論文紹介:「母親による子どもの父親イメージの構成に関する研究―家庭内の直接的コミュニケーションとの比較から―」
著者:萩臺美紀・若島弘文
収録:家族心理学研究 34(1), 40-54, 2020
紹介者から:
父親からの子どもに対する関わりは、子どもの社会性や適応に対して重要な役割を果たすことがこれまでの研究からわかっています。
しかしながら、平日に子どもとふれあう時間が2時間以上ある母親(67.6%)に比べると、父親は24.5%で、父と子のコミュニケーション時間が少ないことが報告されています(文部科学省,2017)
そうなると、子どもと過ごす時間が比較的長い母親から伝えられる父親像が、子どもが抱く父親イメージに影響を及ぼすことになるわけですが、具体的にどのような伝え方が子どもの父親イメージに影響を与えるのかは、よく分かっていませんでした。
この研究では、母親の言動がどのように子どもの父親イメージに影響を与えているのかを明らかにしています。
対象:大学生301名(男性150名、女性151名)、平均年齢19.49歳(SD=1.126)
結果1:まず、父親との「直接的なコミュニケーション」が、子どもの好意的な父親イメージに影響していることがわかりました。特に、父子の間で日常生活の出来事や友人関係のことを直接話すことが最も影響力を持っていました。したがって、家庭内において父親不在感を予防するには、普段から父親と子どもが直接、会話することが重要だといえます。
結果2:次いで、母親から伝えられる「父親の親和的情報」が影響を与えていました。「父親の親和的情報」とは、「母親は父親の能力や成果について褒める」「母親は父親の仕事が大変そうで、心配だと話す」「母親は父親の人間性について褒める」などでした。
このように、母親が父親のことを褒め、父親の気持ちを子どもに伝えることは、母親の「取り持ち」機能と呼ばれ、それによって青年が認識する両親の仲の良さを媒介して、父親に対する尊敬や親和性を促進することが確認されました。
このように、母親が父親に対する肯定的な情報を伝えると、子どもの好意的な父親イメージに影響があることが示されました。
結果3:一方で、母親が父親の情報を「呆れたような冷淡な口調」で伝えると、子どもの父親イメージのうち、能力的な部分が低下することがわかりました。「呆れたような冷淡な口調」とは「何もしてくれない」「子どもに何も言ってくれない」などでした。
このように、母親が父親の情報を「呆れたような冷淡」な口調で伝えると、子どもの父親に対する能力的な父親イメージが低下することが示されました。
まとめ:この論文から次のことを読み取ることが出来ます。
1.好意的な父親イメージを育てるには、父と子が日常的に会話をする機会を持つこと。
2.母親が父親の能力や成果を褒めて伝えること。
3.能力的な父親イメージを育てるには、父親の能力的な面が分かるような機会に触れられるようにすること。
4.まとめ:母親から父親の家庭外の様子を聞くことに加えて、母親とコミュニケーションをとることで、家庭を気にかけている父親の姿を子どもが認識して能力のある父親イメージが子どもに形成される。
参考:文部科学省(2017)「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」
2021年02月15日
2021年01月15日
131号
論文紹介:「高校生の身体不調と家族の対応との関連」
著者:森川 夏乃
収録:家族心理学研究 34(1), 15-25, 2020
かんたんな要約:子どもが体調不良を訴えたときに、家族が「落胆」または「回避」する対応をとると、子どもの抑うつや不安につながり、無気力になって症状の頻度が増える。
1.背景:不登校経験者が訴える体調不調には、本来の体調不調と「心理社会的因子」を背景とする身体不調があります。
「心理社会的因子」を背景とする体調不調とは、家族や学校など子どもの周囲の配慮が十分でないために二次的に生じる心理的ストレスによるものです。
不登校経験者が訴える体調不調には、本来の体調不調と「心理社会的因子」を背景とする体調不調が相互作用していると考えられています。この種の体調不調は、小学校高学年から高校3年生において確認されています。
