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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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南シナ海をめぐる将来の紛争 [2011年08月18日(Thu)]
Foreign Policy 9-10月号で米CNASのRobert D. Kaplanが、かつて米国がカリブ海を制し、西半球の覇者となったように、中国は南シナ海を制しようとしており、今後、国際政治の争いの場は陸上から海上に移ることになるが、米国はそうした力の均衡の変化に順応するのが賢明だ、と論じています。

すなわち、20世紀の初め以来、われわれは大量殺戮の通常戦争やゲリラ戦争に慣れて来たが、18世紀以来初めて陸上の国境に脅威が無くなった中国の関心は海洋に向かっており、来る戦争は海上中心のものになろう、

今の中国の立場は19世紀から20世紀初頭の米国のカリブ海に対するものと似ている。米国は米西戦争とパナマ運河の開通により、カリブ海を制し、西半球の覇権を確立して、東半球とバランスを取るようになった、

南シナ海は今もスエズ運河の6倍、パナマ運河の17倍の船が通る交通の要所だが、中国のエネルギー消費は2030年には倍増すると予想され、南シナ海における中国と他の沿岸国との対立は深まり、沿岸国は多かれ少なかれ米国に依存することになるだろう

どうしたら、南シナ海の戦争を避けられるだろうか。豪州国立大学のHugh White教授は、中国は巨大になるにつれて、アジアにおける米国の軍事的優位に満足しなくなるかもしれない。中国が望むのは、カリブ海に対する米国のように、各国の内政に介入しないが覇権を維持することだ。ただ、これでは日本は満足しまい。とすると、日米中印のコンサート・オブ・パワーということになるが、今度は米国がその程度では満足しないだろう。つまり、ホワイトによれば、米国の優越はアジアの不安定要因だ、

他方、中国は閉鎖的というよりも開放的になりつつある低度の独裁国家であり、また、自らを、米国のように他国の内政に干渉しない鷹揚な大国と考えているので、一番良いのは、米国が今の軍事力を維持したまま、中国との良好な関係を維持し、時間をかけて、中国の海軍力の増強という現実に適応して行くことだろう、と言っています。


カプランによれば、ホワイトは、中国は南シナ海において一種の宗主国として、寛大な国となることを目指しているだけであり、中国の力が強くなるのは抗し難い必然なのだから、米国はそれに順応すべきだ、と論じているようですが、米国を東南アジアの不安定要因と考えているのには驚きます。また、カプランもこのホワイトの論に影響を受けているようです。

しかし、世界にとっても中国にとっても、東アジアの将来の最大の問題は、台湾問題であり、南シナ海は台湾問題の小さな付属物に過ぎません。台湾海峡のバランス・オブ・パワーの変化に米国が屈した時こそ、全アジアひいては全世界のバランス・オブ・パワーに決定的な変化が起こると考えられます。従って、中国に台湾の併合を許さないことが21世紀の米国の国家戦略の最大の課題です。

そのリベラルな論調と表現から見て、おそらくホワイトは、他のリベラル急進派の議論と同じく、台湾は自然に経済的に本土に吸収されることで既に決着がついた問題だという考え方なのでしょう。これは現実からの逃避ですが、そう考えない限り、21世紀のアジアの将来を台湾問題抜きで考えるという発想は出てこないでしょう。こういう一見ソフィスティケイトした議論が行われることに危惧を感じざるを得ません。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:24 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国政治の麻痺によるアジアへの影響 [2011年08月16日(Tue)]
米ブルッキングス研究所のウェブサイト8月16日付で、同ジョン・ソーントン中国研究センター所長Kenneth G. Lieberthalが、米国政治の麻痺は、アジアにおける米国の威信を落としており、それは中国内のタカ派とハト派のバランスにも影響を与えるかもしれない、と言っています。

すなわち、米国の強みは、間違いを犯さないことではなく、間違いからすぐ立ち直って前より強くなることにあるが、現在、アジアの戦略家達は、米国は立ち直れないのではないかと疑っている、

今回の債務上限引き上げをめぐる米国政治の麻痺は、米国の政治制度の財政問題を解決する能力について疑念を持たせている。また、今回の危機は、いずれ米国の防衛費の削減を招くということで、アジアにおけるアメリカのクレディビリティーを傷つけており、米国がこのまま長期的に衰退すると思われれば、アジアは中国の方に傾いていくことになる、

