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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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豪州の自主防衛力批判 [2011年05月31日(Tue)]
米ブルッキングス研究所のウェブサイト6月1日付で、同研究所のJohn E. Angevineが、現在の豪州の防衛計画は、新型の航空機、艦船中心であり、この地域において豪州が期待されるシナリオにそぐわない、米国はグアム・ドクトリンを捨てて、米豪軍事計画の役割分担の調整を図るべきだ、と論じています。

すなわち、現在の豪州の防衛白書、Force 2030、は現実にそぐわない。これは、可能性の少ない本格的近代戦闘という事態に備えるものであって、豪州の周辺で起こりそうな現実に備えていない。米国は、防衛の第一義的責任はその地域の国にあるとするグアム・ドクトリンを撤廃して、米国の力を補完する豪州の防衛体制を支持するべきだ。具体的には、米豪は、共同の潜水艦基地を維持運用するとともに、米豪軍事産業協力関係を強化し、また、中国をも含む多数国間の安保協力関係を築くべきだ、と論じています。


John E. Angevine は、豪州のLowy Instituteの学者のようです。その豪州は近年とみに安全保障への関心が高く、自主的な防衛計画を作成していますが、この論説は、そんなことをしても、どうせ米国の圧倒的な軍事力とは比べ物にならない。それよりも、豪州付近で起こる可能性が高い事態に備える軍備を整えることが先決だ。より大きな事態に際しては、米国と緊密に連絡して対処すべきだ、と言っているわけです。

しかし、豪州政府の現在の政策は正攻法であり、この論説が言っていることは、ある意味では現実主義的かもしれませんが、大局的には米豪関係に資さないように思われます。

それは、一つには、オバマ政権の下で米国の軍事費は削減傾向にあり、主要艦船、戦闘機などの正面装備についても、米国の軍事専門家はその不足をかこっており、従って、米国は、豪州などの同盟国の軍備増強を歓迎する状況にあるからです。さらに、より根本的には、グアム・ドクトリンの裏の真理として、米国には自らを援けない国は援けたくないという心理があるからです。豪州が正面装備を含めて軍備増強をしていることは、同盟国としての豪州の信頼性を高め、米国のコミットメントを強化する心理的効果があります。

勿論このことは日本にも同様に当てはまることは、言うまでもないでしょう。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:48 | 豪州 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
サイバー攻撃に関する米国防省報告 [2011年05月31日(Tue)]
ウォールストリート・ジャーナル5月31日付が、サイバー攻撃に関する米国防省報告について解説記事を掲載しています。

記事は、報告が作成された背景には、米国軍民のインターネット依存が高まっているにも関わらず、電力網等へのサイバー攻撃に対する防衛体制の構築が遅れているという認識があった。特に2008年、米軍のコンピューター・システムの少なくとも一つが侵入されたことが決定的だった、

報告を読んだ国防省職員によれば、報告は、戦争の実施と反撃の釣り合いの指針を示す「武力紛争法」が、伝統的な戦争同様、サイバースペースにも適用される、としている。ただ、サイバー攻撃がどこから来たかを特定できるか、コンピューター妨害がどの程度深刻なら戦争行為とみなされるか、といった機微な問題には触れておらず、これらはすでに軍内部で論争があり、今後議論されることになるだろう。

国防省で有力となりつつある考えは、「同等」の概念で、これは、サイバー攻撃が、伝統的な軍事攻撃と同様な死・損害・破壊・高度の混乱をもたらしたら、「武力行使」の考慮の対象となり、報復に値しうる、という考えだ。そこで、どのようなサイバー攻撃が力の行使に当たるかが、現在国防当局で検討されている、

また、国防当局は、最も高度なサイバー攻撃は政府の関与無しにはあり得ないと考えているが、サイバー攻撃の責任の問題は、攻撃やサイバー兵器をどの程度外国政府と関係付けられるかにかかっており、これはどんなに条件が良い場合でも難しい問題だ、