この論文では、体調不調を抱える子どもの視点から、家族の対応(心理社会的因子)をどのように認知していて、自分の症状とどのように関連しているかについて調査しています。
調査内容:頭痛や腹痛等の体調不調を抱えている高校生(150名)を対象に症状が生じた後に、症状や症状に伴う行動に対する家族の対応と、生じている症状との関連を調査した。
結果1:家族の問題解決パターンのなかでも、「強制・対立型」「拡散型」「落胆・回避型」(注)において、ストレス反応である「抑うつ・不安」「不機嫌・怒り」「無気力」と弱い正の相関がみられた。
(注)「強制・対立型」と「拡散型」は、子どもの体調不調を家族内の問題として取り扱い、なんとか解決しようとして、子どもに指示したり話し合う関わりが生じること。「拡散型」は、問題を解決しようとするが当該問題以外に話がそれてしまったり、感情的になって決裂してしまうといったように、家族がバラバラの状態になること。
「落胆・回避型」は、家族が自身を責めたり落ち込むばかりで、問題について話し合う機会がなく、家族内で問題解決に向けた関わりが生じないこと。
結果2:症状の頻度に影響を与えるのは「無気力」であった。家族が「落胆・回避型」の対応パターンの場合、子どもの「無気力」につながり、それが症状の頻度を高める。
家族内で子ども自身の症状について扱われていないと感じられる中では、子ども自身がどうにかしようという気持ちが持てず、症状が悪化する一方であることが考えられる。
結果3:「拡散型」は「不機嫌・怒り」につながる。家族内で問題を解決しようと話し合いなどの関わりが生じるものの、話し合いが決裂して解決に向かわない対応がおきる。
解決が見えそうな話し合いがなされていないと感じられると、子どもは家族の対応に対して混乱し、不満を抱くことが推察される。
コメント(紹介者から):この論文では、子どもが体調不調を訴えたときに、家族の対応によって、体調不調が長引いたり、悪化したりすることが確認されました。
家族の対応パターンのなかでも、子どもの症状に対して「落胆・回避型」の対応が取られた場合には、子どもは「無気力」になり、「症状の頻度」が増えることが確認されています。
これらことから、子どもが体調不調を訴えて、不登校が続いたときに家族が避けたい対応は、自分を責めて落ち込むばかりで解決に向けた関わりが生じない「落胆・回避型」だといえます。
一方で、興味深かったのは、家族が「強制・対立型」の対応をした場合に、そこからは何も生まれなかったことです。
この論文を読んで感じたことは、強制・対立ではなく、落胆・回避でもない関わりができるように家族を支えていくことが、これからの方向性なのではないかということです。
著者:森川 夏乃
収録:家族心理学研究 34(1), 15-25, 2020
かんたんな要約:子どもが体調不良を訴えたときに、家族が「落胆」または「回避」する対応をとると、子どもの抑うつや不安につながり、無気力になって症状の頻度が増える。
1.背景:不登校経験者が訴える体調不調には、本来の体調不調と「心理社会的因子」を背景とする身体不調があります。
「心理社会的因子」を背景とする体調不調とは、家族や学校など子どもの周囲の配慮が十分でないために二次的に生じる心理的ストレスによるものです。
不登校経験者が訴える体調不調には、本来の体調不調と「心理社会的因子」を背景とする体調不調が相互作用していると考えられています。この種の体調不調は、小学校高学年から高校3年生において確認されています。
この論文では、体調不調を抱える子どもの視点から、家族の対応(心理社会的因子)をどのように認知していて、自分の症状とどのように関連しているかについて調査しています。
調査内容:頭痛や腹痛等の体調不調を抱えている高校生(150名)を対象に症状が生じた後に、症状や症状に伴う行動に対する家族の対応と、生じている症状との関連を調査した。
結果1:家族の問題解決パターンのなかでも、「強制・対立型」「拡散型」「落胆・回避型」(注)において、ストレス反応である「抑うつ・不安」「不機嫌・怒り」「無気力」と弱い正の相関がみられた。
