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海洋政策研究所ブログ

海洋の総合管理や海事産業の持続可能な発展のために、海洋関係事業及び海事関係事業において、相互に関連を深めながら国際性を高め、社会への貢献に資する政策等の実現を目指して各種事業を展開しています。


海のジグソーピース No.199 <ジャパンブルーエコノミー技術研究組合設立と今後の取り組み> [2020年10月21日(Wed)]

 笹川平和財団は、本年7月に設立されたジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下JBE)に組合員として加盟し、活動を開始しています。JBE設立後3カ月の間、その一員として笹川平和財団がどの様な活動を行ってきたのか、今後JBEの中でどの様な役割を担っていくのか、今回のブログではJBEの目指す方向性とともに解説したいと思います。

【JBE設立および情報発信】
 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の「技術研究組合」というのは、経済産業省の説明によると「複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づいて、大臣認可により設置される法人であり、単独では解決できない課題を克服し、技術の実用化を目指す組織」です。法人格を有する大臣認可法人として活動し、組合から株式会社等へのスムーズな移行が可能であること等がメリットとされています。2019年12月1日時点で58の技術研究組合が存在し、うち46は経済産業省が所管しています。JBEは2020年7月14日付けで主務大臣である国土交通大臣の認可を受け、登記を経て7月15日に設立しました。国土交通省が配信したプレスリリースでも紹介されていましたが、ブルーカーボン(海洋生物によって大気中のCO2が取り込まれ、海洋生態系内に貯留された炭素)をはじめとする海の持つ環境価値を対象とした技術研究組合は、本邦初となります。

 JBE設立後は、7月28日に設立に関するプレスリリースを笹川平和財団海洋政策研究所港湾空港技術研究所がそれぞれ公開し、7月31日には笹川平和財団ビルで記者会見を行い、組合員である国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所の栗山善昭理事長、笹川平和財団の角南篤理事長、JBEの桑江朝比呂(ともひろ)理事長、JBE理事の筆者が登壇し、ご参加いただいた記者の皆さんにJBEの目的や各組織からの貢献に向けた抱負をご説明しました。9月10日には海洋政策研究所が開催する第174回海洋フォーラムにおいて、「ブルーカーボン生態系の持つ環境価値の持続可能な利用に向けて」と題した講演会をライブ配信しました。フォーラムではJBEの桑江理事長によるご講演に加え、理事の信時正人氏(国立大学法人神戸大学客員教授)、顧問の刑部真弘氏((国立大学法人東京海洋大学大学院 教授)に筆者を交えたパネルディスカッションを展開しました。関東地方以外にも香川県や新潟県、大阪府からもライブでご視聴いただき、2020年10月5日現在で1,800を超える人にアクセスいただいています。10月5日には日経地方創生フォーラム「地方創生〜アフターコロナの新しい形〜」において、「ブルーカーボンが実現する地方創生」というセッションを開催し、横浜市、阪南市、備前市からのブルーカーボンを利用した地域づくりを紹介してもらうとともに、JBEの目的と今後の活動への期待を理事一同が述べました。このように現在まではJBEの設立や目的を積極的に情報発信しながら、水面下では様々な検討を重ねて来ています。

2020_1005日経地方再生フォーラムRev.jpg
10月5日に開催された日経地方創生フォーラムの一幕

【JBEの活動と海洋政策研究所の役割】
 JBEでは@科学的方法論(環境価値の定量的評価)、A経済的方法論(新たな資金メカニズム導入)、B技術的方法論(環境価値の創造と増殖)、C社会的方法論(社会的コンセンサス形成)、という4つの方法論を有機的に連関させ(図1)、相互の研究成果を参照しながら一体として研究を進めていきます。

 ブルーカーボンに関して考えてみると、@の科学的方法論というのは例えばある海草藻場が持つ温暖化抑制、食料供給、種の保全、観光・レクリエーション利用等の環境価値を定量的に示し、可視化して示すことです(岡田知也・三戸勇吾・桑江朝比呂編著「沿岸域における環境価値の定量化ハンドブック」(生物研究社、2020年)で詳しく紹介されています)。Aの経済的方法論としては、@で定量的に評価された環境価値をベースに、例えば取引可能なカーボン・オフセット制度を作り市場形成するために必要な制度設計を考えたり、あるいは温暖化抑制価値以外の価値も含めたりする形で、企業等から環境価値に対する投資を呼び込むための研究を進めることが考えられます。Bの技術的方法論は、港湾内の構造物により多くの二酸化炭素を吸収させる技術や、海洋の新たな吸収源を発掘し保全、再生するようなブルーカーボンの質・量を高めることに取り組みます。Cの社会的方法論では、@で環境価値を評価し、Bでブルーカーボンの質・量を高めようとしている対象地域や構造物において、漁業者や海運業者、観光業者、地域住民といった直接、間接に同じ海洋空間を利用する人たちとの間で利害を調整し、お互いがメリットを享受できるような仕組みを考えることになります。

