CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る

世界の論調批評 

世界の流れは、時々刻々専門家によって分析考察されています。特に覇権国アメリカの評論は情勢をよく追っています。それらを紹介し、もう一度岡崎研究所の目、日本の目で分析考察します。

NPO法人岡崎研究所 理事長・所長 岡崎久彦


プロフィール

特定非営利活動法人 岡崎研究所さんの画像
Google

Web サイト内

カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
△小泉純一郎前首相の医師久松篤子
英米関係は共通の理念に支えられる (10/08) 元進歩派
実績をあげているオバマ外交 (09/21) wholesale handbags
タクシン派のタクシン離れ (07/04) womens wallets
豪の新たな対中認識 (07/04) red bottom shoes
バーレーン情勢 (07/02) neverfull lv
石油価格高騰 (07/02) wholesale handbags
金融危機後の世界 (07/02) handbags sale
米国の対アジア政策のリセット (07/02) neverfull lv
ゲーツのシャングリラ演説 (07/02) handbags sale
パキスタンの核の行方 (07/01)
最新トラックバック
リンク集
月別アーカイブ
https://blog.canpan.info/okazaki-inst/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/okazaki-inst/index2_0.xml
対ミャンマー制裁解除論 [2010年12月30日(Thu)]
ニューヨーク・タイムズ12月30日付でコラムニストのPhilip Bowringが、これまでの対ミャンマー制裁は、この国の反西欧感情を強めて欧米との連帯感を薄め、中国の進出を許す結果となっている。世銀やアジア開銀が進出すれば、経済改革に役立つだろう。改革のテンポは遅いだろうが、次の世代に期待することも出来る、と論じています。

すなわち、西側の制裁は今まで全く事態の改善につながっていない。西側の影響は減り、現役の将軍たちも若い世代も西側と接触が断たれている。この前の総選挙は確かに公正だったわけではないが、部分的には国民の声を代表している。アウン・サン・スーチーも尊敬はされてはいるが、彼女の頑固さや社会経済問題への関心の薄さには批判もある。選挙の結果、将軍達が閣僚になって軍服を脱げば、事態も少しは変わるかもしれない、

また、世銀やアジア開銀などが入れば、経済開発を助けられるだろう。改革は急には進まないだろうが、ミャンマーにはインドネシアやベトナムに劣らない改革の素地がある、と言っています。


これは、多くの日本人も共有する考えでしょう。ほんの少しの日本の援助があれば、ミャンマー経済は立ち直り、対中傾斜を避けられる機会は過去に何回となくありましたが、米議会の人権主義者の反対のために全部見送られてしまいました。中国の人権無視の程度を考えれば、明らかにダブル・スタンダードでしたが、米議会には、中国に甘くする代償として、経済的にあまり実害の無いミャンマーに人権批判を集中させる傾向がありました。また、ペロシ下院議長は、従来人権問題では中国とビルマの両方に厳しかったのですが、オバマ政権の当初の対中宥和政策に合わせて、中国批判の方は降りてしまい、ミャンマーだけが批判の対象として残った、といういきさつもあります。

こうした状況の馬鹿ばかしさを指摘できるのは日本だけかと思われましたが、イギリスのアジア地域の専門家であるバウリングが突如こうした論説を出したのは心強く思えます。

米政府内にも、昨年夏からべトナム等も捲きこんで対中包囲網を結成する動きが出てきており、クリントンの新アジア政策でミャンマー政策の見直しは当然行なわれてしかるべきでしょう。日本も、これまで種々の試みをして来ましたが、この流れに乗ってもう一度何か試みるチャンスかもしれません。



Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:23 | 東南アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中東情勢悪化への懸念 [2010年12月29日(Wed)]
英エコノミスト12月29日付が、2006年のレバノン戦争以降、イランとシリアはヒズボラに5万発のミサイルやロケット弾を提供しており、そのため次の中東戦争はシリアやイランまでも捲きこむ大戦争になる恐れがある。その火種は結局パレスチナ問題であり、その早急解決が必要だ、と論じています。

すなわち、5万発のミサイルやロケット弾はこの地域のバランス・オブ・パワーを変えてしまい、ヒズボラ側がボタン一つ押すだけでイスラエルの民間人数千人が殺傷される可能性が出て来た。そうなった場会、イスラエルは倍の報復攻撃をしてくるだろうから、結局、シリアあるいはイランを捲きこむ戦争となる可能性がある、

