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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No. 15 <海洋のトリレンマが巡り巡るメビウスの帯> [2017年01月25日(Wed)]

 人類は古来、海洋から様々な恩恵を得て生存を続け繁栄を享受してきました。それを、“海洋と人類との関わり”の一言で表すことはあっても、果たして総合的な見地から“関わりの在り方”を模索しているのでしょうか?

 人類と海洋との関わりは、「開発」、「環境」、そして「安全保障」に大別できます。「開発」は、漁業や海底資源採掘など生存と繁栄につながるものであり、海運など交易のための海洋の利用もこれに含まれます。「環境」は、人類のみならず地球生命の維持メカニズムを司る、言わば根本的な“関わり”が含まれます。「開発」を巡って、人類は海洋を舞台とする「安全保障」という厄介な問題を抱え込むこととなりました。漁業権やシーレーンの確保など生存や繁栄のための排他的権利を巡っての国家間の紛争は後を絶ちません。国際共通のルールに基づいた「安全保障」が確立されていなければ、「開発」は他方において紛争の種となり、それは国家間における持続性のない無秩序な競争を煽ることになります。持続性のない無秩序な「開発」は、「環境」の悪化を招くことになります。「環境」の悪化は「開発」に負の影響を与え、それが「安全保障」の問題をエスカレートさせると共に、無秩序な「開発」を助長し、更には「環境」の悪化を加速させることになります。この「開発」−「環境」−「安全保障」の悪循環は、“海洋のトリレンマ(Trilemma)”として巡ることとなり、“海洋のトリレンマ”はメビウスの帯を辿り増幅していくこととなります。


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海洋安全保障におけるトリレンマ(Trilemma)問題(著者作成)


 地球温暖化を伴う気候変動・変化への国際的取組の必要性の認識から、「開発」と「環境」の問題はセットとして考察されることがほとんどです。しかし、「安全保障」の問題は、国民国家の生存と繁栄を護る生存権、言ってしまえば生存競争を根に持つものであるところから、「開発」「環境」への国際的取組とは相いれない舞台で論議されがちです。海洋と人類の関わりの在り方の模索を迷路に入り込ませているものの一つとして、総合的であるべきはずの取組みにおける「安全保障」の論議の欠落が挙げられます。「安全保障」の問題を避けている限り、“海洋のトリレンマ”は永久にメビウスの輪から抜け出すことはできないと言わざるを得ません。

 笹川平和財団海洋政策研究所では、海洋の「安全保障」について、「開発」「環境」の問題と絡ませた総合的な見地からのオリジナリティーある研究を実施し、クリエイティブな政策提言を発信しています。過去には、“海洋のトリレンマ”を克服するための『海を護る』研究、海洋の「環境」問題に対して「安全保障」の面からの対応を促す『気候変動・変化とOPK(※)』等々に取組み、現在は北極海開発の拍車を予測してユーラシア大陸を巡る航路の「安全保障」について、伝統的な軍事防衛の概念に加え、「開発」、「環境」とのトリレンマ克服を考慮に置いた『ユーラシアブルーベルトの安全保障とシーパワー』研究に取り組んでいます。

 地球上のすべての生命体は海洋との関わりなしに生存を続けることはできません。海洋は万物の霊長たる人類に、総合的で持続可能な関わりを求めています。笹川平和財団海洋政策研究所における海洋安保チームは、メビウスの帯からの脱出の糸口を探して今日も研究に向かい合っています。

※Ocean Peace Keeping(海洋秩序の維持と資源・環境保護のための国際的な安全保障協力)

特別研究員 秋元 一峰

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