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一般財団法人 親学推進協会の公式メールマガジンに投稿した
「図書紹介」を画像付きで掲載します。

2020年05月15日

123号

『SNSカウンセリング入門 LINEによるいじめ・自殺予防相談の実際』
著 者:杉原保史、宮田智基
発 行:北大路書房、2018年

紹介者から:
 人との接触を出来るだけ減らして生活していると、日ごろの周囲の人たちとの他愛ない会話がいかに大切だったかを実感します。

困ったときや、苦しいとき、淋しいときの迷いや不安は、人の時間を拘束する電話やメールよりも敷居が低いSNSでの文字やスタンプのやり取りで表現されることが多くなりました。

 この敷居の低さは、利用しやすいメリットがある一方で、冷やかしや相談が深まらないことなどのデメリットも報告されています。
 
 人との接触が制限されている今だからこそ、SNSを活用した相談の基本的な考え方と技法を身につけておきましょう。

 本書より(一部、加筆しました)
1.LINE相談のメリット
・アクセスが簡単で相談しやすい。
・匿名性が高く、自己開示しやすい。
・文字で残るので、読み返して考えることができる。
・支援者から、積極的に情報を発信できる。
 
2.LINE相談のデメリット
・アクセスが簡単なので、動機付けが低い相談者が多くなりやすい。
・匿名性が高いので、作り話や冷やかしがされやすい。
・文字は残るが、非言語の情報が得られない。
・言語能力が低いと相談が深まりにくい。

3.LINE相談にくる人の特徴
 LINEは、敷居が低いので相談しやすいのですが、変化に向けた動機付けが十分に固まっていない状態で相談にくる人が多い傾向があります。

 電話やメール、対面での相談に比べると、LINE相談に来る人には、自分の行動を変えようとする意志を全くもっていない人や、自分の問題に気づいていない人の比率が高いことが推察されます。

4.LINE相談を受ける心構え
 では、このような相談者に対して、どのように接すればよいのでしょうか。

まず、変化の意志がなく、自分の問題に気づいていない時期の相談者に対して、具体的なアドバイスを前面に押し出すのは不適切です。そのように対応すると、相談から離脱してしまいますから、むしろ悩みをよく聴くことを中心に据えます。

また、この時期の相談者は、はっきりとは認めたがらないものの、潜在的には失敗感や無力感を感じていることが多く、自尊心が傷ついていることがあります。

したがって、傷の手当てを優先します。まず、相談に来ることが解決にむけた最初の取組であることを伝え、それを始めたことを承認します。

 次に、この時期の相談者は、自分に起こった変化の否定面を過大評価して、肯定面を過小評価していることが普通です。さりげなく建設的な別の見方をほのめかして変化への期待を引き出し、高めることも有用です。

とにかく、一回のLINE相談でなんらかの具体的な結果を出そうと焦らないこと。そして、相談員が相談者に対して、変化に向けた過大な期待を抱かないことが大切です。
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2020年04月13日

122号

資料紹介:新型コロナウイルス(COVID-19)に関する情報
 緊急事態につき、紹介者が所属する科学者コミュニティからの情報をお伝えします。ご活用ください。(2020/04/13現在)

(1)新型コロナウイルスを知るための資料
 1)動画:新型コロナウイルス感染症対策講座「感染症の時代を生きる」(YouTube)
*紹介者コメント:科学者コミュニティでわかりやすいと評判の動画です。まずは、こちらからご覧ください。

 2)「新しい感染症との向き合い方 わかんないよね 新型コロナ」日本科学未来館
*紹介者コメント:図解でわかりやすい資料です。
・ポスター掲示ができるようにイラスト入りで分かりやすく図解されています。
・日本科学未来館のHPでは、信頼できる情報を対象別に掲載しています。

 3)「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!」(日本赤十字社)
*紹介者コメント:「病気・差別・不安」に絞って図解でメッセージを発信しています。

 4)「COVID-19への対策の概念」(新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する厚生労働省対策推進本部クラスター対策班 東北大学大学院医学系研究科・押谷仁)
*紹介者コメント:科学者コミュニティで評価されている資料です。ほぼ全てが図解されていて視覚的に分かりやすいです。特にSARSとの違いがよく分かります。

 5)多言語版(6言語)の感染予防ハンドブック(東北医科薬科大学病院)
*紹介者コメント:英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・ベトナム語・モンゴル語に対応しています。YouTubeでみることもできます。

