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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.200 <新たな海洋ガバナンスの構築を目指して> [2020年10月28日(Wed)]

 海洋政策研究所は笹川平和財団が掲げるミッションステートメントの1つである「新たな海洋ガバナンスの確立へ」の達成を目指し、調査研究をはじめとするさまざまな取り組みを進めています。環境保全や産業振興、安全保障といった海洋ガバナンスに直結する課題の調査研究のみならず、海洋に関する人材育成や海洋に関する情報発信などの海洋ガバナンスの発展に寄与する取り組みも含まれています。

 これらの課題の背景や現在抱える問題、我々の貢献などはこれまでの「海のジグソーピース」で紹介してきましたが、これらの取り組みはまさに現在の海の姿を見えるようにする「海のSociety 5.0(海のジグソーピース No.162)」の確立への航海であり、それを追い求めて今日も「皆が完成するであろう大きな目標に向かって 、果てしない共同作業(海のジグソーピース No.1)」に取り組んでいます。

 さて、読者のみなさんからの熱い支持により、「海のジグソーピース」は今回めでたく200回を迎えました。しかし、海洋ガバナンスという大きな絵を完成させるためのピースはまだまだ足りません。図らずも本年6月に笹川平和財団の理事長を仰せつかりましたが、今後は国際理解・国際交流や国際協力の観点からも海洋政策の発展に貢献すべく陣頭指揮を執り、1つでも多くのピースを産み出す所存です。また、読者のみなさんからもより一層のご支援・ご協力を賜り、より多様なピースを一緒に創り出せたらと願っております。


先日登壇したHigh-Level Side Event UN Biodiversity Summit
Biodiversity: The Ocean's Role”のYouTube動画

 なお、2016年10月からほぼ毎週続けてきました「海のジグゾーピース」ですが、次回からは隔週掲載として、当研究所の日常をより深くより広くお伝えできればと考えております。今後も引き続きご愛顧いただきますようよろしくお願い致します。

理事長兼海洋政策研究所長 角南 篤

海のジグソーピース No.199 <ジャパンブルーエコノミー技術研究組合設立と今後の取り組み> [2020年10月21日(Wed)]

 笹川平和財団は、本年7月に設立されたジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下JBE)に組合員として加盟し、活動を開始しています。JBE設立後3カ月の間、その一員として笹川平和財団がどの様な活動を行ってきたのか、今後JBEの中でどの様な役割を担っていくのか、今回のブログではJBEの目指す方向性とともに解説したいと思います。

【JBE設立および情報発信】
 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の「技術研究組合」というのは、経済産業省の説明によると「複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づいて、大臣認可により設置される法人であり、単独では解決できない課題を克服し、技術の実用化を目指す組織」です。法人格を有する大臣認可法人として活動し、組合から株式会社等へのスムーズな移行が可能であること等がメリットとされています。2019年12月1日時点で58の技術研究組合が存在し、うち46は経済産業省が所管しています。JBEは2020年7月14日付けで主務大臣である国土交通大臣の認可を受け、登記を経て7月15日に設立しました。国土交通省が配信したプレスリリースでも紹介されていましたが、ブルーカーボン(海洋生物によって大気中のCO2が取り込まれ、海洋生態系内に貯留された炭素)をはじめとする海の持つ環境価値を対象とした技術研究組合は、本邦初となります。

