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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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イランにとっての核開発の意味 [2012年03月30日(Fri)]
Institute for Science and International Security / Daily News 3月8日付で、AP記者のBrian Murphyが、イランにとって核開発は、@国の尊厳に関わるものであり、Aイスラム世界の技術的中心になるというイランの国家目的に資するものであり、さらには、B国家にとって重要な技術は自給自足するという政策を表すものだ、と言っています。

すなわち、これまでもイランはウラン濃縮の停止を要求する米国などに一貫して抵抗してきたが、先般の議会選挙でハメネイ派が勝利したことで、この決意は一層強化されたようだ。選挙後、最高指導者ハメネイは、「核の成果には色々な面があるが、国の尊厳の創造が最も重要」であり、西側の圧力には敢然と立ち向かわなければならない、と述べている、

また、イランは、核計画を、航空・防衛計画を含めてイランがイスラム世界の技術的中心になるという目的の不可欠の要素とも考えている、

さらに、核計画の推進は、長年の経済制裁の中で打ち立てられた、イランの自給自足政策を表すものだ。実際、イラン軍部は多くの資源を割いて自前の防衛産業を育て、無人機、イスラエルを攻撃できるミサイル、中ロや北朝鮮の設計に基づく武器を開発してきた。昨年CIAの無人偵察機がイランで墜落した――米国は技術的トラブルが原因と言っている――が、イランが開発した高性能のシステムかく乱装置によるものだったかもしれない、

問題は根が深く、すでに20年ほど前、イランの強硬派の新聞Jomhuri-e-Eslamiは社説で、米国などがイランの原子力技術獲得を防ぎ、イランを「技術的後進国」に留めようとしていると非難しており、そうした中で、ハメネイは、核から商業利用に至る技術の追求は、「強国の支配」に対する最善の障壁だと言っている、

加えて、テヘラン在住の政治評論家Hamid Reza Shokouhiは、イランの指導者の政治的信頼性は、核の自給自足によるところが大なので、イラン側の大幅な譲歩はありそうにないと述べた、と言っています。


ハメネイが強調するように、核開発計画の推進がイランの尊厳に関わるものであり、技術の自給自足体制の確立を目指すものだとすると、イランが自給自足の核開発計画の重要部分であるウラン濃縮を止めることは考えられません。

そうだとすると、近々久しぶりに再開される5+1カ国とイランとの話し合いで、正面から濃縮の停止を要求する限り、話し合いが進展する可能性はありません。5+1カ国は、先ず、イランに20%濃縮の停止を求めるべきでしょう。

ところで、「核の開発は国の尊厳に関わる」という考えは、インドにも見られました。インドの核開発を推進したのは、ネルー首相とインドの原子力の父といわれるバーバ原子力委員長で、両人はインド独立前から、核開発によって威信と国際的地位を得ようと考えていました。核技術は近代の象徴として、大国の地位を保証するものであり、インドは核兵器製造能力を取得することで、過去の植民地時代を克服できると考えたからです。ただ、インドの公式の立場は、当初は核兵器の開発はしないというものでしたが、この方針は1964年の中国の核実験を契機に転換されたという経緯があります。

4月2日より下記サイトに移転します。
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Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:30 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国は中東から離れられない [2012年03月29日(Thu)]
ウォールストリート・ジャーナル3月7日付で米Bard CollegeのWalter Russell Mead教授が、米国でも中東でも、米国は中東から手を引くべきだと言う人は多いが、中東の重要性からいってとてもそういうわけには行かない、と論じています。

すなわち、今中東は大きく揺れているが、中東における米国の利害は単純明快であり、しかも比較的良好な状況にあるという重要な事実が見過ごされがちだ。米国は、@この地域からの石油供給が阻害されないような勢力均衡を保つこと、Aイスラエルの安全を守ること、B中長期的には安定した民主的政権が地域各地に樹立されること、を望んでいる、

しかも、シリアの危機が再び深刻になってきた今、こうした米国の目標は、中東でこれまでにない幅広い支持を得ており、イランの地域覇権への野望を阻止しようと強力な連合が形成されている。米国のイラク進攻を糾弾したフランスやアラブ連盟も、カダフィ打倒は支持したし、トルコと米国の関係も数年前より緊密になった。