一方、中国内のナショナリストは、中国はこの機会を逸せず自己主張すべきだと考えている。現状では、中国のトップはそれに反対のようだが、そのバランスは崩れるかもしれない、と警告しています。
 

たしかに今回の経済危機は、共和民主両党の党派的主張が強い、という米国政治の欠陥のために、妥協が難しくなり、見通しが困難となりました。また、それが国防費にはね返ることも、オバマの軍事問題への理解不足も重なって、不可避の状況です。しかし、過去の歴史から見て、米国がこのまま直線的に凋落することは考えにくいでしょう。現に、来年の大統領選以降、米国の政治がどの方向に動くかは、誰も予断できないことです。また、クリントン国務長官も、パネッタ国防長官も、軍事費の削減にはそろって憂慮を表明しています。

ただ、米国凋落の印象が、来年の党大会を控えて、中国内のタカ派とハト派の権力闘争に影響を与える、というリーバソールの指摘は鋭いと言えます。中国は、昨年1年の強硬姿勢とそれがもたらした外交関係悪化を反省して、穏健姿勢に転じるという見通しが、今年の初めから噂されていましたが、その後もその強硬姿勢は変わっていません。おそらくは党大会を控えて、タカ派が一度得た優位を失うつもりはない、ということではないかと推察されます。そうした中国の内政が機微な時期に、米国に財政経済危機が訪れ、米国が弱みをさらけ出している、というタイミングはたしかに憂慮すべきことだと言えます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:30 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
パキスタンの対中接近 [2011年08月15日(Mon)]
ファイナンシャル・タイムズ8月15日付社説が、米・パキスタン関係には多くの軋轢があり、米国は不満を持っているが、米国はパキスタンと協力することが運命付けられている、と言っています。

すなわち、最近パキスタンが、オサマ・ビンラディン急襲作戦の際、墜落した米国のステルス・ヘリコプターの極秘の残骸を中国に見せたと報道されたが、このことは米パ間に強い不信感があることを示している。もっとも、ビンラディン急襲作戦はパキスタンにとって非常な屈辱だったが、米パ関係は以前から軋んでおり、2月にはパキスタンが、武装したパキスタン人2名を殺害したCIAの契約者を投獄したことで、両国の治安関係者がいがみ合うということもあった、

米国は、パキスタンがアルカイダ対策に協力することを条件に治安関連の援助を与えることを約束し、これまでに200億ドル以上の援助を行ったが、パキスタンはテロ組織との関係を絶たず、アフガニスタンへの干渉も止めていないため、米国が不満と苛立ちを感じるのは無理もない。しかし、米国はパキスタンと協力することが運命付けられている、と述べ、

パキスタンは、2014年の外国軍の撤退後のアフガニスタンで何らかの安定を確保するためにも、核兵器の拡散を防止するためにも、米国にとって戦略的に重要な国だ。米国は、パキスタンの中で一番協力がしやすい文民指導者の支持に向けてあらゆることをすべきだ。その間、米国は誇り高いパキスタンが中国を使って米国に少しばかりたてつくことに慣れなければならない、と言っています。


論説の言う通りと思われます。パキスタンとの間にどんな軋轢があろうと、米国にとってパキスタンは戦略的に重要であり、「米国はパキスタンと協力することが運命付けられている」と言う表現は的をついています。

しかし、パキスタンも米国を必要としています。パキスタンは中国との緊密な関係をアピールしていますが、インドとの対立を考えると、パキスタンが、いざという時の安全保障上の保険を米国から中国に乗り換えることは考えられません。パキスタンが時として中国カードを使っても、それは戦術的なものでしょう。

ただ、米パ関係はいくつかの時限爆弾を抱えているようなものであり、こうした爆弾が爆発しないよう、慎重に管理する必要はあります。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:43 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
オバマの不評 [2011年08月13日(Sat)]
ウォールストリート・ジャーナル8月13日付で、ネオコンの大御所、Norman Podhoretz元Commentary誌編集長が、米国の左翼リベラルのオバマに対する失望、挫折は激しいものがあるが、オバマ自身は変わったわけではなく、元々穏健反米左翼思想の持ち主なのだ、と評しています。