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図1.JBEの4つの方法論

 海洋政策研究所は主にAやCを分担します。様々なパートナーとの連携により社会実装可能な金銭的メカニズムに関する制度設計を研究し、今までに構築してきた沿岸自治体との関係も活かして社会的コンセンサス形成に必要な検討を進める所存です。また国際連携の部分でも、海洋政策研究所はInternational Partnership for Blue Carbonに加盟し、ブルーカーボンを政策として主流化することを目指す国や団体との交流を通じ、JBEの取り組みを共有するとともに、海外の優良事例や制度設計に関する情報収集を進め、ひいては日本のブルーカーボンに関する技術を海外に輸出する可能性について議論を主導できればと考えています。今後、具体の成果を報告できるよう、メンバーの一員として実践的な研究を進めていきたいと思います。

海洋政策研究部主任研究員(JBE理事) 渡邉 敦

Ocean Newsletter No.485 [2020年10月21日(Wed)]
No.485が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●大海洋諸国の台頭
DeepGreen Metals主任海洋科学者◆Greg STONE
駐日トンガ王国大使◆T. Suka MANGISI

小さな島々で国土が形成される小島嶼開発途上国は、地球温暖化や自然災害の被害を受けやすく、
人口の少なさや遠隔地であることも手伝って持続可能な開発が困難となってきた。
いま、海は貴重な鉱物資源の宝庫として注目されているが、国土の大半を広大な排他的経済水域が
占める大海洋諸国にとって、海洋資源の開発が公平で持続可能な形で進むことを期待する。


●養殖の死角─水環境に蓄積される薬剤耐性遺伝子
愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授◆鈴木 聡

薬剤耐性菌は薬剤使用量の多い医療現場および獣医の臨床現場が主要な発生源の一つとなっているが、
海の環境にも薬剤耐性菌のホットスポットがあることを忘れてはならない。そのひとつが水産養殖場である。
抗菌剤・抗生物質を使用する養殖場は、薬剤耐性菌の起源であると同時に、海と人の接点でもある。
環境リスク源にもなりうる養殖環境を中心に水環境の薬剤耐性菌の現状と今後を論じる。


●森里海が織りなす佐渡島の新たな地域創生型自然共生科学拠点
新潟大学佐渡自然共生科学センター海洋領域/臨海実験所 海洋領域長・教授◆安東宏徳

豊かな自然に恵まれ、自然と人間が密接な関わりを持つ佐渡島に地域創生型自然共生科学拠点
「佐渡自然共生科学センター」が設立された。
センターは森林・里山・海洋の3領域からなり、佐渡島の森里海生態系を活用した総合的な生態系の
理解と保全を目指した教育研究を展開し、自然と人間が共生する社会の実現に貢献する
「佐渡モデル」構築を目指していく。


●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹


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新刊のご案内 『侮ってはならない中国〜いま日本の海で何が起きているのか』
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Ocean Newsletter編集代表の坂元茂樹先生の新刊をご案内いたします。

南シナ海、東シナ海、尖閣諸島等、海洋強国をめざす中国の海洋進出に対して、
日本としていかに対処すべきか。中国の強引な海洋進出と戦略的行動といった力
による現状変更から、日本の領土と海を守るために、いま日本の海で何が起きて
いるのかを、国際法学の第一人者が、国際法の観点から分かりやすく論じておられます。

著者:坂元 茂樹 (同志社大学教授)
信山社新書
出版年月日:2020/10/05
ISBN: 9784797281040
判型・ページ数A 5変・248ページ
定価:本体880円+税

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【目次】
はしがき
はじめに

◇第一部 南 シ ナ 海◇
◆第一章 中国の海洋進出と「法の支配」
◆第二章 南シナ海における中国の海洋進出
◆第三章 南シナ海における九段線の主張
◆第四章 南シナ海仲裁裁判の開始
◆第五章 管轄権に関する南シナ海仲裁判決
◆第六章 本案に関する南シナ海仲裁判決
◆第七章 深まる米国との対立─南シナ海における航行の自由作戦の展開

◇第二部 東 シ ナ 海◇
◆第一章 いま日本の海で何が起こっているのか
◆第二章 尖閣諸島周辺海域における中国公船の動き
◆第三章 日本のあるべき対応
◆第四章 強まる中国の軍事的圧力
◆第五章 海洋の科学的調査と日本
◆第六章 尖閣諸島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第七章 沖ノ鳥島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第八章 米国の新たな動き─南シナ海および東シナ海制裁法案
◆第九章 侮ってはならない中国 侮らせてはならない日本

おわりに

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Posted by 五條 at 00:14 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.198 <海洋政策の発展を目指して―海洋政策研究所立ち上げの記(その3)> [2020年10月14日(Wed)]

 本ブログNo.139No.166で、旧シップ・アンド・オーシャン財団(以下「SOF」とします)に海洋政策研究部を立ち上げ、どうにか体制らしきものを整えた時代(1999〜2000)を書かせてもらいました。今回はその続編・最終回です。

 2001年4月に就任された秋山昌廣・会長(元防衛事務次官)のもとで、あるべきシンクタンクへの模索が始まりました。時あたかもこの年の1月から中央省庁の再編が始まり、国立の研究機関でも将来の研究方針を巡って、基礎的・長期的な研究よりも短期間で成果が出る研究が予算獲得できるのではないかとのムードが出てきておりました。そんな中、SOFのシンクタンクの理念や研究課題をどうするか改めて考えてゆくことになりました。