他方、米国では、中東などから離れてアジアに集中すべきだと思っている者もいる。しかし、最近の不安定な中東情勢はガソリン価格を直撃し、選挙を控えて有権者の怒りを買っている。さらに高騰すれば、始まったばかりの米国の経済回復は根底から覆されかねない。それに、中東石油への依存を減らしたとしても、石油市場のグローバルな性格を考えると、米国は中東をないがしろにするわけにはいかない。アジア重視に転換するのは容易でも、中東に背を向けるのは容易ではない。結局、米国はアジアと中東の両方に同時に関与していかなければならないというのが現実だ、と言っています。


オバマ政権がアジア復帰を宣言して以来、中東をどうするのかということが潜在的な大問題でした。大中東圏に含まれるアフガニスタンについては、放棄される趨勢はほぼ明らかであり、イラクからの完全撤退も既定方針ですが、イランの核開発と、イスラエルへの脅威を中心とする中東問題から米国が離れられないのは明らかです。

そもそもanti-access、area denial戦略が打ち出された時は、ペルシャ湾への接近阻止と中国周辺海域への接近阻止とが並列して論じられていました。米国のアジア復帰は、中国の勃興を前にしての米国の長期的政策の根幹となる基本方針であり、日本として当然支持すべきものです。他方、イスラエルの存立と、ペルシャ湾の石油へのアクセスの自由の確保は、米国にとって至上命令です。

今後とも、このアジアと中東の二本立てで行くことはほぼ間違いないでしょう。そして中東が本当の危機となれば、軍事予算削減の長期計画自体が見直されなければならないでしょう。

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Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:52 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
プーチンの大統領復帰後の米ロ関係 [2012年03月28日(Wed)]
ブルッキングス研究所のウェブサイト3月5日付で、同研究所のSteven Piferが、プーチンの大統領復帰によって、米ロ関係は若干ぎくしゃくするが、大きく悪化することはないだろう、と言っています。

すなわち、この問題については以下の5点を考慮すべきだ。つまり、@首相時代も実権はプーチンにあり、大統領復帰によってロシアの対米戦略が変わることはない、ただ、Aプーチンの対米不信は非常に強く、従って、首脳レベルのトーンは変わるだろう。リセットはメドヴェージェフの下でなされた、他方、Bプーチンは国内政治、経済両面で厳しい状況に直面する。また、これまでと違い、国内に強固な支持基盤がないことを自覚しながら外部世界と向き合うことになり、その影響がどう出るかわからない、しかし、Cプーチンは金銭に関しては現実的、実利的な面がある。今回の選挙では軍事増強を訴えたが、大統領1期目に石油高騰で収入が増えた時は、金を軍備に使わず、外貨準備と危機に供える基金の積み上げに投じた。つまり、プーチンがバターより大砲を選択するとは限らない、また、D今後6年ないし12年大統領を務めるプーチンは、米国に関しては新大統領が決まるまで半年ぐらい待っても構わないと考え、待ちの姿勢をとる可能性がある、と指摘し、

結局、米ロ関係に多少揺れはあるかもしれないが、プーチンは米ロ関係をひっくり返すようなことはしないだろうし、米大統領もプーチンと話し合っていけるだろう、と言っています。


論説は、プーチンの大統領復帰が米ロ関係にとってどういう意味を持つか、という設問へのパイファーの答えを述べたものですが、その内、最も重要なのは第1の点でしょう。メドヴェージェフ大統領時代にもロシアの真の政策決定者はプーチン首相でした。つまり、2000年以来、実質的にはずっとプーチンがロシアの最高指導者だったのであり、職責の名称が大統領か首相かというのはあまり意味のないことです。従って、プーチンの大統領復帰で対米関係が変わることなどない、変わるはずがないと考えてよいでしょう。

ただ、これはロシアが変わらないということではありません。ロシアは今変化の時期にあります。プーチン流の強権政治への中産階級の不満、プーチンのカリスマの急激な消失、石油・ガスに依存する経済の停滞・脆弱性・非効率性など、問題が山積しており、これを打開しないと「強いロシア」は夢になってしまう状況です。汚職の蔓延や男性の平均寿命が62.8歳でしかないことは、リロシア社会の病理を示しています。

