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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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米国の対エジプト政策 [2011年11月30日(Wed)]
ニューヨーク・タイムズ11月30日付で、Marc Lynch米ジョージワシントン大学准教授と、米外交問題評議会のSteven A. Cookが、米国はエジプトの軍指導者に対し、表向きは支持しながら、裏では民主化促進の圧力をかけているようだが、エジプトの民衆の目には、米国政府が軍の方の肩を持っているように見えてしまう、米国はもっとはっきりと軍指導者にエジプトの民主化を要求すべきだ、と言っています。

すなわち、現在米国がとっている慎重な態度は、オバマのアラブに対するイメージに打撃を与えている。オバマ政権は、リビアやシリアについては、「指導者は武力によって国民を弾圧してはならない」という原則を打ち立てた。勿論、エジプトの指導者は、カダフィやアサドなどとは違うが、やはりエジプトにも同じ基準を適用すべきだ、

特に、エジプト軍は米国から毎年13億ドルもの援助を受けているのだから、「米国は今の政策は受け入れられない」とはっきり告げるべきだ。そして、軍による民間人の裁判や言論の統制などの廃止を迫り、公平な選挙を期するべきだ、と論じています。


筆者は二人とも、中東問題ではかなりの業績がある中堅の学者のようですが、言っていることは極めて単純な民主主義価値観尊重の説教であり、NYTがこれを取り上げたのはわかる気がします。

しかし、彼らは、今の米国の姿勢は、オバマが就任早々アラブ世界に呼び掛けた「カイロ演説」のイメージに反するとか、リビア、シリアで掲げた政府による民衆弾圧反対の原則を貫ぬけなどと言っていますが、オバマのカイロ演説は、その後特段の進展もなく、リベラル派の記憶にしか残っていない、言いっぱなしになっている演説です。また、アサドの民衆弾圧に対する反対も、言葉だけで何ら実行は伴わず、また、実行する意思も無く、これが米国の原則となったなどとはとても言えない状況です。

ある種の軍の伝統を持っている国、特にトルコ、タイ、また、ある程度まではパキスタンのような国においては、軍の政治的影響力を考慮に入れない政治論は空論になると思われます。また、その国の軍と米国の軍との軍人同士の関係が二国間の重要な安定要因となっている場合も少なくありません。

エジプトに関する米国の国際政治上最大の利害関係は、エジプトがイスラエルとの平和条約を維持して、中東の平和の要であり続けてくれることにあり、それは、軍の発言力が維持される限りは保証されますが、軍の影響力が全く排除されたアラブ・ナショナリズム政権では保証の限りではありません。だからこそ、オバマ政権もエジプトの軍事政権に対する態度には慎重を期しているのであり、ここにあるようなリベラルな学者の意見にそのまま従う訳にはいかないでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:48 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジア=太平洋に不可欠な米海軍力 [2011年11月29日(Tue)]
ファイナンシャル・タイムズ11月29日付で、新アメリカ安全保障センターのRobert Kaplanが、米海空軍力の縮小は、米国の軍事力によって維持されて来たアジア太平洋地域の軍事バランスを不安定にし、南シナ海に面する国々の中国によるフィンランド化をもたらす恐れがある、警告しています。

すなわち、アジアがこの数十年、世界経済の動きの中心にあったのは、この地域の安全保障を当然視できたためであり、それができたのは、西太平洋で米国の海軍と空軍が圧倒的優位を保っていたからだ。現在、大陸間で取引される商品の90%は海上輸送によっており、従って、誰よりも海上輸送航路の保護に尽力してきた米国海軍は、現在のグローバリゼーションの実現に大きな功績があったと言える、

しかし、こうした状況が持続する保証はない。レーガン時代には600隻を誇っていた米海軍は、昨年の超党派「4年毎の国防計画見直し」が346隻を提言したにも関わらず、コスト高や老朽化によって、やがて250隻にまで削減されようとしている。特に、潜水艦については、ミサイルの発達で水上艦船の安全が脅かされる中、各国がその増強に力を入れているが、中国はやがて77隻を保有するようになり、質はともかく、量では米国を凌駕してしまう、