当時すでに休止していたSOFの筑波研究所が1990年初めにタンカーの二重船体構造に関する先端的研究を行い、その成果が国際海事機関(IMO)に持ち込まれ、条約の中に書き込まれました。この経験を持つ今義男・理事長(当時)は、科学・技術をベースにした海洋環境政策研究の国際共同シンクタンクを作ろうと意気込んでおられました。確かに船舶排ガス(NOx/SOx/CO2)やバラスト水問題など、まだまだ我が国がリードできる研究テーマがたくさんあり、各国との共同研究も進めながら世界に貢献できるのではないかと考えられたようです。また、秋山会長からは「海洋安全保障研究所」がユニークで良いのではとの提案も出されました。

 SOF全体を海洋政策の総合研究所として組織改編する方針のもとに、@まずは必要な研究員を抱え、そして育てること、A研究員個人の自主研究を支援しながら、かつSOFのプロジェクト事業にも参画させること、B外部有識者による自主研究の指導と評価を行うこと、C「海洋安全保障問題」にも積極的に取り組むこと、D海外から研究者を招聘すること、E国内外の他研究機関と共同研究を進めること、そして、FSOF全体をシンクタンク化する道筋(当時、SOFの定款では主たる事業が「船舶・海事関連」となっており、「政策研究」に関する規定は明示されていませんでした)などが議論されました。ついでながら、今後は上記Eに関して、WMU笹川グローバル海洋研究所(2018年5月設立)との研究連携が早く始まって欲しいと思っております。

 2002年4月、いよいよSOF海洋政策研究所(初代所長:秋山昌廣SOF会長、8月から寺島紘士・前OPRI所長)が産声を上げます。大学などからリクルートした5人(翌年に8人)の研究員からの出発でした。予算規模としては約3億円。彼らの個人研究テーマは「海洋保護区」や「貧酸素水塊」、「予防原則」、「沿岸利害関係者の協力」、「深海環境保全」、「海氷変動」、「海上テロと国家管轄権」、「体験学習」でした。生まれたての研究所の知名度を少しでも上げようと、研究員にはとにかく誰も手を付けていない課題に取り組んでほしいとお願いしました。松沢孝俊研究員(現海上・港湾・航空技術研究所海上技術安全研究所主任研究員)が世界で初めて「各国EEZ内海水体積」を計算し、日本が世界第4位になることを内外に発表してくれました。

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世界の200海里水域面積と体積ベスト10
(出典:松沢孝俊「わが国の200海里水域の体積は?」『Ocean Newsletter』第123号)

 私は設立したSOF海洋政策研究所の「次長」の辞令はもらいましたが、実際的な運営は秋山会長と寺島所長が行いました。そこで私は、船舶・海事関係のプロジェクトや海外交流基金、技術開発基金、世界海事大学奨学制度の運用に専念することにしました。2002年10月から「海洋フォーラム」が始まり、2004年2月には「海洋白書」が創刊され、海洋問題の周知活動が加速してゆきます。

 もちろん、すべてがこのように順風満帆に進んだわけではありません。当時私が苦労したことの一つに国連のオブザーバー資格取得があります。現在も研究員としてOPRIに参画していただいているジョン・ドーラン氏の助けを借りて、2008年7月に承認されました。また、研究所設立準備の真っ最中の2001年9月に発生したアメリカ同時多発テロ事件の直後に、緊急シンポジウム「海上テロの脅威と危機管理」を企画し、これを開催前日の夕刊で見た某省の高官から「日本にビンラディンはいない!」や「危険を煽るな!!」、「即刻シンポジウムを中止せよ!!!」とこっぴどく怒られたといったエピソード?もあります。(当時は単に怒り心頭でしたが、)政府が出来ないこと、時には意に沿わないことをやる精神もシンクタンクには必要と実感するとともに、若い人たちにも勇気を持って取り組んでもらいたいと願った次第です。

 その後、2005年からはシップ・アンド・オーシャン財団(SOF)は「海洋政策研究財団」との通称を使うことにしてシンクタンク活動が展開します。このシンクタンク草創期の大きな成果は何といっても「海洋基本法」制定(2007年4月)向けての活動でしょう。笹川陽平・日本財団理事長(現日本財団会長)のイニシアティブの元、栗林忠男・慶応義塾大学教授(当時)、来生新・横浜国立大学教授(現放送大学長)、中原裕幸氏(現海洋産業研究会顧問)そして秋山会長と寺島所長のご努力なくしてこの法律は出来上がらなかったと、今以って確信しておりますが、私が主導した取り組みがいくらかでもこれらの方々の活動の支えになったとしたら、これほどの喜びはありません。

参与 工藤 栄介

海のジグソーピース No.197 <海洋問題に関する新刊について> [2020年10月08日(Thu)]

 今年は海洋問題に関する一般向けの書籍が多く出ているように思います。日本周辺海域での海洋安全保障の課題や、サンゴの白化現象や海洋プラスチック問題などの国際的な海洋の持続可能性に係る課題への対応が待ったなしの状況であるためでしょうか。海洋環境問題について、例えば次の3冊があります。