 JBE設立後は、7月28日に設立に関するプレスリリースを笹川平和財団海洋政策研究所港湾空港技術研究所がそれぞれ公開し、7月31日には笹川平和財団ビルで記者会見を行い、組合員である国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の栗山善昭理事長、笹川平和財団の角南篤理事長、JBEの桑江朝比呂(ともひろ)理事長、JBE理事の筆者が登壇し、ご参加いただいた記者の皆さんにJBEの目的や各組織からの貢献に向けた抱負をご説明しました。9月10日には海洋政策研究所が開催する第174回海洋フォーラムにおいて、「ブルーカーボン生態系の持つ環境価値の持続可能な利用に向けて」と題した講演会をライブ配信しました。フォーラムではJBEの桑江理事長によるご講演に加え、理事の信時正人氏(国立大学法人神戸大学客員教授)、顧問の刑部真弘氏((国立大学法人東京海洋大学大学院 教授)に筆者を交えたパネルディスカッションを展開しました。関東地方以外にも香川県や新潟県、大阪府からもライブでご視聴いただき、2020年10月5日現在で1,800を超える人にアクセスいただいています。10月5日には日経地方創生フォーラム「地方創生〜アフターコロナの新しい形〜」において、「ブルーカーボンが実現する地方創生」というセッションを開催し、横浜市、阪南市、備前市からのブルーカーボンを利用した地域づくりを紹介してもらうとともに、JBEの目的と今後の活動への期待を理事一同が述べました。このように現在まではJBEの設立や目的を積極的に情報発信しながら、水面下では様々な検討を重ねて来ています。

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10月5日に開催された日経地方創生フォーラムの一幕

【JBEの活動と海洋政策研究所の役割】
 JBEでは@科学的方法論(環境価値の定量的評価)、A経済的方法論(新たな資金メカニズム導入)、B技術的方法論(環境価値の創造と増殖)、C社会的方法論(社会的コンセンサス形成)、という4つの方法論を有機的に連関させ(図1)、相互の研究成果を参照しながら一体として研究を進めていきます。

 ブルーカーボンに関して考えてみると、@の科学的方法論というのは例えばある海草藻場が持つ温暖化抑制、食料供給、種の保全、観光・レクリエーション利用等の環境価値を定量的に示し、可視化して示すことです(岡田知也・三戸勇吾・桑江朝比呂編著「沿岸域における環境価値の定量化ハンドブック」(生物研究社、2020年)で詳しく紹介されています)。Aの経済的方法論としては、@で定量的に評価された環境価値をベースに、例えば取引可能なカーボン・オフセット制度を作り市場形成するために必要な制度設計を考えたり、あるいは温暖化抑制価値以外の価値も含めたりする形で、企業等から環境価値に対する投資を呼び込むための研究を進めることが考えられます。Bの技術的方法論は、港湾内の構造物により多くの二酸化炭素を吸収させる技術や、海洋の新たな吸収源を発掘し保全、再生するようなブルーカーボンの質・量を高めることに取り組みます。Cの社会的方法論では、@で環境価値を評価し、Bでブルーカーボンの質・量を高めようとしている対象地域や構造物において、漁業者や海運業者、観光業者、地域住民といった直接、間接に同じ海洋空間を利用する人たちとの間で利害を調整し、お互いがメリットを享受できるような仕組みを考えることになります。

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図1.JBEの4つの方法論

 海洋政策研究所は主にAやCを分担します。様々なパートナーとの連携により社会実装可能な金銭的メカニズムに関する制度設計を研究し、今までに構築してきた沿岸自治体との関係も活かして社会的コンセンサス形成に必要な検討を進める所存です。また国際連携の部分でも、海洋政策研究所はInternational Partnership for Blue Carbonに加盟し、ブルーカーボンを政策として主流化することを目指す国や団体との交流を通じ、JBEの取り組みを共有するとともに、海外の優良事例や制度設計に関する情報収集を進め、ひいては日本のブルーカーボンに関する技術を海外に輸出する可能性について議論を主導できればと考えています。今後、具体の成果を報告できるよう、メンバーの一員として実践的な研究を進めていきたいと思います。

海洋政策研究部主任研究員(JBE理事) 渡邉 敦

Ocean Newsletter No.485 [2020年10月21日(Wed)]
No.485が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●大海洋諸国の台頭
DeepGreen Metals主任海洋科学者◆Greg STONE
駐日トンガ王国大使◆T. Suka MANGISI