強力な米海軍力なしでは、南シナ海に面するベトナム、マレーシア、シンガポールなどはフィンランド化する恐れがある。そうなった場合、中国はこれらの国に対し、遠距離にあった民主国の米国よりも強圧的になるかもしれない、

ところが、超党派の特別委員会が負債削減について妥協案を成立させることに失敗したため、国防費は歴史的規模の削減を強いられることになるかもしれない。その結果は、さらなる軍艦の減少であり、F-35次世代主力戦闘機の開発の縮小だ、と述べ、

米国財界はそうならないよう祈っている、と結んでいます。


米国防予算が予定通り削減された場合、それが東アジアの軍事情勢に及ぼす影響は、この論文が指摘している通りでしょう。東南アジア諸国のフィンランド化は、現在でも、経済的には事実上華僑の支配下にあるこれらの国で、中国勢力が伸長することを意味し、日本にとっても重大な意味があります。

おそらくは、来年の大統領選挙に向かう政治過程において何らかの修正は試みられるのでしょうが、予断は許されない状況です。ただ、今回の豪議会におけるアジア復帰演説の中でオバマが強調したように、米国の軍事費削減はアジアの軍事バランスには影響を与えないよう配慮されることになっています。その結果、アフガニスタン、パキスタン、イラク方面に関しては、大幅削減は不可避となるでしょうが、アジアについてはこの論説が示唆するほどの影響は避けられるかもしれません。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:48 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国社会の格差 [2011年11月20日(Sun)]
ファイナンシャル・タイムズ11月20付で、Lawrence Summers元財務長官(現在ハーバード大学教授)が、米国で深刻な問題となっている所得格差問題は、脱工業化とグローバル化の結果である面が強く、経済を成長させれば縮まるというものではない、と論じています。

すなわち、現在欧米が直面している経済的困難は、景気循環的なものではなく、景気刺激策によって需要を増やすことで解決できるものではない。農業経済から工業経済への転換と同様、工業経済から脱工業経済への転換は社会に大きな影響を与え、今回の大不況の前から見られた傾向は、景気が回復した後も長く続くだろう、

中でも重大な傾向は、市場が極めて高額の報酬を限られた少数の市民に与えるように変ってしまったことだ。また、過去一世代で、富裕層の平均寿命と一般の人の平均寿命の差がほぼ倍になり、さらに、富裕層の子弟が行く私立校と公立校の間で教育の質の格差も広がっている。そうした中、25〜54歳の男性で働いていない者は、1965年には20人に1人だったが、2010年代の終わりにはおそらく6人に1人になるだろう、

こうなった主たる理由は、おそらく技術の変化とグローバル化に求められる。George Eastmanが写真に革命をもたらした時は、関係した中産階級の多くの者が二世代にわたり繁栄したが、Steve Jobsによるパソコンの革命は、彼自身とアップル社の株主には恩恵を与えたが、中産階級への恩恵は限られていた。これは、@生産の海外移転(アウトソーシング)と、Aソフトウェア産業が労働集約的ではないためだ、

このように状況が大きく変わったので、中産階級の所得の増加を決めるのは経済全体の成長率だ、という議論はもはや正しくない。そこで、貧富の格差の増大に対処する策としては、@富裕層に有利な特別な譲歩をしない、Aより公正かつ成長に資するような税制改正を行なう(富裕層の所得がますます増え、政府の財政赤字がますます増えるときに、不動産税を骨抜きにするのは適当でない)、B最重要分野における公正さを拡大するよう公的部門が図る(授業料の値上げや公立大学の大幅な減少のために、中産階級の子弟の大学進学が危うくなっているのは問題だ)ことが考えられる、と言っています。


所得格差の増大の原因は、経済の脱工業化とグローバル化にあるという指摘は興味深いが、議論を呼ぶところでしょう。ソフトウェア産業は労働集約的でないというのはその通りですが、サービス業では労働集約的なものも多い。

確かに、グローバル化の結果、アウトソーシングが広く行われ、雇用が海外に移転するのは、先進工業国にほぼ共通して見られる現象です。ただ為替レートが関係しているのも事実で、米国は中国の意図的な人民元安政策を米国の雇用を脅かすものとして非難していますし、現在の円の歴史的高騰が日本企業の海外移転を促進している、という事情もあります。