これまでも、2008年にグルジアの政府機関や金融機関のウェブサイトが妨害され、グルジアがロシアを非難したが、ロシアは関与を一切否定、後のNATOの調査で、侵入者と被害の双方が明らかでないので、武力紛争法は適用出来ない、とされている。また、イランのウラン濃縮遠心分離機がStuxnetウィルスによって攻撃されたことは良く知られているが、これがイスラエル発のものかどうか証明されていない、と言っています。


サイバー攻撃に対する関心が世界的に高まっている中、米国でも外国からのサイバー攻撃に対する備えが不十分ではないかとの懸念が強まっており、今回WSJがスクープした国防省報告も、こうした事情を背景に作成されたものです。

報告では2008年の米国の軍のコンピューター・システムへの攻撃が挙げられていますが、ごく最近も米グーグルの電子メールサービスが中国からのサイバー攻撃を受け、米政府高官もメールの内容を盗み取られた、と報じられています。

ところで、解説記事は、国防省がサイバー攻撃を、場合によっては戦争行為とみなしうると結論したことを強調していますが、国防省関係者の見解の紹介が多く、報告の内容自体はあまり紹介していません。従って、サイバー攻撃を戦争行為とみなす可能性について、報告がどの程度論じているかは明らかではありませんが、国防省はじめ軍事関係者の間で、サイバー攻撃を戦争行為とみなすべきだとの考えが有力になりつつあることは確かなようです。

ただ、解説記事も指摘するように、サイバー攻撃を戦争行為とみなし、報復を検討するためには、攻撃の主体、特に外国政府を特定する必要がありますが、これは現時点では極めて困難と言われています。今後、米国のサイバー戦略の柱の一つとなるサイバー攻撃への報復を検討する際、鍵を握っているのは、いかにして攻撃の主体を特定できるサイバー技術を開発するかでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:37 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中央アジアにおける米印協力 [2011年05月29日(Sun)]
米外交問題評議会のEvan A. Feigenbaumが、中央アジア諸国は隣接国を越えてパートナーを広げようとしており、米国はインドと協力して中央アジアの世界経済とのつながりを強化することができる、また、そのことが米印協力体制の強化にもつながる、と論じています。

すなわち、米軍のアフガン撤退で、中央アジアにおける米国の立場は弱くなるが、全くなくなる必要はない。米国とインドはこれまで大陸アジアで意見が対立することが多かったが、両国には、いくつか共通の戦略的利害関係があり、特に、中央アジアの世界経済への再統合促進では、協力して重要な役割を果たせる、

内陸にある中央アジアは、通商路が陸路であることが経済発展のハンデになっているが、通商路を一方向(ロシア経由)から二方向(中国経由)、三方向(カスピ海経由)、四方向(南アジア経由)へと多様化すれば、特定の国からの政治的・経済的圧力に対する脆弱性を減らせる。そうした中央アジア諸国に対し、米国はインドと協力して、外国投資のまとめ役を果たすことができる。また、インドが行っている中央アジアの留学生受け入れに米国が協力すること等も考えられる、

問題は、インド=パキスタン間に持続的な貿易体制と通行制度がないこと、さらに、インドがどの程度イランを中央アジアへの出入り口として見ているかだろう、と指摘し、

米印が戦略的協力を強めて、中央アジアにおける存在を強化することは、両国の利益になる。先ず、プロジェクト支援や投資政策などで協力を始め、経済関係と大陸貿易の促進を図るべきだ、と言っています。


論説は、中央アジアにおける米印協力の制約要因として、イランとともに、印パ間の協力体制の欠如を挙げています。例えば、電力が豊富な中央アジアは電力不足の印パに電力を供給することが出来るはずだが、印パ関係が電力供給体制の進展を妨げている、と言っています。米国にとってもパキスタンとの関係は極めて重要なので、米国はインドとの協力を進めるに当たっては、パキスタンとの協力も同時に進めるなど、パキスタンに十分配慮する必要があるでしょう。

