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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.179 <南太平洋ツバル 気候変動とサンゴ礁の危機> [2020年05月27日(Wed)]

 南太平洋のツバルは、気候変動、特に海面上昇の危機に直面するシンボル的なサンゴ環礁です。中央のラグーンを取り囲んで環のように連なる環礁島は、サンゴの礫や有孔虫(ホシズナ)の砂が堆積して形成され、標高1-4mと大変低くなっています。島が維持されるためには定期的な礫の供給が必要で、ラグーンでの健全なサンゴ礁の維持が欠かせません。しかし近年、人口増加による汚染でサンゴ礁が劣化する報告が増えています。ツバルでも首都フォンガファレ島の狭いエリアに人口6,000人が暮らし、ほぼ全ての食料・生活用品を輸入に頼っており、生活排水や廃棄物の問題が深刻さを増しています。

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ツバル環礁 プロペラ機からの遠景(著者撮影)

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芝状藻類に仮足で密着して生息する有孔虫(白い粒)、遺骸(殻)がホシズナとなる
(著者撮影)

 これまでツバルの気候変動・海面上昇の対策研究や支援に、日本は大きく関わってきました。2008–2013年度にJST-JICA SATREPS事業「海面上昇に対するツバル国の生態工学的維持」が実施され、それを受けて2015–2017年にはJICAの支援によりフォンガファレビーチの養浜が行われました。このSATREPS事業ではハマサンゴの骨格年輪のボーリング調査も行われました(2009年3月)。ラグーンへの人為汚染のタイミングとプロセスを解明する目的で、長期ロガーとしてのサンゴ年輪の分析が進められました。水質モニタリングの長期データが存在しないツバルにおいて、過去の環境を調べる有効な手法です。私は以前よりこの研究に関わり、最終結果をようやくまとめ、つい最近論文が公表されました(1)。これまで気候変動の復元に主眼がおかれていたサンゴの年輪研究ですが、環境汚染についても詳細に記録をさかのぼることができる点で、多くの方々に紹介されました(2、3)。

 フォンガファレ島の70年間のサンゴ年輪はその最上部に、通常では見られない黒色バンドが見られました。黒色物は、硫化鉄がサンゴ骨格の炭酸塩結晶中に沈殿しており、海底堆積物に見られる黒色還元層と同様の成因であることが分かりました。年輪の黒色バンドは、嫌気性バクテリアによる硫酸還元(無酸素状態:Anoxic)が1990年代から季節的に発生し、サンゴが斃死(へいし=大規模死)して藻場に変わってしまう生態系の劣化が生じたことを示していました。ラグーンでの重金属類や硫酸還元を招く富栄養化は、廃棄物や生活排水を起源とし、サンゴが人為影響を記録していたことになります。(詳しくはこちら

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フォンガファレ島のハマサンゴ年輪、1990年代から黒色バンドが混入する.
(Nakamura et al (2020) Fig.1より改変)

 サンゴのボーリング調査から10年が経過した今年1月、ツバル環礁を訪問して様子を見るチャンスに恵まれました。今回の調査ではフォンガファレ島のラグーンではすでにサンゴが姿を消し、大型褐藻(Sargassum polycystum)の森と化している実態が明らかとなりました。またせっかくJICAが養浜したビーチはサイクロンの影響なのか、砂と礫の一部が流出しているように見えました。陸上ではフォンガファレ北端のゴミ集積場で、新たな大量のゴミが山積みとなっています。NZの支援によりそのゴミ山の一部が土で埋め立てられ、広く平らな土地が拡大していました。

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フォンガファレ島のゴミ集積場(著者撮影)

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褐藻の森へと姿を変えたラグーン、立ち枯れた枝サンゴを拾う
(渡邊敦OPRI主任研究員撮影)

最近のツバルは埋め立てブームで、2019年8月にツバルが主催して開催した太平洋諸島フォーラムの会議場とゲストハウスの建設地も海岸の大規模な埋め立てです。環礁での土地の拡大は、ツバルの人々にとって相当のインパクトがあったそうで、その後フォンガファレ海岸全体の埋め立て計画がGCF(Green Climate Fund)とツバル政府とのプロジェクトT-CAP(Tuvalu Coastal Adaptation Project)として立てられています。直立護岸の耐久性や、埋め立て用の砂を近場のラグーン底から浚渫することによる水質悪化も懸念されます。

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会議場建設の埋め立て地とラグーン内の藻場(著者撮影)

 近年のサイクロン強化により環礁の浸食被害は激しくなっているとみられます。私たちが帰国した翌週にもツバルはサイクロンTinoに見舞われ、被害が大きく国家非常事態宣言が出されました。そこに暮らす人々が目に見える形の短期的な沿岸補強策(埋め立て)を望むのは当然かもしれません。一方、長期的には海面上昇に対する環礁島の本来のレジリエンス(復元力)を取り戻すために、サンゴ礁生態系の修復も必要です。ローカルな環境修復とグローバルな環境変化への適応が一致した政策や支援の策定が望まれます。

(1) Nakamura, N., Kayanne, H., Takahashi, Y. et al. Anthropogenic Anoxic History of the Tuvalu Atoll Recorded as Annual Black Bands in Coral. Sci Rep 10, 7338 (2020).
(2) Nakamura, N., BEHIND THE PAPER, Anthropogenic Anoxic Black Bands in Tuvalu Coral, Nature Ecology & Evolution Community (2020.5.1).
(3) 東京大学、 ツバルのサンゴが記録していたサンゴ礁劣化の歴史 サンゴ骨格年輪に黒色バンドとして記録された無酸素環境 UTokyo FOCUS

海洋政策研究部 中村 修子

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