疲れ
↓
原因がはっきりしないため対策が見つけにくい。「こんなに恵まれているのに、私はなぜいい母親になれないのか」など、自分を責める傾向に。内罰的。単なる「ストレス解消法」では解決できない。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(1)話せる場所・相手がない
この「育児疲れ」というテーマでアンケートをホームページから募集したところ、他のテーマの3〜4倍ものたくさんの回答が集まった。
・パパが忙しすぎてなかなか会話できない
・パパがイクメンを装ってはいるが実際は話を聞いてくれない
・「○○ちゃんのママ」ではなく一個人としての場がない
・ママの話せる場所がない(直接話す相手がいない上、ネット上でもひどい言葉を浴びてしまう)
インターネット上でも「育児疲れ」について調べてみた。
すると、「育児で疲れている」という書き込みに対して、「なんで甘えているの」「自分は1人で育児をこなしてきた」など、質問者を批判して不幸自慢ばかりする書き込みがとても多かった。社会全体が、弱い人に対して非寛容になってしまっているように思う。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(2)「〜でなければならない」の完璧主義
「〜するといい」といわれていることが「〜でなければならない」にすり替わってしまい「3時間おきに授乳しなければならない」「読み聞かせをしなければならない」など、多くのママにとっての「義務」になってしまっている。そして、それができないと「ダメな母親」と自分を責めることになる。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(3)パパとママのすれ違い
パパ自身が育児について“仕事モード”で熱心に勉強してしまい、オムツ外しなどを企画達成モードに捉えて、うまくいかないと達成感を得られず、ママに「お前が悪い」と責めてしまうことが多いように感じる。
また、ママは、子どもについて、ただパパに話を聞いてほしいだけなのに「それはこうするべき」と、ママにアドバイスをしてしまう。
一方のママも、常にイライラモードで、パパに対し「見ればわかるでしょ!」「どうして分かってくれないの?」と思い、さらには「言わなくたって分かってほしい」と黙ってしまうが、それでは伝わらない。男性には言わないと分からないものだと思う。
ママも「気持ちを言葉にする」ということで、パパに歩み寄っていく必要があると思う。
また、パパが本当に忙しい。働く時間が異常に長い。
パパとママが話し合おうと思っても、パパが育児に関わろうと思っても、そもそもできない。ママも、パパが疲れていると分かっているから、要求できない。これは社会構造全体が変わらないと、解決しない。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(4)得意・不得意
「自分は育児をきちんとできるはずだ」と思い込んでいる人も多いが、そもそも、育児に対しても、人によって得意・不得意があると思う。自分自身も、育児は得意ではないと今は自覚するようになったが、なかなかそれが以前は認められなかった。
・不得意な人
不得意であることを認め、周囲の人にうまく補ってもらう、助けてもらえるように、自分の「不得意さ」に対して謙虚に、素直になることと、「自分らしくやればいい」という、ある程度の開き直りが大切なのでは。子どもに対する接し方は、場数を踏めば、ある程度はできるようになるものだと思う。
・得意な人
得意であるからこそ、一層子どものために頑張ってしまい、自分を大切にすることを忘れて、よけいに疲れてしまうように思える。もっと、自分自身の時間、人生を大事にしてもよいのでは。
■育児疲れの人に大切なもの
・自分の時間・自分だけの空間を持ち、自分自身を大切にして欲しい
・頑張ることは良いことだけれど、頑張りすぎないこと・緩めることが大切だと思う。親が頑張りすぎると、子どもが追い詰められ緊張してしまう
・大人にも子どもにも「逃げ場」が必要だと感じる。
逃げ場がないと、どこかで自分のストレスを発散しようとするもの。結果的に「弱い者」に対してその矛先が向く。
