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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No. 14 <「温暖化・海洋酸性化の影響と対策に関する国際会議」の開催に向けて> [2017年01月18日(Wed)]

 1990年代、「地球温暖化」という言葉がようやく市民権を得つつあった時代に新しく東京大学大学院に設置された、気候システム研究センターという研究所に飛び込んで気候変動と海洋循環の研究をしました。20年以上前の話です。

 その後民間企業に入り、システム開発や政策調査に従事することが多く、この分野から遠ざかっておりましたが、一昨年(2015年)9月に財団に入ると同時に「温暖化と海洋酸性化の研究と対策」事業の取組みを開始しました。この分野に戻ってみると、昔の仲間が日本の第一線で活躍していて、その仲間の手を借りながら事業を進めています。

 従来と異なるのは、「海洋酸性化」という新たな課題への対応が必要となっていることです。「海洋酸性化」は、一般的に弱アルカリ性(pH=約8.1)である海洋に、この二酸化炭素が多く溶け込むことでpHが下がる(酸性化する)現象のことを示します。大気中の二酸化炭素が増加すれば、海に吸収される二酸化炭素量もまた増加します。酸性化が進むと、炭酸カルシウムの骨格を持つ生物(造礁サンゴ・貝類など)の殻が溶けるなど、将来、私たちの身近な沿岸域の環境にも影響が出てくる可能性があります。

 注目され始めたのは最近です。21世紀に入ってから科学者の間で注目されるようになり、「国連持続可能な開発会議」といった国連の会議に2010年代になって取り上げられ、国際的に対処すべき課題として注目されるようになりました。

 ただ、まだまだ一般の方々には知られていません。英国の研究機関が一般市民向けに行った調査では、海洋ゴミの課題を知っている人が90%に対して、海洋酸性化の課題を知っている人は1%に過ぎませんでした。世界的にもほぼ同様のようで、まずはこの問題の認知度を高めることが大切になっています。また、国際的な議論も欧米が中心となって行われており、日本周辺海域をはじめとした西太平洋の課題についても、しっかりと連携協力することが大切になっています。

 2015年から、スウェーデンの国際ワークショップ参加、GOA-ONという海洋酸性化の国際観測ネットワークに係るワークショップ参加(タスマニア)、サンディエゴで開催された北太平洋海洋科学機構 (PICES)の年次会合参加、マラケシュのCOP22参加など、国際的な連携や調査研究を進めてきました。

 また、笹川平和財団海洋政策研究所では、明日から2日間(2017年1月19日、20日)、国際的な議論を先導する専門家に来て頂き、西太平洋域の状況を共有し、取り組むべき検討課題や対応策について議論することを目指して「温暖化・海洋酸性化の影響と対策に関する国際会議 〜西太平洋におけるネットワーク構築に向けて〜」を開催します。この会議では、西太平洋でのネットワーク構築も目指します。

 このブログで、少しでも海洋酸性化の課題に興味を持っていただけましたら、是非、明日からの国際会議をのぞいてみてください。申込みは締め切っていますが、飛び入り参加を歓迎します。

角田さん 図1.jpg
ノーベル賞の発表が行われるスウェーデン王立科学アカデミーで
開催されたワークショップでの発表の様子(2015年11月)


角田さん 図2.jpg
北太平洋海洋科学機構 (PICES)の年次会合でのポスター発表の様子(2016年11月)


海洋政策チーム主任研究員 角田 智彦

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