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世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


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胡錦濤の指導力の脆弱性 [2011年01月18日(Tue)]
ニューヨーク・タイムズ1月18日付で同紙記者のDavid Sangerらが、中国の軍や巨大国営企業は時として政府の方針に従わずに行動し、胡錦濤は完全に権力を掌握しているとは思えない、と解説しています。

それによると、胡錦濤は共産主義中国になってから最も弱い指導者かもしれない。先日、ゲーツ米国防長官との会談の最中にステルス爆撃機のテスト飛行が行なわれ、胡がそれを知らされていなかったことは、胡の周囲に対立する権力の中心があることを示唆している。

米政府は当初、胡は通貨や北朝鮮等の問題を避けようとしていると見ていたが、その後、共産党は一枚岩でなく、毛沢東やケ小平時代に比べて軍人や閣僚、大企業が大きな影響力を持つようになって、胡は畏敬されていない、と結論づけるに至っている、

特に軍は時に外交でも独自の方針を打ち出すことがあり、国営企業の多くもそうだ。例えば、胡は人民元を徐々に切り上げて行くと言ったが、中国商務省は、切り上げは中国経済にとって打撃になると直ちに表明、また、胡は市場開放を繰り返し保証したが、実際は関連当局がエネルギー、通信、銀行分野で中国国営企業と競争することを一層困難にしている。さらに、中国軍部のタカ派は、ここ2年南シナ海などで高圧的態度に出て、長年の注意深い中国外交の成果を台無しにしてしまった、

このようにどの尺度をとっても、胡は行動を制約された指導者であり、ケ小平のように抜本的改革を行うことなど考えられない。彼は集団指導制の下で取り引きするネゴシエーターであり、かつて完全に権力を掌握したことはなかったと思われる、

中国の文民統制を疑うものはいないが、問題は、胡や後継者の習近平などの指導者が、米国との緊密な関係の保持といった政府の大きな外交方針に軍を従わせることが出来るかどうかだ、と言っています。


胡錦濤が権力を完全には掌握していない中で、軍や巨大国営企業は必ずしも政府の方針に従わず、そうしたことが米中関係の進展を阻害しているとの分析です。この記事が出たのは胡の訪米直前であり、訪米によって少なくとも当面米中関係は改善されましたが、この分析の妥当性が否定されたわけではありません。

訪米では経済分野の協力が強調されましたが、その試金石の一つとなるのは、国内市場の開放でしょう。解説記事は、中国政府が開放の方針を打ち出しても、エネルギー、通信、銀行などの分野で国営企業が開放に反対していることを示唆しています。

しかし、胡の指導力との関連でより重要なのは軍です。解説記事が言うように胡が軍を完全に掌握していないとすれば、最近の中国の強面外交は、必ずしも政府の方針ばかりではなく、軍の独走があったことを意味します。そしてこの分析が正しいとすれば、それは米中関係だけでなく、日中関係、ひいては中国の対外関係全般に少なからざる影響を及ぼす可能性があります。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:11 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イランの核施設に対するサイバー攻撃 [2011年01月17日(Mon)]
ニューヨーク・タイムズ1月17日付で、米国とイスラエルが共同開発したコンピューター・ウィルス、Stuxnetの攻撃により、イランのナタンツ濃縮施設の遠心分離機の一部が操業不能となり、その結果、イランの原爆製造能力は数年遅れることになった、と同紙記者William J. Broadらが解説しています。

それによると、Stuxnet開発の手がかりは、2008年初め、ドイツのシーメンスと米国のアイダホ国立研究所が、シーメンス製産業機械のコントロール・パネルのコンピューターの弱点を見つけ出す共同研究を行う中で得られた。米情報筋によれば、ナタンツの濃縮施設のコントロール・パネルもシーメンス製だ、

その後、イスラエルの核兵器計画の本拠地であるディモナで、ナタンツと同型の遠心分離機が作られ、Stuxnetの有効性がテストされた後、ナタンツの濃縮施の遠心分離機をサイバー攻撃、その5分の1ほどが操業不能になった、