(2)新型コロナウイルスについて子どもと話すための資料
1)「お子さんとコロナウイルスについて話しましょう」(日本心理学会)
*紹介者コメント:イギリス心理学会(c) 2020 British Psychological Society BRE26a / 16.03.2020 の翻訳です。
2)「新型コロナウイルス(COVID-19)について子どもに話す」(日本学校心理士会)
短縮版http://www.gakkoushinrishi.jp/syorui/files/corona_2.pdf
*紹介者コメント:日本学校心理士会では、アメリカ学校心理士会の資料を翻訳しています。

 (3)新型コロナウイルスの影響で在宅勤務する人への資料
新たにテレワーク(在宅勤務)をする人へ,心理学者からのアドバイス」(日本心理学会)
*紹介者コメント:在宅勤務でも上司と部下の双方がより効果的に仕事できるように、産業・組織心理学者からのアドバイスが掲載されています。Greenbaum, Z. (2020). Psychologists’ advice for newly remote workers. の翻訳です。

 (4)新型コロナウイルスで広がる偏見や差別を止めるための資料
新型コロナウイルス(COVID-19)に関わる偏見や差別に立ち向かう」(日本心理学会)
*紹介者コメント:American Psychological Association (n.d.). Combating bias and stigma related to COVID-19. の翻訳です。

 (5)それでもストレスがたまったときの資料・アプリ・コミュニティ
1)東京大学下山研究室のWEBサービス・アプリ

2)アプリ「My感謝日記」(google)

3)コミュニティ:「不安を語れるオープンスペース」(ナラティヴ実践協働研究センター)
*紹介者コメント:1)2)はWEBを使って個人で使用するものです。3)は新型コロナウイルス感染拡大で不安を募らせている人のためのオンラインコミュニティです。

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2020年03月16日

121号

『家族主体ソーシャルワーク論−家族レジリエンス概念を手がかりに』
著 者:得津 愼子
発 行:ナカニシヤ出版、2018年

紹介者から:専門的実践家向けの一冊です。
 本書は、専門書ですので、すべてのメルマガ読者にお薦めすることはできません。しかしながら、家族を支援することについてソーシャルワークの視点から学びたい方は、ぜひご一読ください。

 この本を読むと、家族のニーズを把握することから支援をはじめることで、支援施策が一方通行にならないことを理解することができます。

具体的には、次のことが学べます。
一、複雑な家族を複雑なまま理解し、支援するための理論と方法を学ぶことができます。
二、家族の回復力が発揮されるプロセスを当事者本人の言葉で読むことができます。
三、最新の学問パラダイムの潮流を概観することができます。(ホーリズム、システム論、コミュニケーション理論、家族療法、ポストモダン、社会構成主義、ナラティブアプローチ、質的研究、M-GTA、複数経路・等至性アプローチ:TEA)

高橋会長のホリスティックな視点が家族支援でどのように展開しているかを知りたい方にお勧めいたします。注意深く慎重に家族に接近している様子がわかります。

 本書より:
「家族」主体のソーシャルワークでは、家族を「生きているシステム(living system)」と多元的に捉えて、そのシステムが円滑に機能しうるように支援します。

このようにシステム論からみることで、「困難な家族が多いから関わることができない」。この家族は「問題」だと諦めずに、可能性の器とみることができるようになります。

 現代において、家族を語ることは時代遅れの感がありますが、それでもなお多くの人びとにとっては意味があり、ある種の宿命的な存在でも在り続けています。

確かに、現代社会制度における基本単位は「個人」ではありますが、その個人を支えるのが家族なのですから、家族を支えるための施策は必要だといえます。

また、家族は社会的のみならず心理的にも基本単位として機能しているため、多くの人びとが家族のような心理・文化・社会的集団への帰属(安心)を求めていることも事実です。

そうした家族を支援するにあたって「家族」をどのようにとらえるかについて、多くの立場があります。しかしながら、どの立場にあっても実際の家族問題の支援に際しては「日々の現実としての家族生活(Richmond,1917)」には関心を払わざるをえません。

ここに家族のニーズを調査してからサポートすることの必要性が生まれてきます。そうでないと一方通行の家族強化の政策であれば、家族支援は一人歩きしてしまうでしょう。

そこで本書では、支援対象の「家族」のレジリエンス(回復力)に焦点を当てて、日本のファミリーソーシャルワークの今後の展開について考究しました。
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2020年02月15日