また、論説は、米国の所得格差は簡単には軽減されず、適切な対策を検討する必要があると言っていますが、中でも深刻なのは中産、下層階級の子弟が高等教育を受ける機会の減少でしょう。これは中長期的に所得格差を一層拡大させる方向に働きます。論説も指摘するように、教育という「最も重要な分野における公正さ」の問題に、もっと関心が払われるべきだと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:03 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
アジアにおける対中統一戦線の形成 [2011年11月19日(Sat)]
ウォールストリート・ジャーナル11月19日付社説が、中国の冒険主義に対抗するには地域諸国が対中「統一戦線」を維持するべきだ、と論じています。

すなわち、中国は南シナ海の90%以上に主権を持つと主張している。そして、漁業とエネルギー資源へのアクセスを得たいがために、ASEAN諸国と合意した国際石油会社を中国国内でのビジネス禁止で脅したり、公海上で他国の船に嫌がらせをしたりしている。しかし、中国は自分の立場は強いと思っているが、、大国もやり過ぎると、かえって高くつくことになる。南シナ海は中国の「歴史的水域」だとするその主張は、いかなる国際法の観念にも根拠はない、

実際、中国の拡張主義に一番影響を受けるベトナムとフィリピンは、統一路線をとるよう近隣諸国や米国に働きかけている。特にフィリピンは、紛争地域に資源を共同開発する「平和地帯」を設置することを提案している。また、ASEANは行動規範の導入を強く主張し始めており、海軍も強化している。米国も海兵隊の豪州駐留やシンガポール、ベトナムへの米艦の寄港など、地域でのプレゼンスを拡大している、

結局、中国の冒険主義に対抗する最善の策は統一戦線だろう。中国は強国がどう行動すべきか、学びの初歩段階にあり、中国がこうした段階にある間、ASEANとそのパートナー諸国は中国のよい面が出るように手を貸す必要がある、と言っています。


論説は南シナ海をめぐる中国の態度を批判し、ASEANなどが統一戦線で対中対抗をすべきことを推奨したものです。

中国は南シナ海のほぼ全域を中国の歴史的水域、また、島嶼は中国の領土だと主張していますが、ここには二つの問題が絡み合っています。

一つは水域のステイタスの問題で、歴史的水域ということで中国がどのような権利を主張しようとしているのか、よくわかりません。国際法上、歴史的湾の概念はありますが、南シナ海のような広大な地域を歴史的水域とする観念はありません。また、中国は航行の自由は阻害しないと言っていますが。中国の善意としてそうするのかどうかもよくわかりません。いずれにしても、南シナ海は北東アジアとインド洋を結ぶ重要なシーレーンであり、その航行の自由は利用国の権利として確立される必要があり、これは国際法の問題です。

もう一つは島嶼に対する領有権の問題で、中国はほぼすべての島嶼の領有権を主張し、さらに、領有権争いは関係当事国が話し合うべきで、他国は干渉すべきではないとしています。これは一見、それなりに筋のとおった主張に思えますが、実は、自分より弱い国をいわば各個撃破して領有権を確立しようというのが中国の意図であるのは明らかです。そうはさせまいとしてASEANの関係国が共同で中国に対処しようとするのも自然な成り行きです。

そもそもこれら諸島を実効支配した経験があるのは日本で、これはサンフランシスコ条約2条(F)項で放棄させられましたが、ではどこに帰属するかとなると、明確にはされていません。つまり、各国の領有権の主張は戦後の実績に基づくものであり、十分な根拠に基づくか否か疑問があります。そうした状況では、関係国が協議して分かち合うしかなく、中国が全てをとろうというのは無理があります。

今回の東アジアサミットでは、中国はこの問題で孤立してしまい、これは中国外交の失敗と言えますが、中国が力を誇示して近隣国の警戒心を呼び起こし、目を覚まさせたという意味ではむしろ良かったかもしれません。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:56 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ユーロ解体論 [2011年11月18日(Fri)]
ファイナンシャル・タイムズ11月18日付で、英投資会社ShareのMartin Jacomb会長が、ユーロ圏ではより貧しい国々への資金の再配分が十分できないので、より貧しい国々は経済的に衰退せざるを得ない、ユーロ圏を解体したほうが、より貧しい国々の経済は改善する、と論じています。