すなわち、今やオバマ批判のシーズンであり、われわれのような右派に加えて、リベラルや左派もオバマを攻撃しており、オバマは、当初のようにリンカーンやルーズベルトでなく、一期で敗退した悲運のカーターになぞらえられている

しかし、私から見ればオバマは何も変わっていない。オバマの目標は、米国を北欧流の社会民主主義国家とすること、そして、第二次大戦以来の米国の世界における主導的役割を弱めることにある、

オバマの思想は、1960年代初頭に左翼の間で始まり、60年代末に大学などに広がって行った左翼政治思想に根源がある。左翼はソ連体制への幻滅のために一時期方向を失ったが、1972年には民主党大統領候補にマクガヴァンを立てることに成功、しかし、マクガヴァンはニクソンに大敗し、その後の二人の民主党大統領カーターとクリントンを経て、ついに自分たちの代表としてオバマを選出することに成功した。オバマは過激ではなかったが、黒人でもあり、反体制派から仲間として扱われた、

こうして60年代の政治文化の後継者がホワイトハウスに住むことになった。私は、右派の友人達のように、オバマが米国を害しようとしているとは思わないが、私に言わせれば、オバマは昔ながらの反米左翼であり、彼の失敗は、行政の未経験から来るというよりも、こうした政治傾向から来ている、と言っています。


1960年代は世界的に思想の激動の時代でした。特にその末期は、米国ではベトナム反戦運動の絶頂期、日本では70年安保、フランスではドゴール反対の五月革命の時期に当たり、中国でも1966年に始まった文化大革命の高潮期でした。

今でも欧州には68年世代という言葉があるようで、日本でも70年安保の時に学生だった人々は、菅総理を始めとして全共闘世代と呼ばれています。オバマ自身はそれよりも若い世代ですが、その時代の影響を深く残した民主党左派の期待を担って大統領となっています。従って、本来、北欧的民主主義を目指している穏健左派なので、急進的左派に失望と幻滅をもたらしたと分析されているわけです。

勿論、オバマは、右派や中道の失望も買っており、ゲーツやクリントンなどの発言には、外交防衛安保へのオバマの無関心や軽視への不満が明らかに読み取れます。昨年11月のAPECの日本サミットの際も、クリントンはハワイ、グアム、豪州、NZを通り、オバマはインドネシア、インド、韓国を経由して日本で落ち合うというように、対中包囲網を意識した行程が組まれましたが、クリントンはホノルルで暗に対中包囲網の形成を示唆する演説を行なったのに対し、オバマはインドやインドネシアへの米国の輸出増加は米国の雇用に貢献するということしか言いませんでした。

今回の予算削減措置でも、オバマの指導に対する国防、国務両省の反発は明らかであり、こうした背景は、次期大統領選にも影響があると思われます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:15 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の空母 [2011年08月11日(Thu)]
中国の初めての空母就役について、米CSISのBonnie GlaserとBrittany Billingsleyが、同研究所ウェブサイト8月11日付で、これは主として、中国のプレステージと将来の訓練のためではあるが、周辺海域では限定的な効果はあるだろう、と分析し、また、太田文雄・元防衛庁情報本部長は、ウォールストリート・ジャーナル同日付で、日本はこれに対応する原潜を保有せず、中国側がこれによって海上における防空能力を向上させることに懸念を表明しています。

すなわち、CSISは、今回の動きの主たる目的は国際的プレステージを上げることにある。中国は、常々、安保理常任理事国で空母を持たないのは中国だけだと言って来ており、これで中国は米、英、仏、露、西、伊、印、ブラジル、タイに次ぐ空母保有国となる。日本からの訪問者に対しては、中国側は、日本は第二次大戦前から空母機動部隊を保有していたではないか、と語ったという。また、中国は近年の経済発展でシーレーンに関心を持ち始めている、