120号

『教師のための子どものもめごと解決テクニック』
著 者:益子洋人
発 行:金子書房、2018年

紹介者から:
 親・教師の立場から、子どものもめごとを解決に導くスキルを学びたい方にピッタリの本があります。

 そもそも、もめごとの解決にはタイプがあって、自分の欲求を満たそうとすると「支配」的になり、他人の欲求を満たそうとすると「服従」的になる、という考え方があります。本書では、自他共に欲求を満たす方法を探す立場をとっていて、「統合」と位置づけています。

この「統合」的な解決を目指して親や教師は、@当事者が互いの言い分を聞き合う。A当事者が聞き合うなかで互いに「理解された」、「尊重された」と感じることができるようにする。B当事者同士で統合的な解決策を考える、というプロセス全体を管理していきます。

このプロセスを本書では事例を交えながら解説しているのですが、特に注目したいのは、もめごとの解決には二種類のスキルがあることです。

一つは、仲介者(親や教師)が間に入って当事者(子ども)のもめごとを解決するためのスキルで、どのようにしてもめごとを解決に導くかを扱います。

もう一つは、当事者(子ども)が解決スキルを身につけて、自分達で解決できるようにするためのスキルです。

このように、仲介者と当事者の両方のスキルを網羅しているところに、本書の特徴があって、最初のうちは大人が仲介するけれども、次第に子ども達同士で解決できるように導こうとしているところが、お薦めする理由です。

その他にも、「子どものもめごとを巡るQ & A こんなとき、どうする?」では、「もめごと解決テクニックの欠点は何ですか」とあり、「時間とエネルギーが掛かること」と答えています。

支配と服従や、妥協、先延ばしにする、などの解決方法を選ぶよりも、「統合」を目指す関わりでは対話が必要になるために時間とエネルギーがかかります。

その意味で、「いつでもベストな解決方法ではない」ので、緊急性が高いときや当事者が急いでいる時には向きません。しかしながら、じっくりともめごとに向き合いたいときや、火種を消したいときには、有効な方法です。
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2020年01月15日

119号

『サードエイジをどう生きるか−シニアと拓く高齢先端社会』
著 者:片桐恵子
発 行:東京大学出版会、2017年

紹介者から:
 2015年に団塊の世代がすべて65歳に達し、多数の高齢者層が登場してから5年が経とうとしています。地方行政の窓口には「私は何をしたらいいのか」と相談に来るシニアが多く、窓口を当惑させているようです。
 
 家庭への影響として深刻なのは、退職後の夫の存在です。とにかく家を出た方がいいのはわかっているけれども、行くところがないと鬱々とした気持ちで一日中、夫が家にいるわけです。これは妻にとっては大問題で、なかには在宅夫がストレスの元となって、うつ症状を呈し「在宅夫症候群(注)」と呼ばれるようになっています。

 (注)在宅夫症候群:定年後に、一日中家にいて、家事も手伝わずテレビを見てゴロゴロしているような夫にストレスを感じる妻が呈するうつ症状(黒川順夫、2005)

 平均寿命や健康寿命がここまで延伸するようになると、定年後のサードエイジは一部の長生きの人の問題ではなくて、だれもが経験する人生の一時期になりました。

すると、これまでの社会参加活動だけではなく、サードエイジは生産的活動や市民参加活動へと場を広げるようになっています。自分や所属グループの興味関心にもとづいた無償で私的な活動だけでなく、社会貢献の志向性を持ち、有償で公的な活動へと広がっているのです。

 積極的な意志をもってサードエイジを過ごし「人生における意味」を探求する活動は、アクティブエイジングと呼ばれ、これからますます広がると思われます。一方で、それは自分達で楽しんでいた趣味を仕事にするわけですから、適用されるルールも社会的責任の水準も一定以上のものが求められることを意味します。好きなときに好きなことを好きなだけが通用しないわけです。

 この話を親学の領域に転じてみると、いま求められているのは、高齢支援者向けの対人援助領域における準専門職スキル・能力、ガイドラインと養成課程だといえるでしょう。

親学アドバイザーの年齢層を想定より広げて、アクティブエイジング世代を取り入れていく工夫とサードエイジ対象の教育学の整備が当面の課題だと考えられます。
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2019年12月15日