また、これまでインドはイランと密接な経済関係を持ち、インドはイランの核開発疑惑に対する制裁にも消極的でした。昨年11月のオバマのインド訪問により、インドのイランに対する政策は変わりつつあるようにも思われますが、今後米国がインドとの協力を推進する場合、イランが引き続き問題となることが予想されます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:14 | 中央・南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
期限が迫る中東和平交渉 [2011年05月26日(Thu)]
ニューヨーク・タイムズ5月26日付け社説が、ハマスとの統一政府が出来、9月が近づくと交渉はより難しくなる、中東和平交渉は期限が迫りつつある、と警告しています。

すなわち、事態を打開するために、中東和平について大胆な考えを出すべき時なのに、ネタニヤフ首相にはその気がなく、オバマにも交渉再開の戦略はないようだ。一方、アッバスは交渉に戻る気はなく、ハマスとの統一政府に賭けている、

和平の停滞は過激主義につながる上、パレスチナ側は9月に国連にパレスチナ国家承認を求めるとしている。米国は安保理で拒否権を使うだろうが、それによってイスラエルと米国は一層孤立化することになろう、

先週、オバマは和平プロセス再開を再度訴え、その中で、「相互に合意された土地交換を含む1967年境界線を基礎とするパレスチナ国家」について交渉することを呼びかけたが、これはブッシュ政権時代も含めて、10年以上すべての交渉の基盤になってきたことだ、

しかし、ネタニヤフは、国内保守派などを念頭に、「土地交換」の部分を無視して、@1967年の線には戻らない、Aエルサレムは分割できない、Bイスラエル軍はヨルダン渓谷に残る、と主張している。イスラエルの有力紙ハアレツは、古い議論を繰り返す指導者を「別の指導者」に替える必要がある、と書いている、

今後、どうなるか。オバマが真剣な交渉を始めさせないと、さらなる漂流と非難合戦になる。しかしオバマがミッチェル特使の後任を任命する気配はなく、クリントン派遣の予定もない。ハマスとの統一政府が出来、9月が近づくと交渉はより難しくなる。時間はなくなりつつある、と言っています。


中東和平問題はイスラエルの過大な要求を抑え込まないと成立しませんが、それができるのは米国しかありません。ところがイスラエルはイスラエル・ロビーなどを通じて米国内政治に多大の影響力を行使し、米国の動きを阻止しています。その意味で、米国は問題の解決に資するよりも、障害になっているところがあります。

オバマ政権が国際社会のコンセンサスである2国家解決案等の受け入れをイスラエルに迫り、受け入れられなければイスラエル支持を見直すくらいの覚悟がないとどうにもなりませんが、オバマ政権にそうした覚悟があるとは思えません。

土地交換を含む1967年の線を基礎にパレスチナ国家を作るというオバマ発言も、メディアでは新しい提案のごとく取り上げられましたが、前から交渉されてきたことです。遠からずハマスとの統一政府は樹立され、9月にはパレスチナが国連で国家承認を要求して、それに反対する米国とイスラエルは孤立することになるでしょう。さらに、和平交渉の停滞によって中東における米国の威信と信頼性が傷つくことになります。しかし、「アラブの春」によって米国への期待が高まっていますが、米国は今回も関係国を失望させることになると思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:37 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
東日本大震災レビュー [2011年05月26日(Thu)]
ヘリテージ財団が、東日本大震災への日本の対応について、@準備と対応、Aリスクの伝達、B国際的支援、C重要なインフラの4つの側面をレビューし、それらは米国にとって重要な教訓だとする報告書を発表しています。要旨は以下の通り。

@ 準備と対応
日本は大規模な対応を迅速に行い、また、「準備の文化」も示した。つまり、阪神淡路大震等の教訓を生かし、日本政府が台風、豪雨、豪雪、津波、洪水などの警報システムを全土に張り巡らすなど、災害対策の準備に力を入れていたことが成果を生んだ。その上、大地震後、日本国民は素晴らしい粘り強さと規律を示し、暴動や大規模な混乱は報道されなかった。米国も、米国なりの「準備の文化」を育てる必要がある。