ただ、当面、1隻の老朽艦艇では使用目的は限られ、訓練と限定された範囲内で力を誇示することになるだろう、と分析しています。

他方、元統幕情報本部長の太田文雄は、空母の配備は中国に絶大な能力を付与することになるだろう。米軍の友人に言わせれば、あんなものは米軍の原潜の前には敵でないと言うが、日本自身は原潜を持っていない。また今までは日本の航空自衛隊機は東シナ海を自由に哨戒できたが、中国は空母を持ったことによって、それに対する防空能力を持つようになる。さらに、中国は2050年には三個の空母機動部隊を持とうとしている。これに対抗するために作成されたのが、Air Sea Battle conceptであり、日本も米国もこれを早急に実施しなければならない、と述べています。


両論説とも、中国の空母は、米国にとっては当面はさしたる脅威でなく、これが実質的な脅威となるには少なくとも10年の余裕があるが、一方、日本や東南アジアの周辺地域にとっては、新たな地域的脅威となりつつある、という一般的な評価を反映したものです。

また、それに対抗する措置は、Air Sea Battle conceptに基づく米国の極東軍事態勢の強化であり、また日本の防衛力強化でなければなりませんが、当面、日米共に、予算の制約に苦しんでいるというのが現状です。ただ、米国は限られた予算の中では、東アジア重視に傾きつつあります。日本の予算編成も、将来は、中国の脅威増大に対する対抗措置を意識したものにならざるを得ないでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:00 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
世界経済回復にはグローバル規模の解決策が必要 [2011年08月10日(Wed)]
ワシントン・ポスト8月10日付でGordon Brown前英首相が、世界経済が陥っている問題は非常に深刻であり、世界各国は連携して問題解決にあたる必要がある、と述べています。

すなわち、世界の経済がいかに相互依存しているかが昨今改めて明らかになった。危機はあまりに深刻で、大国による試みも、あるいは二国間、三国間、四国間による大胆な動きも、それだけでは、今後「失われる10年」を防ぐことはできない。

ところが米国も欧州も様々なタブーに縛られて、個人消費や公共投資による成長は望めず、いずれも輸出で現状を打開しようとしている。しかし、2009年のG-20の時の計算によれば、協力体制をとることで、成長を犠牲にすることなく西側の債務を減らし、世界経済に3%の成長と2500万の雇用を生み出すことは可能なはずだ。そのためには各国の政策を連携させる必要がある。中国は消費を促進し、中産階級が海外からブランド品を購入できるようにする。インドは市場を開放し、貧困層が低額商品の恩恵を受けられるようにする。そして欧米は貿易を促進する、

こうした成長促進のためのサイクルを生まなければ、今後10年に及ぶ低成長を阻止できない、

G-8とG-20のホスト国である米仏の大統領は、11月のG-20の中核に「世界経済成長と雇用促進計画」を置いて、アジア諸国の合意をとりつけるべきだ。さらにそれ以前に、世界経済のさらなる悪化と保護主義の台頭を防ぐために、金融と為替レートを巡る協力を含めて、世界規模の政策協調を今すぐに始めなくてはならない、

現在、最も安全と思われていた国債という資産への信用が失われている。世界規模で協力し金融システムを改善しなければ、銀行や準銀行が行う相互貸付が金融政策を無意味にし、危機をむしろ一層悪化させることになるだろう、

ビスマルクは、世界経済というのは、一定の安定した道を進んだ挙句、突然抵抗できないほどの勢いで前に突っ込む汽車のようだと述べたが、これはグローバル化を上手く表現していると言える。抵抗不可能な力による衝突を避けるためには、卓越した決意を抱いた指導力が必要だ、と言っています。


米国にしても、欧州にしても、中国にしても、現在、政治的に不都合な政策をとることは一段と難しく、特に米国の政治的硬直は大統領選に向けて今後さらに悪化する恐れがあります。政府も共和民主両党も、S&Pによる格下げや債務上限引き上げを巡る長期的混乱の責任を押し付け合っています。その中でG-20での協調を図るには、ブラウンが言うように、傑出した決意をもった指導力が必要ですが、現状では米国にはとてもそれは期待できず、米国からはグローバルな視点からの議論さえなかなか聞こえてきません。また欧州を見れば明らかなように、サルコジやメルケルにはユーロ圏に必要な大胆かつ根本的政策を推進することすら望めません。世界経済はこれまでになく危険な状況にあります。
 