118号

『子どもの未来をひらく エンパワメント科学』
編 著:安梅 勅江(あんめ ときえ)
発 行:日本評論社、2019年

紹介者から: エンパワメントは、生きる力を湧き出させること
 子育てを通した、親育ちを志向する親学では、科学的な調査・研究の成果に基づく関わりを大切にしてきました。本書は現時点の最先端がまとめられています。日常生活の「質」をよくしていくためのコツを知りたい方にお薦めします。

本書から:エンパワメント原則と実現のコツ
 エンパワメントは、人びとに夢や希望を与え、勇気づけ、人が本来もっているすばらしい力、生きる力を湧き出させることです。

人は誰もが、すばらしい力をもって生まれてきます。そして生涯にわたってその力を発揮し続けることができます。この一人ひとりに潜んでいる活力や可能性を湧き出させることがエンパワメントです。Empowermentは、活力が湧き出る意味で「湧活」と和訳されます。

 エンパワメント科学は、エンパワメントについて様々な学問を束ねて統合的に科学的な手法を用いて明らかにする実用的な科学・学問です。脳科学、行動科学、進化人類学などの知見から根拠を生み出します。

 エンパワメントには、八つの原則があります。
1.目標を当事者が選択する。
2.主導権と決定権を当事者が持つ。
3.問題点と解決策を当事者が考える。
4.新たな学びと、より力をつける機会として当事者が失敗や成功を分析する。
5.自らの行動を変えたいと思える方法を当事者とサポーターが一緒に考え、その方法を実行する。
6.問題解決の過程に当事者の参加を促し、責任を高める。
7.サポーターは、問題解決の過程を支えるネットワークと資源を充実させる。
8.サポーターは、当事者のウェルビーイングに対する意欲を高める。

 エンパワメントを実現するには、七つのコツがあります。
1.目的を明確にする。価値に焦点を当てる。
2.プロセスを味わう。関係性を楽しむ。
3.共感のネットワーク化。親近感と刺激感。
4.心地よさの演出。リズムをつくる。
5.ゆったり無理なく。柔軟な参加様式。
6.その先を見据えて。つねに発展に向かう。
7.活動の意味付け。評価の視点をもつ。

 子育てへの困難感を抱える保護者が増えるなか、さまざまなニーズに対応できる支援の整備が急がれます。子育ちと子育てをエンパワメントする環境の実現が期待されます。
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2019年11月15日

117号

『空にかかるはしご 天使になった子どもと生きるグリーフサポートブック』
監 修:濱田裕子
発 行:九州大学出版会、2017年

紹介者から:子どもを亡くした家族の想いから、子育ての意味を考えます。

「着せてあげられなかった、ちいさな肌着」の写真には「424gで生まれた まほちゃんは5ヶ月で旅立った後、初めてお家に帰り、たった一晩だけど家族4人で過ごすことができました。思い出がないことが思い出」と説明が添えられています。

 この本には、子どもを喪った悲しみに寄り添う気持ちが詰まっていて、いのちと向き合う姿勢を再確認することを求められているように思います。いのちの大切さを伝える資料をお探しの方は必携の一冊といえます。

本書から:
 1950年に27万人の子どもの死亡数は、医療技術の進歩とともに2015年には60分の1近くの4,834人(2015年全体の0.38%,内0-4歳が占める割合55.7%)にまで少なくなっています。

そんな現代だからこそ、子どもを亡くした家族はその気持ちを周囲の人に理解してもらえず、孤立しやすい状況にあります。

 本書は、「ひとりじゃない」と思えるような冊子があればという家族の声をきっかけにつくることになりました。一部は家族のかけがえのない物語、二部は家族の想いや体験談、三部は子ども達に関わってきた専門家と監修者からのメッセージで構成されています。

監修者から: 寄り添うということ(周囲の方へ)
 ご家族から教えていただいたことでお伝えしたいことは、悲しみは乗り越えるものでも、乗り越えられるものでもないということです。年月を経て、悲しみの質は変わったとしても、悲しみと共に生きていく。乗り越えられるものではないことを知っておくだけでも違うかもしれません。

