海のジグソーピース No.199 <ジャパンブルーエコノミー技術研究組合設立と今後の取り組み>
[2020年10月21日(Wed)]
笹川平和財団は、本年7月に設立されたジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下JBE)に組合員として加盟し、活動を開始しています。JBE設立後3カ月の間、その一員として笹川平和財団がどの様な活動を行ってきたのか、今後JBEの中でどの様な役割を担っていくのか、今回のブログではJBEの目指す方向性とともに解説したいと思います。
【JBE設立および情報発信】
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の「技術研究組合」というのは、経済産業省の説明によると「複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づいて、大臣認可により設置される法人であり、単独では解決できない課題を克服し、技術の実用化を目指す組織」です。法人格を有する大臣認可法人として活動し、組合から株式会社等へのスムーズな移行が可能であること等がメリットとされています。2019年12月1日時点で58の技術研究組合が存在し、うち46は経済産業省が所管しています。JBEは2020年7月14日付けで主務大臣である国土交通大臣の認可を受け、登記を経て7月15日に設立しました。国土交通省が配信したプレスリリースでも紹介されていましたが、ブルーカーボン(海洋生物によって大気中のCO2が取り込まれ、海洋生態系内に貯留された炭素)をはじめとする海の持つ環境価値を対象とした技術研究組合は、本邦初となります。
JBE設立後は、7月28日に設立に関するプレスリリースを笹川平和財団海洋政策研究所と港湾空港技術研究所がそれぞれ公開し、7月31日には笹川平和財団ビルで記者会見を行い、組合員である国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の栗山善昭理事長、笹川平和財団の角南篤理事長、JBEの桑江朝比呂(ともひろ)理事長、JBE理事の筆者が登壇し、ご参加いただいた記者の皆さんにJBEの目的や各組織からの貢献に向けた抱負をご説明しました。9月10日には海洋政策研究所が開催する第174回海洋フォーラムにおいて、「ブルーカーボン生態系の持つ環境価値の持続可能な利用に向けて」と題した講演会をライブ配信しました。フォーラムではJBEの桑江理事長によるご講演に加え、理事の信時正人氏(国立大学法人神戸大学客員教授)、顧問の刑部真弘氏((国立大学法人東京海洋大学大学院 教授)に筆者を交えたパネルディスカッションを展開しました。関東地方以外にも香川県や新潟県、大阪府からもライブでご視聴いただき、2020年10月5日現在で1,800を超える人にアクセスいただいています。10月5日には日経地方創生フォーラム「地方創生〜アフターコロナの新しい形〜」において、「ブルーカーボンが実現する地方創生」というセッションを開催し、横浜市、阪南市、備前市からのブルーカーボンを利用した地域づくりを紹介してもらうとともに、JBEの目的と今後の活動への期待を理事一同が述べました。このように現在まではJBEの設立や目的を積極的に情報発信しながら、水面下では様々な検討を重ねて来ています。
【JBEの活動と海洋政策研究所の役割】
JBEでは@科学的方法論(環境価値の定量的評価)、A経済的方法論(新たな資金メカニズム導入)、B技術的方法論(環境価値の創造と増殖)、C社会的方法論(社会的コンセンサス形成)、という4つの方法論を有機的に連関させ(図1)、相互の研究成果を参照しながら一体として研究を進めていきます。
ブルーカーボンに関して考えてみると、@の科学的方法論というのは例えばある海草藻場が持つ温暖化抑制、食料供給、種の保全、観光・レクリエーション利用等の環境価値を定量的に示し、可視化して示すことです(岡田知也・三戸勇吾・桑江朝比呂編著「沿岸域における環境価値の定量化ハンドブック」(生物研究社、2020年)で詳しく紹介されています)。Aの経済的方法論としては、@で定量的に評価された環境価値をベースに、例えば取引可能なカーボン・オフセット制度を作り市場形成するために必要な制度設計を考えたり、あるいは温暖化抑制価値以外の価値も含めたりする形で、企業等から環境価値に対する投資を呼び込むための研究を進めることが考えられます。Bの技術的方法論は、港湾内の構造物により多くの二酸化炭素を吸収させる技術や、海洋の新たな吸収源を発掘し保全、再生するようなブルーカーボンの質・量を高めることに取り組みます。Cの社会的方法論では、@で環境価値を評価し、Bでブルーカーボンの質・量を高めようとしている対象地域や構造物において、漁業者や海運業者、観光業者、地域住民といった直接、間接に同じ海洋空間を利用する人たちとの間で利害を調整し、お互いがメリットを享受できるような仕組みを考えることになります。
海洋政策研究所は主にAやCを分担します。様々なパートナーとの連携により社会実装可能な金銭的メカニズムに関する制度設計を研究し、今までに構築してきた沿岸自治体との関係も活かして社会的コンセンサス形成に必要な検討を進める所存です。また国際連携の部分でも、海洋政策研究所はInternational Partnership for Blue Carbonに加盟し、ブルーカーボンを政策として主流化することを目指す国や団体との交流を通じ、JBEの取り組みを共有するとともに、海外の優良事例や制度設計に関する情報収集を進め、ひいては日本のブルーカーボンに関する技術を海外に輸出する可能性について議論を主導できればと考えています。今後、具体の成果を報告できるよう、メンバーの一員として実践的な研究を進めていきたいと思います。
海洋政策研究部主任研究員(JBE理事) 渡邉 敦