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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピースNo. 235 <イリオモテヤマネコと海ごみ問題から考える「森と海のつながり」> [2022年03月01日(Tue)]

 つい先日、ある調査の一環で、西表野生生物保護センター(環境省西表自然保護官事務所)のレンジャーの竹中康進さんにオンラインでインタビューをさせていただく機会がありました。実は海洋政策研究所に入る前になりますが、私は石垣島にある自然保護官事務所で2年間勤務していたことがあり、その際に西表野生生物保護センターにもよくお邪魔していましたので、当時のことを懐かしく思いながら、大変楽しくお話を伺いました。

 皆様もご存じの通り、西表島には「イリオモテヤマネコ」という世界中で西表島にしか生息していない貴重なヤマネコがいて、絶滅危惧種に指定されています。生息数は2007年の時点で約100頭と推定されていますが、交通事故などによりその生息が危ぶまれています。イリオモテヤマネコを目撃するのは難しく、島民でも野生のイリオモテヤマネコはなかなか見ることができませんが、自動カメラの映像や糞の分析からその生態などが分かっています。

 西表野生生物保護センターは様々な業務を行っています。中でも最も重要な仕事がこのイリオモテヤマネコの保護活動です。島内の道路には、ヤマネコやその他の野生動物が道路を横断する際に交通事故にあうのを防ぐため、道路の下をくぐって移動できるよう野生生物用のトンネル(アンダーパス)がなんと123か所も設置されています。このアンダーパスがゴミなどでふさがってしまうとヤマネコが通れなくなってしまうため、環境省やボランティアの方々などが定期的に清掃を行っています。また、同センターでは、西表島北部のユチン川の河口付近の海岸の漂着ごみの清掃も年1回程度行っています。これは、地域の団体と協力して行いますが、トン袋で何袋もの大量のプラスチックごみを回収し、バケツリレー方式で近くの道路まで運び上げる大変な作業だそうです。

 このような砂浜に打ち上げられた大量のプラスチックごみ―中には漁網やロープなどの漁具も多く含まれています―は、潮の満ち引きや台風の際の強風などの作用で、時間が経つとマングローブ林やアダンなどの木からなる海岸林の奥へ奥へと入り込んでいき、回収が非常に困難になります。竹中さんのお話では、こうしたプラスチックごみがイリオモテヤマネコの生息地に入ることで、その生息にも影響が出る可能性があるのではとのことでした。

 「森と海のつながり」と言うと、我々海の専門家は、例えば上流で木を伐採すると土砂が海に流れ込んだり、「魚付き林」と言われるように森からの栄養素が海の生き物をはぐくんだりなど、「森→海」の関係に注目しがちですが、このヤマネコの例のように、逆に「海→森」のつながりもあるのだということを改めて考えさせられます。考えてみれば、他にも鮭が川を遡上して森の生物の栄養源になるなど、「海→森」のつながりは様々な例があると思います。しかし、海岸に落ちているごみを見てそれがイルカやウミガメ、海鳥などに影響を与えることは想像できても、ヤマネコのような森林に住む生き物にまで影響を与えるとはなかなか想像が及ばないのではないでしょうか。改めて、自然というものの複雑性を認識し、そして色々な角度から物事を考えることが大切だと実感しました。

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野生のイリオモテヤマネコ(提供:西表野生生物保護センター)

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海岸近くの漂着ごみ(提供:西表野生生物保護センター)

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漂着ごみの回収作業の様子(提供:西表野生生物保護センター)

海洋政策研究部 豊島 淳子

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