(注)「強制・対立型」と「拡散型」は、子どもの体調不調を家族内の問題として取り扱い、なんとか解決しようとして、子どもに指示したり話し合う関わりが生じること。「拡散型」は、問題を解決しようとするが当該問題以外に話がそれてしまったり、感情的になって決裂してしまうといったように、家族がバラバラの状態になること。
「落胆・回避型」は、家族が自身を責めたり落ち込むばかりで、問題について話し合う機会がなく、家族内で問題解決に向けた関わりが生じないこと。
結果2:症状の頻度に影響を与えるのは「無気力」であった。家族が「落胆・回避型」の対応パターンの場合、子どもの「無気力」につながり、それが症状の頻度を高める。
家族内で子ども自身の症状について扱われていないと感じられる中では、子ども自身がどうにかしようという気持ちが持てず、症状が悪化する一方であることが考えられる。
結果3:「拡散型」は「不機嫌・怒り」につながる。家族内で問題を解決しようと話し合いなどの関わりが生じるものの、話し合いが決裂して解決に向かわない対応がおきる。
解決が見えそうな話し合いがなされていないと感じられると、子どもは家族の対応に対して混乱し、不満を抱くことが推察される。
コメント(紹介者から):この論文では、子どもが体調不調を訴えたときに、家族の対応によって、体調不調が長引いたり、悪化したりすることが確認されました。
家族の対応パターンのなかでも、子どもの症状に対して「落胆・回避型」の対応が取られた場合には、子どもは「無気力」になり、「症状の頻度」が増えることが確認されています。
これらことから、子どもが体調不調を訴えて、不登校が続いたときに家族が避けたい対応は、自分を責めて落ち込むばかりで解決に向けた関わりが生じない「落胆・回避型」だといえます。
一方で、興味深かったのは、家族が「強制・対立型」の対応をした場合に、そこからは何も生まれなかったことです。
この論文を読んで感じたことは、強制・対立ではなく、落胆・回避でもない関わりができるように家族を支えていくことが、これからの方向性なのではないかということです。
2020年12月19日
130号
『心理学から見た社会‐実証研究の可能性と課題』
監修者:安藤清志、大島尚
発 行:誠信書房、2020年
今なぜ、鬼滅の刃が大ヒットなのか−「感動」の心理学研究から読み解く、そのワケとは―
アニメ「鬼滅の刃」は、日本のみならず世界中で多くの人たちを感動させています。特に映画は大ヒットをみせ、日本の映画歴代興行収入ランキング1位に迫る勢いです。
なぜ今、これほどの大ヒットなのでしょうか。今回は、「感動」の心理学的研究からそのワケに迫ります。
<感動には複数の感情が含まれている>
まず、感動とは、非常に強烈な感情の集合を指します。何によって構成されているのかというと、「喜び・うれしさ」、「悲しみ・哀しみ」、「共感・同情」、「驚き」、「達成感」、「素晴らしさ」(戸梶,1999)などです。
<日本では、協力して助け合うことに感動が起きる>
日本では天災や人災などの社会的な緊急事態に対して、協力して助け合うということに価値が置かれることが多いことから、「誰かの優れた実績は多くの人の支えによって実現できた」という話に強い感動が喚起されるようです。
<「感動」が及ぼす影響>
こうした「感動」は、どのような影響を私たちに及ぼすのでしょうか。
1.「動機づけの向上」
2.「認知的枠組みの更新」
3.「他者志向・対人受容」(戸梶,2004)
感動すれば、必ずこうした影響があるとは限りませんが、その時々で私たちの気にかかっていることに対して、感動することによって、動機づけられる傾向があるということはできるでしょう。
<まとめ:「鬼滅の刃」が新しい生活への動機づけにつながった>
コロナ禍によって、翻弄された一年となりました。
「鬼滅の刃」は、そうした懸念事項に対して、
1.前向きに向き合う動機づけ、
2.新しい生活に向かうための認知的な枠組みの更新(考え方を変えること)、
3.オンライン化による新しい対人関係への適応と他者受容、をもたらしてくれたのではないでしょうか。
炭治郎という主人公が仲間たちと助け合いながら協力して達成していくストーリーは、多くの人を感動のなかで動機づけたのではないかと、考えられるわけです。
2020年11月15日
129号