A リスクの伝達
日本政府が福島原発の状況について満足できる情報を提供できなかったことが、国民の恐れと不安感を高め、世界中で憶測や誤報を招いた。もっとも、市民にリスクを知らせるには「ソフトな手段」が必要だが、反面、これは噂や誤報をすばやく広げる可能性もある。特に、低レベル放射能のリスクを伝えることは難しい。元々、災害の際、技術的情報を伝達するのは難しく、特に、政府と民間企業が情報伝達の責任を共有する場合には、目的が競合する、観点や技術・知識水準が異なる、法的責任が異なる等で、極めて難しい。

さらに、低レベル放射能の効果についての科学が極めて論争を呼ぶものであることが混乱を増幅させた。現在の基準が放射能の危険を過大視していることを示唆する科学的証拠もあるが、危機の中で、これを説明するのは困難だ。米国は低レベル放射能に関する情報伝達を強化すべきだ。

B 国際支援
大災害に際して外国の支援を受け入れるのは、日米のような先進国にとって複雑で困難な仕事だ。外国の援助受け入れについて、援助物資の搬送が混乱したり遅れたりするなど、日本政府の対応には問題もあった。その中で米軍と自衛隊の軍事協力は特に有効だった。

C 重要なインフラ
今回の大震災で宮城県などは重要なインフラが壊滅的被害を蒙ったが、電力の喪失が状況をさらに悪化させた。重要なインフラの回復が災害への対応に重要な影響を与える。米国は、最も重要なインフラである米=カナダ電力網重視の政策を維持することが不可欠だ。


大震災から3ヶ月もたたない時点で、取りあえずのものとはいえ、大震災に対する日本の対応についてこうした包括的なレビューが行われたのは驚きであり、さすが米国のシンクタンクだと思わせられます。日本でもいずれ政府と民間の対応についてレビューが行われるでしょうが、その際、政府だけでなく、民間によるレビューも行われるべきでしょう。

報告書で目を引くのは、日本は大規模な対応を迅速に行ったと評価していることです。原発事故に対する対応が困難を極めていることから、日本ではこうした評価は出にくい面がありますが、外国から見れば、日本の対応は積極的に評価すべき点があるということでしょう。

また、日本の「準備の文化」も指摘しています。これは日本のように天災の多い国としては当然のことですが、そうではない国から見れば新鮮に感じられるのでしょう。今回の大災害に際して日本人が見せた規律に多くの外国メディアが驚嘆し、賞賛したのは周知のところです。

他方、報告書は日本政府が福島原発について満足できる情報を提供しなかったと批判しています。「リスクの伝達」は今回の危機への政府の対応で最も問題とされるところです。情報が完全でなくても、早く知らせることが肝心だという指摘もあり、これは日本の泣き所と言えます。

さらに、「リスクの伝達」の中でも、低レベル放射能のリスクの伝達が、一番の問題だったと指摘すると共に、低レベルの放射能のリスクを正しく伝えることが如何に困難であるかも認めています。日本政府は当分の間、この難問と取り組まなければならないでしょう。

また、米軍と自衛隊の協力が特に有効だったと述べており、これは日本のメディアでも報じられましたが、今後日本のレビューが行われる場合にも、特筆されるべきでしょう。




Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:14 | 日本 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
イランの核開発に対する入り口規制 [2011年05月24日(Tue)]
ウォールストリート・ジャーナル5月24日付で、Ilan Berman米外交評議会会長が、イランとジンバブエの間でジンバブエ産ウランの大量購入について取引が成立しようとしているが、そうした動きは大至急止める必要がある上に、原料の供給を止めることは、イランの核開発を阻止する有効な手立てになる、と論じています。