他方、戦争の原因は結局パレスチナ問題に帰着する。パレスチナ問題が解決すれば、過激派勢力も戦争をする大義名分が弱まってしまう、と述べ、

かつてベイカー国務長官は、パレスチナ問題について、米国は地域当事者が望む以上のことは出来ないと言ったが、それは間違いで、クリントン大統領の仲介で解決直前まで行った例がある。オバマも自らのロード・マップを作ってそれを遂行すべきだ。オバマは当初イスラエルに圧力をかけようとして失敗し、米国は弱いというイメージを与えてしまったが、中東では、イスラエルもパレスチナも米国に頼らざるを得ないのが実情であり、しかも米国はまだまだ力がある、と論じています。


エコノミストらしい、大局をよく把握した論説です。たしかに次の中東戦戦争は、ヒズボラによるイスラエル攻撃から始まる可能性が高く、そうなれば、イスラエルはシリアのみならず、イランの核施設を叩く可能性は大きいでしょう。

その原因を取り除くには、パレスチナ問題の解決が必要だという議論にも説得力があります。たしかに、パレスチナ問題はクリントン大統領の任期最後の半年に、イスラエルとパレスチナが合意、解決直前まで行ったことがあります。ところが、合意案を持ち帰ったイスラエルの政権が倒れ、反対派が選挙に勝ったために挫折してしまいました。また、イラク戦の初期、アメリカの威勢に誰も抗し得なかった時に、イスラエルとアラブ双方がロード・マップに合意したことがありましたが、その後のイラク戦況の悪化で米国の権威が落ち、実現していません。

あの頃の状況までもう一度持っていけるだけの威信と構想と能力が今の米国にあるのかという問題でしょう。しかし、新START批准の例もあり、超党派の合意が出来るという仮定の下ならば可能かもしれません。そのためには、次の大統領選の時期が来る前に、米国内で超党派の合意が成立する必要があるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:54 | 中東 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
インド=太平洋地域の共通財における安全保障 [2010年12月27日(Mon)]
米AEIのウェブサイト12月27日付で同研究所のMichael Auslinが、「インド=太平洋地域の共有財における安全保障−−地域戦略に向けて」と題する政策レポートを発表、米国と日、韓、豪、印、東南アジア諸国が安全保障協力を深める大戦略を打ち立てようとしています。

すなわち、インド=太平洋地域はその経済力、軍事力、政治的ダイナミズムにより、今後何世代にもわたって世界で最重要の地域になる。従って米国はこの地域の安定を維持し、リベラルな諸制度を支え、諸国に国際行動の諸規範を守らせるべく努力しなければならない。そのためには、米国は同盟国や友好国と協力してこの地域の「共有財」――海路、航空路、サイバー網等――の安全の維持に努めなければならない、と述べ、

それを実現するために、@米国がこの地域における前方展開戦略を続け、軍事プレゼンスを強化する、A米国と同盟国の協力の枠組みとして「二重三角形戦略」(地域全体の安全保障の重しとなる日韓、印、豪を結ぶ大三角形と、市民社会の強化、経済自由化、教育向上などに重点をおくベトナム、インドネシア、マレーシア=シンガポールを結ぶ三角形)を展開する、B自由主義的な「インド=太平洋地域」の形成を図ることを提唱しています。


このオースリンの「インド=太平洋地域」戦略報告は、米国の戦略関心が「対テロ戦争」から次第に東アジアに移行していることを示す一つの例と見てよいでしょう。こうした変化をもたらしたのは、イラク戦争の終結もありますが、勿論、この地域全体の経済発展と中国の軍事的強大化です。

そうした中で、米軍プレゼンスの増強、地域の同盟諸国およびインドとの関係強化、ベトナムへの期待、自由主義の旗印等は、現在の米国の東アジア戦略として妥当な提案だと思われます。東アジア情勢が流動化する中、米国の軍事プレゼンス増強が実現すればたしかに心強く、また、「二重三角形」構想はまだ具体性には乏しいものの、大戦略に必要なわかりやすさがあります。いわゆる「ハブ・アンド・スポーク」を直ちに否定するものでもなさそうなので、当面はその補完、発展のための枠組みと考えることができるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:23 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
防衛大綱に見る日本の対中態勢 [2010年12月22日(Wed)]
ウォールストリート・ジャーナル12月22日付で米AEIのMichael Auslinが、菅政権が防衛費を減らそうとし、さらに、武器輸出三原則の見直しを拒否したのはマイナスだが、「新防衛大綱」は、基盤的防衛力に代えて中国の脅威対抗を表に出し、また部分的にせよ軍事力の増強、配備の変更を示唆していることは、ともあれ良きスタートだ、と論じています。