欧米の専門家によれば、Stuxnetは、これまでに考案されたウィルスに比べてはるかに複雑で独創的なものだと言う、

今回のStuxnet攻撃は、イランの遠心分離機の一部を操業不能にしただけで、完全な成功とは言えず、これで攻撃が終ったかどうかも不明だが、イランの核兵器製造を遅らせる効果はあったようだ。米、イスラエル両政府ともStuxnetについて何も言っていないが、近々退官するモサドのDagan長官は、最近イスラエル議会で、イランは技術的困難に直面し、原爆の製造は2015年までは出来ないかもしれないと述べており、その主因はStuxnetによる攻撃だったと思われる、

実はイスラエルは2年前、イスラエルの核施設を爆撃すれば、イランの核計画を3年遅らせることが出来るとして、バンカー・バスター弾などの提供をブッシュに要請して断わられている、Dagan長官の発言は、爆撃せずに同じ時間を稼げたとイスラエルが考えていることを示唆している、ということです。


イランが濃縮で技術的問題に直面しており、それがサイバー攻撃によるものらしいという話はしばらく前からありましたが、これほど詳細な解説記事が出て来たのは初めてです。イスラエルによるイランの核施設爆撃が懸念されていましたが、米、イスラエルの政府高官がイランの核開発の遅れをはっきり示唆していることから、イランに対する爆撃の可能性は当面遠のいたと言えるでしょう。

昨年11月段階でのIAEAの報告には、サイバー攻撃関連の記述はなく、サイバー攻撃がイランの濃縮計画にどのような影響を与えたかは不明ですが、米国もイスラエルも安堵の胸をなでおろしているようであり、イランの核開発をめぐる緊迫感がやわらいだのは確かなようです。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:15 | イラン | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の新ステルス機の戦略的意味 [2011年01月13日(Thu)]
米AEIのウェブサイト1月13日付で、同研究所のThomas Donnellyが、豪州の報告書“Air power Australia”を踏まえて、中国が新たに開発したステルス戦闘機は、グアムの基地も攻撃可能であり、西太平洋の戦略を根本的に変えるものだ、と警告を発しています。

すなわち、中国J-20ステルス機は、その大きなサイズから言って、F-22を真似た戦闘機でなく、かつて、米国が中距離爆撃F-111の後継機として検討していたF-22B爆撃機のアイディアを復活させたものだろう、

そして、米国は187機のF-22の製造を予定しているが、おそらく中国はそれ以上の数を揃えることを考えているだろう。それが実現すれば、新ステルス機は、現在中国が所有している弾道ミサイルや巡航ミサイルを上回る強力な戦力となり、中国は米国を西太平洋から排除するだけでなく、その後の真空を埋めることになるだろう、と指摘、

要するに、米国防総省のお偉方は、中国の軍備増強は現在西太平洋に配備されている米軍に対して「アクセスを拒否」することが目的だと言ってきたが、J-20ステルス戦闘機はむしろ従来型の戦力投射手段のように思える。新ステルス戦闘機の試験飛行がゲーツ訪中に合わせて行なわれたかどうかはこの際大した問題ではない。それよりも、これは中国の野望の表れであり、豪州、日本、韓国、そして米国に強烈なメッセージを送るものだ、と言っています。


中国の新ステルス戦闘機については豪州とドネリーの分析の通りかもしれません。

いずれにしても、一度開発を始めた尖端兵器の開発を中止することは、競争相手に真似される恐れがあり、非常に危険なことです。例えば、第二次大戦時、日本のゼロ戦の性能を見た英国が、英国で廃棄された戦闘機の設計図に基づくものだと言ったという説が流布されたことがありました。これは、黄色人種蔑視から来る対日偏見の一種だったようですが、真偽は未だにわかりません。

ただ、事態がこうなると、いずれ米国は、F-22の生産中止を再考するか、あるいは、中国のステルスに対応する新たな戦闘機を開発するかの選択に直面する可能性が出てきました。その場合、日本がいち早く発注の意思を表明すれば、開発の決定を促す一つの要素になるでしょう。F-22の時も、日本が早く購入の意向を表明していれば、開発中止が延期されたかがもしれない状況だったと言われています。(もっとも、経費以外の理由もあったと言われています。)

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:57 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米中関係の明暗 [2011年01月13日(Thu)]
胡錦涛訪米を控えて、Foreign Policy1月13日付で、米戦略国際問題所のMichael J. Greenが、米中関係の将来見通しについて楽観論と悲観論を紹介しています。
 