  井田徹治著『追いつめられる海』(4月発行)
  磯辺篤彦著『海洋プラスチックごみ問題の真実』(7月発行)
  山本智之著『温暖化で日本の海に何が起こるのか』(8月発行)

 著者は皆さん、海洋政策研究所(OPRI)の研究会や出版物編集、シンポジウムなどで関わっていただいたことがあり、私にとっても馴染みのある方々です。井田さんと山本さんはマスメディアの第一線で活躍されてきたジャーナリストで、豊富な現場取材に裏打ちされた展開でとても読みやすい書籍になっています。九州大学の磯辺先生の書籍は「マイクロプラスチックの実態と未来予測」というサブタイトルがつけられており、この問題を第一線で牽引する科学者ならではの展開です。いずれも持ち運びやすいサイズとなっており、読書の秋という訳ではないですが、是非、お手に取って頂きたいおすすめの書籍です。

 そして、9月30日に坂元茂樹著『侮ってはならない中国−いま日本の海で何が起きているのか』(信山社)が発行されました。こちらも1000円以内で購入が出来る一般書です。同志社大学の坂元先生は、日本を代表する国際法学者でOPRIが発行する『Ocean Newsletter』の編集代表もつとめていただいています。国際法というと難解と思われる方も多いかと思いますが、「理屈っぽい国際法の議論をできるだけ分かりやすくお伝えしたいと思い執筆した」と記されているように、理系の私でも読み進めることができ、米中のせめぎあいのなかでの日本の立ち位置を考える一助になりました。目次は次のとおりで、南シナ海や東シナ海での状況を踏まえて、日本としていかに対処すべきかを論ずる、とてもタイムリーな一冊となっています。

表紙および目次.jpg
『侮ってはならない中国―いま日本の海で何が起きているのか』表紙および目次

 OPRIでも、一般向けの書籍として秋道智彌先生とともに『海とヒトの関係学』シリーズを発行してきています。今年2月に第3巻『海はだれのものか』を発行し、既にコロナ禍と海洋をテーマとした第4巻の準備を今冬発行予定にて進めています。『海とヒトの関係学』第4巻では、歴史的なヒトとの関係にも着目し、遣唐使(あるいは新羅使)と天然痘や、幕末の開国とコレラといった海を通じた交易と疫病の歴史から順に、現在のコロナ禍と海の関係を紐解いてみたいと考えています。また、コロナ禍と海洋についても、ダイヤモンドプリンセス号のことや、水産・海運への影響について、既にリレーメッセージや『海の論考 OPRI Perspectives』、『Ocean Newsletter』などを通して紹介してきており、PCRテストで使われるDNAポリメラーゼという重要な酵素が海洋生物起源であることなども紹介しています。今後も海洋に興味・関心をお持ちのみなさまにさまざまな情報をお届けしたいと思いますので、ぜひご期待いただければと思います。

海洋政策研究部主任研究員 角田 智彦

Ocean Newsletter No.484 [2020年10月05日(Mon)]
No.484が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
海洋に関する総合的な議論の場を皆様に提供するものです。 

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●追いつめられる海
(株)共同通信社編集委員◆井田徹治

海水温の上昇や海洋酸性化、酸素濃度の減少やプラスチック汚染、
漁業資源の減少など海の環境は人間活動によって多面的な危機に直面している。
現在の新型コロナウイルスによる危機も、自然環境の破壊が背景に
あるという点で、気候危機や海洋環境の危機と同根である。
各国の巨額の復興投資を持続可能な海洋経済の実現のために投じ、
ブルーでグリーンなリカバリーを実現するべきだ。

●海技者のレベル維持と長期的確保に向けて
福知山公立大学特命教授、海事研究協議会理事◆篠原正人

日本外航海運に乗り組む船員のほとんどがアジアの外国人となっている。
船舶運航の質的要件を満足する船員の長期的確保と、多様な海事産業を
支える陸上での業務の継承者の確保のためには、「日本的価値観とはたらき方」
そして日本語の習得を教育訓練に取り入れるべきである。
●海の民話を語り継ぐ意義
(一社)日本昔ばなし協会代表理事◆沼田心之介

海の民話には、海の学びや備え、危機回避などの海での慣習から、海の恵みに
対する感謝、海への信仰など道徳観念の育成まで、海との関わり方が含まれています。
また、一方でその物語を通して、地域への帰属意識の醸成という役割も担っています。
「海ノ民話のまちプロジェクト」を通して、観光資源としての活用や、企業との
連携や全国的な広がりも視野に入れ、運動化を目指していきたいと思っています。
●編集後記
帝京大学戦略的イノベーション研究センター 客員教授◆窪川かおる


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新刊のご案内 『侮ってはならない中国〜いま日本の海で何が起きているのか』
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Ocean Newsletter編集代表の坂元茂樹先生の新刊をご案内いたします。

南シナ海、東シナ海、尖閣諸島等、海洋強国をめざす中国の海洋進出に対して、
日本としていかに対処すべきか。中国の強引な海洋進出と戦略的行動といった力
による現状変更から、日本の領土と海を守るために、いま日本の海で何が起きて
いるのかを、国際法学の第一人者が、国際法の観点から分かりやすく論じておられます。