 私たちは、相手のことを完全にわかることなどできないことを自戒しながら、それでもなお、わかりたい、寄り添いたいと心を傾けることしかできないのかもしれません。だけれども、その気遣いや配慮が時にはやさしく染み入るように入っていくこともあるように思います。
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2019年10月15日

116号

『赤ちゃん学を学ぶ人のために』
著 者:小西行郎、遠藤利彦
発 行:世界思想社、2012年

紹介者から:
 小西先生は、子ども観や子育て論の見直しを赤ちゃん学の構築の立場から目指しておられました。いわく、無力な赤ちゃんを育てているのではなくて、私たちは「赤ちゃんによって育児させられている」のではないか、という赤ちゃん主体の側面を強調された先生でした。

 大人(親)の都合による子育てから、親が育ち・子どもが育ち・子育てに関わる人たちが育つ親学への展開のなかで、赤ちゃんが育つとはどういうことなのか、この本はそのヒントを示しています。育児を科学することに興味がある方にお薦めいたします。

本書から: 21世紀の新しい子ども観・子育て論
 20世紀は、「末は博士か大臣か」というように、頑張って子育てすれば必ず期待に沿った子どもが育つという、きわめて楽観的な右肩上がりの子ども観でした。「3歳までは母親の手で育てなければならない」などの神話はいまだに多くの母親に影響を与え、育児を難しいものにしているように思えます。

 科学的な目から赤ちゃんを観察し、発達のメカニズムを考えようとする赤ちゃん学では、もはや赤ちゃんが白紙状態でも無力でもないことが明らかになりました。

 <新しい子ども観1:赤ちゃんは自発的に動く>
 20世紀に行われた研究では、「赤ちゃんは、外から受けた刺激や学習によって成熟する」という考えが基盤にありました。しかし、自発的に運動をしていることがわかってからは、自らが動くことによって、他者や周囲の環境を認知して、「自ら育つ」という考え方に大きく変わってきています。
 
 <新しい子ども観2:無駄なシナプスをバランスよく削りながら成長する>
 脳は、あらかじめシナプスを多めに用意しておき、不要になった段階で適当に刈り込み、回路を円滑に運営するシステムをもっています。

 早期教育肯定派の人は、このシナプス数が最大になる乳幼児期に子どもの能力を伸ばすために多くの刺激を与えることが豊かな育児教育であると唱えるようになりました。

 ところが、最近になって、あまりにいろいろな刺激を与えることが疑問視され始めてきています。刺激が強すぎることによって、本来バランスよくおこなわれるはずのシナプスの刈り込みに支障をきたし、子どもの脳に悪い結果をもたらすのではないかという懸念が、専門家の間で広がっているのです。こうした研究は、何でもかんでも刺激すればするほど成長する、という従来の考え方に警鐘を鳴らすように思えます。

 <新しい子ども観3:赤ちゃんは無力ではない>
 赤ちゃん学のもっとも大きな成果は、まったく無力であると思われていた胎児期から新生児期(生後1ヶ月まで)・乳児期(生後1年まで)の赤ちゃんにきわめて優れた能力があることを発見したことにあります。

 赤ちゃんは、白紙状態でうまれるわけではないことがわかってきたといえるでしょう。例えば、3D超音波装置の開発によって、胎児のさまざまな表情や複雑な行動がリアルタイムで見られるようになりました。

 また、新生児は苦い、酸っぱい味を区別でき、味に合わせて大人と同じような表情をするといわれていますが、こうした表情の多くは胎児期にすでに準備されているということかもしれません。

 <育児を科学する必要性>
 核家族化が進み、一人で子育てをしなければならないお母さんにとっては、育児についての情報が以前よりも重要になってきていると思います。
 
 しかし、一方では昔ながらの思い込みや経験に基づく育児法などがいまだに氾濫しています。育児にとって愛情が重要であることは否定しません。しかし、愛情があればすべてが解決するものではありません。

相手を知り、理解することこそが重要であり、そのうえで赤ちゃんに合った方法で育児を行うことが大切だと思うのです。子どもを理解せずしてどうして育児支援や保育あるいは教育ができるのでしょうか。

 この本はまず赤ちゃんを理解しようという日本赤ちゃん学会の研究者の思いが基になっています。
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2019年09月17日

115号

『自分で「始めた」女たち 「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション』
著 者:グレース・ボニー
訳 者:月谷真紀
発 行:海と月社、2019年