・ママに必要なのは「イクメン」ではなく「ママメン」
最近の取材で聞いた素敵な言葉が「ママメン」。ある保健師さんが言った言葉。「パパは育児を頑張るイクメンにならなくていい。ママの話を優しく聞いてあげるママメンになってください」その言葉を聞いたパパが、それまでの態度を改めたそう。
■母親としての体験談
高校三年生の一人娘は、小学校4年生の頃に、厚生労働省指定難病「もやもや病」と診断された。脳の血管が原因不明で萎縮し、脳内の血流が悪くなる病気。(歌手の徳永英明さんと同じ病気)
託児所に通っていた5〜6歳頃から異変があった。
発語も早く、活動的で利発な子どもだと思っていたが、周りの子がひらがなを書けているのに、なかなか書けない。書く時に筆圧が異様に強く、言われている言葉をあまり理解できていないようだった。
小学生になってからは勉強が出来ず、二年生の頃に担任の先生から「この子は(識字障がい=ディスレクシアの)トム・クルーズと同じなのかもしれない」と言われて、腑に落ちるところがあり、多少気が楽になった。
もやもや病により脳の血流が悪くなって、6か所に脳梗塞が起きていたと後から判った。
病気だと判る前は、娘が上手くできないことを怒鳴りつけて号泣させていた。号泣すると脳に酸素がいかなくなり発作が起きる。繰り返すとそれが原因で脳梗塞に。自分のせいで脳梗塞を起こさせてしまったのだろうと、悔いている。
病気だと分かったときは驚いたが、これから先の対処法が分かってスッキリした。けれど、もっと早い時点で病気に気づくことが出来ずに過ごしてしまった時間を、今でも深く後悔している。
一方、積極的にママ友・パパ友を作り、PTAにも小・中・高と参加してきた。
親の自分が出ていくことで、子どもが学校でいじめられることを極力防ごうと考えた。実際にいじめられることもあったが、そのつどママ友・パパ友や先生、さらには地域の人々に、親子ともども、とても助けてもらうことができた。
■さいごに
・自分だけが大変だと思いがちだけれど、親子学級の様な場で、他の人の話を聞くことは大切。不幸自慢、大変自慢をするのではなく「みんな、それぞれの大変さを抱えながら生きているんだ」と、謙虚になることが大切なのでは。
・自分から声を出していくこと&周りの声を聞くこと、両方を大切にして欲しい。
・直接知り合いと会って話したくない人、話し相手が見つからない人は「リスニング・ママ プロジェクト」という、スカイプを使ってトレーニングを受けた先輩ママが、20分間無料で話を聞いてくれるシステムがお勧め。直接誰かに声を出して話してみるという体験は、とても有効。
次回は、ティータイムをしながら後期学級を振り返ってみんなで一緒に話をします。
学級第10回の保育室だより(子ども達の名前はすべて仮名です)
『メディアから見た現代の子育て事情』
今回は、NHK「すくすく子育て」の取材・演出をされている、映像ディレクターの佐藤安南さんにお越しいただきました。
■自己紹介
「すくすく子育て」を始めとするテレビ番組の取材や、個人向け映像制作の仕事をするかたわら、ビジネスメールの講師や、ママ向けにメールやSNSの使い方をアドバイスする任意団体代表としても活動。高校三年生の女の子の母。
2009年発行で絶版となった本『親のメンタルヘルス』(制作:至文堂・発行:ぎょうせい)に載せた「メディアからみた現代の子育て家庭」を読んだ親子学級企画委員から昨年講演依頼を受けて、今年で登壇2回目。
■すくすく子育てとは
NHK・Eテレで毎週土曜日21時から放送されている。
20年以上前、東京の愛育病院の先生がお母さんの育児相談をしていた番組が始まりで、今の「すくすく子育て」になったと聞いている。
番組の主な対象は、0歳から3歳くらいまでのお子さんを持つ親御さん。番組で取り上げるテーマは、社会の中で話題になっていることや、季節ごとに起きる悩みなどをもとに、企画会議で決めている。テーマに基づいたアンケートをホームページで募集し、寄せられた回答全てに目を通した上で、取材に行っている。
■育児疲れ
「すくすく子育て」では今年の5月と9月に「育児疲れ」というテーマを取り上げた。
今年の前半に、母親が自分の子どもを殺してしまう事件が立て続けに起きた。