著者:坂元 茂樹 (同志社大学教授)
信山社新書
出版年月日:2020/10/05
ISBN: 9784797281040
判型・ページ数A 5変・248ページ
定価:本体880円+税

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【目次】
はしがき
はじめに

◇第一部 南 シ ナ 海◇
◆第一章 中国の海洋進出と「法の支配」
◆第二章 南シナ海における中国の海洋進出
◆第三章 南シナ海における九段線の主張
◆第四章 南シナ海仲裁裁判の開始
◆第五章 管轄権に関する南シナ海仲裁判決
◆第六章 本案に関する南シナ海仲裁判決
◆第七章 深まる米国との対立─南シナ海における航行の自由作戦の展開

◇第二部 東 シ ナ 海◇
◆第一章 いま日本の海で何が起こっているのか
◆第二章 尖閣諸島周辺海域における中国公船の動き
◆第三章 日本のあるべき対応
◆第四章 強まる中国の軍事的圧力
◆第五章 海洋の科学的調査と日本
◆第六章 尖閣諸島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第七章 沖ノ鳥島周辺海域の中国海洋調査船への対応
◆第八章 米国の新たな動き─南シナ海および東シナ海制裁法案
◆第九章 侮ってはならない中国 侮らせてはならない日本

おわりに

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Posted by 五條 at 21:02 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.196 <「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理解に関する「個人の感想」・その後> [2020年09月30日(Wed)]

 筆者は本年1月8日に掲載した海のジグソーピース No.161において、その時点での筆者なりの「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific)(以下FOIPと略す)」に係る見解をご紹介しました。

 同記事では、筆者が当研究所の「海洋情報FROM THE OCEANS」に掲載した2つの解説(こちらこちらをご覧下さい)のほか、内外研究者との意見交換やシンポジウムなどでの発表、講演、雑誌取材、WEBニュース出演など情報発信に努めてきた事項を次のように3つの柱に総括しました。FOIPが@現在進行形で変化しつつある概念であり、A特に中国との関係においては本来的な二面性を内包する、言わば「競争戦略のための協力戦略」といった性格を有するもので、B当初はQUAD(日米豪印4ケ国枠組み)がその中心になるものとみなされていたが、現在ではより幅広い多国間協調を目指す形へとシフトしつつあり、「海上における法の支配」という普遍的な「海洋のガバナンス」が重要なインセンティブとなっています。その上で、この理念を施策として具現化していくためには1990年代半ばに盛んに議論された「協調的安全保障」の考え方が援用できるのではないか?というアイディアを持っているという見解をご紹介しました。

 その後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと、これとも連動した米中対立の激化という大きな国際情勢の変化の中、上記のような筆者の見解も若干の軌道修正を図る必要が出てきたと感じました。そこで、今回はその後の経過報告と併せて、このような点についての見解をご紹介してみたいと思います。

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日本の「自由で開かれたインド太平洋戦略」の三本柱(出典:外務省ウェブサイト

 まず、FOIPと「協調的安全保障」の関係について、日本国内では「安全保障協力を組むことで紛争を未然に防止すること」という理解が一般的でしたが、筆者は当時からこれを「敵味方不明の対象を敵にしないために採るべき関与戦略」の一環と捉え、挑戦国としての中国の台頭をけん制し、既存の国際秩序に取り込んでいくための処方箋になり得るものであり、今日のFOIPはまさにそれを具現化する取り組みと理解していました。この筆者の見解の適否について、国内外の有識者の方々に直接お訊ねをしてみました。

 筆者のやや雑駁で拙い質問にもかかわらず、先生方には大変丁寧にご教示をいただき、大いに得るところがありました。特に我が国では「協調的安全保障」の考え方が何故定着しなかったのか?という点が筆者にとって大きな疑問でしたが、我が国では欧州の経験(NATOとCSCE/OSCEの関係等)が必ずしも十分理解されておらず、「AかBかという二者択一志向の傾向があり、日米同盟に敵対勢力も含み安全保障協力を積み重ねる協調的安保体制でカバーをかけるという考え方がなかなか理解されないという面もあるのではないか」というご示唆をいただき、目が覚める思いでした。

 一方で、FOIPの理念を「協調的安全保障」の考え方で説明しようという試みについては多くの先生から「同じ用語を使用するのは避けた方が良い」というご助言がありました。それはこの概念が既に様々に議論をされており、それぞれに理解が形成されているのでFOIPをこれで説明しようとすれば、「それは違う!」という議論を引き起こしかねないという趣旨であり、これもまた大いに頷けるご指摘でした。従って、筆者としては「戦略論」としてのFOIPは中国を念頭に「敵味方不明の対象を敵にしない」という考え方であることを具体的にどのような表現で説明するのが最も適当なのか、鋭意思案中という次第です。