日本人は、ロシアを大きく強大な国、対する日本は小さな島国と考え、北方領土問題について、強大な国に島の返還を哀願しているかのように考えがちですが、これは実態と違います。IMFの2010年のGDP統計では、日本のGDPはロシアのGDPの3.5倍もあります。他方、人口は大体同じであり、ロシアも少子化で悩んでいます。対ロ交渉では、日本は核兵器能力(ただし、日米安保に基づく核の傘はある)を除いて力関係ではずっと優位にあり、ロシアもそれをよく知っていることを考慮すべきでしょう。

なお、プーチンは、3月1日外国メディアとの会見で、日ロ領土問題を「引き分け」で解決したいと述べました。2島返還で最終解決をというのであれば、話になりませんが、解決意欲については評価して、日本側が正統な要求は堅持しつつ、ロシアの真意を見定めるために話し合うのはよいことでしょう。

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Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:53 | ロシア・東欧 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ロシア大統領選 [2012年03月27日(Tue)]
プーチンの大統領選出を受けて、ロサンジェルス・タイムズ3月4日付が米AEIのLeon Aronの論説を、ファイナンシャル・タイムズ3月4日付とウォールストリート・ジャーナル3月5日付がそれぞれ社説を掲げています。

それらに共通するのは、@プーチンの当選を民主主義の敗北と位置付けながらも、プーチンのロシアに敵対すること、あるいはリビアにおけるような直接介入は求めていないこと、Aロシア国民が権利意識にめざめ、自由の抑圧、腐敗等に対する反発を強めている、としていることです。特にアーロンは、「1980年代のペレストロイカ以来、地下に潜っていたロシア国民の権利意識が地表に噴出し、その流れは広く速くなりつつある」とまで言っています。

しかし、実際のロシア社会の大勢はそれとは少し異なるように思われます。公営住宅の入手等で依然として政府への依存度の強いロシア大衆や、中産階級の半分を占めるとされる公務員・準公務員は、むしろプーチンに期待します。

実際、種々世論調査を平均すると、この3カ月の政府批判集会を支持する者は30%強ですが、自ら参加したいとする者は10%に過ぎず、実際の参加する者は全国で数十万人程度でしょう。集団主義の強いロシアの大衆は、伝統的に、自由を求めるインテリをエゴイストとして憎みます。

そうしたロシア社会の大多数が当局に牙をむくのは、ソ連末期のように生活が悪化して、支配階級による富の独占をもはや容認できなくなった時です。それに「リベラルなインテリ」層も、年長世代はこれまでの失敗を知っているために、反対運動に命をかける気はありません。

従って、ロシア社会の基本的対立軸は、西側マスコミが言うような「プーチン+政府v国民」という単純なものではなく、むしろ「大衆の上に乗った皇帝的存在のプーチン vs. 権利意識を強めた豊かな層」と言えるでしょう。

また、プーチンはこれまでの強面姿勢のために西側から煙たがられ、「反西側の保守政治家」というレッテルを貼られてしまいましたが、彼の立場は、「西側との協力は必要だし、協力したい。しかしロシアは自分の国益は主張していく。西側は、ロシアを低く見ることはしないで欲しい。尊敬してほしい。権利を侵害しないで欲しい」ということに尽きるように思われます。

今後の注目点は、 FT社説やロシアのマスコミの多くが書いているように、「プーチンはいつまで大統領をやるのか、やれるのか」でしょう。勿論、当人も側近もas long as possibleでしょうが、今後の情勢の展開次第では、現在の権力を支える旧KGB、そして石油・ガス、国営企業の利権を支配する者達が、プーチンでは権力・利権をもはや守れない、と思うようになるかもしれません。

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アフガニスタンの理想と現実 [2012年03月26日(Mon)]
ワシントン・ポスト3月1日付で、Time誌総合監修者のFareed Zakariaが、オバマ政権はアフガン当局に権限を委譲し、国家運営を任せるという方針を変えていないが、これは幻想というものであり、もっと現実的な代替策を追求すべきだ、と言っています。