報道によれば、いずれのケースもお子さんが二人いて、優しい母親だと近所で評判で、しかも父親はイクメンだったらしい。初めての育児という訳ではないのに、いずれのケースでも、母親は「育児に疲れた」とこぼしていたらしい。その「育児疲れ」という言葉に違和感を覚えた。
これまで「すくすく子育て」では、「育児ストレス」という内容で幾度か企画を立て、取材をしてきた。しかし今回のケースは『ストレス』ではなく『疲れ』。この表現に問題の根深さを感じ、企画を提案した。
■「ストレス」と「疲れ」の違いとは
発達心理学専門で、今回の番組ゲストでもある、大日向雅美先生によると・・・
ストレス
↓
原因がはっきりしていて、対策を見つけやすい。原因が外側にある。頻回の授乳、夜泣きによる寝不足、パパが非協力的など。
疲れ
↓
原因がはっきりしないため対策が見つけにくい。「こんなに恵まれているのに、私はなぜいい母親になれないのか」など、自分を責める傾向に。内罰的。単なる「ストレス解消法」では解決できない。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(1)話せる場所・相手がない
この「育児疲れ」というテーマでアンケートをホームページから募集したところ、他のテーマの3〜4倍ものたくさんの回答が集まった。
・パパが忙しすぎてなかなか会話できない
・パパがイクメンを装ってはいるが実際は話を聞いてくれない
・「○○ちゃんのママ」ではなく一個人としての場がない
・ママの話せる場所がない(直接話す相手がいない上、ネット上でもひどい言葉を浴びてしまう)
インターネット上でも「育児疲れ」について調べてみた。
すると、「育児で疲れている」という書き込みに対して、「なんで甘えているの」「自分は1人で育児をこなしてきた」など、質問者を批判して不幸自慢ばかりする書き込みがとても多かった。社会全体が、弱い人に対して非寛容になってしまっているように思う。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(2)「〜でなければならない」の完璧主義
「〜するといい」といわれていることが「〜でなければならない」にすり替わってしまい「3時間おきに授乳しなければならない」「読み聞かせをしなければならない」など、多くのママにとっての「義務」になってしまっている。そして、それができないと「ダメな母親」と自分を責めることになる。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(3)パパとママのすれ違い
パパ自身が育児について“仕事モード”で熱心に勉強してしまい、オムツ外しなどを企画達成モードに捉えて、うまくいかないと達成感を得られず、ママに「お前が悪い」と責めてしまうことが多いように感じる。
また、ママは、子どもについて、ただパパに話を聞いてほしいだけなのに「それはこうするべき」と、ママにアドバイスをしてしまう。
一方のママも、常にイライラモードで、パパに対し「見ればわかるでしょ!」「どうして分かってくれないの?」と思い、さらには「言わなくたって分かってほしい」と黙ってしまうが、それでは伝わらない。男性には言わないと分からないものだと思う。
ママも「気持ちを言葉にする」ということで、パパに歩み寄っていく必要があると思う。
また、パパが本当に忙しい。働く時間が異常に長い。
パパとママが話し合おうと思っても、パパが育児に関わろうと思っても、そもそもできない。ママも、パパが疲れていると分かっているから、要求できない。これは社会構造全体が変わらないと、解決しない。
■取材を通じて感じた、育児疲れの要因(4)得意・不得意
「自分は育児をきちんとできるはずだ」と思い込んでいる人も多いが、そもそも、育児に対しても、人によって得意・不得意があると思う。自分自身も、育児は得意ではないと今は自覚するようになったが、なかなかそれが以前は認められなかった。
・不得意な人
不得意であることを認め、周囲の人にうまく補ってもらう、助けてもらえるように、自分の「不得意さ」に対して謙虚に、素直になることと、「自分らしくやればいい」という、ある程度の開き直りが大切なのでは。子どもに対する接し方は、場数を踏めば、ある程度はできるようになるものだと思う。