 もう一つ、冒頭でも触れた国際情勢の変化、特に米中対立が先鋭化していく中で今後のFOIPをどう考えていけばよいのか?という点については、正直なところ現時点ではまだ筆者自身も判断が付きかねています。米国は「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」で中国を「現状変更勢力(revisionist power)」と認定し、「戦略的競争相手(strategic competitor)」として対立を強めてきましたが、それでも「共産党政権転覆を目標にするわけではない」というのが一つのコンセンサスと考えられていました。筆者がFOIPについて述べてきた「挑戦国としての中国の台頭をけん制し、既存の国際秩序に取り込んでいく」という考え方も基本的にそのことを大前提にしています。すなわち、米国は「関与戦略」が失敗だった(「中国に対する米国の戦略的アプローチ」2020年5月)という立場ですが、だからと言ってFOIPが「封じ込め」戦略ということでは全くなく、これは言わば「形を変えた関与戦略では?」というのが筆者の理解でした(この点については、何人か米国人研究者にも疑問をぶつけてみましたが、明快な所見を得られませんでした)。

 ところが、本年7月23日に行われたポンペオ国務長官の演説は、そうした見方を根底から覆す衝撃的なものでした。報道等で既にご承知かも知れませんが、ここでは同盟国、パートナー国の結束を訴えつつ「自由世界が共産主義の中国を変えなければ中国が我々を変えるだろう」として中国の変革を促すかのような発言がなされています。もっとも、これが本当に体制変動(regime change)までを念頭に置いたものか否かは今後の米国の動静を注視していく必要がありますが、この演説が中国への対決姿勢を鮮明に打ち出したものであることは確かです。筆者自身は全体のトーンから中国に行動変容を求めるこれまでの情報発信の延長上にあるものと理解しており、実際にポンペオ長官自身も演説中でこれは「封じ込めではない(this isn't about containment.)という発言をしています。

 これは同演説が巷間言われているように米国の対中政策の抜本的転換を示すものであり、今後もし仮に米国とその同盟国、パートナー諸国が中国を「敵」とみなして対峙していくことになったとしても、実はFOIPの基本的な方向性はそう大きく変わることはないのではないかとも筆者は考えています。このことについて、前回記事で引用した山本吉宣・東京大学名誉教授の「国際的安全保障の類型」の概念図に基づき考えるとより明確になると思います。

 前述の通り、「協調的安全保障」(図中D2)は「敵味方不明の対象を敵にしない」ために、さまざまな「安全保障協力を組むことで紛争を未然に防止すること」と理解されていますが、紛争の未然防止という点について言えば、実は「敵」との間で協力してこれを図る「共通の安全保障」(図中C2)という考え方もあり、冷戦期のCSCEがこれに該当します。各種の安全保障協力など、ここで想定されている実際の活動は「協調的安全保障」とほぼ共通であり、中国との関係のマネジメント、紛争未然防止という目的においては、FOIPの取り組みがそのような敵対関係下でもやはり有益だと考えられます。

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国際的安全保障の類型(出典:森本敏編『アジア太平洋の多国間安全保障』)

 いずれにせよ、前回も述べたとおり、米中対立の動向が不透明な中であればこそ、覇権国(米国)と挑戦国(中国)の衝突は不可避とされる、いわゆる「ツキディディスの罠」を回避する処方箋の一つとしてFOIPは有益という筆者の考え方については基本的に何ら変わるところはありません。

 なお、筆者は9月30日をもって特任研究員の職を離れ、来月からは防衛大学校防衛学教育群統率・戦史教育室准教授(軍事史(自衛隊史)担当)として勤務することとなりました。新職務では海洋政策研究所での経験を活かし、海洋関連も含む幅広い安全保障に係る教育研究に邁進していく所存であります。2年半の間、大変お世話になりました。

特任研究員 相澤 輝昭

Ocean Newsletter No.483 [2020年09月23日(Wed)]
No.483が完成いたしました。

『Ocean Newsletter』は、海洋の重要性を広く認識していただくため、
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●中国の海洋進出と科学技術推進
(一財)キヤノングローバル戦略研究所主任研究員◆段 烽軍
東京大学公共政策大学院特任講師◆山口健介

南シナ海における中国の海洋資源開発は、安全保障の観点から国際的に注目されているが、
国内社会経済を支える資源供給の側面も無視できない。
特に、骨太の国家戦略の下で、海洋進出のために科学技術を推進し、科学技術の進歩が
さらなる海洋進出を可能とする好循環は実現できている。

●AISを発展させたデータ通信インフラVDESについて
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員◆水成 剛

衝突防止のための船舶位置情報交換インフラであるAISは、今日では船舶動静把握の
核となっているが、これを発展させたVDESが国際航路標識協会等で仕様化されている。
ここでは、VDESの概要について紹介するとともに、普及に向けた筆者の期待を述べる。

●わが国のふね遺産を引き継ぐために
関西設計(株)顧問、(公社)日本船舶海洋工学会ふね遺産認定実行委員会委員長◆小嶋良一

ふねと人とは長い歴史上の付き合いがあるが、ふねに関わる歴史に接する機会は極めて限られている。
(公社)日本船舶海洋工学会はその創立120周年を機会に、2017年から船舶・海洋分野で
重要な役割を果たしてきたふねや関連物件を「ふね遺産」として認定し広く一般に発信する
事業を発足させた。
ここではその意義とともに、2020年度までに認定された32件のふね遺産を紹介する。