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:20 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
経済回復を阻む米政治の機能障害 [2011年08月06日(Sat)]
英エコノミスト誌のウェブサイト8月6日付けが、S&Pによる米国債格付け引き下げの原因となった米国政治の機能障害について解説しています。

すなわち、経済状況が悪い中、民主共和両党は債務上限引き上げを巡って何カ月もいがみ合いを続け、その結果得られた合意は、債務削減に向けての解決策には程遠いものだった。両党共にそれぞれが受け入れられない政策――共和党は増税、民主党は福祉削減――を合意からはずすことに成功し、合意後も、そもそもの対立を生んだ激しい二極化は相変わらず残っている。その背景には、それぞれの党が選挙区を自党に有利なように分けたため、多くの議席が安泰となっている状況がある。そうした中では、思想的に純粋な候補しか勝ち残れず、中道派が排除される状況が生まれている。また、経済の弱体化が独断的な姿勢を生んでいる面もある、

財政問題交渉の停滞は、オバマ大統領と共和党の両方に責任がある。議会では合同委員会が設立され、問題解決にあたることになっているが、共和党指導層は増税策の検討を拒んでおり、民主党は共和党が税で譲らなければ、福祉削減は許さないことを明らかにしている。解決策が生まれなければ、予算削減が自動的に発動されることになっている。もっとも、いざとなれば議会は発動を無効にするだろう。

今回の共和党の作戦の成功により、今後、同様な手段を両党共に利用する危険性がある。両党間の経済政策の違いは、大統領選までの間に何度も対立を生むことになるだろう。例えば予算、石油税、失業者向け支援、ブッシュの減税延長等を巡り、今回と同様、何カ月もにらみ合いが続く可能性がある、

こうした状況を改善するために、より公平な選挙区仕分け等も検討されてはいるが、それは実現するとしても、15カ月先になる。その間、今回露呈されたような政治機能障害は、泥沼に陥っている経済にさらなる悪影響を及ぼすことになるかもしれない、と言っています。


S&Pも明らかにしているように、格下げは経済的理由によるのではありません。米国が国債の金利を払えなくなるとか、負債を返済できなくなるなどとは誰も思っていないでしょう。問題は政治の意思で、政治家が自分たちの思想のために、米国経済、ひいては世界経済を犠牲にすることも躊躇わないことへの市場の恐怖を反映したものです。

記事にあるように、米国政治の二極化はこれまでになく激しく、個人や私企業の力を信じる増税反対・赤字削減派と、福祉重視のいわばケインジアン派とのいがみあいは、歩み寄りの余地がなく、そうしたことを背景に、ティーパーティー派のように単純ともいえる「純粋派」が当選しやすい環境が生まれています。より中道的な共和党指導層はこうした「純粋派」を上手く取り込んで、共和党の議席を伸ばそうとしています。

他方、民主党でも「純粋派」が台頭し、政策によっては共和党と協力し、合意を生んできた議員は今や一時期の半分に減り、次の選挙ではさらに減ると予測されています。

S&Pによる格下げショックが、両党間、および大統領との協力姿勢を生めばよいのですが、米国政治のいがみあいに歯止めをかけるのは非常に難しいと思われます。それに、現状のような失業率、経済停滞の中では、それぞれがより一層自らの立場を正当化する恐れがあります。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 11:34 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国防予算削減をめぐる議論 [2011年08月05日(Fri)]
ワシントン・ポスト8月4日付けでNewsweek国際版編集長のFareed Zakariaが軍事費削減論を述べたのに対し、米ブルッキングス研究所のMichael E. O'Hanlonは、国防費には最低必要なものがあると説き、中国やイランなどの新たな脅威に対抗できる軍事態勢の必要を指摘しています。

すなわち、ザカリアは、今回の防衛費削減は防衛費偏重を見直す良い機会になる。米国の防衛予算は、過去10年間に大きな敵もいないのに、世界全体の国防予算の3分の1から半分にまで増えた、
 
防衛費削減は、朝鮮戦争後の27%削減、ベトナム戦争後の29%削減、さらに、冷戦後の削減というように、前例があり、今回の削減も、米国の国防を脅かすことは無いだろう、