すなわち、新大綱は、主たる脅威は中国から来ることを認め、重要な兵器体系についても僅かながら改善させた。これが東アジアの安全に寄与するか、中国を挑発するかは、見る人によって異なろうが、いずれにしても、その増強は僅かなものだ。また、菅政権が武器輸出三原則の見直しを拒否したのは残念だ、と述べ、

米国は財政が苦しいので、今後は同盟国の協力を求めざるを得ない。菅政権が米国と協力する意図を明らかにしたのだから、今後日米両国は協議して、アジアの安全のための具体的な戦略戦術を作って行かねばならない、と言っています。


特に新しい分析も議論もありませんが、今や日本問題研究の権威であるオースリンのオーソドックスと言える観察です。つまり、対中国を目指した防衛力整備の必要はわかっているが、日米両国とも財政難で思うようには行かない、そうした中で日本側の配備と部分的増強の重点が対中考慮に充てられていることは評価できる、と言っているわけです。

最近の米論調の中では、東アジアの同盟国との協力の重要性を指摘するものが多くなってきていますが、それは当然であり、正攻法であると言えるでしょう。ただ、日本もまた財政が苦しいと言う問題があります。

経費のかからない解決方法としては、集団的自衛権問題の解決と武器輸出三原則の見直しがあり、これらは日本の防衛の根幹に関わる問題でもあります。いずれも、識者、専門家、関係官庁の間では既にコンセンサスが出来ていて、単に政治の決断を待っている問題です。出来る限り近い将来にこの問題が解決されて日米同盟を強固にし、東アジアの安定を達成することが切に望まれます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:04 | 日本 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
朝鮮戦争再発に至る三つのシナリオ [2010年12月20日(Mon)]
CNNのウェブサイト12月20日付で米Center for a New American SecurityのPatrick M. Croninが、今後5年以内に朝鮮戦争再発の可能性があるとして、戦争に至る三つのシナリオを提示しています。

すなわち、第一は、北朝鮮の瀬戸際政策の結果、偶発戦争に至る「偶発的エスカレーションだ。北朝鮮は来年中にミサイル発射実験や三度目の核実験に踏み切る可能性が高いが、ミサイルが目標を外れたり、ミサイル撃墜が北の報復を招いて戦争に至る可能性がある、

第二は、核兵器を手に入れた北が、失うものが大きい韓国や米国はリスクを避ける筈だと過信して、暴力行動をエスカレートさせ、抑止が利かなくなるという「抑止の破綻」だ。中国の指導部は、狭い国益観念にとらわれて、却って、避けたいとする危機を招かないようにすべきだろう、

第三は、金政権が崩壊し、利害が異なる関係各国が対立することになる「体制崩壊」だ。例えば、核の管理等をめぐって米中が対決する可能性がある。また、韓国にとっては、段階的吸収というソフト・ランディングや北の政治的破綻というハード・ランディングによって再統一が達成されるどころか、北に対する中国の影響力が増大して、朝鮮半島が永久に分断される事態になりかねない、と言っています。


クローニンが指摘するような事態を避けるための名案は、今のところ見えて来ていませんが、今回、韓国が延坪島での射撃訓練を予定通り実施し、北の恫喝に屈しない姿勢を明確にしたことは新たな動きと言えます。北がこれに対し今後どのような対応に出てくるかは未だ予断を許しませんが、国際社会は、中国の協力も求めつつ、今後とも、北の暴走を防ぎ、ソフト・ランディングを図る方策を模索していくしかないでしょう。





Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:02 | 東アジア | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
中印首脳会談と中印関係 [2010年12月19日(Sun)]
ウォールストリート・ジャーナル12月19日付でインドの著名な戦略研究者Brahma Chellaneyが、先日の中国温家宝首相のインド訪問は、中印貿易の飛躍的拡大は約束したが、両国間の領土問題などの懸案の解決については何の前進ももたらさなかった、と論じています。

すなわち、今回、中印首脳は今後5年で両国の貿易額を3分の2拡大すると約束したが、貿易は中国の大幅出超であり、しかもインドが主に原料を輸出しているのに対し、中国は完成品を輸出しているので、インドでは両国間の貿易は中国に有利と見られている、