●編集後記
同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

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Posted by 五條 at 15:09 | Ocean Newsletter | この記事のURL | コメント(0)
海のジグソーピース No.195 <2020年度海洋地球研究船「みらい」北極航海に参加します!> [2020年09月23日(Wed)]

 皆さま、こんにちは。
 当研究所では、これまで長年にわたり北極に関する政策研究を行ってきたところですが、今回、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の保有する海洋地球観測船「みらい」の2020年度北極航海に私が参加させていただくことになりました(2020年度「みらい」北極航海については、こちらをご覧下さい)。

 本航海は、当初8月29日から約60日間の日程で行われる予定でしたが、新型コロナウィルス流行の影響で日程が変更されました。乗船予定者については、航海開始18日前から毎日検温を行い日々の行動を記録するなど、万全の感染予防対策を行いながら実施されます。

 この原稿を書いている9月18日の午後、乗組員・研究員が乗船し、翌9月19日午前10時に静岡県の清水港より出航いたします。

 45日間の航海中は、JAMSTECの研究者の方々と協力して北極海におけるマイクロプラスチックの観測を行うほか、航海の様子をブログツイッターなどにより、皆さまにお伝えできればと思います。今後の北極からの情報発信に是非ご期待ください。

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出航準備中の「みらい」

海洋政策研究所 豊島 淳子

海のジグソーピース No.194 <ブルーリカバリー・ウェビナー・シリーズを振り返って> [2020年09月16日(Wed)]

 「ウェビナーを自分たちで企画して世界にメッセージを発信していこう。」そうした掛け声で動き出した日本財団、エコノミスト社と共催での3回にわたるウェビナーシリーズ。欧米の団体が企画するウェビナーに毎晩遅くまで駆り出されていた当研究所の角南所長が今年5月の連休明けのエコノミスト関係者との懇談の中で、日本を発信地としたウェビナー企画の話が芽生え、動き出しました。テーマは海洋の保全や持続可能な利用によりコロナ禍からの経済再生を目指す「ブルーリカバリー(blue recovery)」です。

 第1回目は海の日である7月23日と決まりました。延期となってしまった東京オリンピック開会式前日に合わせての祝日のはずでした。当日はパラオのレメンゲサウ大統領がパラオから、そして日本財団の笹川陽平会長が虎ノ門からライブで登壇し、漁業資源の枯渇や海洋プラスチック、海水温上昇などの海洋生態系の変化など、深刻化する海洋の危機の克服に向けた国際協力を呼び掛けました(第1回目の結果概要はこちらをご覧下さい)。第2回目は8月26日、第3回目は9月3日にそれぞれ開催し、小泉進次郎・環境大臣、衛藤晟一・海洋政策担当大臣など総勢20名の内外の首脳、閣僚、企業幹部や研究者、NPO代表者などが登壇し、延べ1400人を超える視聴者を得て、海洋分野の主要課題、イノベーション、今後の海洋国際会議の展望など、盛りだくさんの内容に熱論が展開されました(第2回目の結果概要はこちらをご覧下さい)。

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小泉進次郎・環境大臣と著者(関係者撮影)

 小泉大臣には、海洋と気候変動、海洋プラスチックの削減や海洋保護区の拡充などについて、また衛藤大臣には日本の海洋政策や今年12月のパラオと来年ポルトガルで開催が予定されている海洋関連会議に向けた展望についてお話し頂き、打合せの段階から環境省や内閣府総合海洋政策本部事務局の方々にご支援を頂きました。ウェビナーでの充実した議論や情報発信に加え、登壇依頼や打ち合わせの中で、接点が薄らいでいた多くの方々と連携を再確認できたことは大きな収穫でした。

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衛藤晟一・海洋政策担当大臣と内閣府総合海洋政策本部事務局のみなさん(筆者撮影)

 3回にわたるウェビナーの総合司会を務めたチャールズ・ゴッダード・The Economist編集主幹は、国際的な経済誌のジャーナリストとして、登壇者の考え方を明らかにし、有用な視点を引き出そうと直前まで準備し、工夫を凝らしてくれました。パワーポイントは使わず、テーマは決めつつもできるだけ台本なしで対話を進めることに力点を置きたいという発想で準備し、実施を目指してくれました。その一方で、司会者と登壇者の間での率直なやりとりを実現するためには、両者の間の関係を築いていく部分も必要と感じました。

 一方で、当研究所が連携するアジアやアフリカ諸国の閣僚や北米の要人の参加を模索しましたが、容易ではありませんでした。閣僚がオンライン会議に参加するという形式がまだ浸透していないのも要因の一つと思えました。そうした国々では、海洋プラスチックゴミは環境省が取り扱っているものの、海洋問題は水産との関連で農務省が所管しているといった理由で、海洋プラスチックゴミの議論への閣僚の参加確保が具体化せずに時間切れになってしまった側面もありました。オンライン会議での重要な施策の発表といったことが仕組めるとよいのかもしれませんが、そのためにはより周到な準備が必要になります。

