海のジグソーピース No.162 <海のSociety 5.0>
[2020年01月15日(Wed)]
オリンピックイヤーの2020年となりました。なんとなく語呂がよい数字です。XXXX 2.0というと1.0からのバージョンアップ感があって、未来を予感させる数字の並びです。
最近ではSociety 5.0という言葉がよく使われます。内閣府が取りまとめた第5期科学技術基本計画(平成28〜平成32年度)で定義されていますが、社会の発展バージョンを示した数字で、狩猟社会がソサイアテイ1.0、農耕社会が2.0、工業社会が3.0、情報社会が4.0だそうです。5.0というのはさしずめ情報活用社会といったところでしょうか。スマホ、パソコン、監視カメラなどあらゆる端末からあつめられた社会と個人の情報は、マーケティングや、防災や、交通の最適化や、未来予測に使われています。
翻って、海のSocietyはバージョンいくつでしょう。漁船漁業は狩猟産業ですから1.0、養殖業は農耕に似ていますので2.0でしょうか。海運や洋上風力発電所は3.0くらいとおもわれます。もちろん、その制御や観測に衛星を含むさまざまなセンサーが組み合わされて最適化の努力はなされていますが、海の中に情報ネットワークが張り巡らされ、時々刻々とその様子が見えているわけではありません。海はまだSociety 1〜3といえそうです。海中にはスマホも監視カメラもありません。海中から自動的に集まる情報は、とても限られています。電磁波も光も透過しない海水中では、いまの情報化社会を支える電子技術のほとんどが役立ちません。
見えないものは人々の意識から遠ざかり、存在しないものになってしまいます。単に見えなかったために、海が高度情報化社会から取り残されてしまっているのです。
もしアマゾンの熱帯雨林の空の上から巨大な網が下りてきて、野生生物を根こそぎ獲ったら大問題です。東京の上空300mで飛行機がひっきりなしに飛び交って騒音をまき散らしたら誰もだまっていないでしょう。空からプラスチックのゴミがどんどんと降ってきたら、とてもこまります。空を海に置き換えれば、これはまさに私たちが海に対して行っていることです。底引き網が海底の生態系にあたえる影響を正確に見積もるのは困難ですが、漁獲量が減っているのは事実です。船舶が走り回り、海底資源探査のためのエアガンが広い範囲で運用されていれば、騒音が海中の広範囲に広がっているはずです。海中に没してしまったスーパーの袋は、やがてこなごなになって海洋に拡散し、一部は生物の体内にとりこまれます。
いま私たちはこうした問題が存在すると知っています。しかし、その要因が今どこにどれだけあって、どのようなインパクトを与えているかは議論の最中です。健全な海を200年後の子孫たちに引き継ぐためには、現在の海の姿を見えるようにし、予測や評価を行なわなければなりません。影響が軽微であればよいですが、重大な影響があればお金をかけて対処すべきです。そこには、あたらしい価値やマーケットが生まれ、これまでになかった産業がおこるかもしれません。水産資源や汚染物質や海洋の生物多様性を可視化する海の情報プラットフォーマーのような産業が、日本から生まれないでしょうか。
2020年1月より、ご縁あって海洋政策研究所にお世話になっております。最初に与えられた仕事は「海の可視化」です。海をSociety 5.0に近づけ、善き未来を次の世代に引き継ぐために知恵を絞ります。これからみなさまのところにも、いろいろなご相談にまいります。どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。
海洋政策研究部長 赤松 友成