海のジグソーピースNo. 228 <海洋を巡るパラオ・ウィプス新政権の課題と展望>
[2021年10月20日(Wed)]
今月10月3日(日)に成田を出て日付が変わる深夜、パラオの空港に降り立ちました。コロナ禍後初めてとなる1年8か月ぶりの出張です。パラオ到着後の簡易検査時に左手首に青のビニールのリストバンドを付けられ、5日目のPCR検査で陰性が確認された結果、ようやくリストバンドを外すことができました。そして、10月12日(火)にスランゲル・ウィプス Jr.大統領と執務室で懇談を行いました。
オンラインの会議で挨拶をさせてもらったことがあったものの、ウィプス大統領とお会いするのは初めてで、背が高く、機転が利いて、実務的との印象を受けました。53歳、アメリカで生まれ、教育を受け、小売りや建設といった実父の事業を兄弟3人で受け継いで展開する実業家といった経歴からも頷けます。先月末にニューヨークの国連総会で演説を行い、前の週に帰国したばかり。今回の懇談では、来年2月にパラオが開催する「私たちの海洋会議(Our Ocean Conference)」の準備、海洋政策研究所との連携、海洋や沿岸環境保全等に関する日・パラオ連携等について意見交換を行いました。ウィプス大統領は11月にイギリス・グラスゴーで開催される気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に出席を予定していて、その往路ワシントンDCに立ち寄る予定だといいます。3度目の訪米を控える一方、大統領就任後、未だ訪日が実現していないウィプス大統領は、早期に訪日が実現すること願っていると話していました。
来年2月に開催が予定されているパラオでの「私たちの海洋会議」にはアメリカのジョン・ケリー大統領気候変動特使も出席を予定していますが、COP26への参加も予定しています。また、アメリカのバイデン大統領もCOP26に出席するとの報道がなされています。パラオは気候変動問題と密接に関係しています。10月初旬に長雨と豪雨が続いたパラオでは、先週10月11日、「気候変動がパラオを猛襲」との見出しと共に土砂崩れや道路の陥没、冠水の写真がパラオの地元の週刊新聞に掲載されました。
現在パラオには、アメリカ海軍の遠征高速輸送艦「シティ・オブ・ビスマーク」が停泊しており、100人とも300人とも言われる乗組員が、パラオの飲食店に多少の活気をもたらしています。他方、今年夏に海上自衛隊の護衛艦「かが」を含む3隻がパラオに寄港した際には日本の感染予防策の理由で乗組員はパラオに上陸しなかったとのことでした。また、パラオ南部のアンガウル島では老朽化していた滑走路の改修に併せて、米軍関係者用の住宅などの整備が進んでいるとも聞くことができました。
10月14日(金)には、日本財団の支援で改装されたニッポン・アサヒ野球場でのナイトゲームを観戦しました。現地の人は「メジャー・リーグ」と呼んで、8チームが「パラオ・メジャー・リーグ(PML)」と刻印された公式野球を行っています。「Ishkawa」や「Inawo」と日本の選手を彷彿させるような名前を背番号の上に記した若者もいました。あわやホームランという大ファールには「オシイ」の声。野球はアメリカ生まれでも、野球用語には日本語がたくさん残っているといいます。前日の雨で順延された当日の試合では、ホームランが飛び出し9対0の5回表、あと1点でコールド勝ちという勢いでスタンドが盛り上がる中で、突然の停電。30分たっても電気が戻らずノーゲーム、再試合となってしまいました。
日本と歴史を共にし、日本の文化を色濃く残すパラオ。理想と現実を見据えて、日・パラオの連携を進め、持続可能な海洋の実現に向けて両国、そして海洋政策研究所が牽引的な役割を果たしていくことを願っています。
海洋政策研究部主任研究員 小林 正典