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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピースNo. 232 <函館市の水産業の現状と新たな取り組みの紹介> [2021年12月23日(Thu)]

 世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大、漁業者の高齢化、地球温暖化による海洋環境の変化等が要因となって日本の漁獲量は全国的に減少傾向にあります。このような状況を打破するために、今後水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させるような新たな取り組みを行う必要があります。

 今回はそのような地域の事例として、日本を代表する水産都市である北海道函館市のイカ釣り漁業、昆布漁業の現状、新たに取り組まれる予定のキングサーモンの養殖事業、そして今後新たに考えられる水産業の振興策についてご紹介したいと思います。

 まず、スルメイカ漁業についてですが、函館市ではイカ釣り漁師の廃業が続くなど、厳しい状況が続いています。廃業の主な理由は後継者不足とイカの漁獲量の不安定化です。また、最近では、燃料費の高騰も大きな課題です。前浜でのイカ釣り1回で、ドラム缶4〜5本の重油を使用します。昨今の油代の値上げでドラム缶1本およそ2万円かかるため、経営に大きく響いています。集魚灯の電気量を抑えるためにLEDの導入も検討したそうですが、以前ほどの集魚効果がなかったために元通り白熱灯を使用している漁業者が多いそうです。

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写真1:函館漁港の船入澗防波堤とイカ釣り漁船

 次に昆布漁業ですが、こちらも状況は芳しくありません。函館市では主に真昆布やガゴメ昆布が漁獲されますが、昆布の生産量は減少傾向にあります。理由は経済的な課題と環境的な課題があります。まず経済的な側面として、昆布は収穫作業に時間と燃料費がかかる一方で市場での価格が低いため、漁業者にとって漁獲するインセンティブが少なく、漁獲量がなかなか増えません。また、環境の側面では、昆布の生産量が減ってしまう要因として水温の変化、食害等があります。気候変動の影響で水温が上昇したため、函館市の天然昆布の分布が変化したり生存率が下がったりしています。加えて、水温の上昇によってアワビ、ウニといった昆布を食べてしまう生き物の活動が活発化したため、食害が増えています。既に昆布の移植用幼体を培養して、海中のモニュメントに植え付けて藻場を造成する技術はあります。しかし、上記の要因に対して頑健な昆布はまだできていないので、昆布を増やすまでには至っていません。

 漁獲された昆布は加工され、様々な食品として販売され、函館市に一定の経済効果をもたらします(写真2および3)。しかし、コストの問題から昆布を乾燥させるのに効率の良くない機械を使ったままだったり、昆布の生産・流通量が上記の理由から不安定だったり、コロナで百貨店での販売がなくなったことなどを受けて、思ったように昆布の加工食品を生産・販売できなくなっています。

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写真2(左):函館空港のレストランで提供されているがごめ昆布が入ったラーメン。
写真3(右):函館梶原商店で店頭販売されている様々な昆布加工食品

 以上のようにイカ、昆布ともに生産量が減少している函館市では、地域の漁業を支えるために新たな取り組みが必要になります。実際に函館市では令和3年度から10年度までキングサーモン(天然マスノスケ)の完全養殖技術に関する研究を推進しています。まずは浮沈式生け簀を使った海面養殖でキングサーモンの種苗生産を行い、その後陸上での完全養殖を行う予定です。このような取り組み以外にも我々は、イカの高鮮度・高付加価値化、昆布の新しい乾燥機械の導入による生産の効率化、そして天然昆布を保護し二酸化炭素の吸収源としてクレジット化するなどの取り組みが、函館市の漁業を支えるために役に立つのではないかと思います。今後は理論面だけでなく、実証面でも持続可能な海洋経済の構築に貢献できるように引き続き事例研究を邁進します。

海洋政策研究部 田中 元

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