『社会正義のキャリア支援‐個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ‐』
著 者:下村英雄
発 行:図書文化社、2020年
本書は、キャリア支援から社会正義の実現を扱っています。著者の下村は社会正義の実現には次の3つの実践が必要だといいます。1.存在を承認する深い意味でのカウンセリング、2.自己決定の手段を増やすエンパワメント、3.環境に働きかけるアドボカシー、です。
今回は、2.自己決定の手段を増やすエンパワメントを取り上げます。
1.エンパワメントとは何か
エンパワメントという言葉は「力をつけること」を意味します。生き方や働き方を支援するキャリア支援の視点からすると、「自己決定する力」をつけること、特に社会的に不利な立場にある人や周辺的な立場の人に自己決定の手段により多くアクセスできる力が得られるように支援することです。
2.エンパワメントと自己責任
一方で、エンパワメントは「自己責任」を過度に求めすぎているのではないか、という批判があります。たしかに、自分の人生を自己責任で切り開きたいという気持ちを支援することは、エンパワメントになります。しかし、他人に向かって自己責任で自分の人生を切り開けと要求することや、そうしない人をバッシングすることは、そうではありません。
自己責任論を盾にしてバッシングするのではなくて、その人の外側にある環境に働きかけることが社会的正義の実現には求められています。自分の人生を切り開けるように支援するのと同時に、その頑張りが報われるように環境を少しでも整えていくことが求められるようになっているのです。
2020年10月15日
128号
『SNSカウンセリング・ケースブック 事例で学ぶ支援の方法』
監 修:杉原保史
発 行:誠信書房、2020
いまSNS相談(ここではSocial Networking Serviceを使った心理相談を指します)は急速に社会に広がっています。子育て相談、いじめ相談、女性相談など、対面や電話で行われてきた相談の多くがSNSでも行われるようになっているのです。
SNS相談は、手軽にアクセスできるので、多くの人が利用しやすい相談サービスです。その一方で、大量に寄せられる相談に応えるための相談員育成は間に合っていません。
というのも、SNS相談には対面や電話相談とは違う独自の相談技術を必要とするからです。
1.独自の相談技術とは
SNS相談には次のような技術が必要です。
(1)はっきりと文字にして伝える
・積極的に関心を示して質問していく。
・表情や声など非言語的に表現される内容を言葉で伝える。
(2)応答に独自の工夫が必要
・必要に応じて、相づちを文字にして相談者をサポートする。
(3)幅広い年齢層、特に若年層に対応する
・幅広く、多様なニーズがあることを理解して尊重する。
このような技術を身につけたとしても次のような失敗をしがちなことがわかっています。
2.ありがちな失敗
こうすれば心の問題が解消する、ということは難しいものですが、よかれと思って対応したことが思わぬ失敗につながることがあります。
(1)問題を引き受けない相談員
SNS相談中に、その場で問題を引き受けずに他の相談場所に行くことを進めてしまうと、相談者はその相談員に信頼をもてなくなる。
(2)自分の話を始めてしまう
相談の場で相談員の経験が有効に働くのは、相談者の話をしっかりと聞いて信頼関係が築けてからのこと。関係構築の段階で自分の経験を話しても相談者はついていけなくなる。
(3)導きすぎる
相談者よりも相談員の言葉が多くなってきたら要注意。相談員主導でプロセスが進むのであれば、それはカウンセリングとはいえない。相談者が少し先を行き、相談員はそこに添うように付いて行くイメージでちょうどいい。
(4)相手に委ねる
相談者の気持ちを受容的に返すだけでは、相談者の心の扉は開かれたまま放置されることになる。心の扉を開くように促すのであれば扉を閉じるまで責任を持って対応しなければならない。
おわりに
このように対面ができず、電話口で相手の声さえも聞こえない状態で相談を受けるには、独自の工夫と訓練が求められます。
本書は、実際のケースが逐語録で掲載されています。いまSNS相談の現場で何が起こっているかを知りたい方はご一読ください。
2020年09月15日