すなわち、今回の訪問は、胡錦涛にとって来年の引退を前にしての告別訪問となるものだが、米中関係について楽観的な面としては、胡錦涛が、ケ小平の平和的興隆路線を守り、まだ中国には米国に挑戦する実力が無い事を認識して、低姿勢で経済建設に励む政策を続けていることを挙げられる。それは元の3.2%切り上げや、北朝鮮に対する抑制(韓国の演習に北は報復しなかった)、イラン問題での協力(西欧や日本が撤退した後を埋めようとしなかった)、ゲーツとの対話再開などに表れている、

悲観面は、2007年の衛星破壊や、ゲーツ訪中時の新ステルス戦闘機のテスト飛行に見られるように、軍の勝手な行動が野放しにされていることだ。習近平の昇進を軍が妨げているという噂もある。また、人権問題では中国には譲歩する気配が全くない、と指摘し、

米国は、経済と安全保障面でアジア諸国との関係を強化することにより、中国に、少なくとも戦術的には影響を与えている。政治的自由等の人権問題についても同様のアプローチを考えるべき時かもしれない、と結んでいます。


今や東アジア問題評論の第一人者の一人となったグリーンだけに、事態の推移を良くフォローしています。

オバマの最初の訪中までの対中宥和時代が2010年に一変した経緯の描写も正確と思われますし、何よりも、中国の強硬姿勢が最近半歩後退しているという、一般にはまだ良く知られていない状況も的確に捉えています。

軍の発言力の増大もグリーンの指摘する通りでしょう。オバマ政権の当初の対中低姿勢が中国内のタカ派(軍が中心だろう)に、米国はこちらが強く出ればひっこむという考えを持たせてしまい、2012年の権力継承に向かって、タカ派とハト派の勢力バランスに影響を与えたのではないかと思われます。だとすれば、権力闘争も絡んで、2012年までは、タカ派の発言力は弱まらないことになります。

興味深いのは、人権問題を東アジアの共通認識として取り上げるという主張であり、それは、グリーンも示唆するように、中国に対して効果があるだけでなく、価値観を同じくする諸国による対中包囲網の考え方に直結するものです。
 

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:19 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
日米関係改善の兆し [2011年01月10日(Mon)]
ワシントン・ポスト1月10日付で、同紙論説面担当編集長のFred Hiattが、前原外相とのインタビューに触れつつ、日本との同盟が修復されてきたと言っています。

すなわち、オバマ政権成立直後は、米国にとって中国は大きな機会、韓国は問題国、日本は当然視してよい衰退する同盟国と見られていたが、2年後の今、韓国は最高の友人に、中国は失望に、そして日本は頭痛の種から有用な同盟国に戻ってきた、

前原外相も、日米関係は大変重要であり、回復のために努力していると述べた。しかし、何よりも、日米が中国への幻滅を共有していることが日米関係を揺らぎから回復させている、

米国は中国に大きな役割を与え、気候変動や不拡散で責任ある協力を促したが、イランについての渋々の協力以外、北朝鮮、通貨と貿易、軍事対話、人権などで失望させられた。中国の南シナ海での威圧的行動も問題だ。クリントンも前原も中国を名指しこそしないが、発言の中で対中警戒心を示している。日米関係のトーンが変わったことは間違いない。沖縄の基地問題は残っているが、日米共にそれを大問題にするつもりはない、と述べ、

多数を制するのは衆議院のみである民主党政権の先行きは順調ではないだろうが、中国の興隆が続くという保証もない。そして、この2年で、中ロのような専制国は不確実なパートナーだとわかって来た一方、前原は確固たる日米同盟をアジアの平和と安定の要として提示しており、これは米国にとっても悪くない取引だ、と言っています。


この論説は特段新しい論点を提起しているものではありませんが、日米同盟関係の重要性を指摘した、日本にとってはありがたい論説です。これは、中国の異質性と行動の不適切さに伴う失望によって、米識者の間で、やはり日米同盟でアジアに対処していくべきだという見方が強まっていることの一つの現れでしょう。逆に言えば、中国がもっと賢くふるまって、米国を失望させていなければ、米国が中国と協議しながらアジアの問題を処理する方向に向かう可能性があったことと言うことです。ノーベル平和賞受賞者劉への弾圧など、言わば敵失によって日本の立場が良くなったと言えます。