小さな島々で国土が形成される小島嶼開発途上国は、地球温暖化や自然災害の被害を受けやすく、
人口の少なさや遠隔地であることも手伝って持続可能な開発が困難となってきた。
いま、海は貴重な鉱物資源の宝庫として注目されているが、国土の大半を広大な排他的経済水域が
占める大海洋諸国にとって、海洋資源の開発が公平で持続可能な形で進むことを期待する。


●養殖の死角─水環境に蓄積される薬剤耐性遺伝子
愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授◆鈴木 聡

薬剤耐性菌は薬剤使用量の多い医療現場および獣医の臨床現場が主要な発生源の一つとなっているが、
海の環境にも薬剤耐性菌のホットスポットがあることを忘れてはならない。そのひとつが水産養殖場である。
抗菌剤・抗生物質を使用する養殖場は、薬剤耐性菌の起源であると同時に、海と人の接点でもある。
環境リスク源にもなりうる養殖環境を中心に水環境の薬剤耐性菌の現状と今後を論じる。


●森里海が織りなす佐渡島の新たな地域創生型自然共生科学拠点
新潟大学佐渡自然共生科学センター海洋領域/臨海実験所 海洋領域長・教授◆安東宏徳

豊かな自然に恵まれ、自然と人間が密接な関わりを持つ佐渡島に地域創生型自然共生科学拠点
「佐渡自然共生科学センター」が設立された。
センターは森林・里山・海洋の3領域からなり、佐渡島の森里海生態系を活用した総合的な生態系の
理解と保全を目指した教育研究を展開し、自然と人間が共生する社会の実現に貢献する
「佐渡モデル」構築を目指していく。


●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹


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新刊のご案内 『侮ってはならない中国〜いま日本の海で何が起きているのか』
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Ocean Newsletter編集代表の坂元茂樹先生の新刊をご案内いたします。

南シナ海、東シナ海、尖閣諸島等、海洋強国をめざす中国の海洋進出に対して、
日本としていかに対処すべきか。中国の強引な海洋進出と戦略的行動といった力
による現状変更から、日本の領土と海を守るために、いま日本の海で何が起きて
いるのかを、国際法学の第一人者が、国際法の観点から分かりやすく論じておられます。

著者:坂元 茂樹 (同志社大学教授)
信山社新書
出版年月日:2020/10/05
ISBN: 9784797281040
判型・ページ数A 5変・248ページ
定価:本体880円+税

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【目次】
はしがき
はじめに

◇第一部 南 シ ナ 海◇
◆第一章 中国の海洋進出と「法の支配」
◆第二章 南シナ海における中国の海洋進出
◆第三章 南シナ海における九段線の主張
◆第四章 南シナ海仲裁裁判の開始
◆第五章 管轄権に関する南シナ海仲裁判決
◆第六章 本案に関する南シナ海仲裁判決
◆第七章 深まる米国との対立─南シナ海における航行の自由作戦の展開

◇第二部 東 シ ナ 海◇
◆第一章 いま日本の海で何が起こっているのか
◆第二章 尖閣諸島周辺海域における中国公船の動き
◆第三章 日本のあるべき対応
◆第四章 強まる中国の軍事的圧力
◆第五章 海洋の科学的調査と日本
◆第六章 尖閣諸島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第七章 沖ノ鳥島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第八章 米国の新たな動き─南シナ海および東シナ海制裁法案
◆第九章 侮ってはならない中国 侮らせてはならない日本

おわりに

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Posted by 五條 at 00:14 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.198 <海洋政策の発展を目指して―海洋政策研究所立ち上げの記(その3)> [2020年10月14日(Wed)]

 本ブログNo.139No.166で、旧シップ・アンド・オーシャン財団(以下「SOF」とします)に海洋政策研究部を立ち上げ、どうにか体制らしきものを整えた時代(1999〜2000)を書かせてもらいました。今回はその続編・最終回です。