127号
『SNSカウンセリング・ハンドブック』
編 著:杉原保史、宮田智基
発 行:誠信書房、2019
SNS相談力を親学アドバイザーの必須能力に
【ニュース】
全国SNSカウンセリング協議会は2020年8月、SNS誹謗中傷等の心のケアLINE相談に14日間で164件の相談があったことを報告しました。
これは、SNS相談が机上の空論ではなく、実践レベルで地に足をつけて稼働をはじめたことを意味します。SNS対策は、私たちにとって切実な問題になってきています。
【背景】
ご案内のとおり、インターネット上の誹謗中傷による人権侵害に関する事件は年々増加しています(平成22年度から令和元年度までに約4倍増)。
全国SNSカウンセリング協議会が2018年に自殺予防相談のLINEアカウントを設置したところ、登録者は一ヶ月で6万人を超え、心理相談に関心がある人たちのネットワークがLINE上に誕生しました。登録者の多くは、10代です。
【課題】
10代を中心とする万単位の人たちに対して、LINEを使って容易に情報発信ができる状況は心理支援の歴史上、初めての画期的なことです。
一方で、課題は山積しています。
まずSNSカウンセラーが圧倒的に足りません。これまでの訓練に加えて、SNS対策技法を習得する必要があります。SNSカウンセラー養成は急ピッチです。
【まとめ】
本書には、SNSカウンセラーが身につけておくべき内容がコンパクトにまとまっています。
いつ、わたしたちのLINEに10代相談者から「死にたい」と連絡が来るかわから
ない状況です。SNS相談に関心がある方は、この本で準備しておかれることを
お勧めします。必携の一冊です。
<本書より>SNSカウンセラーに求められる能力(概要)
1.SNSカウンセリングの社会的意義および役割の理解
2.SNSカウンセリングを行うための基本知識の理解
3.SNSカウンセリングを行うための基本スキル(特に重要)
1)具体的な応答技術(対話をリードする質問、動機づけ)
2)LINEの特性に対応した工夫(テンポ、文章量、タイムラグ、絵文字やスタンプ)
4.現代の社会的文化的問題とその他の関連領域に関する理解
「おわりに」より:いじめ被害に遭った人の数は、潜在的にはかなりの数に及ぶと思われます。それにもかかわらず、多くの人が助けを求める声をあげることができないでいるのです。長野県ではじまったLINE相談では、LINEだから相談できたという声も多数聞かれました。気軽に相談できるSNSだからこそ、届けてもらえる声があるのです。
参考:全国SNSカウンセリング協議会 :https://note.com/smca/n/nb7f47afd25f5#ve8Rr
アマゾン:https://amzn.to/2RpiJ9t
2020年08月17日
126号
『13歳からのアート思考』
著 者:末永 幸歩
発 行:ダイヤモンド社、2020年
<紹介者より>
流動性の激しい「いま」を生きるのに大切なことは、流されないことだと思います。鍵は、「自分なり」の見方ができるかどうかです。
この本には「アート」の名前が冠してありますが、芸術鑑賞の方法を提供しているわけではありません。一枚の絵を自分なりに見立てて、自分なりの答えを見つけるトレーニングです。
科学(事実)とアート(創作)のかけ合わせがこれからの未来設計の基礎になるでしょう。この本がそのきっかけになることを期待しています。
<本書より>
アート思考のプロセス
1.自分だけのものの見方で世界を見つめる。
2.自分なりの答えを生み出す。
3.そこから、新しい問いを生み出す。
アート思考の構成要素(タンポポの喩え:花・種・根)
1.表現の花:絵画などの芸術作品のこと。目に見える。(作品)
2.興味の種:興味・好奇心・疑問が詰まっている。目に見えない。(動機)
3.探求の根:広く深く根をはり、地中では一つにつながっている。(プロセス)
時間的にも空間的にも、「探求の根」が大部分を占めるのがアートです。作品として目に見えるところよりも、目に見えない部分を探求する過程にアートの本質があります。
興味・好奇心・疑問から始まる探求の過程は、脈絡なく広く深くなっていき、あるタイミングで一つになります。このタイミングで表現の花が咲き、目に見える作品となって世に出るのです。