他方、最近中国はスリランカやパキスタンでの港湾建設やビルマ、ネパール、パキスタンを結ぶ新輸送網の建設といった戦略的計画を推進してインドに深刻な懸念を与えている。また、カシミールのパキスタン地域に中国軍を配備したと伝えられており、これが事実であれば、戦争になったらインドは二正面作戦を強いられることになる、

そうした中で、先週インドがチベットと台湾への中国の主権支持を再確認しなかったのは評価できる。インドは中国に対して毅然たるた強い態度で臨むべきだ、と言っています。


チェラニーは戦略が専門なので、戦略面から見て今回の温家宝の訪印に失望したと言っていますが、元々、今回の訪問は経済を主目的とするもので、ビジネスマン300 人が同行、電力分野など200億ドル近くの商談が成立しています。また、5年後には両国の貿易額は今の600億ドルから1000億ドルに拡大することが表明され、さらに温は講演でFTAの速やかな交渉開始を呼びかけています。つまり、経済面では、今回の温の訪印は成果を挙げており、インドにとっても有益だったと評価できるでしょう。

他方、安全保障面では、対テロ協力、アフガニスタンの治安安定と復興に向けた協力が謳われましたが、カシミールや国境問題では特に進展はありませんでした。インドがパキスタンと対立し、中国がパキスタンと友好関係にあるという構図がある限り、中印間の戦略的緊張が続くのは避けられないでしょう。従って、中印間ではいわば「政経分離」的な関係が続くと思われます。
Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 15:47 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
冷戦以降の米戦略を顧みる [2010年12月16日(Thu)]
National Interestのウェブサイト12月16日付で、John J. Mearsheimer米シカゴ大学教授が、冷戦終了から現在に至る米国の世界戦略を顧みて、対テロ作戦に捉われ過ぎたのが失敗であり、米国の戦略は、西半球の覇権を維持しつつ、欧州、中東、アジアに覇権国が生まれるのをoffshore strategy で防ぐこと、特に対中国戦略にあるべきだ、と論じています。

すなわち、冷戦が終わった時は誰もが世界の将来について楽観主義に浮かれ、明るい展望を抱いたが、実際の結果は惨憺たるもので、1989年以降米国は何度も戦争をし、しかもイラン、北朝鮮、パレスチナの三大課題も解決できていない、

ブッシュは当初、グローバルな大戦略に関心はなかったが、9.11で全てが変わり、世界中を民主化し平和を創るというブッシュ・ドクトリン時代に突入、その第一歩となったのがイラク介入だった、

しかし、ブッシュ陣営は軍事力を過信し、中東に民主主義を広めることの難しさを過小評価、またテロへの判断も誤ってしまった。アルカイダとサダム・フセイン、あるいはイランやシリアとは何の関係も無く、従って、米国はアルカイダ対策だけに集中すればよかったのだ。テロ対策のおかげで、その後米本土はテロに見舞われていないという主張もあるが、9.11は唯一の成功例にすぎない、

それに、米国は第二次大戦後35回軍事介入したが、民主主義が達成された例は一つしかなく、ドイツと日本の戦後復興は例外のケースだ。従って、米国には新しい大戦略が必要であり、それは、世界唯一の地域的覇権国であり続けるとともに、北東アジア、欧州、ペルシャ湾岸における覇権国の出現を排除するというものであるべきだ、

不思議なことに、ブッシュ政権は、9.11の前は、最大の挑戦は中国の勃興から来ると認識していた。中国の覇権を許す米国の指導者はいない。そこで、米国はインドや日本などと同盟して対抗することになるだろうが、米国が世界中で戦争していたのでは、中国に集中出来なくなる。また、これこそ中国が望む事態だろう、

同盟国に負担の増大を求めるのは正しいが、米国は中心的役割を負わねばならず、そのためにも余計な介入の負担は減らすべきだ。また、財政負担も削減すべきで、それには陸軍や海兵隊を縮小し、中国に対峙するのに必要な海空軍に予算を集中させるべきだ、と述べ、

9.11以来、米国は軍事態勢になっているが、これでは自由の価値が損なわれる。世界中に介入するのは止め、もっと賢くoffshore balancingの政策に戻るべきだ、と結んでいます。


これは我が意を得た感のある論説です。敢えて言えば、21世紀最大の戦略目標は中国であり、9.11以降のテロ問題は寄り道に過ぎません。9.11の前の週のニューズ・ウイークのアジア版の表紙は、中国の脅威を表す赤い龍でしたが、その後イラク戦争が始まってから昨年までの8年間、米国では対テロ戦争が主流となり、中国脅威論は姿を消してしまいました。その米国も2010年になってやっと中国の方に関心が向かい始めています。