 2001年4月に就任された秋山昌廣・会長(元防衛事務次官)のもとで、あるべきシンクタンクへの模索が始まりました。時あたかもこの年の1月から中央省庁の再編が始まり、国立の研究機関でも将来の研究方針を巡って、基礎的・長期的な研究よりも短期間で成果が出る研究が予算獲得できるのではないかとのムードが出てきておりました。そんな中、SOFのシンクタンクの理念や研究課題をどうするか改めて考えてゆくことになりました。

当時すでに休止していたSOFの筑波研究所が1990年初めにタンカーの二重船体構造に関する先端的研究を行い、その成果が国際海事機関(IMO)に持ち込まれ、条約の中に書き込まれました。この経験を持つ今義男・理事長(当時)は、科学・技術をベースにした海洋環境政策研究の国際共同シンクタンクを作ろうと意気込んでおられました。確かに船舶排ガス(NOx/SOx/CO2)やバラスト水問題など、まだまだ我が国がリードできる研究テーマがたくさんあり、各国との共同研究も進めながら世界に貢献できるのではないかと考えられたようです。また、秋山会長からは「海洋安全保障研究所」がユニークで良いのではとの提案も出されました。

 SOF全体を海洋政策の総合研究所として組織改編する方針のもとに、@まずは必要な研究員を抱え、そして育てること、A研究員個人の自主研究を支援しながら、かつSOFのプロジェクト事業にも参画させること、B外部有識者による自主研究の指導と評価を行うこと、C「海洋安全保障問題」にも積極的に取り組むこと、D海外から研究者を招聘すること、E国内外の他研究機関と共同研究を進めること、そして、FSOF全体をシンクタンク化する道筋(当時、SOFの定款では主たる事業が「船舶・海事関連」となっており、「政策研究」に関する規定は明示されていませんでした)などが議論されました。ついでながら、今後は上記Eに関して、WMU笹川グローバル海洋研究所(2018年5月設立)との研究連携が早く始まって欲しいと思っております。

 2002年4月、いよいよSOF海洋政策研究所(初代所長:秋山昌廣SOF会長、8月から寺島紘士・前OPRI所長)が産声を上げます。大学などからリクルートした5人(翌年に8人)の研究員からの出発でした。予算規模としては約3億円。彼らの個人研究テーマは「海洋保護区」や「貧酸素水塊」、「予防原則」、「沿岸利害関係者の協力」、「深海環境保全」、「海氷変動」、「海上テロと国家管轄権」、「体験学習」でした。生まれたての研究所の知名度を少しでも上げようと、研究員にはとにかく誰も手を付けていない課題に取り組んでほしいとお願いしました。松沢孝俊研究員(現海上・港湾・航空技術研究所海上技術安全研究所主任研究員)が世界で初めて「各国EEZ内海水体積」を計算し、日本が世界第4位になることを内外に発表してくれました。

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世界の200海里水域面積と体積ベスト10
(出典:松沢孝俊「わが国の200海里水域の体積は?」『Ocean Newsletter』第123号)

 私は設立したSOF海洋政策研究所の「次長」の辞令はもらいましたが、実際的な運営は秋山会長と寺島所長が行いました。そこで私は、船舶・海事関係のプロジェクトや海外交流基金、技術開発基金、世界海事大学奨学制度の運用に専念することにしました。2002年10月から「海洋フォーラム」が始まり、2004年2月には「海洋白書」が創刊され、海洋問題の周知活動が加速してゆきます。

 もちろん、すべてがこのように順風満帆に進んだわけではありません。当時私が苦労したことの一つに国連のオブザーバー資格取得があります。現在も研究員としてOPRIに参画していただいているジョン・ドーラン氏の助けを借りて、2008年7月に承認されました。また、研究所設立準備の真っ最中の2001年9月に発生したアメリカ同時多発テロ事件の直後に、緊急シンポジウム「海上テロの脅威と危機管理」を企画し、これを開催前日の夕刊で見た某省の高官から「日本にビンラディンはいない!」や「危険を煽るな!!」、「即刻シンポジウムを中止せよ!!!」とこっぴどく怒られたといったエピソード?もあります。(当時は単に怒り心頭でしたが、)政府が出来ないこと、時には意に沿わないことをやる精神もシンクタンクには必要と実感するとともに、若い人たちにも勇気を持って取り組んでもらいたいと願った次第です。