したがって、真のアーティストは、花を咲かせることよりも、あちこちに伸びる根に夢中になります。
その過程を楽しむことができるのは、他人が決めたゴールに向かって手を動かしているのではなくて、自分なりの答えを見つけて、そこから次の新しい問いを生み出しているからです。
本書の詳細はこちらから(amazon)
noteはじめました。
ブログもあります。
2020年07月16日
125号
『うまくやるための強化の原理』
著 者:カレン・プライア
訳 者:河嶋 孝、杉山尚子
発 行:二瓶社、1998年
<紹介者より>
ほめ方・叱り方の基本を行動分析学から紹介します。子育てだけではなく、職場での人間関係や親との関係、さらには介護にまで応用できます。今回は「やめてほしい行動をやめさせる」方法を取り上げます。
<本書より>
自分にとって迷惑でやめてほしい行動は、どうすればやめさせることができるのでしょうか。方法は7つあります。そのうちの「消去法」と「他行動法」について、一例を挙げて説明します。
私の母は病弱になって何年も前から老人ホームに入っていた。その母からの電話が私にとっては厄介の種だった。話題はたいてい痛いとか、寂しいとか、お金がないということで、私にはどうすることもできない問題ばかりだった。
愚痴を言っているうちに、母は決まって泣き出し、そのうち涙は私への非難に変わった。非難されると私は腹が立ってくるし、不愉快になるので、母との電話は避けるようになった。
あるとき、母からの電話を避けるだけではなく、もっとよい方法があるのではないかと思って、「消去法」を使ってみることにした。
母の愚痴と涙が始まったら「ああ」とか「へぇ」と相づちをうって、意図的に「消去」しようとしてみたのだ。電話を切るわけでも、反論するわけでもなく、同じ相づちを繰り返すだけにした。
そして、不平以外のすべての話題、例えば老人ホーム内の出来事や天候、友人の話題などにはすべて熱心に応答した。(他行動法)
すると、自分でも驚いたことに二十年来の悩みがたった2ヶ月ほどで解決したのである。毎週の電話口での愚痴と涙が楽しいおしゃべりと笑いに変わった。母は若い頃のような魅力的でウィットに富んだ女性に戻ったのである。以後、母が亡くなるまで会話を楽しむことができた。
これは、やって欲しくない行動以外のすべてを強化した例である。
https://amzn.to/3iAk8pk
著 者:カレン・プライア
訳 者:河嶋 孝、杉山尚子
発 行:二瓶社、1998年
<紹介者より>
ほめ方・叱り方の基本を行動分析学から紹介します。子育てだけではなく、職場での人間関係や親との関係、さらには介護にまで応用できます。今回は「やめてほしい行動をやめさせる」方法を取り上げます。
<本書より>
自分にとって迷惑でやめてほしい行動は、どうすればやめさせることができるのでしょうか。方法は7つあります。そのうちの「消去法」と「他行動法」について、一例を挙げて説明します。
私の母は病弱になって何年も前から老人ホームに入っていた。その母からの電話が私にとっては厄介の種だった。話題はたいてい痛いとか、寂しいとか、お金がないということで、私にはどうすることもできない問題ばかりだった。
愚痴を言っているうちに、母は決まって泣き出し、そのうち涙は私への非難に変わった。非難されると私は腹が立ってくるし、不愉快になるので、母との電話は避けるようになった。
あるとき、母からの電話を避けるだけではなく、もっとよい方法があるのではないかと思って、「消去法」を使ってみることにした。
母の愚痴と涙が始まったら「ああ」とか「へぇ」と相づちをうって、意図的に「消去」しようとしてみたのだ。電話を切るわけでも、反論するわけでもなく、同じ相づちを繰り返すだけにした。
そして、不平以外のすべての話題、例えば老人ホーム内の出来事や天候、友人の話題などにはすべて熱心に応答した。(他行動法)
すると、自分でも驚いたことに二十年来の悩みがたった2ヶ月ほどで解決したのである。毎週の電話口での愚痴と涙が楽しいおしゃべりと笑いに変わった。母は若い頃のような魅力的でウィットに富んだ女性に戻ったのである。以後、母が亡くなるまで会話を楽しむことができた。
これは、やって欲しくない行動以外のすべてを強化した例である。