すなわち、米国は、国が近代化すれば、国家安全保障問題も解決するという単純な考えの下に途上国で戦争を始めることが多いが、国家建設は至難のわだ。実際、アフガニスタンでも、政府は人口の約半分を占めるパシュトゥン人の支持を得ておらず、軍はタジク、ウズベク、ハザラ人より成り、90年代の北部同盟のようなものだ。それにアフガニスタンの経済規模では大きな軍は賄えない、

米国がここ50年で分かってきたことは、近代化は数年では達成できない、また、万一達成できたとしても、その国の民族や宗教、国家・地勢的状況は変わらないということだ、

米国はイラクでも民主国家イラクを実現しようとしたが、現状はそうはなっていない。われわれはアフガニスタンについても幻想を押し付けるのではなく、現実を認めなければならない。つまり、アフガン政府が効果的で正統性のある政府になることはないこと、タリバンはパシュトゥン人の代表として南部と東部で勢力を維持するだろうこと、パキスタンもタリバンに聖域を与えることを止めないだろうことを認めなければならない、

それに、米が現実を認めたとしてもやるべきことはある。対テロ作戦は継続できるし、タリバンが全土を制圧するのをタジク、ウズベク、ハザラと一緒に阻止できる。また、北部同盟はインド、イラン、ロシアと近いので、これらの国と協力することも可能だ、

米国は今のやり方を続けることもできるが、これはアフガニスタンの国家建設と、タリバンの聖域を閉鎖し、30年間支援したタリバンと敵対する方向へとパキスタン国家の性格を変えるという2つの大規模プロジェクトの成功に賭けることを意味する。もっと現実的にならなければならない、と言っています


ザカリアが言っていることは的を射ています。アフガン政府がアフガン全土で正統性を持つ効果的な政府になることは考え難い、というザカリアの指摘は正しいと思われます。

もっとも、オバマ政権は幻想をふりまかず現実を認めて、政策を作るべきだとザカリアは提言していますが、実際はオバマ政権も現実をよく認識しているのではないかと思われます。ただ、多大の犠牲を払ったのに、アフガン情勢があまり変わっていないことを認めるのが政治的に困難なので、アフガニスタンンの将来に希望があるように振舞っているということではないかと思われます。

米国は情報機関もしっかりしており、希望的観測で政策がどんどん進められるような体制にはなっていません。部内でもザカリアのような議論はかなりの支持があると考えて良いように思われます。

いずれにしても、ザカリアが言うように、国の地政学的状況、歴史的状況、宗教的・民族的状況はそう簡単には変わらないということを、色々な場面で様々なことを考える際に念頭に置いておくことは有用でしょう。

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Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:08 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
仏大統領選挙の後 [2012年03月23日(Fri)]
インターナショナル・ヘラルド・トリビューンン2月28日付で、同紙コラムニストのJohn Vinocurが、仏大統領選で社会党のオランドの勝利が予測されているが、彼の主張にも無理があり、結局フランスでは欠陥だらけの危うい妥協が繰り返されることになるだろう、と予測しています。

すなわち、経済成長を組み込まなければ、今後のEU経済の基盤となる条約改正を承認できないとするオランドが勢いづいている。彼は、中道や右寄りの欧州指導者や庶民と関心を共有していると主張することができる、

しかし、オランドが率いるフランス社会党は、経済成長を阻む35時間という労働時間制限の廃止を拒んでおり、オランドのリーダーシップや経済政策に信頼性があるとは言えない、

他方、サルコジは、緊縮財政と成長を同時に達成できると言っているが、これも国民を説得するには無理がある、

サルコジは、財政安定条約を国民投票にかけるような事態を避けながら、経済成長論議で正しい側に立たなければならない。しかしフランス経済はひどい状態にある。ここでサルコジが見習うべき相手としているドイツの例を想起すべきだろう。ドイツ経済が落ち込んでいた2003年、それまで節約路線で来たアイヘル財務大臣が、これ以上の節約を国民に強いるのは無理だとして、安定成長協定を破り、欧州を今襲っている危機の原因の一つを作ってしまった、