すなわち、単一通貨圏内では、資金は経済的に成功している地域に引き寄せられる。これを埋め合わせるために、中央政府は成功している地域から税金を取り、より貧しい地域に資金を再配分する。この再配分の仕組みがなければ、市場の力で富める地域はますます富み、貧しい地域は相対的にますます貧しくなる、

ところがユーロ圏には必要とされるだけの富を移転する政治的メカニズムがないので、この仕組みが機能しない、

ユーロ圏の指導者はユーロを守ると言っているが、ユーロ圏を機能させるために必要な国家主権の制限に合意できるかどうか疑問だ。そうなると、ユーロ圏がより貧しい加盟国に経済的衰退を押し付けるのは必至だ、

結局、ユーロの導入が早すぎたことが間違いだった。つまり、経済的収斂が起きる前に、そして国民の準備ができる前に無理に政治的結合を試みたため、ユーロは当初意図されたように収斂を促進するものとならず、強力な遠心的力となってしまった、

こうなった以上、受け入れ難いと思われるかもしれないが、事態を収拾するには、国別の通貨に戻るべきだろう。そうなって初めてより貧しい国々は競争力を取り戻せる。ユーロ堅持への政治的要請が強いので、指導者はまだこのような方向転換を考えられないが、その結果は、より貧しい国々における失業の増大と経済的困難だ、

しかし、ユーロ圏の解体はこれまでの対策のどれよりも困難で複雑だろうが、不可能ではない。そしてもしより貧しい国々の経済が改善すれば、EUはより健全となり、より生存が可能となるだろう、と言っています。


単一通貨圏内での地域的貧富の格差是正は、単一通貨圏が国の場合には、助成金の交付や地域振興策などの資源の移転により行われます。ところがユーロ圏の場合は、財政同盟ではなく、ましてや政治同盟でないので、一国内と同じ様な地域格差是正策をとることができず、格差は広がるばかり、従って、より貧しい国々を救う道はユーロ解体しかないという議論です。

ただこの議論は一方的で、ユーロ解体が、弱い通貨を持つ国にどの様な影響を及ぼすかが論じられていません。ユーロが解体され、元の各国通貨に戻った場合、例えばギリシャのドラクマは元のユーロに対して暴落するでしょう。ギリシャ政府の現在の負債はユーロ建てなので、負債額はドラクマ表示で巨額に上り、おそらく支払いは不能となり、デフォルトに陥る可能性が高くなります。そして、このシナリオはギリシャに限らず、今国債が売られ、国の利回りが急上昇している他の国々にも多かれ少なかれ当てはまるものです。

このように、ユーロ解体が弱い通貨国に与える影響は深刻なものであり、「ユーロを解体すれば、より貧しい国々が競争力を取り戻せる」といった簡単なものではありません。ユーロ解体論は、この深刻な影響を顧慮に入れた上で論じられるべきものです。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:49 | 欧州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米豪同盟強化 [2011年11月17日(Thu)]
ウォールストリート・ジャーナル11月17日付で豪ロウィ研究所のAndrew Shearerが、オバマが豪州を訪問し、米豪防衛協力が強化されたことを歓迎する、と言っています。

すなわち、オバマ大統領とギラード首相が、豪州における米軍活動の拡大を発表、実質的に米海兵隊がダーウィンに駐留することになった。豪州には、主要貿易相手国の中国に配慮すべしとの批判もあるが、貿易は互恵的なものであり、豪州が嘆願者の立場に立たなければならない理由はない。それに、豪州人の55%は米軍基地を支持している、

米豪協力は、@豪軍が世界一優秀な米軍と訓練・作戦を共にできるようになる、A米軍が北部と北西部の基地と訓練場を利用できるようになるだけでなく、B豪州に戦略的安心感を与え、Cさらに、米軍が東南アジアやインド洋での災害救援などに迅速に対応できるようになり、南シナ海の鎮静化にも役立つ等、多くの意義がある、

特に、豪州の基地は、日本や韓国の米軍基地の代替にはならないが、ペルシャ湾を含むインド洋、西太平洋とインド洋を結ぶ重要シーレーンへのアクセスを提供できるという利点がある、