日本としては、日米関係の現状に安住せず、今後普天間問題、価値の共有、集団的自衛権問題その他に取り組み、敵失がなくても、日米同盟がしっかりしたものになるように努力すべきでしょう。

なおアジア諸国は、社会のモデルとして中国モデルよりも日本モデルを高く評価し、アジアで中国が覇権を握ることは望んでいないとの印象を受けます。日本がしっかりすれば、アジア諸国が中国より日本になびく可能性は存外あるように思われます。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:04 | 日本 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
EUの対中武器禁輸解除 [2011年01月10日(Mon)]
Asia Times1月10日付で、Trefor Moss元Jane's Defense Weekly編集委員が、EUの一部に対中兵器禁輸を解除しようという動きがあるが、これは実現しないだろうし、解除すべきではないと論じています。

すなわち、1989年の天安門事件を契機に始まったEUの対中兵器禁輸の解除を求める声が、EUの一部に出てきた。例えば、昨年末、アシュトン「EU外相」はEU諸国首脳への報告書の中で、禁輸は対中関係における大きな障害となっており、対中戦略を検討する中で今後見直されるべきだと言っている、

しかしEUの「兵器輸出についての行動基準」(強制力はない)は、輸出された兵器がその国の@国内弾圧、A領土要求、BEUの加盟国、友好国、同盟国に対して使われないことを掲げており、中国はこうした基準を満たしていない。他方、工作機械等の輸出は自由であり、中国はこれを軍事生産にも使えるので、兵器禁輸はシンボリックな意味しかないかもしれないが、姿勢を示すことは重要だ。それに、中国はスペイン国債の購入等で、EUに対するバーゲニング・ポジションを強めてはいるが、欧州経済の安定は中国にとっても必要なので、禁輸を解除しなければ国債は買わないという事態にはならない。従って、対中兵器禁輸は続くだろう、と言っています。


論説は名指ししていませんが、禁輸解除の動きはおそらくフランスあたりから出ていると思われます。サルコジ政権は昨年12月に大型揚陸艦「ミストラル級」の輸出についてロシアとの成約にこぎつけており、今度は対中輸出に目を向けてきた可能性があります。

他方、日本は一貫して、EUが対中兵器禁輸を解除しないよう呼びかけてきました。このまま事態が進めば、日本は、ロシアからはEU製の揚陸艦によって、中国からはEU製の戦闘機・ミサイルによって圧迫されることになりかねません。日本はIMFや欧州復興開発銀行などへの多額の拠出等を通じて欧州諸国(ギリシャ等)や欧州周辺諸国(ウクライナ等)の経済安定を支えており、その貢献度は中国をはるかに上回ります。そうした日本の安全保障を脅かすようなことは避けるよう、今後も強く(しかし内々に)EUに申し入れていくべきでしょう。

民主主義・市場経済諸国が大きな戦略を欠き、調整も不十分であることから、今世界では奇妙な現象が生じています。それは米国が核軍縮や、イラク・アフガン後の軍事予算削減を進め、西欧諸国も冷戦終了と財政赤字削減の必要から総じて軍縮に向かっている中で、中国は軍事予算・軍備の拡充を図り、最近ではロシアもこの流れに加わってきています。従って、日米欧で安全保障面での世界情勢認識をすり合わせ、対処ぶりを話し合う機会を設けて行くべきでしょう。

また、中国の兵器生産技術が急速に進んだのは、西側の工作機械を自由に購入できたことが大きいと思われるので、民需用に輸出した西側の工作機械が軍用に転用されるのをできるだけ妨げる方策を、日米欧の間で強化するべきだと思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:11 | 欧州 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
米国の対中認識の転換 [2011年01月07日(Fri)]
ウォールストリート・ジャーナル1月7日付で米AEIのMicheal Auslinが、米国がここにきてようやく「バラ色に曇ったメガネを外し」、対中認識が現実主義的になってきた、と大いに評価しています。

すなわち、米国は中国が建設的役割を果たす国になるのを期待して長年待ったが、今や、米中間の国益の隔たりは大きすぎ、中国とは有意味なパートナーシップは組めないとの見方が米国で広まっている。そうした見方を決定的にしたのは、劉暁波のノーベル平和賞受賞をめぐる北京の対応だった、