削減に反対する人々は、一度防衛費の中身を見るとよい。それは世界最大の社会主義経済とも言うべき、揺りかごから墓場までの軍人の社会保障システムだ。それに較べて外交の経費は貧弱であり、そのために、問題をすべて軍事的に見るようになってしまっている、と言っています。 

他方、オハンロンは、ザカリアは、何とか堪えられる$350 〜$500 billion の削減と、$1,000 billionに及ぶ削減の違いをはっきりさせない大雑把な議論をしているが、この数字の違いには大きな戦略的意味がある、

確かに、この10年で防衛費は4千億ドルから7千億ドルに増えたが、それは軍産共同体の暴走の結果ではない。増加分の内、2千億ドルはアフガン、イラク戦費であり、残りの1千億ドルには、戦争のために尽くした軍人のための経費が含まれている。これは、志願制の軍隊で戦う民主主義国として道徳的、戦略的に正しいことだ、

また、その中の750億ドルは、冷戦終了後の調達停止で老朽化した機材の補強費であり、誰もそれを過大だったと思っていない、

さらに、こうして詰めて行くと、現状ではあと500億ドルほど削減できそうにも思えるが、イランと中国の軍事能力の増大を考えると、米国としては将来の危機を抑止できるだけの軍事力を持つべきだろう、

米国が軍事に金を費うのは悪いことではない。米国の軍事力のにらみが効いているからこそ、中東の石油が順調に供給され、中国も平和的興隆を目指すのだ。経費の節約と有効利用は当然だが、米国の軍事的優越は維持されるべきだ、と論じています。


いつもながら、ザカリアの議論は、長期的な統計の上に立った歴史的ビジョンであり、オハンロンの議論は現実に即しています。

経費の計算は、今後のアフガン、イラクの経費の削減がどうなるかわかない現段階では、詳しい数字は出てきませんが、オハンロンが言うように、志願兵軍隊の献身に対する十分な報償と、冷戦終了後の新規武器調達の停止による機材の老朽化の更新は、必要でしょう。また、将来の中国対策、イラン対策として、500億ドルの余裕を持ちたいという願望は、日本としても、是非そうして欲しいところです。

武器の老朽化は日本にも共通する問題です。日本は、1990年代半ばには、通常戦力では世界第二位の近代海空軍力を誇りましたが、その後防衛力は長期的に漸減、その間、中国の軍事力は飛躍的な増大を遂げ、90年代半ばには日本が圧倒的優勢を誇った東シナ海の海空バランスは、今や逆転しつつあります。

この東アジアのバランスを、日米共同の努力で回復することは、今後の日米協力体制の中心的課題であり、そのためには、日米双方とも防衛体制の充実を図るべきです。

しかし、米国は、2001年のブッシュ政権の成立後、兵力近代化を再開しましたが、今回はその継続が危ぶまれており、日本は、米国に数年遅れて90年代前半に近代装備を完成させたものの、その後は更新せず、老朽化するに任せてきました。日米両国共、今後一層の努力が必要です。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:39 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ムバラク裁判 [2011年08月05日(Fri)]
ニューヨーク・タイムズ8月5日付け、ウォールストリート・ジャーナル同4日付、ファイナンシャル・タイムズ同3日付の各社説が、ムバラク裁判について、法の支配を示す公正な裁判になることを期待すると同時に、この裁判が、エジプトの民主化や経済の再建が遅々として進まない中にあって、改革から国民の注意を逸らすための復讐裁判になることへの懸念を表明しています。

すなわち、NYTは、この裁判は、エジプトの将来を示唆することになる。公正かつ透明な裁判であるならよいが、そうでなければ、民主主義と法の支配に対するエジプトの現政権の姿勢に疑問を投げかけることになるだろう、と述べ、

WSJは、エジプトでは、選挙の日取りも決まらず、経済も悪化したままの中で、ムバラク裁判が性急に政治的に行われている。改革は進めずに、国民の復讐心に訴えているのだ、と言っています。

さらに、FTは、裁判を始めた以上、エジプト政府は裁判の公正を期さねばならないが、裁判を改革の代わりにしてはならない。革命から半年経ったが、エジプト経済は一向に改善していない。政治経済改革に時間がかかるのはわかるが、革命の勢いを失ってはならない。ムバラク裁判ではなく、改革こそが、革命の目的を達することが出来るのだ、と言っています。