https://amzn.to/3iAk8pk
2020年06月15日
124号
『ライフデザイン・カウンセリングの入門から実践へ−社会構成主義時代のキャリア・カウンセリング』
監 修:日本キャリア開発研究センター
編 者:水野修次郎、平木典子、小澤康司、国重浩一
発 行:遠見書房、2020年
<紹介者より>
今般の新型コロナ対策で進んだ働き方の変化は、私たちの生活を変化させつつあります。さらに、2019年4月から段階的に施行されている「働き方改革法案」と相まって、雇用状況はますます流動化していくことが予想されます。
環境の変化は、私たちの生きる意味や価値観などアイデンティティにも影響を与えます。こうしたなかで対人援助の領域では、企業や組織に安定を求めるのではなく、ひとり一人のアイデンティティに安定を築くことに焦点を当てた支援が注目されています。
本書は、このアプローチを5年にわたって日本で展開してきた取組の記録といえます。アイデンティティ変化に対応するキャリア支援の最前線を紹介することで、コロナ禍による社会の変化に対応する親学の支援と援助のあり方を考えるきっかけになることを期待しています。
<本書より>
おすすめポイントの1つ目は、キャリア・カウンセリングの歴史の流れ、日米の職業観の違いを概観できることです。これまで日本のキャリア・カウンセリングは、個人の職業特性(勤勉、発想が豊かなど)と職業特性(経理や営業など)を適合(マッチング)させることを重視し、「傾聴」の技法を使って展開してきました。しかし、これでは流動化する雇用市場に影響を受けるクライエントに対応しきれなくなっているのです。
2つ目は、執筆者陣による対談です。社会構成主義の必要性から始まり、初学者がこのアプローチを習得する上での課題と注意点が扱われます。「人の人生に関わるって一体どういうことなんだろうか」と、「たえず考え続けなくちゃならない」。このアプローチは、「誰でも取り組めることだけど、求められていることはとても大きい」という意識を持ち続けてほしいというメッセージが印象に残りました。
3つ目は、ライフデザイン・カウンセリングの実例を読めることです。ベテランカウンセラーとクライエントとのやり取りが掲載されています。これは貴重な資料です。クライエントとの会話のなかで援助者は何を考え、どう対応しているかをみることができます。さらに、面談後のクライエントの感想がついていますので、このアプローチを体験するとその人に何が起きるのかがわかります。
このように、キャリア・カウンセリングの歴史、このアプローチに臨む基本的な態度、具体例が掲載されたことによって、このアプローチの日本における展開が単なる理論紹介に止まることなく、地に足をつけて動き出していることがわかります。
読みどころ満載でおなかがいっぱいになりますが、本書を読んで一緒にこの流れに乗りませんか。お薦めできる一冊です。
2020年05月15日
123号
『SNSカウンセリング入門 LINEによるいじめ・自殺予防相談の実際』
著 者:杉原保史、宮田智基
発 行:北大路書房、2018年
紹介者から:
人との接触を出来るだけ減らして生活していると、日ごろの周囲の人たちとの他愛ない会話がいかに大切だったかを実感します。
困ったときや、苦しいとき、淋しいときの迷いや不安は、人の時間を拘束する電話やメールよりも敷居が低いSNSでの文字やスタンプのやり取りで表現されることが多くなりました。
この敷居の低さは、利用しやすいメリットがある一方で、冷やかしや相談が深まらないことなどのデメリットも報告されています。
人との接触が制限されている今だからこそ、SNSを活用した相談の基本的な考え方と技法を身につけておきましょう。
本書より(一部、加筆しました)
1.LINE相談のメリット
・アクセスが簡単で相談しやすい。
・匿名性が高く、自己開示しやすい。
・文字で残るので、読み返して考えることができる。
・支援者から、積極的に情報を発信できる。
2.LINE相談のデメリット
・アクセスが簡単なので、動機付けが低い相談者が多くなりやすい。
・匿名性が高いので、作り話や冷やかしがされやすい。
・文字は残るが、非言語の情報が得られない。
・言語能力が低いと相談が深まりにくい。