ただ、その間、イラク、アフガン戦争の結果が米国の威信にかかわる問題となってしまい、湾岸の覇権問題がからむイラクだけでなく、アフガニスタンについても米国の威信を傷つけない結果を期待するしかなくなっています。ここに米国の大きなディレンマがあると言えるでしょう。


Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:09 | 米国 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
米議会が為すべき中国への諸策 [2010年12月15日(Wed)]
米ヘリテージ財団のDean Chenらが、同財団ウェブサイト12月15日付で、「米国は中国を敵視はしないが、米国がアジアを放棄する気はないことを中国には明確に認識させるべきだ」との立場から、米議会が中国に関してなすべき5つの措置を提案しています。

すなわち、@貿易赤字問題は元の切り上げだけでは解決されず、米国の財政赤字削減や中国の国営企業への補助の削減等についても努力する、A議会が中国の対米投資や対米輸出案件の当否を判断するのは過度の政治化を招くので、これは関係省庁間委員会のCommittee on Foreign Investment in the United Statesに委ねる、Bアジアにおける米国のコミットメントを明確に維持・発展させる。特に、台湾へのF-16C/Ds等輸出を促進し、台湾の対中軍事バランスを改善することだが喫緊に必要であり、非軍事面では米韓FTA、TPP、アジア太平洋FTAの推進も重要だ、C太平洋における米国軍事力の水準を維持し、宇宙・サイバー戦を戦う能力も高める。特に海軍は必要とされるレベルより30隻も不足している、D中国との軍事交流を通じて中国軍に情報が過度に流出しないよう防止する等を提案しています。


基本的にはこれらの提言に同意できます。日本は、米中関係が進み過ぎても、敵対的になり過ぎても、対処に困るからです。米国の中にも様々な流れや利害があり、対中関係がどの方向に動いていくかは未だ不明ですが、オバマ政権が中国に対して警戒的になっていることを考えると、対中関係は「絞り気味」に推移していくように思われます。

ところで、欧米も中国に生産財を輸出していますが、特に日本は工作機械・先端部品を大量に輸出しており、これが最近の中国兵器の性能向上に貢献していることは間違いありません。つまり私たちは自分で自分の首を絞めているわけです。と言って、かつてのココムのような体制を作れば、日本企業だけがつぶされる可能性もあります。しかし、日本が無神経に対中輸出を続けると、中国の宇宙・サイバー戦能力を高め、米議会で反日気運を高めかねません。

従って日本は、生産財・技術の対中輸出を自己審査する体制を強化するとともに、米議会や政府における、対中輸出入を制限しようとする動きを機敏にキャッチして対策を講ずる体制を、官民が協力して整備することが必要だと思われます。

もっとも、中国の自己過大評価を防ぐ王道は、やはり中国への直接投資を先進国本国に回帰させる、あるいは他の国に振り向けることでしょう。米国もむやみに人民元切り上げを求めるよりも、米国南部での投資に優遇措置を設ける等の措置を講じた方が、中貿易赤字削減の効果をあげることができるかもしれません。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 17:04 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
イスラエルとアラブ諸国が抱える矛盾 [2010年12月11日(Sat)]
ウォール・ストリート・ジャーナル12月11日付で、イスラエルのYedioth Ahronoth紙の軍事専門家で報道記者のRonen Bergmanが、ウィキリークスが明かした機密情報によってアラブ諸国がイランを非常に恐れ、憎悪していることが明らかになったことを取り上げています。

すなわち、ウィキリークス情報によれば、イランを恐れるアラブ諸国は米国がイランに制裁を課すことを容認、イラン核施設攻撃さえ勧めている。これはイスラエルをひどく喜ばせると共に、アラブ諸国とイスラエルが対イランで協力する可能性が出てきたという期待も持たせてくれる、

しかし、ウィキリークスの文書を良く読めば、そこに現れてくるのはより複雑な政治的現実であって、実際はアラブ諸国は「敵の敵は味方だ」と思っているわけではないし、イスラエルに対する敵意も依然として強い、

それよりもイスラエルとして心配すべきなのは、米国とイスラエルの戦略目標に乖離が生じてきていることだろう。米国はイラク、アフガン・パキスタン、そして湾岸で深刻な困難を抱えているが、イスラエルはそれらに関して何の貢献もできず、かえってサウジなどイスラエルの敵の方が米国の役に立っている、