・得意な人
得意であるからこそ、一層子どものために頑張ってしまい、自分を大切にすることを忘れて、よけいに疲れてしまうように思える。もっと、自分自身の時間、人生を大事にしてもよいのでは。
■育児疲れの人に大切なもの
・自分の時間・自分だけの空間を持ち、自分自身を大切にして欲しい
・頑張ることは良いことだけれど、頑張りすぎないこと・緩めることが大切だと思う。親が頑張りすぎると、子どもが追い詰められ緊張してしまう
・大人にも子どもにも「逃げ場」が必要だと感じる。
逃げ場がないと、どこかで自分のストレスを発散しようとするもの。結果的に「弱い者」に対してその矛先が向く。
・ママに必要なのは「イクメン」ではなく「ママメン」
最近の取材で聞いた素敵な言葉が「ママメン」。ある保健師さんが言った言葉。「パパは育児を頑張るイクメンにならなくていい。ママの話を優しく聞いてあげるママメンになってください」その言葉を聞いたパパが、それまでの態度を改めたそう。
■母親としての体験談
高校三年生の一人娘は、小学校4年生の頃に、厚生労働省指定難病「もやもや病」と診断された。脳の血管が原因不明で萎縮し、脳内の血流が悪くなる病気。(歌手の徳永英明さんと同じ病気)
託児所に通っていた5〜6歳頃から異変があった。
発語も早く、活動的で利発な子どもだと思っていたが、周りの子がひらがなを書けているのに、なかなか書けない。書く時に筆圧が異様に強く、言われている言葉をあまり理解できていないようだった。
小学生になってからは勉強が出来ず、二年生の頃に担任の先生から「この子は(識字障がい=ディスレクシアの)トム・クルーズと同じなのかもしれない」と言われて、腑に落ちるところがあり、多少気が楽になった。
もやもや病により脳の血流が悪くなって、6か所に脳梗塞が起きていたと後から判った。
病気だと判る前は、娘が上手くできないことを怒鳴りつけて号泣させていた。号泣すると脳に酸素がいかなくなり発作が起きる。繰り返すとそれが原因で脳梗塞に。自分のせいで脳梗塞を起こさせてしまったのだろうと、悔いている。
病気だと分かったときは驚いたが、これから先の対処法が分かってスッキリした。けれど、もっと早い時点で病気に気づくことが出来ずに過ごしてしまった時間を、今でも深く後悔している。
一方、積極的にママ友・パパ友を作り、PTAにも小・中・高と参加してきた。
親の自分が出ていくことで、子どもが学校でいじめられることを極力防ごうと考えた。実際にいじめられることもあったが、そのつどママ友・パパ友や先生、さらには地域の人々に、親子ともども、とても助けてもらうことができた。
■さいごに
・自分だけが大変だと思いがちだけれど、親子学級の様な場で、他の人の話を聞くことは大切。不幸自慢、大変自慢をするのではなく「みんな、それぞれの大変さを抱えながら生きているんだ」と、謙虚になることが大切なのでは。
・自分から声を出していくこと&周りの声を聞くこと、両方を大切にして欲しい。
・直接知り合いと会って話したくない人、話し相手が見つからない人は「リスニング・ママ プロジェクト」という、スカイプを使ってトレーニングを受けた先輩ママが、20分間無料で話を聞いてくれるシステムがお勧め。直接誰かに声を出して話してみるという体験は、とても有効。
次回は、ティータイムをしながら後期学級を振り返ってみんなで一緒に話をします。



受講生からは「肩の荷がおりた」「気持ちが楽になった」「心が救われた」という感想が出ていました。それだけみんな、完璧なママでありたい・良いママじゃないといけない、という想いが強かったということなのかもしれませんね。
私も以前は、良いママになれないことに苦しんでいました。けれど、育児が得意ではないんだと認めてからは、ダメな自分を活かそうと思って親子学級に携わっています。こういう自分だからこそ、苦しんでいるママの気持ちがわかってあげられるんじゃないかと思うのです。
良いママじゃないからこそ出来ることがあるんだから、良いママになれなくても自分を責める必要はないよ・・そんな想いをこれからも親子学級で伝えていきたいです。