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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピースNo. 221 <G7サミットで採択された「自然協約」と海洋問題> [2021年07月01日(Thu)]

 2021年6月11〜13日、イギリスの港町コーンウォールで主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催され、「G7カービスベイ首脳コミュニケ」が採択され、新型コロナウイルス対策や開発途上国へのワクチン支援などが約束されました。今回のG7サミットはパンデミックが世界的に収束しない中、世界のリーダーにとって久しぶりの対面での国際会議となっただけでなく、海洋関係でも重要な決断が盛り込まれました。今回のサミットでは2030年「自然協約」が合意されました。これは昨年の国連総会で立ち上がった「リーダーによる自然への誓約」を踏まえたもので、2030年までに生物多様性の損失を止めてその流れを反転させることを目指して10年間行動するというものです。特に、協約の中では2050年までに世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「ネット・ゼロ」、そして自然に良い影響をもたらす「ネイチャーポジティブ」の考え方が核となりました。以下、「首脳コミュニケ」および「自然協約」、首脳サミットに先立ち5月20日〜21日にオンライン開催されたG7気候・環境大臣会合コミュニケのコミットメントに触れながら紹介したいと思います。

 まず、「自然協約」では、「世界的な、システム全体の変化が必要とされている。我々の世界は、ネット・ゼロを達成するのみならず、持続可能かつ包摂的な発展を促進することに焦点を当てつつ、人々と地球双方にとって利益となるようなネイチャーポジティブを達成しなければならない。」と、あります。そして、国家のみならず民間企業や地方自治体などすべての主体がその実現に努力すること、その枠組みとして、「ゼロ排出に向けた競走」(Race to Zero)に言及があります。海洋政策研究所もこの取り組みに参加しており、特に海洋・沿岸域で世界的にどのようにゼロ排出を実現するかその道筋を示した「オーシャン・パスウェイ」の作成にも関わりました。

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図1:「ゼロ排出に向けた競走」(Race to Zero)のウェブサイト
(多様な取り組みや参加方法を掲載しています)

 また、「G7気候・環境大臣会合コミュニケ」では、2030年までに世界の陸地の少なくとも30%と世界の海洋の少なくとも30%を保全又は保護することを含む、野心的かつ効果的な生物多様性に関する世界目標に向けて尽力することにコミットするとし、さらに南極海の海洋保護区(MPAs)における保全活動を支持することにも言及しています。これは、G7議長国の英国やイタリアなどが中心となって推進してきた2030年までに世界の海域の30%を保護する「30×30」(サーティ・バイ・サーティ)運動を受けたもので、中国の昆明で今年10月に開催される国連生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP 15)において採択される見込みの「ポスト2020世界生物多様性枠組」の合意事項を先取りするものであり、世界が「30×30」目標に向けて動き出すことが予測されます。現在、日本の海洋保護区は小笠原諸島周辺の海底域を含めて管轄海域の13.3%となっており、この目標値が採択された場合にはさらに大きな努力が求められることとなります。

 さらに、「自然協約」では、プラスチックによる海洋汚染の深刻化に対処する必要性が指摘されており、特に第5回国連環境総会(UNEA-5.2)を含む国連環境総会を通じて、既存の枠組みの強化及び海洋プラスチックごみに対処するための新しい国際条約を策定する選択肢について取り組む、とあります。日本でもプラスチックごみの削減とリサイクルの促進を目的とする「プラスチック資源循環促進法」が6月4日に国会で可決、成立したばかりですが、海洋プラスチックを規制する新しい国際条約の策定がにわかに現実味を帯びています。

 そして、「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する、国連海洋法条約(UNCLOS)の下での新たな野心的で国際的な法的拘束力を有する文書に係る交渉を、可能であれば2021年末までに、完了させるために取り組む」ことが約束されています。この国連におけるいわゆるBBNJに関する交渉は感染症のために中断していますが、交渉そのものも難航しており、政府間の議論がまず再開されることが望ましいと思います。

 これらのコミュニケでは、さらに自然の保護や保全への投資を増やすことの重要性や気候と生物多様性の資金の相乗効果を最大化することなどにも触れています。これらの意欲的なコミットメントがまとめられたのは、議長国のリーダーシップによるところも大きいと思います。今年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の議長国でもある英国の強い意気込みが見て取れます。そして、これらの約束は今後10年をかけて実現され報告されることになっています。今後10年は、昆明で採択される新「生物多様性枠組」の対象期間、2030年に期限を迎える「国連海洋科学の10年」、「国連生態系回復の10年」、「持続可能な開発目標(SDGs)」の実施期間であり極めて重要な10年間になることは間違いありません。引き続き当研究所としてもこれらの目標達成に海洋分野における研究を通じて貢献していきたいと思います。

海洋政策研究部主任研究員 前川 美湖