結局、最終的には緊縮財政路線と成長路線のどちらがより力不足かの勝負になるだろう。オランドが新財政安定合意を成長思考に変えるよう、欧州を導いていける可能性はあまりない。他方、サルコジ(そしてメルケル)が緊縮財政と成長を同時に達成できるとして欧州中を説得できる可能性もあまりない。ということは、フランスの選挙結果は、輝くような可能性と泥だらけの現実という欧州の歴史と同じく、結局はあぶなっかしい妥協と決定的でない「大決断」が繰り返される方向を指し示すことになるだろう、と言っています。


仏大統領選は約2カ月後となりましたが、現状は地味で面白味も指導力もないとされるオランド氏が優勢です。これは、彼が、金融を敵と豪語して戦いを挑む姿勢を見せたこと、そして成長対策を重視し、それなくしてEUの新財政安定合意を受け入れないとはっきりと打ち出したためでしょう。その背景に、ギリシャの例をみるまでもなく、緊縮財政のみを追求したのでは、国民は長期にわたって賃金や年金、福祉を削られるばかりか、経済成長は見込めず、それが更に財政を悪化させるという悪循環に陥る、という見方が広まっていることがあります。

しかし論説が指摘するように、オランド氏が掲げる成長という目標は、労働時間を制約するような社会党の伝統的政策では達成できません。また、EU27カ国中25カ国がやっと合意した財政安定策を、そのままではフランスは承認しないということになると、フランス抜きの対策はあり得ないだけに、再交渉の可能性が出てきます。メルケル氏がサルコジ氏を公に応援する所以です。

このオランド対サルコジは、EU内の対立の縮図でもあります。ユーロ圏はさしあたって負のスパイラルは免れましたが、フランスもユーロ圏も安定と成長への道のりはまだまだ遠いと言わざるを得ません。

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Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:40 | 欧州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の金融改革 [2012年03月22日(Thu)]
中国人民銀行が三段階の金融システムの対外自由化を発表したとの報道を受けて、ファイナンシャル・タイムズ2月28日付で、同紙コラムニストのMartin Wolfが、中国は対外改革の前に先ず国内改革が必要であり、中国が金融の国内改革と対外自由化を調整しつつ実施できなければ、次の大規模な世界金融危機は中国から起きることになるだろう、と言っています。

すなわち、報道によれば、中国の対外金融自由化は、1)今後3年間で対外投資の規制緩和、2)3〜5年で人民元による対外貸付の加速化、3)5〜10年で外国人による中国の株式、債券、不動産への投資の解禁、と段階的に行われる。人民元の自由兌換は最終段階で実施されるが、その時期は明示されていない、

しかし、対外自由化に先立って国内金融改革がなされなければならず、現在のように高度に規制されたままの金融システムを世界に開放すると大惨事を招く。中国の金融機関は今後10年で世界最大の金融機関になることはほぼ間違いないと思われ、従って、金融改革にどんな危険が潜んでいるかを理解することは、中国のみならず世界にとって重要だ、と指摘し、

中国が金融システムの国内改革と対外自由化を、金融規制、金融政策、為替制度をはじめあらゆる分野の政策を調整して首尾よく実行できれば、2020年代、あるいは2030年代の「中国危機」を避けられるが、そうでなければ悲惨な結果を招きかねず、世界中が関心を持って、人民銀行提案の改革の行程表の実現に伴う諸問題を議論すべきだ、と言っています。


ウォルフは、人民銀行が中国の金融の対外自由化について、慎重な行程表を発表したことは喜ぶべきだ、と言っていますが、その通りでしょう。国内の金融システムが高度に規制されている中国では、対外自由化は慎重に進めざるを得ません。しかし、それと同時に、真の対外自由化を進めるには、国内金融システムの改革が必要なことも当然です。問題は、現在の中国の金融システムはウォルフの指摘を待つまでもなく歪んでいますが、そこに既得権益が絡んで、改革が容易ではないことです。しかし、やがて世界最大規模となる中国の金融機関の問題は、単に中国だけの問題にとどまらず、世界の金融、経済に大きな影響を及ぼさざるを得ません。ウォルフが言うように、世界は中国の金融の国内改革に対し、積極的にもの申すべきでしょう。