他方、東南アジア諸国も、昔なら、豪州は米国に接近しすぎだと批判しただろうが、今は豪州に米海兵隊がいることを内心歓迎するだろう。中国は不平を言うだろうが、ここ数年、中国は東アジア諸国の神経を逆なでし、そのことが米国の友好国、同盟国をいっそう米国に近付けさせたのであって、自業自得と言える、と述べ、

今後、地域諸国は、米国の防衛費削減がアジアの安全保障の弱体化につながらないかどうかに注目していくことになろう、と結んでいます。


これは、豪州への米海兵隊基地の実質的設置賛成論であり、中国の軍事的台頭を背景に、豪州の近隣諸国もこれを歓迎していると指摘しているもので、その通りでしょう。

中国外務省は「平和的な発展協力が時代の流れであり、軍事同盟の強化は時代に適合していない」と不満を述べましたが、中国は軍事力をどんどん強化しており、平和的な発展協力路線をとっているとは思われません。

この米豪軍事関係の強化は、日本としても歓迎です。米国の戦略的関心が中東からアジアにシフトしてくるのはよいことで、沖縄の米海兵隊が豪州で訓練する可能性もあり、そうなれば、沖縄の負担軽減にもつながります。

米軍事専門家の中には、オフショア戦略ということで、米軍を中国の接近阻止兵器の届かない所に置き、有事の際はそこから出撃するという考え方と、接近阻止兵器に対抗するエアシーバトル構想で、米軍は接近阻止兵器の射程内にいてそれに対抗するという考え方がありますが、海兵隊の豪州駐留は前者の考え方に基づく面があります。この考え方を推しすすめると、在日米軍基地は中国の接近阻止兵器に対し脆弱なので、縮小すべしということになりますが、これは日本の抑止力を損なうことになります。

オフショア戦略か、エアシーバトルか、は二者択一の問題ではなく、また同盟関係は軍事的合理性のみに基づくものではないので、いずれかのみになるとは思えませんが、米国側にそういう議論があることは、日本としても念頭に置いておく必要があるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:17 | 豪州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
韓国の左傾化 [2011年11月14日(Mon)]
ウォールストリート・ジャーナル11月14日付で、米AEIのMichael Ausilinが、最近の韓国には左傾化の傾向が見られ、李明博大統領は、かつての小泉首相と同様に、最後の親米派指導者となるかもしれない、と懸念しています。

すなわち、李明博大統領は、オバマ好みの指導者と思われているが、任期終了を間近に控え、支持率は30%に下がっている。その背景には、インフレの進行、大統領の財閥との密接な関係、貧富の格差拡大への民衆の懸念等がある。そうした中、来年の大統領選では、左派の候補が当選する可能性があり、米韓関係と韓国経済の将来は波乱含みとなるだろう、

既に、先月、左派活動家の朴元淳がソウル市長に当選しているが、急進派の朴氏は韓米FTAに反対している。朴氏は野党第一党である民主党の候補でさえもなかったが、ソフトウェア起業家で国民的人気がある安哲秀氏の支持を得て当選した。これは、国民の政治への強い不満の表れと言える、

こうした政治の流れは、米国にとっては厄介であり、多く識者は韓国の親中姿勢が強まるものと予測している。米韓はこれまでの数十年間も、北朝鮮の奇矯な行動や核開発のために、同盟国として軍事的協調は維持してきたが、政治関係で緊張することは度々あった、

韓国の左傾化は政治を不安定化し、経済にとっても有害だ。左派勢力は多数の政党に分かれ、米韓FTAに反対するなど、ポピュリズムに堕して急進化している。他方、政権与党は、ビジネス界が支配する腐敗した組織と見做され、かつての独裁者の娘である朴槿恵の下で化石化した寡頭体制に向かっていると思われている。このような状況下の国政選挙では、有権者は両極に走りがちであり、政治的な中間派は少数となる、と言っています。


