• もっと見る

特定非営利活動法人なんれん西日本

 特発性大腿骨頭壊死症患者・家族の交流と情報交換を目的として2007年11月に山口県を拠点に発足しました。疾患の垣根を越えてあらゆる難病や希少疾患患者の連帯を進め、疾患の原因究明・予防・治療の確立を求め、社会に対しては疾患についての正しい理解と仕事と治療の両立を求め働きかけています。


難病医療制度改革案について山口県保険医協会報への投稿記事 [2013年12月29日(Sun)]
2013年(平成25年)12月20日(毎月1回20日発行) 山口県保険医協会報   第472 号
難病患者が本当に安心できる制度となるか
寄稿
渡 邉 利 絵(整形外科医) おれんじの会(山口県特発性大腿骨頭壊死症友の会)

 厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会では2013年12月13日に「難病対策の改革に向けた取組について(案)」を取りまとめ、難病に係る新たな医療費助成の制度案を発表しました。その内容と問題点等について、山口県特発性大腿骨頭壊死症友の会代表世話人で整形外科医である渡邉利絵先生からご寄稿頂きました。
  


 難病に対する医療費公費助成制度の始まりは、昭和40年代スモン病など7疾患にさかのぼります。その数3000とも5000ともいわれる難治性希少疾患(=難病)の中で、調査研究対象としていくつかの疾患を選択し、「特定疾患」と称して調査研究事業の対象にしました。この際、患者のデータ収集を容易にするための受診促進施策という意味合いで医療費の公費助成制度が始まりました。福祉の観点から医療費助成制度がつくられたものでないことは銘記しておく必要があります。経年的に対象疾患の数は増えて、現在は56疾患まで拡大されましたが、約40年間にわたり、制度自体はほとんど変わっていなかったのです。
 今年( 2013年)になり、社会保障制度改革の動きがにわかに騒がしくなってきました。共通して使われるキーワードが「持続可能な制度」「公平」「負担と給付のバランス」です。他制度については、今回、触れませんが、難病医療や小児慢性疾患医療も例外ではないところに現政権の徹底した意志を感じます。
 新聞の報道では、「難病医療費自己負担の大幅引き上げ」というところに目を奪われがちで、最終案では激変は緩和されたように見えますが、今回の厚生労働省が提示した制度改革案は本質的な変革を伴うものであるとともに、社会保障制度改革国民会議の言う「自助」「共助」「公助」の実態を露骨に示すモデルとして厳しくチェックしておかなければなりません。以下に、次年度通常国会に提出予定である新制度案の問題点を述べます(新制度案の「骨子」は別記@参照)。



「難病に係る新たな医療費助成の制度案」発表
○ 対象疾患を現行の56 疾患76 万人からから約300 疾患150 万人に拡大。
○ 自己負担割合を現行の3割から2割にする。
○ 対象を症状重症度分類での程度が一定の程度以上であるものとする(例としてパーキンソン病ではYahr 分類3以上)。
  ただし、治療により軽症を保つ患者も対象とする。
○ 自己負担の限度額については障害者の外来の限度額を参考に階層区分を細分化。
○ 外来と入院の区分を設定しない。
○ 複数の医療機関の自己負担を合算し限度額を算出(薬局での保険調剤および医療保険における訪問看護ステーションの行う訪問看護を含む)。同一世帯内に複数の対象患者がいる場合は人数で限度額を按分。
○ 入院時食事療養・生活療養に係る負担について自己負担とする。
○ 生計中心者の半額措置はなくなる。
○ 重症患者の負担0 割は廃止し、世帯収入に応じた自己負担とする。
難病に係る新たな医療費助成の制度案(骨子)別記@



難病患者の場合と高齢者や障害者の医療費助成制度との「公平性」?
 受診頻度が高いという理由で、当初は高齢者の高額療養費限度額の考え方をたたき台にしていました。平成25年10月末に出された案では自己負担割合を2割とした上で、これまで自己負担0円だった市町村民税非課税世帯からも月3000円ないし6000円の自己負担上限額とし、高所得者区分(年収570万円以上)では月44400円としました。
 高齢者で高額療養費の対象となるのは、外来ではせいぜい3%、現役世代では1%とめったに発生しないのに対して、難病で血液製剤や生物学的製剤を使う場合ではほぼ100%になります。限度上限額の負担が生涯続くのです。常識的にみて、高齢者と難病患者では対象となる世帯構成や収入経路(勤労と年金)が全く違います。同じ年収でも医療費以外の負担が少ない高齢者とは事情が異なりすぎます。
 障害者には税制上の優遇措置があります(所得税・個人住民税・相続税における障害者控除・特別障害者控除、合計所得金額が125万円以下の障害者等についての個人住民税非課税措置など)が、難病患者にはありません。社会的サービスは障害者には一定ありますが、難病患者については「障害者総合支援法」施行まもない今、まだまだサービス展開はこれからといったところです。
 前回案に対して、患者団体などは自己負担が重すぎると批判し、見直しを求めました。当初、厚生労働省側は、治療効果が期待できる障害者と効果的な治療があまりない難病患者を同様に扱うことはできないといった趣旨の発言をしていましたが、12月13日の第35回難病対策委員会では、障害者の制度を参考に大幅修正しました。自立支援医療(一般と重度かつ継続)の基準を参考にした所得区分と負担額の修正、また、重症の基準に高額で長期にわたり継続する医療費負担に着目した仕組みを取り入れることで、前回案で問題とされた負担増はかなり緩和されることになりました。小児慢性特定疾患児における自己負担は難病医療費助成の半額、長期入院時の食事負担も半額となりました。