すなわち、「アラブの春」やビンラディン殺害の陰でほとんど注目されていないが、イランの核開発をめぐって最近非常に重要な動きがあった。ジンバブエが、国連の制裁を無視して、今後5年間にわたり、45万5千トンと推定される同国の埋蔵ウラン鉱の取引においてイランに優遇的待遇を与えるという話をテヘランとの間でまとめつつある、

実は、核開発について豪語してきたにも関わらず、イランはこれまで少量かつ低品質の原料しか入手していなく、これはイランの核開発の重大な弱点と言える。つまり、イランはウラン鉱の海外からの安定供給を是非とも必要としており、それなしではイランの核計画はまさに頓挫してしまう、

そのため、あるIAEA加盟国の機密情報によれば、イランは、ジンバブエ、セネガル、ナイジェリア、コンゴ民主共和国など、いくつものウラン生産国を擁するアフリカに目をつけ始めている、

他方、これまで核燃料に関してはあまり注意を払ってこなかった西側諸国も、ここ数年は相当な外交力を動員して、テヘランにウラン鉱を提供しないよう、カザフスタン、ウズベキスタン、ブラジルなど潜在的ウラン供給国の説得に努めてきた。ところが、その一方で、イランにウランを売った国を罰する、あるいはイランにウランを売れなくする法的枠組みを設けることについてはあまり真剣に考えてこなかった、

これは至急検討すべき課題だ。イランの遠心分離器の作動を止めることに努力するよりも、先ず、原料を入手できないようにすべきであり、そのためには、法的枠組みや罰則を設けて、イランへの核原料の売却は、大きな経済的・政治的コストを伴う、ということを示すようにしなければならない、と言っています。


バーマンの論旨は明快あり、要するに、出口を規制する前に、先ず入り口を規制すべきだと言っているわけです。全くもっともな主張と言えるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 12:19 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の勃興とパキスタン [2011年05月23日(Mon)]
ファイナンシャル・タイムズ5月23日付社説が、パキスタンを取り込もうとするる中国の動きに注意を喚起しています。

すなわち、今月半ば、パキスタンのギラーニ首相が訪中して温首相と会談したが、訪中に帯同した同国国防相は、帰国後、グワダル港について「シンガポールとの契約が切れ次第、中国に運営を任せたい。中国側もその申し出を受け入れた」と明言した、

グワダル港はアラビア海の入り口に近い、戦略上絶好の位置にあり、中国がヒト、モノ、カネを投入しパキスタンのために作ったもので、中国は、将来、@グワダルからチベットへ抜ける幹線道路と鉄道を作り、湾岸の資源を陸路で自国に送り込む、Aグワダルを中国海軍の空母や潜水艦の寄航先や停泊地にして、インド洋から西太平洋に至る拠点の一つにすることを狙っている、

もっとも、中国は、あくまでグワダルは商業港だと繰り返して表明し、2047年までの長期契約によって運営はシンガポール港湾局に委ねてきた。また、中国外交部報道官も、「中国にグアダルの管理を任せるなどいう話は聞いていない」と言っている。しかし、はっきり否定したわけではなく、やはりグワダルの軍港化と中国の拠点化は既定路線ではないかと思える、と指摘し、

中国は、「言葉だけでなく実際の行動によってその意図するところをもっと透明にすべきだ。そして自らの台頭が穏健なものであることについて、国際社会を安心させるべきだ」と言っています。


社説の題名は、「世界を舞台に孔雀のように羽根を広げる中国」というものですが、実は社説自体のトーンは、題名が示唆するほど厳しくも鋭くもなく、「ああも言えるが、こうも言える」式の微温的なもので、中国の目を強く意識していることをうかがわせます。FTは中国を有望市場としているので、筆鋒もその分鈍るのでしょう。