韓国の政治は常に左右に揺れがちであり、オースリンが懸念するように次期大統領選で左派が勝利する可能性は確かにあります。また、今朴元淳ソウル市長を応援した安哲秀氏が出馬すれば、当選できるという見方もあります。ただ、与党ハンナラ党の支持率は下がっていますが、朴槿恵女史個人への支持は、依然として高いままです。大統領選が行なわれるのは、1年先の来年12月であり、未だ予測できる状況ではありませんが、さしあたり、来年4月の総選挙の結果が注目されます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:00 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米=トルコ関係 [2011年11月12日(Sat)]
ワシントン・ポスト11月12日付で米ワシントン近東政策研究所のSoner Cagaptayが、米国とトルコは対イラン、対シリアなどで利害を共有してきており、最近はオバマとエルドアン首相の関係も良好だ、こうした良好な関係は指導者が代わっても継続するだろう、と論じています。

すなわち、昨年、米=トルコ関係はイスラエルとイラン核問題への対応の違いで動揺したが、現在、オバマとエルドアンの個人的関係はよく、中東での政治状況は両国を接近させている。先月エルドアンの母親がなくなった際、オバマは電話し、45分も話した、

2010年6月、安保理でトルコが米国のイラン制裁案に反対して米=トルコ関係は悪化したが、その後7月、トロントのG20でオバマが率直にエルドアンと話した後、修復され、トルコは対イラン政策を変更した。以来、二人は頻繁に話し政策で合意している、

オバマは「アラブの春」でのトルコの対応を評価している。特にシリアに関して、トルコはアサドの弾圧を非難し、反政府派を支持している、

この良好な米=トルコ関係は今後も続きそうだ。エルドアンは2002年に首相に就任した際はイランとの関係改善を打ち出したが、トルコが中東の主要プレイヤーとなる中で、もう一つの覇権的国家イランとの間で競争が生じている。特にシリアをめぐって、イランはアサド政権を支持、トルコは反政府派を支持している。また、米軍撤退後のイラクで、トルコとイランは影響力を競うことになるだろう、

米=トルコ関係は、イスラエルをめぐって緊張はあるが、トルコとイランの競争・対立関係がトルコを米国に接近させるだろう。トルコとイスラエルとの関係改善さえありうる。米国とトルコは中東での共通の利益で結ばれており、今の指導者がいなくなってもこれは続くだろう、と言っています。


論説の筆者は名前からトルコ系の人と思われますが、米=トルコ関係の現状をよく描写しています。

トルコのエルドアン政権については、米メディアでは、そのイスラム色に注目してトルコのイスラム化に警鐘を鳴らす向きもありましたが、「アラブの春」への対応で、トルコが近代化された民主主義国であることが明らかになってきました。つまり、リビア問題での対応や、シリアのアサド政権批判と反体制派支援がトルコのそうした性格を明らかにしました。

イランとの関係についても、一時トルコはイランの言い分も聞く姿勢を示していましたが、イランがアサド政権を支持し、さらに、イランとサウジ間の対立が深まる中、トルコはイランとの関係を再考、今は米国の対イランミサイル防衛に協力し、関連の基地設置を認めるなど、対イラン姿勢は明らかに変わってきています。

そうした中で、米=トルコ関係が改善するのは当然と言えます。また、「アラブの春」では、トルコはイスラムと民主主義を両立させた国として一つの模範と目されるようになっています。イランの神政政治や、サウジの厳格なワッハーイズムに基づく体制よりも、トルコのような国がアラブ諸国のモデルになるという評価です。

米国がトルコとの関係を重視していくのは、地域情勢の健全化のためになります。トルコは、ガザ封鎖や和平交渉の停滞などでイスラエルに批判的であり、従ってトルコとイスラエルとの関係改善は容易ではありませんが、トルコ側の言い分にも一理あるので、米国はトルコの対イスラエル政策を理由に対トルコ関係をぎくしゃくさせるべきではないでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 10:08 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
台湾売却論への反論 [2011年11月11日(Fri)]
既に紹介した、米国債務と引き換えに台湾を放棄する論については、相次いで批判が現れ、NYTがこのような水準の論文を掲載したことに驚きと疑念が表明されています。

すなわち、Foreign Policyのウェブサイト11月11日付で同誌のJoshua Keating編集次長は、NYTが世にも不思議な論説を掲載した。その政策論は一つ一つが全て非現実的だ。例えば、米国の負債$15 trillionから$1 trillionを引いて$14 trillionにしてもなんの解決にもならない。こんなことをして、オバマが選挙戦で有利になるとも思えない。それなら、カナダは$90 billionの債権を持っているから、ダコタ州の一つや二つを売ってはどうだろうか、と揶揄しています。