低所得層にとっては負担があまりにも重すぎる
 今回の見直し案(別記A)を見ると、「市町村民税非課税世帯」はこれまで自己負担がありませんでしたが、これを「低所得T」と「低所得U」に分け、それぞれ月額2500円、5000円の負担を求めます。また、年収160〜370万の収入の人を「一般所得T」と区分して自己負担を10000円としていますが、サラリーマンの平均年収よりも下の階層の患者からこれ以上お金を取るというのはどうなのでしょうか。年収370万円〜810万円を「一般所得U」、年収810万円以上を「上位所得」とまとめており、月額それぞれ20000円と30000円となっています。中間所得層での区切りや自己負担上限額は大雑把な印象であることはぬぐえません。
 重症患者の場合は、これまで0円だったものが、世帯収入に応じて最高30000円(高額かつ長期の場合、月20000円=年額最高24万円)、人工呼吸器等装着者は「超重症者」として一律1000円の自己負担となります。難病の場合は高齢の親が重症者である子を介護しているケースも少なくなく、介護保険が使える疾患はごく一部です。障がい者のためのサービスが難病患者にも開かれたとはいえ、必ずしもニーズに合うとは限らず、そもそもサービスが絶対的に不足しています。人工呼吸器等装着者に限らず重症者とその家族が生きていくためには、医療費以外にも多くのフォーマルおよびインフォーマルなサービスが必要です。
 現状では、疲弊しきった家族がレスパイトケアを使える保証もありません。
 世帯単位で収入を捕捉することになると、成人である兄弟姉妹が介護者かつ生計中心者として同居しているケースでは、今まではなかった医療費負担が急に重くなってしまいます。心身の負担に加えて医療費のダブルパンチ。なぜ、働けないものから応益負担を取るのでしょうか。患者本人にすれば、家族に負担をかける心労は計りしれません。
 難病患者が難病患者を支える?
 現行制度において難病患者の所得階層で最も多いのは、最低の「住民税非課税」世帯で23%、同時に年収402万円以上の「高所得」階層が23%です。新区分での統計がないため、月30000円を自己負担する年収810万円以上の階層にどれくらいの世帯が入るのかは不明です。難病施策の拡充をうたって、対象を広げると言いますが、11月の難病・慢性疾患全国フォーラムの患者代表の発言を引用すると「小さなパイを大勢で奪い合う」のでは財源が足りない、そこで重症患者も含めた応益負担をしてください、ということなのでしょうか。しかし重症患者(超重症患者を含む)はわずか8%にすぎず、財政効果には疑問が残ります。難病患者の一月当たりの医療費総額は平均13 ・3万円、中央値は4・5万円ですが、30 万円以上になる人たちが約10%います。患者の自己負担で「パイを大きく」できるどころか、対象を拡大する分、焼け石に水でしかありません。 むしろ、「最初に応益負担ありき」の徹底が主目的とみられます。前述の超重症者についてですら、「他法のなかで無料というのがないとすればたとえ一律1000円でも負担を入れるのは仕方がないこと。所得にかかわらずとしたことも含めて難病の象徴として残す意味で良いのではないか」という委員発言がありました。すべての国民を医療費自己負担ゼロというのはあり得ない(生活保護を除いては!)という方向に追い詰める口実に使われるのではないかと危惧しています。
写真.JPG

対象外となる患者も多い
 対象疾患を広げるとはいえ、すべての難病が医療費助成制度でカバーされるわけではありません。診断基準が確立していないものは今回の見直し案の対象にはなりません。また、対象疾患でもその運用において軽症と診断された患者が大幅に外されていく可能性があります。客観的な重症度が確立している疾患はごく一部であり、多臓器疾患になると重症度の診断にばらつきが出ると予測されます。公平・公正な運用がはたして可能なのか。個人情報の保護と並行して疾患データの集約・有効活用が
求められます。
 法案は来年度の通常国会に提出予定とされ、2015年1月1日実施を目指すとしています。だし、既認定患者については3年間の経過措置期間があり、新法案の自己負担限度額の半額になるということです。
 見直し案には多くの問題点が残されています。それらを改善できるよう保険医協会の皆様にもご協力をお願いいたします。

タグ:記事
Posted by 渡邉利絵 at 11:44 | 会報  | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
トラックバック
※トラックバックの受付は終了しました
コメント