 その後、2005年からはシップ・アンド・オーシャン財団(SOF)は「海洋政策研究財団」との通称を使うことにしてシンクタンク活動が展開します。このシンクタンク草創期の大きな成果は何といっても「海洋基本法」制定(2007年4月)向けての活動でしょう。笹川陽平・日本財団理事長(現日本財団会長)のイニシアティブの元、栗林忠男・慶応義塾大学教授(当時)、来生新・横浜国立大学教授(現放送大学長)、中原裕幸氏(現海洋産業研究会顧問)そして秋山会長と寺島所長のご努力なくしてこの法律は出来上がらなかったと、今以って確信しておりますが、私が主導した取り組みがいくらかでもこれらの方々の活動の支えになったとしたら、これほどの喜びはありません。

参与 工藤 栄介

海のジグソーピース No.197 <海洋問題に関する新刊について> [2020年10月08日(Thu)]

 今年は海洋問題に関する一般向けの書籍が多く出ているように思います。日本周辺海域での海洋安全保障の課題や、サンゴの白化現象や海洋プラスチック問題などの国際的な海洋の持続可能性に係る課題への対応が待ったなしの状況であるためでしょうか。海洋環境問題について、例えば次の3冊があります。

  井田徹治著『追いつめられる海』(4月発行)
  磯辺篤彦著『海洋プラスチックごみ問題の真実』(7月発行)
  山本智之著『温暖化で日本の海に何が起こるのか』(8月発行)

 著者は皆さん、海洋政策研究所(OPRI)の研究会や出版物編集、シンポジウムなどで関わっていただいたことがあり、私にとっても馴染みのある方々です。井田さんと山本さんはマスメディアの第一線で活躍されてきたジャーナリストで、豊富な現場取材に裏打ちされた展開でとても読みやすい書籍になっています。九州大学の磯辺先生の書籍は「マイクロプラスチックの実態と未来予測」というサブタイトルがつけられており、この問題を第一線で牽引する科学者ならではの展開です。いずれも持ち運びやすいサイズとなっており、読書の秋という訳ではないですが、是非、お手に取って頂きたいおすすめの書籍です。

 そして、9月30日に坂元茂樹著『侮ってはならない中国−いま日本の海で何が起きているのか』(信山社)が発行されました。こちらも1000円以内で購入が出来る一般書です。同志社大学の坂元先生は、日本を代表する国際法学者でOPRIが発行する『Ocean Newsletter』の編集代表もつとめていただいています。国際法というと難解と思われる方も多いかと思いますが、「理屈っぽい国際法の議論をできるだけ分かりやすくお伝えしたいと思い執筆した」と記されているように、理系の私でも読み進めることができ、米中のせめぎあいのなかでの日本の立ち位置を考える一助になりました。目次は次のとおりで、南シナ海や東シナ海での状況を踏まえて、日本としていかに対処すべきかを論ずる、とてもタイムリーな一冊となっています。

表紙および目次.jpg
『侮ってはならない中国―いま日本の海で何が起きているのか』表紙および目次

 OPRIでも、一般向けの書籍として秋道智彌先生とともに『海とヒトの関係学』シリーズを発行してきています。今年2月に第3巻『海はだれのものか』を発行し、既にコロナ禍と海洋をテーマとした第4巻の準備を今冬発行予定にて進めています。『海とヒトの関係学』第4巻では、歴史的なヒトとの関係にも着目し、遣唐使(あるいは新羅使)と天然痘や、幕末の開国とコレラといった海を通じた交易と疫病の歴史から順に、現在のコロナ禍と海の関係を紐解いてみたいと考えています。また、コロナ禍と海洋についても、ダイヤモンドプリンセス号のことや、水産・海運への影響について、既にリレーメッセージや『海の論考 OPRI Perspectives』、『Ocean Newsletter』などを通して紹介してきており、PCRテストで使われるDNAポリメラーゼという重要な酵素が海洋生物起源であることなども紹介しています。今後も海洋に興味・関心をお持ちのみなさまにさまざまな情報をお届けしたいと思いますので、ぜひご期待いただければと思います。