それにしても、今回の中パ会談で、中国はパキスタンに新鋭戦闘機の譲渡、フリゲート艦の貸与、パキスタン海軍の潜水艦要員の訓練、さらに、カシミールに近い地域での巨大水力発電所の建設を約束しており、中パ関係が軍事・経済両面で著しく深化したことは間違いありません。他方、パキスタン側には、中国への依存心が根を張りつつあると言えるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:38 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米ロ関係とMD [2011年05月21日(Sat)]
米ブルッキングス研究所のウェブサイト5月21日付で、同研究所のSteven Piferが、今月末のG8サミットの際に行われる米ロ首脳会談では、東欧に配備中のMDによって米ロ関係が悪化しないよう、「同MDはロシアを狙うものではない」との政治的保証をロシアに与えるべきだ、と論じています。

すなわち、MDはロシアの核攻撃能力の無力化を狙うものだ、いうロシア側の誤解を正せば、米ロはイランのミサイルに対する防御で協力を進めることができるようになる。ロシア側は、「MDをロシアに対して向けない」という法的拘束力を持った文書を求めているが、昨年末に、新START条約を苦労して上院を通したばかりの米国は、それはできなくても、政治的保証なら与えることができる。メドベージェフ大統領がそれで手を打てば、米ロの関係は対立から新たな協力へと切り替わり、核削減交渉も一段と前進させられるようになるだろう、と言っています。


米ロ首脳会談で、パイファーが提唱するような政治的合意が成立したとしても、それは一時しのぎのものであり、MD配備は続くでしょうし、ロシアも折に触れて異議を唱えることを止めないでしょう。

東欧へのMD配備は、チェイニー前副大統領が推進したものですが、彼の狙いが、@ロシアのICBMの無力化、ANATOに参入した東欧諸国に対ロ安心感を与える、Bイランからのミサイルに対する防衛の内のどれなのか、あるいは合わさったものだったのか、それは今も不明です。

しかし、オバマ大統領がロシアの反発を弱めようと、配備予定のミサイルの到達距離を限定したため、MDは、東欧諸国に対ロ安心感を与えるという性格が強くなってきており、それだけに米国としても簡単に撤回はできません。

他方、ロシアは、「いかなるMDも突破できる」とする新型ミサイルを開発しようとしており、さらに、開発中の対空ミサイル S-500はポーランドを攻撃する地対地ミサイルに使えるので、MDは今絶対阻止しなければならないものではないと思われます。

それに、メドベージェフ大統領は、プーチンの抗米路線から転換し、米国の支援も得ての経済「近代化」路線を行くことを明確にしているので、MD問題が米ロ関係の大きな障害になることは避けたいでしょう。ただ、プーチンが煽った反米熱は、ロシア社会にまだ強く残っているので、メドベージェフもMD反対の旗を完全に降ろすようなことはしないでしょう。

そうした中で、アフガニスタンに軍事物資を運び込む経路としてのロシアの重要性は、ビンラディン殺害で薄れたと思われます。また、イランの核についても、オバマ政権はこれをむしろイスラエルに対するパレスチナ問題解決に向けての圧力材料にするかもしれず、そうなると、イランに対する圧力という面でもロシアの協力は不可欠ではなくなります。

つまり、オバマ政権にとってロシアは、米国の軍事予算を縮小できるよう静かにさせておく、あるいは中国と組んで米国に歯向かってくることがないよう、慰撫しておく程度の存在になってきたように思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:29 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
戦略的ガイドラインを欠く米太平洋司令部 [2011年05月20日(Fri)]
Foreign Policyのウェブサイト5月20日付で、米中経済安全保障調査委員会副委員長のDaniel Blumenthalが、米軍太平洋司令部は戦略面でのガイドラインが決定的に不足している、より明確な戦略指針がなければ、アジアにおける米国の利益を維持することは出来ない、と警告しています。

すなわち、太平洋司令部は32万5千人の人員を擁し、地球の約半分の地域を担当、その任務はますます増大しているが、それに見合う資源も、ワシントンからの戦略指針も不足している。特に、米国は、将来、台湾防衛のためにどこまで行動するのか、南シナ海での紛争や日中間の紛争にどこまで介入するのか、中国が朝鮮半島有事で攻撃者となった場合、どう対応するのか等についての戦略指針が欠如している、