同日付のThe Atlanticでは同誌特派員の James Fallowsが、最初読んで、後に「しかし、まともに考えれば・・・」とか、「たしかに、馬鹿馬鹿しい提案だが、、言わんとするところは・・・」などという文章が続くものと思ったが、書いた人間が本気だと知って驚いた。これは正気の沙汰ではない、と言っています。

また、Taipei Timesの11月15日付社説は、消息筋によると、Paul V. Kaneはハーバードに一年いたが、何も学位は取っていない。目立ちたがり屋で、名前を売り出したい男であり、そもそもハーバードに入学を許されるべき男ではなかった。NYTのような権威ある新聞が、論説論にこのような論文を掲載したのは、驚きだ。中国、台湾問題を論じさせるのなら、ほかにいくらでも適任者はいる、と言っています。


これ以上この問題を論じる意味はないでしょう。問題は、全ての論説、社説が指摘しているように、NYTともあろうものがこれを取り上げた背景であり、背後にある、中国あるいは米国内親中派の工作、そしてこれを受け入れたNYTの体質です。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:58 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
オバマのアジア太平洋政策 [2011年11月10日(Thu)]
11月にオバマ大統領はAPECに出席、豪州を訪問、さらにバリで米国ASEANサミットに出席しますが、それを受けて、ヘリテージ財団のウェブサイト11月10日付で、同財団アジア研究センター所長のWalter Lohmanらが、米国のアジア太平洋復帰は大きな意義があるとして、これを歓迎し、いくつか提言をしています。

すなわち、オバマ政権は:
@中国の近海での尊大なふるまいに抵抗している諸国と連携関係を築くべきだ。また、既にクリントン国務長官が、南シナ海の航行の自由と領土紛争の平和的解決を主張し、問題の多数国間解決を提唱しているが、この線から後退してはいけない。
A米国議会代表と協議の上、日本のTPP参加を歓迎すべきだ。世界第三の経済大国日本の加入は国際的に大きな意義がある。野田首相は、大きな政治的リスクを冒して参加しようとしているのだから、米国は彼を支持すべきだ。
BTPP交渉は、次の政権まで続くことは明らかであり、先行きの不安感を取り除くため、2013年のAPEC首脳会議での完成を目指して、早期交渉のスケジュールを作って推進すべきだ。
CインドをAPECに参加させるべきだ。
D台湾は、米韓FTAと日本のTPP参加で益々孤立することになる。米国は台湾のTPP加入を考えるか、別に米台貿易協定を作るべきだ、と言っています。


ローマンは従来から、ASEAN地域を含む東アジア太平洋情勢について、専門的かつ現実的な論考を発表してきた人物ですが、これは、TPP参加をめぐる日本の国内事情にも理解を示し、米政府による野田内閣支持を要望している点てありがたい論文です。

また、この論文でもう一つ注目すべき点は、クリントンのアジア政策を支持し、米国がそこから後退しないよう主張していることでしょう。2010年1月のホノルルでの米国のアジア回帰の演説、6月のハノイでの南シナ海の航行自由の主張、9月の尖閣に対する日米安保条約適用範囲発言等々、2010年のクリントンの活躍ぶりには目を見張らされるものがありました。ただ、同時に、オバマの態度が煮え切らないことに不安も感じていました。

実際、昨年秋、クリントンはアジア歴訪の最初の訪問地ホノルルで、米国のアジア回帰はオバマ政権発足以来の基本政策だと述べ、自分とオバマが歴訪する国々を挙げて、事実上の中国包囲網(勿論、中国という言葉は一切使っていませんが)の結成を示唆する演説を行っています。それに対し、オバマは出発に際してニューヨーク・タイムズに寄稿しましたが、そこでは訪問先であるインドネシアやインドへの米国の輸出増加は米国の雇用に寄与する、と述べるだけで、政治的戦略的意味合いは全くありませんでした。今回ローマンが、最低限、米国はクリントンの線から後退してはならない、とわざわざ釘をさしているのも、こうした背景から良く分かります。





Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:17 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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