3.LINE相談にくる人の特徴
LINEは、敷居が低いので相談しやすいのですが、変化に向けた動機付けが十分に固まっていない状態で相談にくる人が多い傾向があります。
電話やメール、対面での相談に比べると、LINE相談に来る人には、自分の行動を変えようとする意志を全くもっていない人や、自分の問題に気づいていない人の比率が高いことが推察されます。
4.LINE相談を受ける心構え
では、このような相談者に対して、どのように接すればよいのでしょうか。
まず、変化の意志がなく、自分の問題に気づいていない時期の相談者に対して、具体的なアドバイスを前面に押し出すのは不適切です。そのように対応すると、相談から離脱してしまいますから、むしろ悩みをよく聴くことを中心に据えます。
また、この時期の相談者は、はっきりとは認めたがらないものの、潜在的には失敗感や無力感を感じていることが多く、自尊心が傷ついていることがあります。
したがって、傷の手当てを優先します。まず、相談に来ることが解決にむけた最初の取組であることを伝え、それを始めたことを承認します。
次に、この時期の相談者は、自分に起こった変化の否定面を過大評価して、肯定面を過小評価していることが普通です。さりげなく建設的な別の見方をほのめかして変化への期待を引き出し、高めることも有用です。
とにかく、一回のLINE相談でなんらかの具体的な結果を出そうと焦らないこと。そして、相談員が相談者に対して、変化に向けた過大な期待を抱かないことが大切です。
著 者:杉原保史、宮田智基
発 行:北大路書房、2018年
紹介者から:
人との接触を出来るだけ減らして生活していると、日ごろの周囲の人たちとの他愛ない会話がいかに大切だったかを実感します。
困ったときや、苦しいとき、淋しいときの迷いや不安は、人の時間を拘束する電話やメールよりも敷居が低いSNSでの文字やスタンプのやり取りで表現されることが多くなりました。
この敷居の低さは、利用しやすいメリットがある一方で、冷やかしや相談が深まらないことなどのデメリットも報告されています。
人との接触が制限されている今だからこそ、SNSを活用した相談の基本的な考え方と技法を身につけておきましょう。
本書より(一部、加筆しました)
1.LINE相談のメリット
・アクセスが簡単で相談しやすい。
・匿名性が高く、自己開示しやすい。
・文字で残るので、読み返して考えることができる。
・支援者から、積極的に情報を発信できる。
2.LINE相談のデメリット
・アクセスが簡単なので、動機付けが低い相談者が多くなりやすい。
・匿名性が高いので、作り話や冷やかしがされやすい。
・文字は残るが、非言語の情報が得られない。
・言語能力が低いと相談が深まりにくい。
3.LINE相談にくる人の特徴
LINEは、敷居が低いので相談しやすいのですが、変化に向けた動機付けが十分に固まっていない状態で相談にくる人が多い傾向があります。
電話やメール、対面での相談に比べると、LINE相談に来る人には、自分の行動を変えようとする意志を全くもっていない人や、自分の問題に気づいていない人の比率が高いことが推察されます。
4.LINE相談を受ける心構え
では、このような相談者に対して、どのように接すればよいのでしょうか。
まず、変化の意志がなく、自分の問題に気づいていない時期の相談者に対して、具体的なアドバイスを前面に押し出すのは不適切です。そのように対応すると、相談から離脱してしまいますから、むしろ悩みをよく聴くことを中心に据えます。
また、この時期の相談者は、はっきりとは認めたがらないものの、潜在的には失敗感や無力感を感じていることが多く、自尊心が傷ついていることがあります。
したがって、傷の手当てを優先します。まず、相談に来ることが解決にむけた最初の取組であることを伝え、それを始めたことを承認します。
次に、この時期の相談者は、自分に起こった変化の否定面を過大評価して、肯定面を過小評価していることが普通です。さりげなく建設的な別の見方をほのめかして変化への期待を引き出し、高めることも有用です。
とにかく、一回のLINE相談でなんらかの具体的な結果を出そうと焦らないこと。そして、相談員が相談者に対して、変化に向けた過大な期待を抱かないことが大切です。