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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピースNo. 237 <北極サークルアセンブリー in アイスランド> [2022年04月13日(Wed)]

 昨年、2021年10月13日から10月16日にアイスランドのレイキャビックで開催された北極サークルアセンブリー(Arctic Circle Assembly)に参加をする機会を得ました。

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北極サークルアセンブリー会場の様子

 「北極サークル」は、アイスランド共和国のオラフル・ラグナル・グリムソン前大統領の提唱で2013年に始まった北極の諸問題、特に北極域の政治、環境、人々の生活、先住民の文化等について積極的に議論する世界最大級の国際会議です。アイスランドに到着して驚いたのは、街中の人々がマスクをせずに、コロナ前の生活を送っていたことです!総会にもコロナ禍の最中とはいえ、ハイレベル政府関係者、研究者、ビジネス関係者など1,400人ほどが対面で集まり議論が交わされました。

 アセンブリーでは、北極圏国・非北極国の代表が様々なスピーチを行いました。その内容について米露仏韓の代表の発言を要約すると以下の通りでした。

マコウスキー米上院議員
・過去、議会議員であれ、政権であれ、米国のほとんどの人は北極に関心を抱いていなかったが、現在米国国内における北極への関心は非常に高まりつつある
・米国の新たな砕氷船の建造が開始された
・グリーンランドのヌークに総領事館を開設した
*現在、グリーンランドの氷が地球温暖化の影響で融け始めていることにより、石炭や亜鉛、銅、鉄鋼といった天然資源の採掘が可能となってきている。アメリカはトランプ前大統領がグリーンランドへの関心を表明して以降、投資を拡大している。
・米国北極域における水深の確保された港の建設や、ブロードバンドの敷設、水や衛生設備などの基本的なインフラの整備を進めている
・米国にとって重要な外交的役割を果たすことを期待し、国務次官補(北極担当のポストの設置を提案している
・アイスランドとの自由貿易協定を締結するために動き出している

コルチュノフ 露北極担当大使
・ロシアは持続可能な開発と社会的・経済的・環境的側面のバランスを慎重に取ることを最重要視している
・北極圏の先住民の言語的・文化的遺産を活用するプロジェクトを開始した
・ロシアは議長国として北極評議会の強化を目指す
・通信の発展やグリーンエネルギーに関する会議を開催する予定
・北極域における建設的な協力を促進し、平和と安定を維持し、持続可能な開発のための責任あるガバナンスを確保する

ダルヴォール 極域・海洋問題担当大使(フランス)
・フランスの北極政策を一言で表すとしたら、科学、科学、そして科学である
・主に科学者を通じて北極域に関与しており、ほぼすべての北極圏国にて研究活動を行っている
・北極と南極の両方を網羅する初の包括的な国家政策を起草し、既にマクロン大統領に提出している
・その研究活動拠点の中心はブレストである
・デンマークやグリーンランド政府と緊密な協力関係を構築している
・次回ASM4はロシアとフランスが2023年に共催する

崔鍾文 韓国外交部第二次官
・韓国は国際社会の責任ある一員として、北極の環境と人に貢献する活動に全面的に取り組んでいる
・韓国は北極圏国との二か国間対話を継続して行っており、また日中ともハイレベル対話を行っている
・2021年10月には「極域活動推進法」が可決された
・新たな調査用砕氷船を建造し、北極海の高緯度地域で、より大規模な国際共同研究や探査を行うことを計画している(2027年の完成を目指している)
・水素エネルギーを用いる、完全自律型の通年の北極基地の設置を目指している(ロシア主導のスノーフレーク・プロジェクトへも参加)

 コロナ渦の最中とはいえ、北極圏国からのみならず非北極国からも多くの人々がアセンブリーに参加をしており、北極域への関心の高さを感じました。今回のアセンブリーでは、現在、各国がグリーンランドに注目していることが伺え、マコウスキー米上院議員が「アメリカがヌークに総領事館を開設した」ことを強調する等、積極的な発言がありました。現在グリーンランドでは鉱物資源開発が進んでおり、それを見据えての発言であると思われます。また、ロシアが北極海航路の利用を拡大すると発言する一方で、シンケビチュウス欧州委員より「北極海航路における重油使用量の削減を促進する」との発言がある等、各国の政策の差異も見られました。

 また、先住民によるセッションも多くみられたことが印象的でした。中でも、10代、20代の先住民のスピーカーが、自分たちが伝統的な文化を維持しながら、よりよい生活を営んでいくためには何が必要なのかを討論し、大きな注目を集めました。また、「Through a Reindeer Herder’s Eyes (2018)」といった映像も会場で上映されました。

 笹川平和財団海洋政策研究所と北極サークルは、来年2023年に「北極サークル日本フォーラム」を共催することを計画しており、アセンブリーで正式に開催のアナウンスメントを行いました。フォーラムの詳細について、北極サークルよりもうすぐ告知がありますので、ご関心がある方は是非ご参加下さい!

海洋政策研究部 幡谷 咲子

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