 オンライン会議システムにも様々なものがあり、このウェビナーではOn24というプラットフォームを利用しました。和英同時通訳者の1名は国内、もう1名はオーストラリアから遠隔で対応し、通訳音声を提供しました。参考文献をプラットフォームに載せたり、視聴者とのコミュニケーションを図るという意味でウェビナーの最中にアンケートを実施したりという機能も活用しましたが、使い慣れるには時間が必要と感じました。時間配分が押してしまったり、視聴者からの質問もあまり活用できなかったりといった課題も残りました。時間管理や視聴者から送られてくる質問を整理する補佐役が必要と感じました。事後のアンケートも有用かと思われますので、これもウェビナーの実施内容に含める必要があります。

 コロナ禍の影響で対面での国際会議の実施が難しい情勢が暫くは続きそうな中で、ウェビナーは重要な政策対話のツールとなりそうです。オンラインの強みや利点を活かし、国際的な観点から対話や連携を遅滞させず、むしろ活性化させる上でも、ウェビナーは今後益々有用となるものと予想されます。そのためには、共通の関心事を見据え、課題を見極め、パートナーを広げていくことが必要です。また、ウェビナーの戦略的な運用を事業に内部化し、内部者が司会や補佐役などを務めるといった経験を積む機会を設けていくことも求められます。ITインフラをさらに整備して、活用を進めることにより、経験値を高めていかなければなりません。質の高いウェビナーを実施できる体制の拡充を図っていくことは国際舞台で牽引的役割を果たしていく上で大事な活動になっていくのではと感じました。

海洋政策研究部主任研究員 小林 正典

海のジグソーピース No.193 <⾦沢⼋景での「海中教室」> [2020年09月10日(Thu)]

 9月4日に、関東学院六浦中学校において、横浜の海と中学校の教室をライブ映像でつなぐ「海中教室」が、ヨコハマSDGsデザインセンター、環境省、笹川平和財団海洋政策研究所らの連携のもと実施されました。⾦沢⼋景駅の近く、中学校から半キロの平潟湾(ひらかたわん)にある琵琶島周辺から、ベテランダイバーの「カッパ隊長」こと中川隆氏が海に潜り、教室にリアルタイムで海中の様子を伝えました。

 同中学校では、地球市民講座というゼミ形式の授業の中で、持続可能な開発目標(SDGs)から自身が関心のあるテーマを一つ選び、自らの将来も見据えて深く学ぶ取組みがなされており、この日はSDG14「海の豊かさをまもろう」を選んだ3年生の生徒13名が参加しました。

 まず、講師の海洋政策研究所 特別研究員の古川恵太氏から、平潟湾の歴史、生息する生物と栄養循環の説明があり、生徒たちは実際に平潟湾で釣ってきたハゼを手で触るなどして、じっくり観察しました。新田開発で埋められた内湾の湾口に作られた瀬戸神社の地先に、人工の琵琶島があります。琵琶島周辺で採取した海水が濁って見えるのは、ゴミではなくて実はプランクトンによって不透明に見えること、食物連鎖という言葉があるけれど、「食う食われる」の関係は、直線的な鎖状の関係ではなく、実際には網の目状につながっていることなどが説明されました。

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図1:平潟湾と中継がつながり熱心に見入る生徒たちと古川講師

 さらに、環境省の藤本諒環境専門調査員から、世界の海ゴミ問題や日本の環境政策について解説がなされました。プラスチックとの賢い付き合い方を推進し、国内外に発信していく「プラスチック・スマート」キャンペーンについても紹介されました。

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図2:解説する環境省・藤本諒環境専門調査員

 そして、いよいよカッパ隊長からの映像が教室とつながりました。岩陰にハゼがいます。カニもいます。市民が植えたアマモのプランターもありました。レジ袋の切れ端も水中を浮遊しています。次の瞬間、産卵して真っ赤な卵をおなかに抱えたイシガニを見つけました。隊長がイシガニに近づくと、なんとハサミに釣り糸が絡まって動けなくなっていました。その姿はあまりに不憫でした。不法投棄や紛失により、海に残された漁具が、魚を獲り続けるという、いわゆる「ゴースト・フィッシング」の問題は世界的にも指摘されていますが、実は住宅街に囲まれたこのような身近な海でも同じことが起きていました。

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図3:釣り糸にからまって動けなくなっていたイシガニ

 生徒からは、「意外と魚がいて驚いた」、「釣り糸にカニがひっかかって、かわいそう。もぐって助けてあげたい」、「日本の海は海外に比べるときれい」、「釣りをして、魚の研究をしたい」、「今後、まだ見たことがない魚を見つけたい」などの感想が寄せられました。生物部の部長からは、「平潟湾についてまだ知らないことが多い。カニがひっかかっていたのがすごく印象に残った。海中教室の内容を伝えていきたい」と頼もしい感想が。平潟湾は、昔はヘドロが多くて環境が悪かったけど、水質が改善したと担当教諭からの解説もありました。

 海は海水で覆われており、海中を人が覗くことはなかなかできません。まるでフタ付きのゴミ箱に際限なく廃棄物を投入しているようなものです。イシガニは後で隊員の手により解放されましたが、このようなレスキューは稀でしょう。身近な海を自分の目で見て経験することが、強烈な学びや気づきの機会になり得ることを実感し、「海中教室」の大きな可能性を感じました。

海洋政策研究部主任研究員 前川 美湖

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