海のジグソーピース No.220 <北極の今について>
[2021年06月16日(Wed)]
現在、寒い北極を舞台に熱い議論が交わされています。
北極域は地球温暖化の影響を非常に大きく受けており、北極海の海氷が急速に減少しつつあります。一方、氷の融解に伴い、北極海航路や鉱物/生物資源の開発が現実化してきています。そのような北極における持続可能な開発,環境保護といった共通の諸課題につき、北極圏国 の間で協力、調整と相互作用を促進する手段を提供するための高級レベルのフォーラムである、「北極評議会(Arctic Council)」という組織があります。北極評議会は、北緯66度33分以北の北極圏に領土をもつ8ヵ国(米国、ロシア、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンがメンバー国)により1996年に設立されました。
先月、北極評議会に大きな動きがありました。第12回北極評議会閣僚会合がアイスランドにおいて開催され、北極評議会の議長がアイスランドからロシアへと交代しました。今後はロシアのイニシアティブの下で北極評議会は活動を継続していくことになります(2023年まで)。ロシアは議長国を務める期間、先住民を含む北極圏の人々(の健康、教育、生活の質の向上、そして持続可能な社会の確保等)、気候変動を含む環境保護、社会経済開発、北極評議会の強化、を優先課題とすると発表しました。ちなみに、前議長国であるアイスランドは、北極域の海洋環境、気候とグリーンエネルギー、北極域の人々とコミュニティ、北極評議会の強化を優先課題としていました。
また、北極評議会そのものにも組織的な変化が近年見られました。大きな変化の一つに北極評議会常設事務局の設置が挙げられます。事務局の主要な機能は、評議会の行政的支援と連絡・アウトリーチ活動であり、北極評議会の活動が円滑に行われるようサポートをしています。加えて、北極評議会ではより強いトップダウンの舵取りが行われるようになるなど、首尾一貫した明確な意思を有する組織へと変化してきています。
日本は、2013年スウェーデンのキルナで開催された第8回閣僚会合においてオブザーバー資格が承認され、それ以降北極評議会で開催される会合に出席をしています。笹川平和財団海洋政策研究所も北極事業に力を入れており、今年4月には日露北極セミナー(クローズド)をロシア連邦極東・北極圏発展省と、5月には日本フォーラムプレリュードをアイスランドの北極サークル事務局と共同で開催しました。プレリュードの映像はYouTubeでご覧いただけます。北極海航路の利用など、日本の北極域における活動は今後活発化すると見込まれており、北極国、北極評議会の活動・変化に引き続き注目していく必要があります。
海洋政策研究部 幡谷 咲子