もっとも、日本からインドに至る諸国は、以前から中国に対して警戒的見方をしており、米国はそれにようやく追いついたに過ぎない、と指摘、

中国を現実主義の目をもって眺めることは、@これまで中国の軍拡について無視しがちだった米政府や米議会が明確な認識を持つということであり、このことは、米国と同盟国が中国に対して備える出発点になる、A中国とは価値観に開きがあることを認めるということであり、そうした認識を持ってこそ、価値を共有する諸国との緊密な連携が可能になる(例えば、中国の脅威を前にすれば、米日間のいざこざも収まるだろう)、B地域の諸国の結束を促し、そうした諸国の結束は中国の態度変更をもたらすかもしれない、と述べています。


オースリンも言うように、日本からインドまで、中国への懸念は広く共有されていました。それを動員し、規範と価値において譲らぬ線を作り上げてこそ中国を矯正できるはずなのに、指導力を発揮すべき米国が長らく「バラ色のメガネ」で中国を見ていたのだから、どうにもならない、その米国にようやく現実主義が根づき始めてきた、この現実主義こそ、中国を「共存可能な」国にしていく、と言っているわけです。

この論説の中で注目されるのは、オースリンが従来の「アジア太平洋」という言葉を使わずに、「インド太平洋」と言っていることでしょう。この言葉は海洋における民主主義秩序を示唆し、中国の地理的ウェイトを下げる効果を持っています。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:46 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米国経済・企業の体質 [2011年01月06日(Thu)]
ファイナンシャル・タイムズ1月6日付で、同紙編集委員のEd Crooksが、米国の財政赤字削減および雇用増加のために、製造業の活性化と輸出促進が唱えられているが、これは非常に困難だとしてその理由を分析しています。

すなわち、米国の輸出停滞の原因は、人民元レートに求められがちだが、実はより根源的問題は、米国では、@輸出企業が極端に少ない(輸出企業は米企業全体の約1%、しかも輸出先の58%をわずか1ヵ国が占めている)、A貿易合意実現への意欲が乏しい(既存の貿易合意は世界に262あるが、米国はその内の17にしか関わっていない)、B十分な教育と技術を有する労働者が不足している(これが産業基盤の弱体化へつながり、負のサイクルを作る)、また、C新興国が近代設備や技術者を擁するようになって、低賃金地域での製造が可能になってきた、D大企業は市場に近い場所で製造することを望む、といったことにある、

従って、オバマが今後5年間で輸出を倍増する目標を掲げたのは、彼がいかに産業界を理解していないかを表わしている。また、こうした要因を相殺するほど対ドル元レートを調整しようとすれば、経済の他の分野に多大な悪影響を与えることになろう。海外の現地製造であっても、米国内に管理部門などの仕事を生む、と言う人々もいるが、それではとても過去の水準のような国内雇用は望めない。さらに、中国やインドが国内インフラに投資するようになれば、米国の製造業も活性化し、世界的不均衡は解消されるという説もあるが、これには非常に時間がかかる、と述べ、

「未来はいまだ決まっておらず、真っ暗ではないが、失望をもたらす可能性もある」、というある経済人の言葉を引用して分析を締めくくっています。


この記事と同時期に発表された12月の米国の失業率は9.4%と、前月の9.8%に比べれば改善されたように見えますが、15〜17.5万の職が生まれるという事前予測に比べ、10.3万という数字は大きな失望感をもたらしました。失業率改善の最大の要因は、雇用希望者数の減少だと言われており、つまりは職探しすらあきらめる人々が増えているということです。こうした人々も加えると、実質失業率は16.7%と見られ、さらに不安を呼ぶのは、半年以上失業している者の割合が増え、35〜44歳の働き盛りの年齢層で失業率が増えていることです。先日、バーナンキ連銀総裁は、労働市場の回復には5年かかると議会で証言しています。

企業の収益があがり、現金資産が蓄積される中で、なかなか雇用情勢が改善しませんが、この記事は、その根源である米国の経済や企業の体質をよくつかんでいると言えるでしょう、米国経済に頼る諸国も、米国経済が本格的に立ち直るまでにはまだまだ時間がかかると覚悟すべきかもしれません。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:21 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国のミサイル戦力の脅威 [2011年01月02日(Sun)]
ワシントン・ポスト1月2日付で米Project 2049 InstituteのMark StokesとAEIのDan Blumenthalが、米ロの間では新START条約が成立したが、真の脅威は、米国の前方展開基地や艦船を攻撃できる中国の中距離ミサイルであり、米国は中国の中距離核戦力全廃条約(INF)への参加を図るべきだ、と論じています。