情報が少ないため、昨今のエジプトの内情はよくわかりませんが、この三紙の社説が同趣旨であるところを見ると、改革は遅々として進まず、復讐裁判によって、国民の関心を逸らす、あるいは時間を稼ぐ、という意図が現政権の中に見え隠れしているのかもしれません。

推測するに、おそらく今の軍事政権は、ムバラク政権が直面したのと同じような問題に直面しているのでしょう。すなわち、自由選挙を行うにしても、現状では、自由民主主義勢力はまだ十分育っていず、唯一の既存の野党団体はイスラム主義のモスレム同砲団だけという状況です。健全な野党勢力が養成される時間を稼ぐために選挙が延期されたと言われていますが、政党の育成に政府のバック・アップが必要だということ自体、エジプトの民主化が直線的には行かないことを示しているように思われます。結局は、何らかの形で、現在大量の援助をしてもらっている米国との関係を維持し、さらに、イスラエルとの平和条約を維持できる政権を出現させる政策が、民主化よりも優先されることにならざるを得ないように思われます。また、それは、米国も密かに期待するところでしょう。そうなると、それはムバラク政権とそう変わらないことになります。

それに対して、リベラル派や民主主義信奉者の米国のメディアが建前論として反撥しているのは理解できますが、落ち着き先としては、ムバラク無きムバラク政権となることも一つの現実的可能性でしょう。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:32 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
ASEANは頼りにならない [2011年08月05日(Fri)]
米ヘリテージ財団のウェブサイト8月5日付で、同財団アジア研究センター所長のWalter Lohmanが、7月末にバリ島で開かれたASEAN地域フォーラムは同じことの繰り返しで前進がない、米国はASEANを頼りにせず、同盟国と協力して自らシーレーンを守るべきだ、と言っています。

すなわち、1990年代後半、中国とASEANの間で、南シナ海における領土や権益争いを緩和しようと、行動規範の確立に向けての交渉が始まり、2002年に「南シナ海における関係国の行動に関する宣言」(DOC)が成立した。しかし、中国側が法的拘束力のある「規範」を嫌い、さらに、中小国と1対1で交渉したいがために、領土争いは二国間問題だと強固に主張した結果、DOCはASEAN側が望んだような行動規範とはならなかった、

7月のバリのASEAN地域フォーラムで合意された「DOC実施のためのガイドライン」も、行動規範ではない。ピツワンASEAN事務局長は歴史的成果と自画自賛したが、行動基準を設定できなかったのだから、内実は2002年の合意の繰り返しに過ぎない、

要するに、実質を求める中国に対し、ASEANは、同意でき、何かしら動いたという感触が持てればそれでよしとしており、これは、この地域の要の役を果たすべきASEANの姿勢として問題だ。そうしたASEANに米国の利益を託すわけにはいかない。米国は、べトナム、インドなどと戦略的パートナーシップを創設、強化し、ASEANとは別に、航行の自由と同盟国の安全を守っていくべきだ、と論じています。


誰とも敵対せず、誰をも傷つけず、はっきりした表現を避ける、いわゆるASEAN wayに対する米国のいらだちを示す、典型的なアメリカ人の反応であす。たしかに、バリ島の会議で何が進展したのか、資料を取り寄せて読んでみても、はっきり進展と言えるものは見出せませんでした。

しかし、にも関わらず、会議は成功だったと思われます。米国がアジア復帰を宣言して以来、前とは違った雰囲気の中で会議が行われたこと自体が重要です。つまり、中国と明言しなくても、中国の脅威を認識して、米国の存在を歓迎し、南シナ海の問題を議論したということは、それだけで大変な違いです。

米国は、ASEAN wayから離れられないASEANを永年無視して来ましたが、最近になって、ASEANを地域のテコの支点と呼ぶに到っています。しかし、ASEANに付き合って、自由民主主義諸国の利益を増進するためには、理解と忍耐が必要です。米国にASEANの重要性を説得し、ASEAN wayに耐えるよう導くには、それこそ日本が最適任であり、日本の重大な政治的外交的役割だと思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:43 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)