海洋政策研究部主任研究員 角田 智彦

Ocean Newsletter No.484 [2020年10月05日(Mon)]
No.484が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●追いつめられる海
(株)共同通信社編集委員◆井田徹治

海水温の上昇や海洋酸性化、酸素濃度の減少やプラスチック汚染、
漁業資源の減少など海の環境は人間活動によって多面的な危機に直面している。
現在の新型コロナウイルスによる危機も、自然環境の破壊が背景に
あるという点で、気候危機や海洋環境の危機と同根である。
各国の巨額の復興投資を持続可能な海洋経済の実現のために投じ、
ブルーでグリーンなリカバリーを実現するべきだ。

●海技者のレベル維持と長期的確保に向けて
福知山公立大学特命教授、海事研究協議会理事◆篠原正人

日本外航海運に乗り組む船員のほとんどがアジアの外国人となっている。
船舶運航の質的要件を満足する船員の長期的確保と、多様な海事産業を
支える陸上での業務の継承者の確保のためには、「日本的価値観とはたらき方」
そして日本語の習得を教育訓練に取り入れるべきである。
●海の民話を語り継ぐ意義
(一社)日本昔ばなし協会代表理事◆沼田心之介

海の民話には、海の学びや備え、危機回避などの海での慣習から、海の恵みに
対する感謝、海への信仰など道徳観念の育成まで、海との関わり方が含まれています。
また、一方でその物語を通して、地域への帰属意識の醸成という役割も担っています。
「海ノ民話のまちプロジェクト」を通して、観光資源としての活用や、企業との
連携や全国的な広がりも視野に入れ、運動化を目指していきたいと思っています。
●編集後記
帝京大学戦略的イノベーション研究センター 客員教授◆窪川かおる


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新刊のご案内 『侮ってはならない中国〜いま日本の海で何が起きているのか』
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Ocean Newsletter編集代表の坂元茂樹先生の新刊をご案内いたします。

南シナ海、東シナ海、尖閣諸島等、海洋強国をめざす中国の海洋進出に対して、
日本としていかに対処すべきか。中国の強引な海洋進出と戦略的行動といった力
による現状変更から、日本の領土と海を守るために、いま日本の海で何が起きて
いるのかを、国際法学の第一人者が、国際法の観点から分かりやすく論じておられます。

著者:坂元 茂樹 (同志社大学教授)
信山社新書
出版年月日:2020/10/05
ISBN: 9784797281040
判型・ページ数A 5変・248ページ
定価:本体880円+税

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【目次】
はしがき
はじめに

◇第一部 南 シ ナ 海◇
◆第一章 中国の海洋進出と「法の支配」
◆第二章 南シナ海における中国の海洋進出
◆第三章 南シナ海における九段線の主張
◆第四章 南シナ海仲裁裁判の開始
◆第五章 管轄権に関する南シナ海仲裁判決
◆第六章 本案に関する南シナ海仲裁判決
◆第七章 深まる米国との対立─南シナ海における航行の自由作戦の展開

◇第二部 東 シ ナ 海◇
◆第一章 いま日本の海で何が起こっているのか
◆第二章 尖閣諸島周辺海域における中国公船の動き
◆第三章 日本のあるべき対応
◆第四章 強まる中国の軍事的圧力
◆第五章 海洋の科学的調査と日本
◆第六章 尖閣諸島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第七章 沖ノ鳥島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第八章 米国の新たな動き─南シナ海および東シナ海制裁法案
◆第九章 侮ってはならない中国 侮らせてはならない日本

おわりに

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