すなわち、中国のミサイルは、間もなくアジア太平洋におけるアメリカの前方展開基地の空軍を無能力化し、米艦船を撃沈する能力を持つようになるだろうろう。中国は台湾との緊張に対処するためと言ってきたが、中台関係が改善しても軍拡を止めない。これに対しては中国のミサイル基地を破壊する以外に対策はない。それも、中国周辺の米軍基地が破壊されることを考えると、大陸間弾道弾による必要があり、そうなると戦略核との区別は難しくなる。それに、中国のミサイルに脅威を感じたロシアもINFからの脱退を示唆している、と述べ、

米国もこれを真剣に考えれば、INFからの脱退か、大陸間弾道弾による抑止力を考えねばならないが、第三の選択肢として中国にINF参加を求めることが考えられる、と結んでいます。


中国を核ミサイル軍縮交渉に捲きこむというのは、未だかつて試みられたことがありません。理由の一つは、1970年代初期の米中国交復活までは、中国の核ミサイル戦略は無視できる程度のものあり、それ以後の冷戦時は中国は米国と共に反ソ陣営側と考えられたからでしょう。その上、中国は核ミサイル戦略を徹底的な秘匿主義の下に置き、交渉の開始すら受け付けないという姿勢できました。

それを、外交課題として取り上げるというのは、外交安保上の革命とも言うべきものですが、今からでも正面から取り上げるべき価値はあると思われます

20世紀初頭の英独建艦競争でも、これを激化させたのは技術的進歩でしたが、現在、最も恐れられている事態は、中国によるASBM(西太平洋の目標地域に短時間で到着、そこから米機動部隊を索敵攻撃できる能力を持つ大陸間弾道弾で)の開発であり、中国がこれに成功すると、かつての台湾海峡危機のような米空母の運用が妨げられることになります。

実際にそうなるまでには、まだ時間があるようであり、その間に軍縮交渉を始めるという提案は、中国の従来の態度から見て成功は極めて難しいでしょうが、考慮する価値は十分あるでしょう。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:31 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中国の海洋への野心 [2011年01月01日(Sat)]
ニューヨーク・タイムズ1月1日付社説が、米国が最も懸念すべきなのは、中国のミサイルの開発・増強よりも、その背後にある中国の海上戦略だ、と論じています。

すなわち、ペンタゴンには、中国の脅威を強調して武器購入予算を増額しようとする悪い癖があるが、本当に心配なのは、中国のミサイル増強よりもその背後にある戦略的意図だ。米国は、より遠くからのオフショア抑止力を増強して、アジアにおける海上兵力の脆弱性を減らすべきだ。そのためには、ミサイルに弱い新型駆逐艦の購入を減らし、海空軍の短距離戦闘機も減らして、空母からの無人機による攻撃能力や長距離爆撃機を増強すべきだ、

米国は緊張を激化させる気はないが、中国が、現在しているように、前に出て来る気なら、柔軟な外交と、軍事的には確固たる姿勢でこれを押し返さなければならない、と言っています。


ついにニューヨーク・タイムズまで中国の脅威を認めたという意味で、これは画期的な社説と言えます。ただ、それに対する具体的な対策としては、中国のミサイル増強に正面から対応して米海軍を補強するのでなく、米国の態勢が脆弱になったことを容認して、より遠くからのオフショア戦略で米海軍を守るべきだ、と言っています。

つまり、中国の軍事力の増大で米海軍が危なくなってきたのだから、もっと後ろに引いて遠くから対応すべきだと言っているわけであり、「中国が出て来るのなら、押し返せ」という結論とは矛盾します。

顧みると、対中友好協力一辺倒だった米国の論調が2010年に一変し、中国の脅威に警鐘を鳴らすようになった中で、唯一沈黙を守ってきたニューヨーク・タイムズが、新年元旦の社説で中国脅威論を認めたわけです。しかし、その一方で、これまでの「初めに防衛予算削減ありき」の姿勢は捨てられず、従って、これは、従来の立場を一部維持したままの苦渋の社説でもあると言えます。そして、おそらくこれが、今後しばらくのニューヨーク・タイムズとその系統のリベラル派の姿勢となるものと予想されます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:29 | 中国・台湾 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)