中でも、台湾に関する中国の動きについて、米国が許容できる範囲を示す「レッド・ライン」が曖昧なままにされている状況は、かつて米国がいつかは日本帝国と戦わねばならぬ日がくるだろうと知りながら、日本との間で「レッドライン」があいまいなままにされ、それがやがて第2次大戦につながってしまった時と酷似している、

台湾の帰趨がやがてはアジア太平洋の全体のパワー・バランスを変えることはあり得るのであり、従って中国との間でレッドラインが曖昧なままにされているのは非常に危険だ、

そうした中で、最近、クリントン国務長官とゲーツ攻防長官が、南シナ海における航行の自由は、中国式に言えば、米国にとっての「核心的利益」にあたる、と明言したのは、あいまいさを排除したものとして評価できる、と言っています。


このブルーメンソールの論評は、米国で最近出てきた「台湾放棄論」に対する反論と言えるもので、特定の地域の帰趨が全体の力関係を大きく変動させる引き金となり得る、との考え方は説得力があります。

もともと、「台湾関係法」という米国の国内法は、外交関係のない台湾当局への直接のコミットメントではないため、多くのあいまいさを含んでいます。それに加え、中国の対台湾政策は、硬軟両様織り交ぜたものですが、米軍の関与を回避しつつ、増強した軍事力によって台湾を威圧し、台湾人の交戦意欲を削ぐことに主眼があることに変わりはありません。

米国も日本も、台湾問題については、「現状維持」と「話し合い解決」という原則的立場を中台双方に対して表明してきましたが、具体的にどこからが「レッドライン」であるのかをより明確にすべき時に来ているということでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:42 | 米国 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
サウジという国 [2011年05月20日(Fri)]
米ブルッキングス研究所のウェブサイト5月20日付で、同研究所サバン中東政策センターのSuzanne Maloneが、中東に関するオバマ演説を聞くと、「アラブの春」に対するオバマの考え方は、サウジのそれと正反対だが、この問題をどうするのだろうか、と疑念を呈しています。

すなわち、オバマは「アラブの春」を謳い上げ、シリア、イランを名指しで批判し、バーレーンにおける弾圧を非難しているが、サウジという言葉は全く使っていない。この部分は、オバマもあまり心地よくなかったのだろう、演説がぎごちなかった、

一方、サウジは、アラブの政治的変化について米国と180度違う考え方をしている。オバマは、「アラブの春」はイランを利することになる、というような誤った議論を排除し、米国の理念である地域の民主化についてサウジという国とどう対処するかという問題に正面から取り組まねばならない、と言っています。


言わんとするところは分かりますが、これは、自由民主主義の原則を振りかざすだけで、ではどうするのかという政策論も政策提言も無い論説です。

ただ、ここに描かれているようなサウジこそがサウジという国、そして米=サウジ関係の本質なのではないかと思われます。サウジという国は、自国の政策が、その時点における米国の政策と整合性の点で問題があるからと言って、それを直ちにどうこうするということに結び付かない国です。

サウジは、一度も西欧の植民地となったことがなく、自らの生存を自らの手で守って来た自然(じねん)の国です。近代的技術も、政治制度も、すべて外からの押し付けでなく、自らの判断で取捨選択して来た国です。今後どうすれば良いのか、自分で自分のことはちゃんと考えています。また、石油資源に恵まれているため、そうするだけの余裕があります。バーレーン介入も、サウジの国益を考えた上で、米国や国際的メディアの反発も凌げると読み切った上での措置だったのでしょう。

サウジのインテリと話していると、自由化や民主化でさえも、何十年という時間の単位で測れば、将来の可能性の中に入っています。ただ、それを今他国から言われてどうするという国ではありません。まして短期的な米国内の政治情勢や、大統領の演説に合わせて動くような国ではありません。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:36 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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