つまり、共通の敵を持ったからといって、長年の敵が友人になるわけではない。結局、イスラエルを含む中東の関係諸国が根本的に協力の方法を変えない限り、イランの核開発を阻むことはできないだろう、と言っています。


バーグマンの観察は概ね的を射ていると言えます。ウィキリークス情報が示すように、確かにアラブ諸国のイランに対する敵意は強いものがありますが、アラブの指導者はイスラエルと手を握ったと見られることも強く警戒しており、国内政治上、アラブの指導者が対イランでイスラエルと共同戦線を組むことはとてもできないでしょう。

勿論、パレスチナ問題が解決されれば、アラブとイスラエルが対イランで共同戦線を組む可能性は高まりますが、イスラエルが入植地での建設モラトリアムの90日間延長というクリントン提案を拒否しているため、中東和平は全く動いていません。

米=イスラエル間の戦略の乖離もバーグマンが指摘する通りであり、イスラエルは米国の中東政策にとって利点であるよりも負担になってきています。もっとも、イスラエルはそのことが米国のイスラエル支持に影響するとさほど心配はしていないように思われます。米国におけるイスラエル支持は、宗教的見地からイスラエルを支持しているキリスト教原理主義者の票の問題であり、彼らは戦略や国益の乖離で態度を変えることはないからです。それをよく知っているイスラエルは、特に米議会がイスラエル支持から離れることはないと考えており、それはそれなりに正しい判断でしょう。

なお、万一イスラエルがイラン攻撃に踏み切った場合、サウジが自国の空域を暗黙の同意でイスラエルに使わせる可能性はあると思われます。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:25 | 中東 | この記事のURL | コメント(1) | トラックバック(0)
変化するアジアの勢力均衡 [2010年12月10日(Fri)]
ウオールストリート・ジャーナル12月10日付社説が、「変化するアジアの力の均衡」と題して、台湾に重点を置いた中国脅威論を展開しています。

すなわち、ロシアが中国に戦闘機スホイSU-35を売却しようとしているが、これに勝るのはF-22(オバマ政権が生産を打ち切ったステルス戦闘機)だけなので、売却が成立すると、米国の同盟国・友好国の対中軍事バランス、中でも台湾のそれが不利なものとなるだろう、従って、米国がアジアで力の均衡を維持し地域の安定の保証人であり続けたいなら、直ちに行動しなければならない、具体的には、一時的に米中関係は悪化するかもしれないが、SU-35に対抗できるF-16か、さらに強力なF-18戦闘機を台湾に提供して、台湾の軍備を強化すべきだ、と言っています。


ワシントンで高まる中国脅威論の一端を表す論評ですが、「中国の軍事的脅威」論には割り引かなければならない面も多々あります。専制主義と過度の官僚主義国家の常として、「見せかけだけ」(例えば、建造中の空母は補助艦隊を欠く等)の側面があるからです。ただ、外交的には見せかけだけでも有効ですし、長期にわたる戦闘の場合、ものをいうのは質より量なので、中国の軍事力については真剣に対応策を考える必要があります。

他方、台湾と中国の経済相互依存性が深まるにつれ、台湾のエリートが自分たちの地位・利権の保証と引き換えに大陸への行政権譲渡という誘惑にかられる可能性があり、そうなれば、中国海軍が外洋に出て行きやすくなり、米国太平洋艦隊の行動が制約され、周辺海域の通商ルートが脆弱なものになる等、アジアにおける力のバランスはそれこそ劇的に変化するでしょう。

米国や日本はそうならないよう、台湾産品の関税引き下げや台湾企業による対米直接投資優遇策など、経済面での措置も実行していく必要があります。

また、「変化するアジアのパワー・バランス」ということなら、インドネシアが最近ASEANから少し引いた独自の大国路線を追求し始めたと見られることや、フィリピンについて、中国からの兵器供与の見返りに、中国艦船のフィリピンの港湾使用を認めようという動きがあることが報じられるなど、中国への宥和政策が強まる可能性があることなども念頭に置く必要があるでしょう。

更には、米国・NATO諸国がアフガニスタンから撤退したあと、西側の対中央アジア・南アジア政策をどうするのか、中国と国境を接するキルギスで米軍が賃借しているマナス空軍基地が有する戦略的価値は今後非常に高まるのではないか、などの点も考えておく必要があります。

Posted by NPO法人 岡崎研究所 at 16:52 | その他 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
| 次へ