紹介者から:
 大人のライフ・キャリアを支援する。そんな視点から、この本をご紹介いたします。

 現在、ライフ・キャリア支援の領域では、人生の意味づくりに焦点を当てた実践的研究が盛んです。なかでも一般的なのが、ストーリーアプローチなどと呼ばれるキャリア構成アプローチです。

 具体的には、「子供の頃の夢」や「ロールモデル」、「好きな言葉・名言」などを尋ねながら、クライエントの価値観にアプローチする方法をとります。

人は「自分の人生に本当は何を求めていたのかに気づくことができると変化する」という考え方が基盤になっています。

 この本は、人生で本当に実現したいことを探している人、あるいはそれを見つけた人たちのインタビュー記録です。その意味でキャリア構成アプローチの資料集ともいえそうです。

 この本を読むと、ひとり一人の人生の多様性と個性が織り合いながら、流動的で複雑な人間像をリアルに想像することができます。時間を忘れて入り込んでしまうほど、面白いです。

 型にはまらない人生像、自由と責任を自分のなかで同居させている女性の生き方に興味のある方にお薦めします。

本書から:
 この本には、とびきり個性的で才能あふれる女性が100人以上登場します。
年齢も19歳から94歳までといろいろです。どの女性も、努力と協力があれば輝けることを全身で示してくれています。ページをめくるうちに何かを発見したり、励まされたりもするはずです。

一例を紹介します。
 ホテル経営者のリズ・ランバートは、子どもの頃、カウボーイと弁護士になりたかった。4歳のときに、祖父に連れられてテキサス州オデッサの高級ホテルに行ったとき、革張りのソファ、タバコの煙、大人の商談の雰囲気が好きになった。大人になって州の弁護士として働いていたある年に親友がエイズで亡くなり、ずっと目標にしてきた兄もHIVと診断された。その時、「人生にとって本当に大事なことをやらなくちゃ」と思った。それが、彼女が弁護士を辞めてホテル経営の勉強を始めたきっかけだった。
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2019年08月20日

114号

『ユマニチュードと看護』
編 集:本田美和子、伊東美緒
発 行:医学書院、2019年

紹介者から:ケアと親学−やさしい気持ちを感じてもらえるように届ける方法−

 近い将来、日本には400万人を超える認知症の患者さんが病院に押し寄せるといわれています。ユマニチュードは、認知症の患者さんたちをケアする技法として開発されました。現在では認知症ケアの領域に留まらず、医療看護の幅広い領域で取り入れられています。

ユマニチュードは、「ケアに求められる理想を現実に変える技術」として注目されていますが、内容は至ってシンプル。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の要素を同時に複数組み合わせるコミュニケーションの技法です。触れるという身体性に特徴があります。

この技法は、生後3ヶ月くらいの子どもに親がすることを観察し、研究するところから生まれました。「見つめ」、「話しかけ」、「撫でて(触れて)」関わるうちに、子どもは二本足で「立つ」ことができるようになります。人間関係の基礎的な関わりといえるでしょう。

 この本には、「自由・平等・博愛」の哲学をケアの場面で実践するためにユマニチュードを開発したイヴ氏と日本の医療機関で実践している専門家たちの座談会、日本での実践録、有効性を明らかにする研究・エビデンスが掲載されています。
 
認知症や看護の専門的な領域から出てきたものではありますが、一つ一つの技法は非常にシンプルで具体的ですぐに実践できるものばかりです。
 
本書から:
 ユマニチュードの特徴には、「ケアをする人とは何者なんだろうか」と問うことから始めること、誰でも学べて、再現性のある技術として体系化されていることがあります。

 ユマニチュードには思想哲学があります。それは「あなたは人間ですよ」とケアする人が相手に伝え続けること。言い換えると、絆(人間関係)を中核に置いた思想哲学だということです。その点で、患者さん自身を中心に置くケアとは発想が異なっています。

例えば、やさしさを伝える「見る」技術は4つあります。
一、垂直ではなく水平に。
二、斜めではなく正面から。
三、一瞬ではなくある程度の時間をかけて視野に入る。
四、遠くからではなく近くから。
 
 このような技法を実践するなかで、ケアする人が念頭に置いているのは、よいことを「してさしあげる」というよりも、害になることを「しない」という意識です。そこからケア内容を選択する余地が生まれて、結果としてよいことをすることになるのです。
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