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Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 18:17 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の東欧政策 [2012年03月21日(Wed)]
The Diplomat 2月25日付でStephen J. Blank米国陸軍大学戦略研究所教授が、中国はウクライナ、ベラルーシ、モルドヴァ等に対して外交・経済攻勢を強めている、と指摘しています。

すなわち、あまり注目されていないが、中国は首脳の訪問や融資の提供等によって、ウクライナ、ベラルーシ、モルドヴァ等の「東欧」諸国との経済外交を強化しており、中国のプレゼンスは東欧でも高まっている、

これによってロシアからの武器輸出が減る中、中国は旧ソ連時代に主要な兵器生産地だったウクライナから先端兵器・技術を輸入できるようになる。また、現在建設中の中国と欧州を結ぶ大陸横断鉄道は、ウクライナかロシアを通ることになるが、高圧的なロシアよりウクライナの方がパートナーとして扱いやすい。さらに、ベラルーシには中国の通信設備を輸出し、そこから東欧全体に普及させることを期待できる、

しかし、こうした中国の動きは、通商上の利益だけを狙ったものではなく、政治的影響力の拡大や中国的価値観への支持増大を狙った、中国のグローバルな外交の一環と言える。ただ、これは、東欧を伝統的な勢力圏と見做してきたロシアとの間で、摩擦を生む可能性がある、と言っています。


確かに、近年、中国の東欧への経済攻勢が目立ちますが、この論説が言うような「隠された狙い」、一貫した戦略が中国にあるのか、またあったとしても、カネの力だけで(中国はこの地域の安全保障にはほとんど貢献できない)どこまで東欧諸国の支持を確保できるのかは不明です。

また、ウクライナとベラルーシについては、共にEUの支持を――ウクライナはチモシェンコ前首相の投獄、ベラルーシは2010年12月大統領選挙での強権的手法をきっかけに――失う中で、ロシアの「経済力」に組み敷かれつつあります。従って、両国への中国の攻勢は、一時休止の段階にあると言えます。また、ロシアは、カザフスタンやベラルーシとの関税同盟をキルギスやタジキスタンにも拡大しようとしており、それが実現すれば、キルギスはロシアからの援助への依存度を高めることになるでしょう。

従って、東欧諸国に対する中国の影響力は、この論説のように「ある」と言えばあるという、相対的なものと言えます。

他方、東欧諸国の方は、中国を当て馬とし利用しようとするでしょうが、それ以上のものにはならないでしょう。ウクライナの兵器を除いて、これらの国から中国に輸出できるものがほとんどないことを考えると、経済関係の発展にも限界があると思われます。

また、東欧をめぐってロシアと中国の間の摩擦が深刻になるということもないでしょう。中ロ双方が関係悪化を望んでいないからです。

それにしても、ロシア周辺の小国に対して手厚い外交を展開するというのは、かつての日本外交の柱の一つでしたが、今はそれを中国が行っています。中国のように首脳レベルが身軽に外国を訪問できないのであれば、それに代わる体制を整備すべきでしょう。

さらに、中国のように見境なく資金をばらまく必要はありませんが、円借款も含めていくつか目玉となる案件を常に一つか二つ各地域向けに用意して、中小国の関心を繋ぎ止めていくことは、可能ですし、必要でもあるでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:50 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米越関係 [2012年03月19日(Mon)]
ウォールストリート・ジャーナル2月23日付で、米AEI日本研究部長のMichael Auslinが、ベトナムについて、経済は躍進しており、米国とベトナムの経済関係も進んでいるが、何といっても米国にとって重要なのは、ベトナムの戦略的価値だ、と言っています。

すなわち、アジア諸国の中で中国と最もとげとげしい関係にあるのはベトナムだ。他方、米国とベトナムの関係は、経済的にも戦略的にも進展するあらゆる可能性を持っている、

ただ、ベトナム側は、米中対立に捲きこまれるのを怖れると同時に、米国に頼り過ぎて、その期待が裏切られることを怖れており、慎重な姿勢を保っている。また、米国とベトナムの間には、過去の戦争の歴史や、体制の違いから来る人権問題などもある。しかし、豊富な若年人口、成長率、そして活発な経済・社会生活を考えると、ベトナムが他の多くのアジア諸国よりも大きな潜在力を秘めていることは間違いない。米国は、対中政策との関連は別としても、ベトナムの経済社会の発展に寄与し、友好、相互信頼関係の基礎を築くべきだ、と論じています。


