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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.114 <自然災害のトレンド―小島嶼開発途上国が気候変動自然災害における脆弱性> [2019年01月23日(Wed)]

 「災害は、“危機”(Hazard)がある “場所”(Exposure)に“脆弱”(Vulnerability)と出会うことで起こる」(B. Wisner, P. Blaikie, T. Cannon, and I. Davis(2004))

 人的被害、経済的被害、環境に対する被害の規模を最終的に決定づけるのは、被害者を支援し、災害拡大を抑えるための人員数や災害からの回復力の大きさに依存します。「ナチュラル・ハザード」とは、大気学や地質学、水文学的な要因で、太陽系や地球、地域、国家あるいは地方といった規模の範囲を急速または緩慢に襲う事象により引き起こされ、自然に発生する物理的現象を指します。このナチュラル・ハザードを原因とする災害には、地震、火山噴火、地すべり、津波、洪水、干ばつが含まれますが、これらは社会の持続可能性や経済的・社会的発展にも大きな影響を与え得るものです。

 世界最大級の自然災害データーベースであるEM-DATによると、2000年〜2018年にかけて、毎年約2億人が被災にあっているという数字が示されています。自然災害による経済的損失は年間平均1200億ドルを超え、これらの影響とその犠牲者や死亡者の大半は発展途上国に集中しています。

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【図1】2000年〜2018年に発生した自然災害の犠牲者数
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【図2】2000年〜2018年に発生した自然災害の経済損失
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 2010年以来、自然災害による死亡人数が低下していますが【図1】、経済損失は増加傾向にあります【図2】。犠牲者が多く発生した災害の類型によると、地震・津波災害は一番多く、2004年のスマトラ地震・津波(25万人)、2005年のパキスタン地震(7万人)、2008年の四川地震(8万人)、2010年のハイチ地震(22万人)と2011年の東日本大震災(1.5万人)などが挙げられています。一方、経済損失では、2008年の四川地震(85億米ドル)と2011年の東日本大震災(210億米ドル)が多く見積もられ、気候変動や津波・高潮などによる自然災害は主に経済損失への影響が高くなっています。特に、1980年以来の自然災害の人的・経済的損失と見ると、被害が2000年以降に最も高い割合で発生していることが分かります。また、2017年は気候変動や津波・高潮などによる災害損失は290億米ドルに至り、自然災害全体の9割以上を占めています。

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【図3】2000年〜2018年の自然災害の発生回数
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 さて、【図3】の災害発生回数と見ると、気候変動や津波・高潮などの自然災害の発生頻度も多く、2000年以降、平均して毎年およそ300回以上発生しています。これらの自然災害は、長年の開発・発展、あるいはまちづくり、村づくりへの努力を一瞬で水泡に帰してしまうものです。気象災害(台風、暴風雨など)による人的被害は、2008年にミャンマーを襲ったサイクロンでは、15万人以上が犠牲となりました。このような自然災害による発展途上島嶼国(SIDS:Small Island Developing Countries)の経済損失はSIDS各国のGDPの8%も占めており、世界平均の0.12%、G7各国の0.01%比べると、極めて深刻な問題となっています。自然災害は必ず発生することは事実ですが、持続可能な開発に対する脅威でもあります。自然災害は全く他人事ではありません。東日本大震災もタイの洪水も、世界全体のサプライチェーンの分断など見られるように、人々の生命や暮らしに深刻な影響を及ぼすものです。

 2012年に日本で行われた世界銀行総会にて報告された減災の効果に関する試算によると、防災に関する取り組みに1ドルの投資を行うと、7ドル分の被害を抑制することが可能だそうです。即ち、防災は7倍の利益を生む効果的な投資なのです。【図4】を見ると、特にSIDS諸国における自然災害ファイナンシングに対する発展が期待されています。このため、災害アセスメント、救援、そして強靭化(Resilience)の研究能力向上は不可欠な取り組みです。さらにはインフラ、そしてシステムの強化、科学技術の投資、産業、生活など持続可能な発展により、先進国が持つ知見や技術を最大限に活用することで強靱な社会の構築に向けたこの国際社会と現地の努力を導き出すことが期待できます。

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【図4】世界平均とSIDS各国の災害影響の比較(EM-DATの資料より著者が作成)
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 災害リスクの3大要素の中でも、自然災害(hazard)の発生を止めること、若しくは被災されること(exposure)を抑えることが重要ですが、大規模の移転は現実的に不可能であり、一番実現的な対策としては脆弱(Vulnerability)を削減することとなります。つまり、災害に強い能力(Capacity)を構築すること、そしてそれを支援する技術を軸とした科学技術外交の推進が必要であると考えます。

 災害は必ず発生するものですが、被害を抑える一番の方法は社会全体の投資により良いサイクルを促進し、安心安全だけでなく持続可能な発展ができる社会を構築することではないでしょうか。

海洋政策研究部 黄 俊揚