極めて慎重な言い回しですが、米国の長期的なアジア戦略、特に対中共同戦線戦略を念頭に置いての、ベトナム関与政策の主張です。

南シナ海問題と言っても、戦略的、政治的、経済的に重要性が高いのは、西沙、南沙諸島であり、この問題については、中国とベトナムははっきりと衝突路線にあります。これについて、米国がどこまでベトナムに肩入れするのか、また、ベトナムが中国を怖れずどこまで米国の肩入れを許すのかが、今後の東南アジア戦略の最大の問題です。

しかし、米国とベトナムは、東アジアのパワーポリティックス上、必然的な同盟国でありながら、過去の経緯と、中国を刺戟することを怖れて、相互に慎重を期しているのが実情であり、それをよく説明しているのがこの論説です。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:07 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国社会の分裂その3 [2012年03月16日(Fri)]
マレイの著書について、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、David Brooksは、今年これ以上重要な本はまず出ないだろう、と絶賛しています。そして、マレイの話は、民主・共和両党のイデオロギーと矛盾する、共和党は、退廃的な文化エリートが神と国と伝統価値を愛する一般国民を腐敗させ、国を危うくしていると言っているが、マレイによればそれは間違いで、文化エリートは一般大衆より保守的、伝統的な生活を送っている。また、民主党は社会の資源を貪り食う金融エリートが国を危うくしていると言っているが、それも的はずれで、真の社会的隔たりは、トップの20%と下の30%の間にある。実際は、上流階級の生産性が極めて高く、離婚率が低く、職業倫理が高く、子供を厳しくしつけるのに対し、下流階級は伝統的な市民の規範から離れ、自己を規律し、生産的であることが困難な、混乱した、ポストモダンの地域に住んでいる、と言っています。

このマレイの著書が提起している問題を挙げると:
1)マレイの見方はどれほど米国社会で共有されているか
マレイは基本的に階級を所得でなく知能で分け、高い知能力は高い所得を生む、つまり、統計上、知能力の高い階級と所得の高い階級はほぼ同じだと言っていますが、これはまだマレイ自身も言っているように少数意見でしょう。ただ重要な問題提起をしていることは間違いありません。
2) 白人以外はどうか
マレイの分析の対象は白人ですが、マレイは驚くべきことに、統計に白人以外を含めても結果は変わらず、米国社会の縫い目のほころびは白人に限られていないと述べ、白人の下層階級に、黒人の下層下級と同じような市民生活の崩壊現象が広くみられることを明らかにしています。米国社会の病症はそれだけ深刻だと言わざるを得ません。
3) 中間層はどうなのか
マレイの分析には、保険業者、不動産販売者、人的資源専門家などの中級ホワイトカラー職や、小中高の教師、警官、看護師、エンジニアなどの高度技術職等、米国民の50%を占めるいわゆる中間層が入っていません。人口の半分の中間層に触れないで、米国の社会の崩壊が語れるのかという疑問は生じます。
4) 米国の外交にどのような影響を与えるか
米国の外交には伝統的に勢力均衡の追求と、自由と民主主義の普及の追求という両面があり、冷戦中も、ソ連に対抗するバランス・オブ・パワーの面と、自由、民主義諸国を守ろうとする面がありました。マレイは、自由と民主主義の尊重というアメリカ・モデルは、下層階級では崩壊しつつあるが、上流階級ではそうした事態は起きてないと言っています。外交の担い手が主として上流階級であるとすれば、米国社会に関するマレイの危機感にも関わらず、外交への影響はあまりないと考えてよさそうです。

しかし、直接的にはそうであっても、米国社会が深刻な危機を抱えていること自体、陰に陽に外交にも影響が出てくると考えざるを得ないでしょう。その意味でマレイの提起した問題に、日本人としても関心を持つべきものと思われます。






Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:16 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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